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105.世間話

 いつの間にか日は登ってきた頃。

 シンはエーデル公国についていた。いや、正確にはエーデル公国支部ギルドに到着していた。


(いつぶりだ?もう1か月以上も来ていないような気がするが・・・)


 軽い疑問を浮かべる。実際ジンセキの後方支援システムを構築する事に集中したせいで時間の間隔がほとんど分からないまま過ごしていた。


(あいつら、まだエーデル公国(ここ)にいるのか?)


 シンの頭の中で浮かんでいるあいつらとは当然皆の事、エリー達だ。

 シンがここに到着しておよそ1ヶ月半以上も経っている。その期間であればここに留まらず、他所へ行ってもおかしくなかった。

 そんな事を思いつつ、ギルドの扉を開けた。


 ギィィィ…


 シンが入ると、掲示板の前や受付の所で賑わっていた声や音が一気に少なくなった。


「「「・・・・・・・・・」」」


 冒険者達は好奇の目や見定めるような目、見た事の無い者と分かっているからか、やや威圧するような目でシンを出迎えた。

 ただ以前と違うのはこのギルドを拠点に活動している者達はシンの事を覚えていた。だからなのか、シンの事をチラリと見るだけに留める者達の方が多かった。

逆にジロジロとシンの様子を見ていたのは最近ここに来た冒険者達だった。


(相変わらずだな・・・。というか当然な事か)


 見た事も無い人間が入ってくれば、どんな人間なのかと興味を持つのはごく自然な事だろう。

 仕方がない。そう思ったシンは視線を浴びながらそのまま進み受付の所まで行く。


「いいか?」


「はい何でしょう」


 そう受け答えを担当していたのはマリー・ワイヴァラ、エーデル支部ギルドの副ギルド長だった。

 シンは小さな溜息を付いて呆れた物言いでマリーに訊ねる。


「・・・普段から受付嬢の真似をしているのか?」


 マリーはフフフと笑いながら答える。


「そうね、その方が色々見えるから」


 シンはああ、なるほど、と理解して自分か去ってからの出来事について尋ねる。


「・・・あれからどうなったんだ?」


「・・・色々あったわ。聞きたい?」


 マリーがそう尋ねるとシンは素直に頷く。


「そうね、何から話そうかしら・・・」


 マリーがそう言って悩み、首を傾げているとシンはその悩みを払拭させるようにこう切り出した。


「じゃあ、ニニラ達はどうなったんだ?」


「そうね、まずは貴方が去ってからの事を話すわ」


 シンは何か言う事も無く、頷いた。それを見たマリーは口を開く。


「貴方が去ってから子供達はここに残って1ヶ月程修行を積んでいたわ。」


 それ聞いてシンは少し安心した。


(あいつらなりに前に進んでいるな)


 最後にあった時以上に力を付けて、これからの事に臨んでいく姿勢であった皆の事を想像したシンは今の皆はどうなっているのか尋ねた。


「今もいるのか?」


「いいえ、もういないわ。今頃オオキミ武国じゃないかしら」


「そうか・・・」


 少し残念そうに答えるシン。

 再会してどうなっているのか見ておきたかったのだが、それは叶わなかった。

 だが、修行していたという事は今まで以上に力を付けてきている。そうであれば、なおさら彼らの身の安全を心配する必要は無い。

 そう思ったシンは別の事を訊ねる。


「じゃあ、ニニラ達は?」


「ニニラさんなら、元に戻っているわ。他の洗脳されていた人たちもね。ただ・・・」


「ただ?」


 顔を顰めたマリーにシンはオウム返しするように尋ねる。


「それが原因でちょっとややこしい事になっているの」


シンは少し眉間に皺を寄せる。


「・・・続けてくれ」


 シンの言葉にマリーは話を続けた。


「実は、帝国からエーデル公国が洗脳している事を止める様にと、因縁を付けてきたの」


 シンは()()()()()()が洗脳している、という単語に引っ掛かり感じた。


「・・・ニニラ達が療養していた場所って確か・・・」


「そう、この国の魔法省。療養を理由にそう簡単にできない、とエーデル公国が言うと向こうは、聞き入れず一方的に宣戦布告をしてきたの」


 シンは少し大きく目を開いて尋ねた。


「エーデル公国はそれを受けたのか?」


「ええ」


 更に詳しく聞けば、アイトス帝国はシンが手に入れた証拠や洗脳を解く方法の手掛かりとなる物のお陰で洗脳されていたとされるニニラと他の洗脳されていた冒険者連中を解く事に成功した。

