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125. 主と執事

 昼下がりの午後。外は当然明るく、霞一つないお陰で澄んだ青空が広がっていた。

 そんな青空の元でシンは屋敷の周りを歩いていた。

 敵を警戒する為に外を見回ってくる。だから、外に出ていた。

 実際はそれだけでは無い。


「ボス、今いいか?」


 本当の目的はアカツキとの交信だった。今までの状況の整理やジンセキの進捗状況等を知りたかった事が大きかった。


「ああ、問題ない」


 当然シンもアカツキも周囲に人がいない事を確認済みの上で通信を取る。

 アカツキはシンの周辺に誰もいない事の確認をして、シンは気配で自分の周りに誰もいない事を確認していた。

 お互いのカバーのお陰で完璧とまではいかないものの余程の事が無い限りは誰かに気付かれる事は無い。

 シンは変わらず屋敷の周りを歩きながらアカツキの話に耳を傾ける。


「さっき気が付いたんだが、()()いなさすぎるのがちょっと気になるんだが・・・」


 シンは歩みこそ止めなかったが、目元を鋭く細める。


「・・・マーディス氏の例の魔法のお陰でサクラの家に来ている事に誰も気が付いていない、と考えた方が自然かもな」


 アカツキは確かに周辺に誰もいない事は確認している。それは今でもそうだ。だが、あまりにもいなさすぎるのだ。誰か一人くらいサクラの屋敷の領地外でもおかしくないはずだ。

 マーディスの魔法の事を信じれば、幻影魔法のお陰で追手の誰一人としてサクラの屋敷に避難している事に気が付いていないのだろう。


「そう考えるととんでもねぇヤローだな」


「ああ」


 酷く低い声でマーディスの事をそう評価するアカツキ。同じくシンも低い声で答える。

 ゲームや漫画での幻影を駆使する魔法のほとんどは本人から一定以上離れてしまうとその効力が失ってしまう事が多い。だが、マーディスの魔法は一度幻影魔法を駆使すればかなり距離を置いても問題なく発動し続ける事が出来る。

 つまり素人目のシンとアカツキから見てもマーディスの幻影魔法がいかに優れているのかがよく分かる。

 今ある情報でマーディスの事を評価しているとアカツキはある事を思い出した。


「ボス、あの様子だと、嬢ちゃん・・・」


「ああ」


 アカツキの何か含みのある言い方にシンは察して首背になるシン。何故ならアカツキが何について言いたいのかすぐに分かったからだ。


「あのマーディスとか、フェイセンとかいう奴、信用できない所が多すぎるが敵だと思うか?」


 そう訝し気に訊ねてくるアカツキ。口調も変わらず酷く低いままだ。


「いや現状から考えれば、多分味方だ。ただ・・・」


 評価していた時と比べてまだ低くない声で答えるシンに対してアカツキの口調は変わらなかった。


「身の振り方次第では敵になるかもしれないか?」


「ああ」


 確かに、マーディスの性格の事を考えれば敵に回ってもおかしくなかった。穏やかだが、用心深い。もしこちらが明らかに怪しい真似をすれば間違いなく敵に回るだろう。そうなれば必然的にサクラとも敵対関係になるそれだけは避けたい。

 人間であれば呆れに近い小さな溜息を付いていただろうか、3秒程無言の後答えるアカツキ。


「・・・という事は保留という事か」


「そう言う事になるな」


「モヤモヤするのはあまり好きじゃないんだけどな」


 アカツキはそう文句を言う。因みに声は低いがだいぶマシになっていた。


「誰だってそうだろ。今回の「ゲヘンバッシュ」の件でもそうだし」


 シンがそう言うと再び酷く低い口調に戻ったアカツキ。


「・・・またアイトスか?」


「可能性は高いが、情報が少なすぎる」


「だよな・・・」


 口調のトーンが一気に下がる様に答えるアカツキ。だが、実際仕方がない事だ。アイトス帝国が関係あるのは間違いない事だ。だが、あまりにも情報が少なすぎる。


(それに何となくだが、アイトス帝国以上の大きな力が動いているようにも感じる)


 今回の「ゲヘンバッシュ」の件でアイトス帝国が関わっていると考えるのは自然だが、レンスターティア王国は医療が進んだ巨大な国家だ。だから、そんな巨大国家にそう易々と王族に入りこむ無事が出来るのか、とシンが疑問視していた。

 ここで考えられるのが国以上に巨大な第三者組織機関の存在だ。「ブレンドウォーズ」でもそんな組織が存在して裏で大きく暗躍していた。経験則でしか考える事が出来ないが今可能性として高いのがそれだ。


「何にせよ、これも取敢えずは保留だな」


「仕方ねぇもんな、これだけはよ」


 だが、結局は情報不足の憶測だ。憶測で動くわけにはいかない。だから現状は情報収集と言う形の保留だ。

 アカツキがそう言うとシンは溜息を深く付いた。その呼吸音を聞いたアカツキは更に気になっていた事を提示する。


「あと、外貨稼ぎの事なんだが・・・やはり、また新しい奴を必要とするだろ?」


「ああ・・・そう言えば、そうだな・・・」


 アカツキが言いたい事は何となく分かったシンはすぐに対策を考える。

 実際、シンは旅が目的、リーチェリカとグーグスは主に調査。その他のスタッフは姿を見られると困る等なの何かしらの理由で基本待機という事になっている。

 という事は大きく外貨を稼ぐ事に専念できる人員が必要という事になる。

 しかし、今のシン達・・・ジンセキにはそんな事が出来るスタッフはどこにもいない。つまりどうにかして外貨調達用の人員を確保せねばならなかった。


「・・・分かった、何とかする」


 歩きながらそう頷きそう答えるシン。それを聞いたアカツキ取敢えず外貨の件は置いておき、今回どうしても聞きたかった事を訊ねる。


「それで・・・首筋の噛み傷の件はどうするつもりなんだ?」


「・・・確かに、傷の治りが恐ろしく早いからな・・・どう誤魔化すかよな・・・」


 シンはそう言ってサクラに噛まれた自分の首筋に手を当てる。どんなに触ってもシンの首筋にサクラの噛み跡はどこにもないし、痛みもない。だから、傍から見ればかなり不自然だ。

