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128.本心

 マーディスが泊まっている部屋を後にしたシンはそのまま数m程歩いた時、通信が入って来た。通信相手は無論アカツキだった。


「ボス」


「ああ、大丈夫だ」


 シンは周りに人の気配がない事も確認していた。だから、小さな声で「大丈夫」と言う単語を使った。

 そのまま歩きながら通信を始めるシン。


「あの時マーディスとかフェイセンとかいうおっさんに言っていた言葉は本当なのか?」


「どの言葉だ?」


 何のどの言葉なのか分からなかった。


「嬢ちゃんの事が気になっているってやつだ」


 その言葉を聞いたシンは意外そうな顔をする。


「・・・本当だ。というかお前もそんな事、聞くのか?」


「ああ。気になっていたしな」


 その言葉で心当たりを思い出すシン。確かにアカツキからサクラの事をどう思うかについて聞かれていた。


「そう言えば、前にそんな事、聞きに来てたな・・・」


「ああ。・・・それでどうなんだ?」


 少し食い下がる様に尋ねてくるアカツキ。それに対して鬱陶しそうにせず、真摯に答えるシン。


「どうって・・・気になっているだけだよ」


「「女」としてか?」


「「人」としてだ」


 ああ、そう言えぁボス、嬢ちゃんの事を「変な()」って言ってな、と思い出すアカツキ。

 シンの方はアカツキが何について聞きたかったのか何となく分かった。

 男女としての仲に発展していけば当然お互いの事について知る機会が多くなる。そうなればシンの正体やジンセキについて等が世間に露見する可能性が大きい。

 ここでシンの身の振り方をある程度決めなければサクラの将来も大きく変わってくる可能性もあり得る。最悪の場合であればサクラと敵対せざるを得なくなる事もあり得る。


「そうか・・・。じゃあ、別の事聞くぜ?ボス、あの嬢ちゃんがアンタ以外の男と一緒にいて肩を抱きよせている所を想像してくれ」


 アカツキがここまで聞かれたらほぼ確実だった。

 聞かれた事を想像するシン。自分以外の誰かが隣にいるサクラの肩にそっと手を添えて誰かの方に引き寄せるところまでを想像した瞬間、眉間に皺を寄せた。


「どうだ?」


 想像した時、丁度アカツキが訊ねる。


「・・・何か嫌だな」


 仏頂面で答えるシン。


「嫌、か・・・。じゃあ何で嫌なんだ?」


 シンは恋と言うものは経験している。だから、これがサクラに対する恋心ではないのは間違いようが無かった。

 我が子を愛でる、父性とも違う。何故なら、地元の子供と接している現代の頃と比較して違っていたから。

 自分の姉や妹の様にも感じなかった。何故なら、現代の頃の自分では年の離れた近所のお姉さんと同じく年の離れた妹と接してきた事があったから。


「曖昧な表現で悪いが、何となくでしか分からないな」


 ならばこれは一体何のか。それが分からずにいた。だから曖昧な表現になってしまった。

 そんな表現の答えにアカツキは追及する事も無く


「OK」


 と返した。

 その言葉で、今の所はサクラの事を人間として気になっているが、無意識に惹かれていっている、とアカツキはそう判断した。


「アカツキ、聞きたかったのはそれだけか?」


「ああ」


 アカツキの返答に少し不安を覚え、訊ねるシン。


「・・・俺はこのままサクラといても問題ないと思うか?」


 もしかすれば、自分の正体に繋がる何かサクラにヒントの様な物を与えてしまって撤退せざるを得ないか、とそう思い現状維持しても問題なかどうかを訊ねる。


「よっぽどの事が無い限りは、な。更に言えば、俺自身の視点だが、嬢ちゃんの事だけ特別扱いしてもいいと思うぞ?」


 意外な答えに少し目を大きくするシン。ここから撤退するべきだと言ってくると考えていたからか、安堵の溜息をするシン。それを踏まえてどういう事なのかを訊ねる。


「どういう事だ?」


「あの嬢ちゃんは王族の上に何か別の組織に属している可能性があるだろ?その情報の入手、ベストであればその組織に後ろ盾の()()()()になってもらう。その為には・・・」


