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120.交流を始める

前回同様文字数を抑えています。まだ、文字数を抑える事慣れていませんのでどこかおかしな所があるかもしれません。

もし何かありましたらご連絡下さい。

 体全体が布と柔らかい感触に包まれていていた。

 目に映っていたのは青空や自分が知っているような天井では無く、赤く柔らかそうな布がシンの方に向かって少し膨らんだ変わった天井だった。

 その光景を見ても、「ここはどこ?」という疑問を抱かなかったのは見覚えがあったからだ。

 そして、その光景と感触でボンヤリとした意識から目が覚めたと漸く分かったシンは頭を動かして改めて今の自分の状態を見る。


「・・・・・」


 自分が着ている黒いノースリーブのシャツにネイビーブルーのトレッキングパンツは目に映るが、周りには白い糸は無かった。その事に気が付いたシンは体を起こしてもう一度周囲を見る。


「・・・・・」


 明らかに白い糸が無くなっていた。その光景を見たシンは自分の手首や足首にも視線を向けるが、白い糸が巻き付かれていなかった。


「拘束していないのか。・・・まぁ、自由に動けるからいいけど」


 自分の事を余程信用しているのか、それとも何か裏があるのか、色々考えるがその実はサクラの内にしか知らない。

 ここで考えていても仕方がない、そう考えてベッドから降りようと思い立った時の事だった。


 コンコン…


 突然のノック音にシンは視線をドアの方へ向ける。


「?はい、どうぞ」


 入る様に言うとドアが徐に開く。


 ガチャ…


 もし、アルバやステラが来ていたのなら「失礼します」と声を掛ける。

 だが、最初の一声は


「起きていたか」


 何とも呆気ない程にまで気軽な言葉だった。そんな言葉を吐いた主はサクラだった。


「・・・ああ、何か用か?」


 少し遅れて返事をするシン。遅れた理由は無論意外な事に驚いていたからだ。


「ああ、朝食の用意が出来た事を、な」


「それだけの為にここまで来たのか?」


「ああ」


「・・・・・」


 シンはジトッとサクラを見ていた。サクラがアルバやステラに呼びに行かせずにこの屋敷の主であるサクラ自ら来た事に驚きと若干の訝し気の眼差しを向けていた。

 それは仕方がない事だろう。今までの事を思い出せばサクラはノックもせずに起床時のシンを出向いた事があった。もっと酷ければ、シンが入浴中にサクラは赤いビキニの水着を着て入浴しに来ていた。しかもシンが入っている事を知っている上で。


「何だ?」


「いや、ノックしたのはサクラなのか?」


 シンは本当にサクラがドアをノックしていたのかどうかを確かめた。いや、本当に今目の前にいるサクラは本当にサクラなのかどうか疑問視していた。


「あ~その・・・確かにワタシなのだが・・・」


 シンがそう尋ねると視線を逸らすサクラ。実際にサクラがノックして入ってきていた様だ。つまり正真正銘本人だ。だが、今のサクラの様子は何か言い難そうにしていた。

 するとサクラの後ろから代わりに答える者がいた。


「お嬢様がいくら相手の方が身分が高かろうとも低かろうとも対等であろうとも、客人に対してノックもなしにいきなりご入室なさられたり、殿方がご入浴していらっしゃるにも関わらず、裸同然の格好でご入浴なさるのは如何なものかと進言させて頂きました」


 そう言ってサクラの方へまだ言い足りないかの様にジロリと睨み付けるアルバ。


「っ!アルバ!」


 ギョッとした顔でアルバの方へ睨み付けるサクラ。


「事実でございましょう?」


 サクラは反論するも、口調も強めで、ぐぅの音もでない啖呵を切り、睨み返すアルバ。それ以上反論しない・・・いや、出来なかったサクラ。理由は当然アルバの方が正論だからだ。