 そして、冒険者達に洗脳されているのではないかと思われる冒険者達を連れて来る依頼を出したのだ。そのお陰で、洗脳されていた人間は次々と見つかり、解く事ができた。

 すると今まで手に入れていた人材が一気に減ってしまい、軍備強化に思うように勧められなくなったアイトス帝国。

 そこで、エーデル公国に洗脳疑惑という因縁を付けて、洗脳を解く進行速度を減らそうと訴える。もし、それができなければ今ある軍事力で戦争をすると吹っ掛ける。

 こうする事で洗脳解くスピードよりも洗脳するスピードの方が早い様にすれば、さほど問題は無い。万が一、戦争になったとしてもアイトス帝国側にマイナスになる事は少ない様だ。

 何故なら実際、アイトス帝国からの宣戦布告をエーデル公国側が承諾しているにも拘らず、焦っている様子も無く、それどころか余裕をもって軍備面が着々と進んでいるそうだ。少なくとも今ある軍事力でどうにかできると高をくくっているらしい。


「何を考えているんだ?」


「分からないわ。向こうはギルドを撤退しているというのに」


 ギルドがその国から撤退するという事はモンスターの活動の抑制力が無くなるという事になる。そうなれば、必然的にその国の兵力をモンスターの活動の抑制に当てなければならなくなる。結果として、軍事力は一気に低下する事になる。

