108.招かれた時
連投2話目でこんな事を書くのはどうかと思いますが、お待たせしました。
罠だらけの森の中。僅かな隙間を縫う様にして慎重に通ってそのまま突き進むシン。
一刻も早くこの森から抜け出そうとするシンにアカツキから通信が入る。
「ボス、その先にサクラが待っている」
「やはり罠か」
想定していた通り、シンがある程度開けた場所に誘い込む為の罠だった。
だが、だからと言ってその場でとどまる事も引き返す事を選択しなかった。
シンが行く先にサクラが待ち構えているという事は、少なくともこちらの行動は筒抜けという事だろう。
また、いざとなったらLPで威嚇射撃をする。それだけでもだいぶ違うだろう。シンはそう考えていた。
その為左手はいつでもLPを抜ける様に手を添えていた。
「ボス、もう少し・・・53m程で開けた場所に出る」
「アカツキ、開けた場所の面積は?」
「74㎡の円形型だ」
「戦う分には十分な広さか。サクラはどの方向を向いている?」
「間違いなくボスの方だ」
想定していたのか、それ聞いたシンは小さな溜息を付く。
「・・・視線を感じていたがガン見していたのか」
「ああ、どうやってこっちを見てんだ?」
「分からない。ただ、あの罠と何か関係があるかもしれないな」
「現状ある判断材料じゃあ、分かんねぇもんな・・・」
「ああ、そろそろだな」
「ああ」
シンは開けた場所に出る数m程手前で立ち止まる。
(俺がサクラの死角に回り込んでも向こうは、こっちの行動を把握しているから、すぐにこっちを向くか何かしらの対応策で俺を迎え撃つ)
シンはそっとLPをホルスターから出してサクラの方へ狙う。
(ならばここでいつでも撃てるようにする。もし、妙な動きをすれば足元に一発撃つ)
シンはサクラの出方を探る為、その場でしゃがみ、左手でLPを構え今すぐにでも撃つ事が出来る様に体勢を整えた。万が一サクラが少しでも攻撃に移るモーションがあれば、威嚇に足元を一発撃つつもりだ。
(頼むから、これを撃たせないでくれ・・・)
撃てば人間の頭であれば軽く破裂する位の威力を持つLP。それを威嚇とは言え、撃つ事にシンは少し敬遠気味だった。
何故なら1度でも角度を動かせばコンマが刻む次の瞬間に頭は破裂する未来が待っている。
それだけは避けたかった。
「ふ~ん・・・やはり、手前で止まるか」
サクラは今の状況から鑑みればシンは何か方法でサクラの行動をある程度把握できている、と考えた。
「おまけに何かを持って構えているな・・・クロスボウ・・・ではないな」
サクラはシンが何かを持って構えている事を確認できた。サクラは遠くを見据えた様な目をして呼吸を整えた。
(なら、こうしてから・・・動くか)
「!」
シンの目に映ったのはサクラが一歩前に踏み出そうとした瞬間だった。
「っ」
バシューン…!
グボッ!
