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アンノウン ~その者、大いなる旅人~  作者: 折田要
旅の準備
12/398

10.読み書き

今回は1話のみです。

「・・・・・」


 シンは冷汗をかきながらペンを走らせていた。一見すると頑張っているから汗をかいている様に見えるが実際はプレッシャーによるものだった。そしてそのプレッシャーの原因はエリーだった。


「・・・・・」


 エリーがシンの方を見て眉間に皺を寄せて瞳の奥の光がぎらぎらと輝かせていた。そんな目でシンを見張っているかのように見ていた。


「「・・・・・・・・・」」


 エリーが怖い。

 まるで厳しい家庭教師に教わっているような絵図になっていた。


 ブルーシートの上に卓袱台ぐらいの大きさのピクニック用の折り畳み式のテーブルが置いてあった。その卓袱台を活用しているのはシンとエリーだった。シンは「ショップ」で大学ノートとシャープペン、消しゴム、蛍光マーカーを手に入れ、この世界の言語文字を学んでいた。

 そして、その言語と文字を教えているのはエリーだった。


「その文章の文字間違えている・・・」


「あ、ホントだ」


 威圧した声がシンの耳に響く。


「それとそこも」


 と言って指で強くトンッと叩いて指摘する。


「あ、ああ・・・」


 と言うのは、シンはこの世界の言葉を学んでいるのだが、下着の件のせいなのかエリーの教え方が厳しい。


(あれはしょうがないだろ・・・)


 心の中で言い訳をするシン。実際仕方が無い事だった。何も無い森で服を手に入れる事ができる手段を持っているのはシンしかいない。

 サイズの小さい服は論外。ブカブカの服であれば森の中に入る時に小枝等で引っ掛かって怪我をする原因になる等のそれなりの弊害がある。やはりどう考えてもピッタリな服が最適だった。

 だからこそサイズを聞く必要があった。


「・・・」


 シンはどこか腑に落ちず小さな溜息を付く。

 因みに他の皆は洞窟周辺でシンが見える範囲で自由に行動させていた。


「キャハハハッ!」


「○○~!」


「○○○○~!」


 鬼ごっこでもしているのかククとココは洞窟の周りで走り回り、2人を楽し気に追いかけるニック。ナーモとシーナはそんな3人を眺めていた。

 以前の皆の事情を考えれば今ここにある時間はありきたりではあるが幸せな時間だ。6人は今ある時間を精一杯噛み締めていた。


「今度は私が言うところを聞いて。「魔法にはあらゆる方法で発動させることができる。例えば・・・」」


 エリーは自分が持っている魔法の教材本を教科書代わりに教えている。

 魔法の教材本であれば、魔法も言葉も学べるからとエリーが言っていた。

 確かに一石二鳥だ。だからこういう勉強方法で学んでいた。


「じゃあ、ここを写して」


 エリーの教材本を写すために大学ノートに指定された文章を写す。

 更に、今この会話でもこの世界の言葉で話している。


「そこスペルミス・・・」


「ああ、そうか・・・」


 高校生の頃のシンの成績は数学と社会は得意で後はほぼ平均的だったが、英語だけは酷かった。

 そのため、今この状況がシンにとってはかなりきつく感じるのだ。


(きつい・・・)


 ドンヨリとした気分でつい動きを止めてしまうシン。


「手、動かして」


 そう指摘し、キッとシンの方を睨む。


「ぁっ、はいっ!」


 怖いと思いつつ語学に専念するため再び手を動かすシン。


 魔法も言葉も学べるから一石二鳥なのだが、中々難しいのだ。

 分かりやすく例えるなら、フランス語で書かれた数学の本から言葉を学び、更に知らない単語やことわざも学んでいく。中々進まないし精神的にきつい。

 こんなやり取りを休憩が無いまま1時間位している。

 そんな中、緊張感のない音が辺りに響いた。


 グ――…


「・・・・・」


 不意にシンはエリーを見る。


 さっきの音が聞こえたのはエリーの方からだった。


「・・・・・」


 エリーは顔を赤くして俯いた。さっきまで厳しくて怖かったエリーが今では恥ずかしそうにしていた。


「ああ、もう昼食時か・・・」


 エリーの空腹音でそう判断するシン。

 エリーは赤くムスッとした顔でシンを睨む。


「ああ、ゴメン・・・」


 エリーは「ふんっ」と顔をそっぽ向いた。当然ではある。デリカシーの無い言葉を発したからだ。

 しかし、シンはエリーの空腹音である事に気が付いた。


(そういえば、この世界の時間が分からなかったな・・・)


 前の世界では時計があった。一般家庭はおろか腕時計やケータイ、スマホ等で時間が分かっていた。しかし、ここの世界の文明レベルは中世だった。だからなのか、時間を知る方法はあまりなかった。


(でもまぁこれは追々何とかするか・・・)