「サクラに肩入れしても問題ない、か・・・」


 アカツキの言葉に挟む様な形で答えるシン。こうした答え方をしたのは当然アカツキが何を言いたいのかが分かったからだ。


「ああ、あんたの正体や俺らの存在についてバレても問題ない位の信頼関係を築き上げて欲しいな。正体明かしても問題なくらいに大きな信頼関係を築いてくれりゃ上等だ。ただ、まぁそれまでにバレて敵対関係になっていくって言うのなら容赦しなくていい。俺も、ボスもな」


 分かり切っている事だった。だが、少なくとも一人の人間の未来を変えてしまうかもしれない事だけにアカツキは念を押す様に声のトーンを低くしてシンに言い聞かせるように言った。


「まぁ、あの様子じゃ多分大丈夫だろうな」


「俺もそう思う」


 この場合であれば、シンが来訪者である事を知られている以上、国としてはベストであればシンと取り入れて王族の一人となるか、ベターであれば敵対関係にならない様に良好な関係を取り持ち続ける事。

 つまり最低でもシンとの関係を良好にして決して敵対関係にならない様にする、と言うのが今後のレンスターティア王国の方針だろう。

 そんなやり取りをしている内にシンが泊まっている部屋に着いた。


「・・・っと、そろそろ俺の部屋だ」


 そう伝えるその言葉の意味は通信終了の合図だった。廊下であれば周りにある程度気を配りつつ移動すれば問題なく通信は出来ていた。だが部屋に入ればそう言った事が出来なくなる。それ以上話す事になれば外からその声が聞こえて不審がられる。

 だから通信は一旦終了する事にした。


「OK通信終了する」


「ああ、通信終了」


 その言葉を最後に通信は終了し、泊まっている部屋へ入って行った。






「シン君の事をどう思っているのかね?」


「・・・壁から顔(この世界における諺で「藪から棒」と同じ意味)に何ですか、叔父上」


 事の発端は2日後の事。朝食の席で今度はサクラがマーディスに呼び出されたのだ。朝食を終えたサクラはステラと共にマーディスが泊まっている部屋に入り、お互い向き合う形でソファに座る。当然マーディスの後ろにはフェイセンが控えて、サクラの後ろはステラが控えていた。

 そして、いきなりマーディスがシンの事を訊ねられた、と現在に至る。その事を聞かれたサクラ顔を少し赤くする。


「それでどうなんだい?」


 神妙な表情で少し食い下がり気味に訊ねてくるマーディスにサクラは遊び半分や揶揄いで聞いているわけでは無いと考えた。だから誤魔化さず、曖昧にせず、正直に答える。


「・・・はっきり言えば・・・好き・・・です・・・」


 流石にモジモジする素振りは抑えていた・・・つもりだったが、「ん~、ん~…」と小さな声を漏らしながら答えていた。この様子から明らかにモジモジしている事が窺える。おまけに微かにではあるが頬が染まって桃色になっていた。