パラパラ…
シンはLPで威嚇に一発撃った。すると、LP特有の発射音が辺りに響き、サクラの3m先の地面に小さなクレーターを作った。
LPの威力の衝撃のせいで地面にあった土や石が山なりの軌道を描いて撒き散らしていた。
「!」
その瞬間の事だった。シンの目は今までにない位大きく目を開いた。
「ほぉ・・・」
それに対してサクラは何か興味深そうな物を見つけて感嘆の溜息を付く様な声を漏らす。
「・・・っ!」
同じ時、アカツキから見れば、信じられない様な行動するシン。
「ボス!?」
何とシンは唯一の飛び道具であるLPを「収納スペース」に放り込んでしまった。
その様子を見たアカツキは一体何をしているのか理解できなかった。
「あんた、一体何をやって・・・!」
「アカツキ!俺の周囲に魔法の反応はあるか!?」
シンはアカツキの問い詰める言葉を挟む様な形で尋ねる。
アカツキはシンの緊迫した声を聴いて何か訳があると考える。すぐに問い詰める事を止めて質問に答える。
「・・・ボスがいる所がギリギリ入っているかいないか・・・分からいやすく言えばボーダーラインの上に立ってる状態だな」
それを聞いたシンは思わず大きく短い声で
「しまったっ・・・!」
と後悔の声を漏らす。未だに理解できないアカツキは声量を強めに尋ねる。
「どういう事だ、ボス!?」
「アカツキ、どうやら俺達はギアにここまで案内されていた時点で大きく後手に回っていた様だ」
「!?」
ギアもグルだった事にアカツキは驚く。そんなアカツキにシンは構わず話を続ける。
「恐らくだが、サクラは糸を出す魔法を使っているんだと思う。その糸で俺が進む経路を罠で塞ぎ、僅かな隙間を利用して俺をここまで誘い込む様に仕組んだんだ」
「じゃあ、ボスの位置を知っていたのは、糸で鳴子みたいなもんでも作っていたという事か?」
「その可能性が高い」
つまり、サクラはギアに指定した場所、この森に連れて来るように頼む。ギアがシンを連れて来る間にサクラは道の真ん中に立ち、周辺の森の中を魔法の糸で鳴子や罠を仕掛ける。
鳴子は当然今のシンの位置を把握する為だ。
罠はそのまま引っかかればその場で捕まえる事が出来るし、かからなくとも動きを遅くする事が出来る。
また、別の対策としてシンを開けた場所に誘導する為に僅かな隙間を作っていた。
もうここまでくれば、蜘蛛の巣に入っているも同然の状態になる。
そこまで理解したアカツキは、シンがとった行動で一番理解できない事を訊ねる。
「LPを「収納スペース」に放り込んでいたのは?」
そう、LPを「収納スペース」インベントリに入れていた事だ。LPを使えば至難の業になるが遠くにある糸を焼き切る事が出来る。そうすれば居場所が分かる事は出来ても、罠を無効化する事が出来る。
それはシンも理解しているはず。
だが、シンはどういう訳かLPを「収納スペース」インベントリに入れてしまった。
するとシンは落ち着いた口調でアカツキに答える。
「俺が撃った時の事を覚えているか?」
「ああ。そう言えば足元に撃つんじゃなかったのか?」
LPでサクラの3m先の地面に小さなクレーターを作った。だが、アカツキの言う通り、シンはサクラの足元を狙っていた。だが、どういう訳かサクラの3m先の地面になってしまった。
「あの時、撃つ僅か・・・一瞬の事なんだが下に逸らされてしまったんだ」
「逸らされてしまった?」
「ああ、まるで銃口を真下に引っ張られる様に・・・」
「引っ張る・・・。これも糸か?」
「多分だが俺達が気付かない間に糸で下に逸らす様に何かされていたんだろう。・・・下手をすれば、サクラの手に渡っていたかもしれない」
「何だと・・・!?」
サクラは糸を使う。という事は、その糸で相手の武器を無力化も奪う事も出来るはずだ。
シン達はLPの威力は十二分過ぎる位知っている。その威力の矛先をシンに向けられて大丈夫では済まない。使い方によってはシンに致命的なダメージを負わせる事も可能だ。
百歩譲って、LPの使い方がすぐに分かってしまい、シンに攻撃する事に問題が無かったとしても、そのままサクラの手中に収まれば必然的に世界にLPの存在が知れ渡るだろう。
