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123.もう一つの公爵家

 馬車を操縦してここまで来たマーディス公爵を見たシンとサクラは、馬車の扉を開ける。当然先に降りたのはステラで次にシン、最後にサクラと言う順番だった。


「久しぶりだね、サクラ」


 マーディス公爵はそう穏やかな口調でサクラにそう挨拶する。

 驚くサクラに対して、シンはマーディス公爵を見て目を細めた。見ようによっては目つきを鋭くさせている様にも見える。その視線に気が付いたマーディス公爵は2人にシンの事を訊ねた。


「そちらの少年は誰かね?見かけないが・・・」


「お・・・私はシンと申します。故あってサクラ・・・お嬢様の所に居させてもらっています」


 普段の言葉遣いになりかけてしまい、慌てて丁寧な言葉遣いで対応するシン。しかも、普段から「サクラ」と呼んでいるせいで言葉の最後に「お嬢様」と付ける事を忘れかけていた。

 そんな拙い言葉遣いに気に障ったのか目元が少しひくつかせた上に、目を細めてシンに対して鋭い眼光を飛ばす。


「そうか・・・。サクラの事だ、何か変わった人物なのだろうね。私はマーディス・ハイデンス・エイゼンボーンだ」


 シンに対してそれ以上、何か言う事は無かった。だが、シンに対して疑念とも取れるようにも感じる。そうなってくれば、当然空気も少し重くなってくる。そんな空気を変えたのはサクラだった。


「それよりも叔父上、何用でここまで?」


「うむ、突然ですまないが暫くの間、君の所に居させてもらえないか?」


 サクラは理由を聞こうとはしなかった。何故なら聞かなくともここまで来た理由が今回の騒動が原因である可能性が非常に高かったからだ。


「ええ、構いませんとも」


 サクラがそう頷くとマーディスは持っていた手綱を強く握った。


「早速で悪いが頼む」


「はい」


 サクラはそう返事をするとアルバに目を配せる。アルバは静かに頷く。それを確認したサクラは先に馬車に入り、その後すぐにステラが入る。だが、シンはマーディスを睨む様に見ていた。その事に気が付いたマーディスはシンを睨み返す様に見ていた。


「シン、行くぞ」


「・・・・・」


 馬車の中からサクラに声を掛けられてから漸く馬車に乗ったシン。マーディスもシンが乗った事を確認して途端、改めて手綱を強く握りしめる。





 馬車に戻り、シンが妙に無言になっている事に気が付いたサクラは声を掛ける。


「・・・・・」


「何かあったのか?」


 サクラはシンがなかなか馬車に乗ってこない事についても含めて尋ねた。


「ああ・・・」


 そう尋ねられるとシンは少し考えて、サクラにマーディスの人柄について尋ねる。


「マーディス公爵ってどんな人柄何だ?」


 その問いにサクラはマーディスの事についてまだ何も言っていなかった事を思い出し、シンがどんな人物なのかと見ていたから中々乗ってこなかったと勝手に判断する。


「そう言えば言っていなかったな。マーディス公爵は穏やかな人柄で知られているが、実際はかなり用心深く、薬学と幻影に関わる魔法が得意なお方だ」


「・・・そっか」


 何か気になる様な言い方をするシンに気が付いたサクラは首を傾げて尋ねる。


「どうかしたのか?」


「いや、何でもない」


 横に頭を振るシン。

 サクラはシンの様子がおかしい事に気に留めていたが、今は今回の騒動で避難してきたマーディスを連れて自分の屋敷まで導くのが先だった。だから、この事については一旦保留する事にした。

 丁度その時、アルバは手綱を鋭くしならせる。


 パァンッ!


 馬はそれに応じて動き屋敷まで走り始める。後続のマーディスの赤い馬車も続いて走り始めた。





 時間の間隔からして恐らく40~50分位にサクラの屋敷に戻って来た。当然後続はマーディスの赤い馬車も無事に辿り着き、黒い馬車と赤い馬車は馬車専用の格納庫にしまっていた。

 よく見れば赤い馬車にはかなりの剣等の武器による疵や折れた矢が2~3本刺さっていた。そのせいで赤い塗装がやや剥げ落ちて高級そうな外見が台無しになっていた。

 そんな馬車を見ていたシンとサクラ。


(襲われた割にはやけに疵が少なく感じる・・・。追手も気配すらなかったし・・・これは、幻影魔法とか使って何とかしたのか?)


(流石、叔父上だ。恐らく幻影魔法で赤い馬車や各々の姿を形作って相手を惑わせたんだろう。追ってこなかったのはその幻影に最後まで付き合わされたいたからか・・・)


 シンとサクラの推測はほぼ正解だった。

 マーディスはあたかも自分達が襲ってきた賊の幾多の矢を受けながらも赤い馬車に乗ってサクラの屋敷とは別の方角へ向かって行くように幻影魔法でそう見せた。そのお陰で乗って来た赤い馬車には疵が少なく、自分や妻子、仕えている執事にケガを負わせる事なくここまでやって来たのだ。