 今のやり取りを見てサクラがいきなり部屋に入らず、ドアをノックしたのは、アルバに叱られたからだ、と理由が漸く分かったシンは小さな溜息を吐いた。


「それで、朝食が出来たから呼びに来たのか?」


 少し呆れ気味にそう尋ねるとサクラは頷き、胸を張り、ニヤリと笑いながらドヤ顔で決める。


「ん、そうだ。ワタシが直々にやって来たのだ」


「・・・そっか、何か悪いな」


 本当にサクラがノックして入って来た事を信じる事が出来たシン。ただ、こんな事で胸を張ってドヤ顔で決められても、受け取る側にしてみたら、良い年した少女がこんな当たり前の事で自慢する光景に見える為、やや呆れてしまうだろう。

 シンのその言葉にサクラは更に「どうだ」と言わんばかりなセリフを口にした。


「ふふん、もっと感謝するがいい!」


「はいはい、有難き幸せ~」


 それに対して空返事をするシン。


「お前・・・まぁいい。朝食は前と同じ所だ」


 何か反論しようとするが、空腹が勝って反論する事を止めて、以前食事をとっていた所を簡単に説明して先に向かうサクラ。


「分かった」


 シンもベッドから降りて軽くオリーブのミリタリージャケットを羽織り、黒いミリタリーブーツ部屋を後にした。





 サクラとシンは朝食を摂っていた。アルバとステラは先に摂っており、サクラの後ろに控えていた。本来ならば使用人等の従者は主より先に朝食を摂る事は無いのだが、サクラの方針でアルバとステラは自分よりも先に摂らせるようにしていた。

 朝食のメニューは川魚のソテーに、ポタージュ風の芋類のスープ、バケットに入った沢山のパンだった。


 カチャカチャ…


 陶器に軽く金属を当てている様な音。川魚のソテーを切ってフォークを口の中へ運ぶ。


 モッシャモッシャ…


 ありふれた咀嚼音を小さく口の中で響かせ今食べている物を舌で転がせて味を楽しむ。

 そんな食事の最中、シンは2人の存在である事に気が付いた。


(そう言えば、ステラが俺の所にいないのか)


 そう、一昨日までステラはシンの傍に控えていた。だが、今朝はサクラの傍にいた。


(俺の近くにいないという事はそれなりに信用できるという事か・・・?)


 確かにそう考えれば納得できる部分はある。


(信用か・・・。今の俺は信用されているのか?異世界の人間とは言え敵かもしれない人間だというのに・・・。生まれも日本・・・)


 シンはそこまで考えた時、昨日の会話で気になる事を思い出した。


「そう言えば、国が知らない国って言うのはあるのか?」


 昨日の会話で「名前の知らない小国」と言えばそれなりに通る事に気が付きこの世界では交通面ではそんなに発達が遅れているのかと疑問視したのだ。

 確かにこの世界の文化レベルは中世ヨーロッパ位だ。だが、この世界には魔法と言う技術が存在している上に、空を飛ぶ動物を利用して移動している。移動手段もそれなりにあるはずだ。