最悪この世界に残虐な兵器として扱われるだろう。
サクラに奪われる事だけは何としても避けたい。だから「収納スペース」に放り込んだほうがいいとシンはそう判断したのだ。
「クソ・・・銃器が使えないのか・・・。いや待てよ?何で向こうはボスがLPを持っているのを知ってんだ?」
アカツキの疑問は最もだ。シンは実際茂みに隠れている。一定の上の角度でなければシンの姿を捉える事ができない。
「ああ。そもそもLPはおろか、銃器の類なんてこの世界にないはず・・・」
そもそも、糸を使った方法で位置と体の動きはある程度分かっていても、LPの存在は知らないはずだ。
銃器の類が無いという事は使い方も知らないはず。つまり構えただけでは、何をしているのか分かっていても、構えている意図が分からないはず。
もっと言えば構えている意図が分からないにしても、警戒して膠着する事になるはずだ。
そうであるにも関わらずサクラは行動を起こした。
疑問の空気が数秒程、辺りに立ち込めていた時、シンの頭に閃光が走る。
「ああそうか、クロスボウだ・・・!」
「え?・・・ああ、そうか!」
シンとアカツキはある武器の存在の事を失念していた。
この世界に銃器はなくとも、ある武器の存在が銃の構え方と似ている物がある事を。
クロスボウ。
それはより威力の大きい矢を撃ち出す為に作られた機械式の弓矢。
ある程度の距離であればほぼ真っ直ぐに撃ち出す事が出来る為、銃の様に構える事ができる。
更に、そのクロスボウには様々な種類があり、中にはピストルタイプも存在している。
「ピストルタイプがこの世界に存在しているなら、俺が何をしようとしているのかすぐに分かる」
クロスボウの存在があるという事は先を向けられると矢が放っていく事が分かる。つまりそれと似たLPの先がサクラの方へ突き付ければLPの先らから自分の所まで届く殺傷能力の高い何かを発射する、と頭に浮かんでもおかしくない。
だから、サクラは糸を使って何かしらの方法でLPの軌道を大きくずらしたのだ。
「つまり、サクラは銃器の類は効きにくい相手って事か」
「・・・そう言う事になるな」
シンはこの世界で初めて強く歯噛みをする。
それもそうだろう。
さっきまで、上手くいくと考えていた作戦がここまで上手くいかない上に、大きく後手に回ってしまった。
「・・・アカツキ、今見えている範囲で魔法の靄はあるか?」
「俺が見えている範囲では確認できていない」
「そうか。今の状況の事を考えれば一気に距離を詰めて接近戦に持ち込むしかないな」
漫画やアニメ等で糸を使う技はたくさんある。そのほとんどが、単体相手でも複数相手でも切り裂く事が出来て、某漫画では千切れた腕を神経諸共、縫い合わせて繋ぐという方法もある。
こうして考えれば、魔法によって糸を操るという事は、見た事のない技、想像もできない戦術を駆使してくるだろう。糸を操るという未知の技術を使ってくる事が何よりも恐ろしい事がよく分かる。
それ故に弱点も大きく分かる。
どの漫画やアニメでも糸の取り回しが難しいのか、その場から動こうとしない事が多い。
つまりシンは糸の取り回しが難しいであろう、接近戦で勝負を持ちかける。
「・・・分かった、何かあったらサポートする」
シンはアカツキが言っていた「サポート」と言う単語に慌てて声を挟む。
「ああ、それなんだが、さっき気が付いたんだが、盗聴されている可能性もある」
「何!?」
「糸電話の要領で話を聞かれている可能性があるんだ」
糸電話の原理は声や音の振動を糸に通して伝わる。
それを応用すれば、こちらの情報が筒抜けになっていてもおかしくない。
そもそも、この世界には幾つもの種類の魔法がある。相手の情報を筒抜けにする方法があっても変な話ではない。
「・・・確かに無きにしも非ず、か。じゃあ、やばいんじゃ・・・?」
アカツキの言う通り、もし盗聴されているとすれば、今この時でも傍受されているだろう。
サクラはシン達の動きがバレてしまっている。しかも、アカツキと言うとんでもない存在も発覚している事になる。
「ああ、だから判明するまでの間はサクラと接触している間は、通信は切っておく。何かあればこっちから入れる」
