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127.呼ばれた理由

本来ならば今週の木曜日に投稿予定だったのですが、確認の為に添削している最中、間違って「削除」ボタンを押して・・・。

ですので今回遅れ気味になったのはそんな作者の致命的な凡ミスでした。楽しみにして下さている方々、遅れしまった事に申し訳ありませんでした。

続きをお楽しみください。


 目を細めたシンはマーディスに静かに訊ねる。


「それはどういう・・・」


 続けて「意味か?」と訊ねる前に挟む様に答えるマーディス。しかも、先程迄穏やかだった顔つきが一片もなくなり、真剣な表情になっていた。


「「男女」としてのだよ」


「・・・・・」


 その口調は酷く低く威圧の様な声だった。マーディスの真剣な表情と声でシンの目付きは更に細める。


(これは・・・誤魔化しは効かないな・・・)


 その様子から見てマーディスは本気である事を察したシンは下手な誤魔化しや嘘は拙いと判断したシンは自分の心境を正直に話そうと考えた。

 但し、サクラと出会った経緯等を省く形で話す。話せば、シンの実在価値が世間に公になり、旅の進行を大きく妨げる事になる。


「最初は変な()だと思いました」


「今はどう思っているのかね?」


「徐々に接していく内に、そうですね・・・良くも悪くも変な()ですね」


 それを聞いたマーディスはフッと噴き出す様に笑った。実際王家でもかなり変わった人柄であるのは事実だからだ。だから、事実が事実であるが故につい笑ってしまったのだ。


「ああ、すまないね。続けてくれるかね?」


 静かに頷いたシンは話を続ける。


「そんな変な()であるが故にでしょうか、今は気になっています」


 シンの言葉を聞いたマーディスは目を細める。


「気になる、か・・・」


 男女としての好き嫌いよりも前にサクラと言う人間性に興味を示していると判断したマーディス。


「君はここにどれ位滞在するのかな?」


「短ければ1週間程、長ければ1ヶ月程ですが、正確には決まっていません」


「なるほど」


 ホームステイのベストな滞在期間は1ヵ月とされている。それを参考にシンはそう答えた。但し、シンの報酬は国立図書館の入館許可だ。その事を踏まえれば1ヶ月では足りない為、滞在期間はあやふやだ。

 だが、あのサクラの事だ。シンを引き留める何か企んでいる可能性がある。しかも、今回の滞在期間についてはサクラともあまり話していなかった。

 だから、正直な所いえば今回のミスで大きな悩みを作ってしまっている。下手すれば簡単に出国してもらえない可能性だってある。

 こうなってくるとサクラの気が済むまでホームステイをしなければならなくなる。


(年単位は考えにくいが、数カ月は動けなくなるな・・・)


 だが、あくまで前例を作る為にホームステイをしているだけだ。だから1ヶ月~3か月と言う期間をサクラが提示してくるだろう。交渉次第では1ヶ月に抑えられる。という事は少なくとも1ヶ月はシンの旅はお預けとなる。

 そんな事を考えているとマーディスが更に質問してくる。


「滞在を終えたら、君はどうするのだ?」


「旅をします。それが元々の目的ですので」


 淡々とも、毅然としたとも取れる態度で答えていくシン。


「つまり冒険者のような生活になるのだね?」


「平たく言えばそういう事です」


 その答えを聞いたマーディスは一拍の間を置いてから口を開いた。


「・・・もしサクラも旅に出たいといったらどうする?」


「え・・・?」


 自分でも変な声、と思えるような小さな声を出してしまったシン。


「サクラの場合、王族と言えども継承権が無ければ自由に動ける()()だからね」


 シンはマーディスの口から出た「特別」と言う単語に反応する。


「(特別・・・?)それは、本人が言ったのですか?」


 王族に関わる話である可能性が高いから、敢えて「特別」と言う言葉について尋ねなかった。サクラは自分と同じ世界からやって来た日本人の血を引いているから何かしら特別だろう、と勝手な推測を立てていた。