 その様子にステラは少し目を大きくしていた。

 マーディスは一瞬だけだが、微笑ましそうに得小さな笑みを浮かべた。すぐその後に真剣な表情になる。


「サクラ、心してよく聞きなさい」


 マーディスの真剣で低い声を聞いた時、何かあると思いすぐにモジモジしていた態度から一転して毅然とした態度に変わる。


「・・・はい」


「彼の心を縛りなさい」


 重く圧し掛かるような言葉を発したマーディス。普通であれば疑問符を浮かべて訊ねる等をするだろう。

 だが、何故マーディスかそんな事を言ったのか、サクラはすぐに分かった。


「叔父上も何か感じたのですね」


「うむ、シンと言う少年、思っている以上の存在かもしれない」


 マーディスの目からすればシンは値千金以上の価値ある存在と判断していた。

 実際、シンの鋭い眼やさり気無い素振りを見て只者ではない事を見抜いていた。また、両手の謎等の何か秘密を抱えてはいるものの、決して自分達を危険に脅かす存在ではない。

 それよりも何となくではあるもののシンと敵対関係になるのだけはどうあっても避けなければならない、とマーディスの目にはそう映っていた。


「その意見にはワタシも同意します。あの目を見ると何か底知れないものを感じます」


 政治を司る者・・・この世界では王族や貴族であれば人を見る力が必要になってくる。それが無ければ必然的に愚かなイエスマンになるか、暴君になってしまう事等々、国に悪影響を及ぼす事が多くなってしまう。

 この会話を聞けばマーディスもサクラも人を見る力が養っている事がよく分かる。

 マーディスは頬杖をついてサクラの方へ視線を向ける。


「よし、サクラが好意を持っているのであれば・・・」


 マーディスがそこまで言うとサクラがすぐさま反論した。


「す、少しでございます・・・!ほんの・・・少しだけ・・・です・・・!」


 声のトーンが下がっていき、徐々に小さくなっていく。その様子を見ていたマーディスは小さな溜息をつき、小さな笑みを零しながらサクラに優しく尋ねる。


「・・・彼に悪意とか敵意・・・はおろか、無関心ではないのだろう?」


「・・・はい」


 小さな声で返事をするサクラ。実際、敵意どころか無関心すらも無かった。だから肯定の返事をした。その答えを聞いたマーディスは小さかった笑顔が穏やかな笑顔になる。


「だったら、尚更関係を持って、保って、深めてほしい」


「お、叔父上・・・」


 桃色に近い赤面だった顔が更に赤くなる。果物に例えるならスモモの様になっていた。今のサクラの様子を見れば明らかに照れている事が分かる。


「何も無理やり伴侶になれというのではないよ。ただ少なくとも彼がこちら側と敵対関係になるのだけは避ける様にして欲しいのだ」


 改めて言いかえるマーディスにサクラは少しずつ冷静になっていく。

 マーディスが言いたい事は少なくともシンと敵対関係にならず、良好な関係を取り持ち続ける事をサクラにしてもらいたいと言っているのだ。

 つまり、シンとアカツキが予想していた通りになっていた。


「・・・それは、分かっております」


 サクラもそれは重々承知している。この国(レンスターティア王国)との仲を取り持つ事位は何の問題は無いが、自分の仲とのとなれば話は別になってくる。


「ならば、その様に動いてくれ。それに君が所属している()()()()の立場でも恐らく私と同じ事を考えているだろう」


 マーディスが「例のアレ」と言う単語を口にした時、いつもの冷静なサクラになる。これは自分にしかできない事と考え静かに頷きを見せた。


「そうですね・・・」


 サクラの様子と返答に納得がいき、小さな安堵の溜息を吐くマーディス。


「ふむ、私が言いたかった事はそれだけだよ。この後はどうするかね?気分転換にお茶でも嗜むかね?」


 マーディスがそう尋ねるとフェイセンはすぐにでもお茶の用意ができる様に動き始める。

 サクラは冷静で毅然とした顔で頭を横に振る。


「いえ、所用がございますので・・・」


「そうか、ならばそちらを大事にしなさい」


 サクラの「所用」について詳しく聞かず、そちらを優先する様に促すマーディス。


「分かりました」


 サクラそう言って立ち上がり、軽くお辞儀をして、ステラを引き連れながらドアの方へ向かう。


「叔父上、失礼しました」


 サクラがそう言うとステラはドアを開ける。


「うむ」


 そう言って見送るマーディス。サクラはそのまま部屋を後にし、その後続く様にステラも軽く会釈してサクラの後を付いて行った。

 出て行った事を確認したマーディスとフェイセンは小さく笑い始める。


「クックック、まさか、サクラがねぇ・・・」


「若いっていいもので・・・」


 あんなサクラを見た事が無かったマーディスとフェイセンは微笑ましそうに笑ってながらフェイセンが入れた紅茶を一口啜った。


「うむ」

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