 今すぐ時計が欲しいという訳でも無い。今は目の前の目標を達成するのに集中するため時間の件は後々考える事にした。


 シンはそんな事を考えながら、一旦シャープペンを置いて、昼食の用意をするために皆を集める。





 シーナは気さくにシンに声を掛ける


「シン兄、私の言葉分かる?」


 言葉が通じていない頃に皆の中で親し気を込めて「シン兄」と呼んでいた。


「ああ、分かル」


 折角覚えたから早速この世界の言葉で皆と会話をしてみる。


 言葉を聞いたり文字を覚えていく内にある程度の会話であればできる。


「ああ、訛りが・・・」


「ああ、ホントダ。確かに○○○があるナ・・・」


 訛りが強すぎて聞き取れなかったシーナ。因みにシンは「訛り」と言った。


「・・・シン兄、何て言ったの?」


「だから、○○○っテ・・・」


「・・・ゴメン、分からないわ」


「・・・そうカ」


 どうやらシンが話す時の最後の部分が独特の訛りが出ているらしい。また、一部の言葉が聞き取れ無いような声になる。

 けど、3時間程度でここまで話せるとは英語が苦手なシンは想像さえもしなかった。


 自分の他国語の適応力に感心しつつも昼食の事について話す。


「この世界にも昼食ってあるんだナ」


 前の世界では人間が昼食するようになったのは20世紀になってからだそうだ。文明レベルが中世のこの世界に昼食が存在するのかどうか疑問だった。


「うん、でも軽食が多い」


 エリーがあっさりと肯定の言葉を出す。


「軽食・・・(という事は、サンドイッチとかでいいか?いや、それだと腹持ちが良くないな)」


 シンはショップを開き昼食のメニューを考える。


「・・・・・」


 シンも含めここに居る皆は食べ盛りと言って良い年頃。

 腹持ちが軽いサンドイッチだけでは足りないと考える。


(・・・やはり、腹持ちがいいと言ったらこれだろ)


 人間の主なエネルギー源となる炭水化物がたくさん含んだ握り飯思い浮かべる。シンはそう考え昼食はサンドイッチとお握りにする事にした。


「ショップ」の画面を開きプラスチックのパックに入ったサンドイッチ10個とお握り10個を買い召喚させ、袋から出す。無論それらで出たゴミは「収納スペース(インベントリ)」に放り込む。


「エリー、こんな昼食でいいカ?」


「うん、十分」


 いきなり、目の前に食べ物が召喚された事に皆は驚く。するとナーモが疑問の言葉を口にする。


「思ったんだけど、シン兄って色んな物を持ってるよな。武器にしたって食物にしたって。どうやって手に入れてるんだ?」


 ナーモは詰め寄るわけでも、恐れを含んだわけでも無くただ何となく気づいた事をシンに聞く。


「・・・・・・・・・・・・・・あ~魔法の店を出現させて魔力で、別世界の食べ物を手に入れてル」


 嘘の言い訳が何も思付かず用意もしていなかった。その為、一応正直に答える。


「へぇ・・・」


 分かったような、分からないような生返事をするナーモ。更に質問しようとするナーモ。だがそれを遮る様に先に声がした。


「アハハハ!シン兄ちゃんの話し方面白ーい!」


 いきなりの笑い声。語尾に独特の訛りでククは可笑しかったようで堪えず笑った。


「こら!」


 と失礼だろうとシーナがククに注意する。


「まぁ、言葉を覚えたてだからナ」


 シンの言う通り言葉を覚えたてだ。異世界語特有のイントネーションや発音の仕方がイマイチ掴めてはいなかった。だがシンは特に気にするわけでも無く軽く気さくにククにそう返事を返した。

 それよりもシンは「ショップ」で武器や兵器、弾薬、食品、生活雑貨、本、服、ドラッグ等をまるで、ネットスーパーを活用しているような感覚で手に入れていた事を思い出していた。


(しかし、ホントに便利だなこの「ショップ」・・・)


 そう思いつつプラスチックのパックの蓋を開け、大皿にサンドイッチとお握りを置いていき、シンが手を合わせる。

 皆が「何をするのだろう」と見ていると、エリーも同じように手を合わせる。

 皆も分からないままに2人に合わせて手を合わせる。


「いただきまス」


 ココが不思議そうに見て


「シン兄ちゃん、エリー、それってどういう意味?」


 と聞く。この質問に先に答えたのはシンだった。


「「感謝」の言葉だ。命を「いただきます」とか、ご馳走にありつけた事に対してとかにナ」


「ふーん・・・」


「・・・・・」


 ココが何となく分かったような返事をする。シンの答えを聞いた他の皆も食事と巡り合わせた何かの縁に対する感謝の言葉だと上手く言葉で表現は出来ないながらも何となく分かった。


 皆は互い互いに目を合わせ、


「「「・・・・・」」」


「「「・・・・・」」」


 言葉を合わせるように頷き


「「「いただきます」」」


 と言って皆はそれぞれ食べたいものを取っていった。シンは皆のその行為に対して何らかのアクションは起こさなかったが、ただ何となく心に温かいものを感じた。


 シンは手の中にある握り飯の最後の一欠けらを頬張りながら今の自分の事を考えていた。


(俺、英語苦手なのに結構話せてるな・・・)


 ここまで、日常会話程度であれば何の問題も無くこなせている自分に驚いていた。


(やっぱり、エリーの教え方が上手からか?)


 頬張った握り飯は腹の奥へと消え、今度はサンドイッチを持ち、齧り付く。


「・・・・・」


 何気なくエリーを見る。


(厳しかったが、分かりやすかったな)


 今まで教えてもらった時の事を思い出す。


(もしそうなら、エリーには感謝だな・・・)


 持っていた残りのサンドイッチを頬張った。


(エリー、ありがとな)


 シンは心に中でエリーに感謝をする。


「・・・・・」


 しかし、シンに教えた当の本人のエリーはシンとは違う見方だった。


(たった3時間ほどであれだけのコミュニケーション能力・・・)


 シンの学習能力には驚いていた。サラッと話しただけですぐに覚え、文字も1度見ただけでほぼ覚えたのだ。

 あの位のコミュニケーション能力は普通の人間であれば早くても1週間程かかるのにも関わらず。


(シン・・・あなたは一体何者なの?)


 エリーの中では疑念が膨らんでいった。


追記 改善してほしい部分がございましたらご連絡ください。

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