「いいや?だが、言われてもおかしくないだろう?」


 確かにサクラの性格を考えればそれは決して否定はできない。


「あの雰囲気ですと、確かに言い兼ねませんね・・・ですが連れて行く気は毛頭ありません」


 シンがそう断言すると、マーディスの眼光が鋭く光った。


「・・・それはその黒い両手と何か関係あるのかね?」


 マーディスの見解にシンの目付きは一気に鋭くなった。


「・・・はい」


「君は一体何なのだい?ソウイチとは同じ日本人の様だが、あまりにも違う所が多すぎる」


 こればかりは仕方がなかった。何故ならこの国(レンスターティア王国)には日本人が存在していた。しかも、100年位経っても生きている。吸血族は人類であっても、知っている人種ではない。だから生き証人達が多く存在している。

 生き証人達が多くいるから誤魔化しや嘘が効かないとシンはすぐに判断し、「黙秘」を選択する。


「申し訳ありませんが、答えられません。それから私の事を知られればこの世界に大きな影響を齎します」


 シンは首を横に振りそう答える。


「それは・・・どのように?」


 一国の王族の立場の人間であればそう尋ねたくもなる。


「良くも悪くもですよ」


 曖昧であれど正しき言葉。実際シンが住んでいた世界の知識や技術はおろか、存在自体が世界に大きな影響を齎す。

 だが、マーディスが知りたいのはそんな事ではない。日本人であるソウイチがこの国に医療技術を持ち込んだおかげで大きく進歩した。その為他国と比べても子供の死亡率は大きく減っている。

 こうした前例がある為、日本人の様な来訪者はこの世界に大きな影響を齎す事は百も万も承知だった。だから、シンの言葉が酷く陳腐なように聞こえた。

 だが、マーディスはシンに対して強く出る事がなかった。


「調べようとすれば、君はすぐにいなくなるよね?」


「はい。ですが、サクラとのホームステイの契約を一方的に破る気はありません」


「・・・・・」


 そう、シンが推奨した「ホームステイ」だ。実はこのホームステイにはマーディスも賛成している。もしコソコソとシンの身元や正体を調べれば即座に居なくなるだろう。ホームステイの前例を作る為にシンを起用しているから、当然いなくなれば共生派の主張や力が大きく落としてしまう。だから、シンの正体や身元を調査する事は決してしてはならない。

 シンもその事を踏まえているからホームステイの事を口にしたのだ。

 マーディスは大きく溜息をついた。


「分かった。君の身元を調べる事等、そんな野暮な事はせんよ」


「そうして頂けると助かります」


 マーディスはシンの正体を知るよりもホームステイさせて確実な判断材料にして共生派の力を付ける事の方を選んだ。

 そんな選択してくれたマーディスに胸を撫で下ろすシン。


「だがホームステイで旅行する可能性もある事は頭に入れておいてね」


「旅行・・・ですか。近日中にどこか向かわれるのですか?」


「少なくとも私にはない」


 という事はサクラであればあり得るという事だ。シンは今後サクラが「旅」や「旅行」と言う単語には注意しようと考えたシンは用意された紅茶を口に含んだ。


(よく考えてみれば、サクラも100年以上生きているんだよな。俺の両腕と両足の事を訊ねないのはホームステイの前例を何とか成功させようとしているからか?)


 紅茶を口に含みながらそんな事を考えていると、少し気になる事があった。


「(100年以上・・・)そう言えば、サクラも100年以上生きているそうですが、吸血族の成人年齢は幾つ何ですか?」


 時代や国にもよるが大抵であれば15~20歳が一般的だ。現在は20歳から成人となっている。江戸時代までは成人年齢は15歳だったが、日本で初めて成人年齢を20歳と定めたのは明治9年だ。

 だが、この世界の人種は100歳を軽く生きてしまう種族が多い。その為、成人とされている年齢がバラバラである可能性が高かった。


「我々の場合は200で成人とされている。サクラは成人になる前に親がいなくなったからなぁ・・・」


「・・・・・」


 さほど驚く事は無かった。寧ろ妥当な所だとそう考えていた。通常の人間であれば平均寿命の約4分の1過ぎれば成人とされている。それを当て嵌めれば決しておかしな事ではないだろう。


(そう言えば、サクラは120を超えていると言っていたな。成人が200歳の事を考えれば、人間に当てはめればサクラは12歳という事になるのか?)