 しかも、シンはその事に対して何も対策を考えていなかった。


「絆創膏・・・はこの世界にあるかどうかも分からないし」


 思い付きで言った言葉をすぐに却下するシン。

 あまり自分がいた世界の物をホイホイ出せば、この世界にどんな影響を齎すのか分からない。その為、むやみやたらに出さない様にしていた。

 つまり、この世界で絆創膏は存在していない可能性があり、もし存在していなければ絆創膏をこの世に出回ってしまえば大きな影響を洗与えてしまう恐れがある。それこそ戦争の最中での医療行為が大きな革命を起こす事にもなり兼ねない。

 新しい技術や発明で一番多く多用される事が多いのは戦争だ。味方に使うにせよ敵に使うにせよそれで多くの命を奪い、この世界に大きな影響を与えるのは間違いない。

 アスカールラ王国の「銃」はアカツキの監視やシンの威し、更には渡した書類の中にこの世界で大きな影響を与えない様にする為に手を打っていた。だから、余程の事が無い限り世界中に「銃」をばら撒く事は無いだろう。

 だが、今回のレンスターティア王国は別だ。王族のお家騒動や間接的な貴族の覇権争いがある上に、アイトス帝国以上の組織の陰等々がある。もしここでうっかり何かこの世界にないものを出してしまえばそれを利用されるか碌な事に使われない可能性があった。


「いっその事、飲めば見る見るうちに回復できる薬を予め飲んでいたという事にするか?通常の人間なら劇薬と言う設定でさ」


 レンスターティア王国(この国)には無いが、この世界に()()()()()、謎の薬をシンは飲んでいるという事にすると言うアカツキの提案。

 実際、アフリカの各部族の薬学では現代医学でも解明されていないものがあり、効果が実証されている事実がある。だから中々面白い上に悪くない方法だ。

 だが、それは無理があった。


ここ(レンスターティア王国)は医療が進んだ国だろ?調べられたらすぐにばれるだろ」


 そう、レンスターティア王国は医療が進んだ国だ。という事は実在しない薬等、すぐにばれてしまう恐れが大きすぎる。

 またそれだけでなく、それを使用したとされるシンを調べられる恐れもある。もし調べればシンの正体やアカツキの露見する事になる可能性が非常に大きい。明らかにハイリスクすぎる。

 だから、アカツキの提案は却下に終わる。

 却下に終わった事でアカツキは少し呆れた物言いでシンに食って掛かる。


「というかよ、そもそもボスがホームステイの前例になるっていうからだろ。何で引き受けちまったんだよ?」


 確かにホームステイの前例を作る話が出てきた時、シンはこうなるかもしれないという事は予想していた。

 そうであるにも拘らず、シンは頭を縦に振った。


「それは・・・何でだろうな?」


 シンはそう答えた瞬間、思わず止まらず歩いていた足とピタリ止めてしまった。


「何故俺に聞くんだ?」


 アカツキは半ば呆れ半分にそう答える。


 半ばサクラに流されるままと言うのも一つの理由ではあるが、どうもそれだけではないように感じるアカツキ。そう言った事も含めてシンに訊ねたのだが、どうもこの様子では何故自分はこの件を引き受けてしまったのかも分からない様だった。


「・・・・・」


 シンがサクラの事を心配して顔を覗かせた時の事を思い出していた。あの時サクラの反応を見てシンはぼんやりとした目でどこか遠くの方へ見ていた。


「ボス、嬢ちゃんの事をどう思ってんだ?」


「どうって・・・」


 その問いに少し困った様に答えるシン。それに対してアカツキは徐々に落ち着い口調で訊ねる。


「例えば・・・好意を持っているとか」


「・・・・・」


 シンはサクラに吸血されていた事を思い出す。その時にサクラに撫でられていた頭を触り少し上を向いた。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ん?」


 10秒近く何かを考えていたのか無言になっていたシンはあるものが目に留まった。


「何だ、どうかしたのか?」


「ああ、マーディスとフェイセンだ」


「何か話している様だな」


 目に留まったのは部屋の中でマーディスとフェイセンは何か話している様子だった。アカツキもカメラのレンズ越しでその事を確認する。


「何を話してんだ?」


「さぁ、読唇術なんてものは無いからな」


 話し終えてマーディスが去ろうとした時、咄嗟にフェイセンがマーディスの左手を掴み、何かを耳打ちしていた。


「・・・・・」


 その様子を見ていたシンは鋭く目元を細める。


「ボス・・・」


「ああ、だが今は、な」


 耳打ちを終えたマーディスはそのまま部屋を出て行った。無論フェイセンもその後を付いて行く。


「・・・そうだな、こんな状況だしな。取敢えず、話はここまでにしよう。いったん通信終了する」


 公爵であるマーディスが部屋を出て行ったという事は何かアクションを起こすという事だ。そうなればサクラに仕えているアルバとステラも何かの命令を受けて行動が活発になってくる。

 今のシンとアカツキの通信のやり取りがし辛くなってくる。だからお互い納得がいくやり取りが出来ていないが一旦通信を終了にする事にした。


「ああ、通信終了」


 シンは最後にそう仕方なさそうに言って再び歩き始めた。


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