 それなのにも関わらず、名前の知らない国が存在していてもおかしくないという認知は少し引っ掛かりを覚えた。


「ああ、決して珍しくないぞ?」


「やっぱりそうなのか」


 ここまで交通面の発達が進んでいなければ、国が認知していない国が存在していても決しておかしい話ではない。

 ましてや現在では国同士で争って消えてしまう国もあれば新しくできた国もある。その為いくら大国であっても認知できていない国はごまんと存在している。


「地図はやっぱり軍事面か?」


「ああ、正確な地図はそうだ。ただ、ギルドの方では簡素ではあるが地図が手に入る」


 地図でもほとんどの場合は軍事面の関係でそう簡単に世間に出回らないだろう。たとえあったとしても正確であればある程、出回る事は無い。

 軍事面で出回らない上に、魔法や飛行できる騎乗動物はほとんどの場合軍事に利用されるだろう。その為、空を飛んで気軽に旅ができるという事は出来ないのだろう。


「誰でも手に入るのか?」


「そうだ。銀貨一枚で誰でも手に入る。そう言うお前は冒険者じゃないのか?」


 さり気無いとは言えシンの現在の身分を探りに入って来たサクラ。シンは余りにも自然すぎて気が付いていないのかすぐに答えてしまう。


「ああ、銀のメダルは持っているが」


「なるほど、何か理由があるんだな」


「理由?」


「当てるつもりじゃないが、多くの銀のメダル持ちは冒険者以外にやる事があるからという理由で持っている事が多い。お前はそれか?」


 ある意味当たっている。確かにシンはメダルを持った理由として挙げるのは但し他にも理由がある。もう一つは無論、魔法が効かない事が知られたくなかったからだ。


「正解だ。そんなに珍しくないのか?」


「冒険者としての実力はあるが、別の職業に就いている者。例えば商会の高い位の者や貴族とかな。あと、将来有望な者等か。色々な理由があるが決して珍しくないな」


「そうか・・・この国で銀のメダル持ちっているのか?」


 何気なく思った事を口にしたシン。


「そうだな・・・この国のもう一つの公爵家の主、マーディス・ヒーディン・エイゼンボーン公爵がそうだ」


 エイゼンボーンと言う単語に反応したシン。


「親族関係なのか?」


「そうだ。叔父と姪の関係だ」


 それを聞いた途端、更に疑問が生まれる。いくら親族関係はいえ、同じ貴族の階級と言うのは何か引っかかりを覚える。またサクラが公爵家であるという事だ。公爵家と言うのは王家と何かしら大きな関わりがある事が多い。


「そう言えばサクラも公爵だったよな?」


 シンはサクラが聞き間違いではないかどうかの確認と「公爵家」である事の2つを含めて尋ねてみた。


「ああ、そうだ。実質ワタシは王家の血が入っているし、「エイゼンボーン」の名前もある」


 どうやらサクラが公爵家のご令嬢である事は間違いなかったようだ。そればかりかサクラは王家の一人だという事実も知る。

 ただ、今のサクラはこの国の常識をさもシンが知っているかの様に話を進めるサクラ。


「つまり、現王は叔父に当たるという訳か」


 さほど驚く事は無く冷静に親族の関係を頭の中で構築していくシン。

 そんな様子にサクラはやっとシンはこの国の常識を知らない事に気が付いた。


「そう言う事になる・・・と、そうだった、シンは来賓だったな」


 詳しく聞けばマーディス公爵は当時の王の娘と結婚して公爵になった人物だ。サクラの父親も婿入りと言う形で当時の王の娘と結婚して公爵になった人物だ。同じ王家の血が流れているわけではあるが、王家を継いだのは兄弟の中で年上のフィンダル・ネモ・レンスターティアが現国王になった。

 つまり、どちらも嫁入りではなく婿入りという事だ。


 王家の親族の話をしているとシンは何気なくサクラの父親と母親の事を訊ねた。


「そう言えばサクラの父親と母親はどんな人物だったんだ?」


 少し寂しそうにしんみりとした口調で答えるサクラ。


「母上はワタシが15の時に流行り病で亡くなった。誇り高くて勝気な母上だった」


 どこか遠い目をしてそう簡潔に語るサクラ。そんなサクラにシンはただ一言だけ


「・・・そうか」


 としか言えなかった。シン自身も両親は生きているがこんな体になり、その上人を殺しなれてしまった。そんな人間が元の世界でまともな生活を送れるとは思えなかった。

 親しければ親しい程失った時の辛さは分かる。


「父上は・・・良い機会だ、ここで話すか」


 父親の事を話そうとした時、何か重要な事を話す事を決めたかの様に何処か寂しそうな顔から真剣な顔になるサクラ。

 その様子にシンはサクラに訊ねる。


「?どういう事だ?」


「シンは異世界の国の内の一つ「ニホン」から来たのだろう?」


 サクラは真剣な顔でシンを見て、確かめる様にそう尋ねる。シンは何かあると思い頭を縦に振った。


「・・・ああ、そうだ」


 シンが肯定の返事をするとサクラは一拍空けてから答える。


「ワタシの父上は「ニホン」からやって来たんだ」


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