確かにここで通信を切ればこれ以上の情報は向こうに伝わらないだろう。
そうしたシンの意図を汲んでアカツキは何かに対して諦め気味に答える。
「・・・しょうがねぇか。・・・OKボス、グッドラック」
アカツキは何か言おうとしたが筒抜けの事を考えて敢えて伏せた。因みにアカツキが言いたかった事は他のスタッフにも伝えておくから、という趣旨だった。
「ああ」
シンとアカツキの通信はここで切った。
この世界でアカツキの存在を知られるのだけは何としても避けたい。
だから、サクラとの接触している間、万が一邸内にいる間は互いのやり取りは一旦なしにする事にした。
「さてと・・・」
シンはそう言って、立ち上がる。
静かに目を瞑り、深く深呼吸した。
「覚悟決めるか」
そう呟き、サクラの前まで向かった。
シンが姿を現した事を確認したサクラは笑みを崩さないまま声を掛ける。
「さっきぶりだな」
今の今までで一番人の悪い笑みを浮かべるサクラ。そんな笑みを浮かべている理由は待ちに待ったシンとの対面ができるからだ。
「ああ、まさかもう既に来ていたとは思わなかったが」
「その割には驚いているようには見えないぞ?」
笑顔を固定しているのかと言ってもいい程に崩さないサクラ。それに対し、シンは冷汗が滴る。
「不愛想ってよく言われるんでな」
「ふ~ん、そう?それよりもさっきのクロスボウみたいな物はもう使わないのか?」
ついに来た、とシンの頭の中で強い稲妻が走る。
明らかな嘘を言う。
「あれは使い切りの魔法で消えたんだ。・・・ところで俺が何でサクラの前に出てきたのか分かるか?」
話を逸らす様に話題を変えるシン。その嘘を信じたのか、シンが話しを逸らした事が効いたのか、サクラはそれ以上追及する事は無かった。
その代わりに、その問いにサクラは自信満々に答える。
「接近戦を挑むからか?」
「・・・よくわかったな。まるで俺の考えを見透かされている様だな」
「まぁ、私みたいなのがいればそう考えるだろ。そもそもお前は独り言が多そうには見えないしな」
「そっちこそ、俺の考えが筒抜けになっていそうだな」
シンはそう言って徐に腰の後ろに手を回す。当然サクラはシンの行動をしっかり見ていた。
「そんな方法ワタシが知りたい」
サクラは笑いながら余裕綽々にそう言っているが、体中の力を抜き、静かに重心を安定させるように態勢を整える。これは最早構えていると言って良い。
シンの腰の後ろには何もない。もしサクラが何のリアクションをしなければ間違いなく盗聴されている。
だが、サクラは構えていた。しかも、さっきののサクラの物言い。
これらの事を考えれば恐らく盗聴はしていないのだろう。
「・・・・・」
お互い睨み合い構える。
(さっきもそうだったが、駆け引きや読み合いが上手い奴か・・・)
シンがそう思うには理由がある。シンが何か攻撃手段に移ろうとすると、サクラは目線や僅かな手足の動きで先回りされるように動こうとする。
(こういうのを見透かされてるって言うんだろうな・・・)
ただ、向かい合っているだけ。たったそれだけで主導権を相手に握られていく。シンの額から汗の玉が噴き出し徐々に滴っていく。
(マジでイヤな奴に目を付けられたな・・・)
シンが接近戦で挑む事も、アカツキとの通信を切る判断すらも、これらが間違っている事にこの時シンは気が付いていなかった。
以前と同じ事を言うかもしれませんが私が初めて小説が投稿した日が10/31でした。つまり今日で丁度2年目になります。
元々、読む方が多くて、書く事がありませんでした。そもそも文章を書く事自体が苦手で、今日まで嫌になってやめようかと考えた事もありました。
そんな私だったのですが、皆様が読んで下さった、と言うだけでも私はもう少しだけ書こう、あともう少しだけ頑張ろうと、ちょっとずつ書いてきてここまで続く事ができました。
皆様のおかげです。本当にありがとうございます。気軽に手に取る様に読んで下さるだけでも私にとって大きな励みになります。
ここまで読んで下さりありがとうございます。
まだまだ物語を続けていきますので、今後とも「アンノウン ~その者、大いなる旅人~」をよろしくお願いします。