 吸血族の平均寿命が800歳程。現代日本であれば平均的な寿命が80~85歳だ。それを10倍にすれば吸血族の寿命とほぼ同じになる。そこから考えれば吸血族からして120歳は人間でいう所の12歳の子供という事になる。

 シンがそう考えているとマーディスはどこか寂しそうな顔つきで笑っていた。


「サクラはああ見えて、寂しがり屋だからね」


 確かに、200歳を迎える前に両親が居なくなるのは精神的ダメージが大きい。しかも通常の人間の10倍長く年を取る。その為、通常の人間よりも10倍孤独の寒さにさらされる事になる。


「ご両親が亡くなった時、サクラはどうなさってましたか?」


「・・・人前では泣かなかったね。おかげで貴族連中とかが変な陰口とか叩かれていたね」


「・・・そうですか」


 人前では。という事は誰かに見られない様にコッソリと泣いていたのだろう。王族の立場であるサクラがどれだけ苦労して、どれだけ悲しんでいるのかも分からずに好きな事を言う。


(自分が辛い目に遭っているのに誰からもその辛さが分からない・・・)


 シンの脳裏に「ブレンドウォーズ」での戦場が過る。




 殺す事で目付きが変わっていく「兵士」達。


 雑多な武器で戦いに挑む異世界の住人達。


 無慈悲に命を奪う無機質な機械(ドローン)


 抱いた子供がもう二度と目を覚まさない事に慟哭する母親。


 お互いを守ろうとして庇い合い冷たくなってしまった若い男女。




 そんな情景が浮かんでいたシンにマーディスは静かにシンに頼み込む様に言った。


「だから短い期間でもいい、レーデの事だけでなくサクラの事も頼む」


 目は真剣、それでいてどこか穏やかで優しい目でそう訴えかけていた。

 シンは


「はい」


 と大きく頷いた。それを見たマーディスは穏やかな笑みが零れた。

 その時、フェイセンはマーディスの耳元近くで


「ご主人様、そろそろ・・・」


 とここで切り上げる様に進言した。


「ああ、そろそろか。すまないがシン君、席を外してもらえないだろうか?何かあったらまた呼ぶから」


「はい」


 何かの用事があるのだろうか、シンに席を外してもらう様に言ったマーディスにシンは何の疑問を持たずに立ち上がり、部屋を後にしようとした。

 ドアノブに手を掛け、「失礼しました」と一声を掛けてドアを開きかけた時、シンはマーディスにどうしても訊ねたい事あった。


「・・・あの」


「何かね?」


「今まで行ってきた言葉は全てマーディスさんの言葉ですよね?」


 その言葉を聞いた時、目元を細めて答える。


「その通りだよ。そして、間違いなく()の言葉だ」


「・・・・・それを聞いて安心しました」


「そうか、私も君と話せて本当に良かったよ。すまなかったね、時間を取らせて」


 穏やかな顔つきでシンを見送るマーディスとフェイセン。


「いえいえ、ではこれにて失礼します」


「うむ」


 ドアが小さくパタンと閉まった。シンはそのドアの方へ目を向けていた。


「・・・・・」


 シンは思い出していた。

 マーディスが「あの娘も頼んだよ」と言った時、傍に控えていたフェイセンは何処か寂しそうな顔つきになっていた事を。





「鋭い少年・・・ですね」


 小さな溜息吐きながらそう呟くマーディス。それに対して同じく穏やかな口調で答えるフェイセン。


「・・・はい。それはそうと、もう少し堪能してもよろしいのですよ?」


 堪能と言うのは目の前にある紅茶割の酒の事だ。シンとのやり取りで思う様に堪能できなかったろうと、フェイセンはマーディスの好きな紅茶割の酒を堪能する様に勧める。


「いえいえ、これ以上堪能すれば罰が当たりますよ」


 そう謙虚に断るマーディス。

 その言葉を聞いたフェイセンは穏やかな顔になり、諭す様に言った。


「・・・今日くらい贅沢に堪能してもよろしいのですよ?」


「・・・そう、ですか・・・では・・・もう一杯だけ・・・」


 マーディスはフッと笑いながら、そう答えてショットグラスに残っていた紅茶割りの酒を味わう様にゆったりと飲んだ。


「うむ」


急いで書き上げましたので、どこかおかしな箇所があるかもしれません。もしございましたらご一報ください。

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