 シンとサクラはそんな事を思いながら赤い馬車を眺めていた。


 ガチャ…


 赤い馬車の扉が開いた。下りてきた人物達は高級そうな赤い馬車に似あう、如何にも貴族夫人と幼い令嬢、執事らしき男が下りてきた。


「私はマーディスの妻、エマ・ルアナ・エイゼンボーンと申します」


 貴族の特有の挨拶、高級そうな薄いオレンジ色のドレスのスカートの橋を持って軽くお辞儀をした。見る限り、どこかのほほんとした天然気のありそうな若奥様だった。


「・・・私はレーデ・エマ・エイゼンボーンと申します。」


 可愛らしい薄い黄緑色のドレスのスカートの橋を摘まんで、母親のエマと同じ挨拶とお辞儀をする。見た印象では人見知りがあるのか少し目線を逸らしていて、今にも母親のエマの物陰に隠れそうになっている10~11歳位の少女だった。

 最後に執事らしきの人物の方へ目をやるシン。


「私めは、マーディス様に仕えている執事のフェイセン・ワーバンでございます。エマ様とレーデ様のお世話させております」


 30後半~40前半の男は恐らく執事であろう。こちらもマーディスと同じく穏やかそうな顔をしていた。


「初めまして、私はシンと申します。故あってサクラ、お嬢様の屋敷に居させて頂いています」


 流石に間違えない様に心掛けたが、普段からサクラの事を「お嬢様」と呼び慣れていないせいで一瞬忘れそうになる。その為若干ではあるがどこか拙かった。エマはにこやかに答える。


「そうなの?あの()、良くも悪くもかなり変わった子だから、大変だと思うけど気楽に接してね」


 確かにサクラはこの世界にとってはかなり異質に近い存在なのだろう。考え方や文化等々が現代世界のものからヒントやそのまま活用しているせいであるのは言うまでもない。

 だが、だからと言って敵対する程の人物かと言われればそうではない。偉そうで、クセがあって、変わっているが決して嫌悪的な人物ではない。寧ろ好印象的だ。

 少なくともシンはそう捉えていた。


「はい、分かりました。」


 シンがそう快く答えるとエマはニッコリと微笑んだ。


「よろしくね」


 エマは安堵したように答えた。

 シンとエマがそんなやり取りをしているとは余所にフェイセンとステラが何か話していた。


「ステラさん、申し訳ありませんが私だけではエマ様とレーデ様のお世話での手の数が足りませんのでどうか手伝っていただけますか?」


 そう言って小さな会釈するフェイセン。同じくステラも小さな会釈をして答える。


「畏まりました。エマ様、レーデ様、先にお部屋をご案内いたします。こちらへ・・・」


「お願いね。レーデちゃん、行きますよ」


「・・・ん」


 案内する為に先に歩くステラとアルバにその後を付いて行くマーディスとエマ。その後をトテテと付いて行くレーデ。そしてフェイセンが付いて行った。

 当然その場に残る理由もないからシンも付いて行った。





 各々が泊まる部屋の案内を終えたステラは昼食の用意をする為に部屋を後にしていた。マーディスとエマ、レーデ、サクラは一つの部屋に集まり今後の事について話し合っていた。アルバは周辺の警戒する為に外に出ていた。フェイセンも同じく周囲を警戒する為にこれから外へ出ようとしていた。

 そんな中シンはサクラのこれからの事についての話し合いには出席せず、フェイセンを探していた。


「フェイセンさん、少しよろしいですか?」


 丁度外に出ようとドアノブに手を掛けようとしていたフェイセンを見つけたシンは声を掛けた。


「はい、何でしょう?」


 穏やかでにこやかに対応するフェイセン。


「ここまで来る時、何故貴方が御者じゃなかったのですか?」


「・・・・・」


 静かだが、どこか鋭い口調で訊ねるシンにフェイセンは一瞬無言になる。シンの疑問は確かに最もだ。いくら緊急事態だからと言って自分を仕えている主に馬車の操縦を任せているのは流石に拙い。

 すると申し訳無さそうに答えるフェイセン。


「恥ずかしい話でございますが、実は本来ならば私がする事になっておりましたが、追手が迫ってきましたのでやむなく先に乗っておられましたマーディス様が御者を引き受けたのでございます。私は追手の魔の手をからエマ様とレーデ様を庇っておりました」


「・・・その割にはケガが無い様に見えますが?」


 更に鋭く訊ねるシンに対してフェイセンは変わらず申し訳なさそうに答えた。


「マーディス様が幻影魔法で対処して下さったお陰で、この老体は生き長らえる事が出来ました」


「・・・ああ、なるほど。だから、馬車だけでなく扱っていたマーディス様もケガが無かったのですか。いい主で本当に良かったですね」


 シンは納得したように答える。するとフェイセンはどことなく安堵したように答える。


「ええ、全くです」


 聞きたかったであろう話が聞けたシンは別の話題に切り替えた。


「ところで、フェイセンさんの年はお幾つですか?」


 その問いにキョトンとするも素直に答えるフェイセン。


「私ですか?今年で60超えたばかりですが、それが何か?」


「・・・いえ、年の割には元気そうで」


 一瞬キョトンとした顔になったフェイセンはすぐに笑い声をあげた。


「はっはっは、マーディス様に使える執事がこの位出来なければ」


 フェイセンのそんな答えにシンは小さく頷いた。


「そうですか。お話、ありがとうございます」


「いえいえ」


 フェイセンが踵を返してドアを開けて外に出る後ろ姿をシンは鋭い眼光と飛ばしながら様子を見ていた。


「・・・・・」


「・・・・・」


 かくいうフェイセンも歩きながら鋭い目付きで、横目でチラチラとシンを見ながら外に出た。


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