 そうであるにも関わらず、アイトス帝国は因縁をつけて戦争を吹っ掛けてきたのだ。


「それからエーデル公国の調査によればアイトス帝国側のモンスターによる被害がそれ程ないの」


「何か今回の戦争と関係しているのか・・・?」


「分からないわ。でも、それはまた後で話すわ。先にニニラさんの事を続けるね」


 マリーがそう言うとシンはああ、と返事をして頷く。


「洗脳解けて正気に戻って、今はネネラさんと共に普段の生活に戻っているわ」


 更に詳しく聞けば2人は今、エーデル公国の別の町に向かって行ったそうだ。

 シンはマリーが言っている「洗脳を解く事」という言葉に興味が湧いた。


「洗脳と言えば、俺が持ってきたあの手帳にその方法が記されていたのか?」


「そうね、貴方のお陰でヒントとなる物がたくさん見つかって、解く方法が見つかったわ。魔法の方法と薬事による方法が」


「・・・そうか」


 シンは是非ともその方法を知りたいと思った。だが、この件に関してもう赤の他人となったシンはこの事に関わる事はもうできない。何かするにしても理由が必要となる。

 今程、あの時詳しく手帳の事を調べて覚えておけば良かったと思った事が無い。


「(洗脳を解く方法は探るとして、今は・・・)そうだ、リースとパーソさんは?」


 小さな後悔を残しつつリースとパーソの事について尋ねる。


「リースさんなら、パーソさんの専属の護衛になったわ。今はここエーデル公国の中でパーソさんの店を開いているわ」


 詳しく聞けばパーソとリースはそのまま帝国からそのまま抜け出す様な形で、ここエーデル公国に店を構えたそうだ。

 態々信用できなくなり、敵と言うべき帝国に戻るわけにもいかない。当然、今まで稼いだ分の資金は帝国にあるのだから一から始める事になる。


「パーソさん、一から始めるというのに笑って商売を始めていたわよ?」


「・・・凄いな、パーソさん」


「全くね」


 リセットと言うものは普通の人間であれば中々できない上に、いざ始めるとなればネガティブになる。だが、パーソはそれを吹き飛ばす様に笑って商売を始めたのだ。

 これを凄いと思うのは決しておかしな事では無いはず。


「そう言えば俺が受けた依頼での「行方不明になった7人の冒険者達」は結局どうなったんだ?」


 行方不明になった冒険者達の件は事実であり架空の依頼だ。シンが受けた依頼はアイトス帝国の洗脳の件で何か糸口を見つけてくれ、と言うものに近いものだった。

 実際それを達成して報酬も貰った。

 だが、グランツとマリーが言っていた行方不明になった冒険者達の件は事実である。気にならないわけでは無い。

 シンが思い出した様に言うとマリーは物悲しそうに答えた。


「残念だけど、見つかっていないわ。もっと言えばこの件で他にも行方不明になった人達はたくさんいるから、人手が足りていないというのが現状ね」


「そうか、ニニラと他の連中は運が良かったんだな」


「ええ、少なくとも戦争に巻き込まれなくて済んだしね」


 マリーは穏やかな顔をして頷く。

 行方不明になった人間を捜索するというのは非常に時間がかかるし、人手も相当必要だ。その為捜査が思う様に進まない。

 しかも今回の一件は帝国が拉致して洗脳という事も考えられる。

 だから、ギルドでは今回の件で行方不明になった者達を優先と言う特別な事はせず、普段の行方不明者とほとんど変わらない扱いになっていた。


「そう言えば戦争って言うのは・・・」


「そうそう、戦争はいつになるのかは分からないわ。ただ、今のアイトス帝国の態度にエーデル公国は慎重よ。取敢えずエーデル公国が話し合いで引き延ばしている所よ。でも、それもあまり長くはもたない」


 エーデル公国でも今のアイトス帝国の様子に何かあるのではないかと慎重な姿勢だった。当然だろう。

 ギルドが撤退して、軍事力も削ぐと迄はいかないが、進行をかなり遅らせる事ができた。だが、アイトス帝国は、戦争しても勝てる自信があるのか、宣戦布告をしてきた。

 ただのハッタリなのか、それとも何か勝てる自信がある要素でも持っているのか・・・。

 そんなアイトス帝国に対してエーデル公国は慎重な姿勢で対応していた。

 すぐに戦争になってもし、アイトス帝国の思惑通りであれば、被害が相当なものになるだろう。その事を考えれば慎重に様子を見て警戒するに越した事は無いだろう。


「それでその戦争はエーデル公国だけじゃないだろ?アスカールラ王国と同盟を結んで参戦するのか?」


「そう言う事になるわね。これを機会にアスカールラ王国を取り戻すつもりらしい」


 詳しく聞けばアイトス帝国の宣戦布告と余裕の態度、モンスターの活動があまりない事に警戒して、エーデル公国はアスカールラ王国の領土を取り戻す事に手を貸すという条件で同盟を結び、アスカールラ王国も参戦する事になった。

 今のアスカールラ王国には、シンが渡したショットガンがある。だが、大量生産は恐らくあまり進んでいないだろう。

 その事もあってなのか、エーデル公国は話し合いで時間を稼いでいるそうだ。


「(リビオは、この時間稼ぎの事でエーデル公国に借りを作ってなければいいのだがな・・・)戦争はいつになるのか分かるのか?」


「・・・少なくとも年内にはあるんじゃないかしら」


 年内に戦争。そう考えてもおかしくなかった。何故ならアイトス帝国は今でこそモンスターの活動があまり無いものの、いつ活発になってもおかしくなかった。

 アイトス帝国が今回の戦争に勝てば周辺国からの文句をある程度無視できる軍事力を持っている事を見せつける事ができる為、安心して洗脳による軍事強化ができる様になる。

 今回の戦争でエーデル公国とアスカールラ王国に勝利を手にするにはシンから渡されたあのショットガンをどれだけ作って兵士に配備できるかどうかにかかっている。

 また、エーデル公国がどれだけの兵力で今回の戦争に当たるのかも大きく関わってくる。


「・・・そうか、分かった。最後に・・・いや、その必要は無いな・・・」


 シンはドラード事、ギアの居場所の事を訊ねようとしたのだが、それを止める。

 何故なら丁度その時に入ってきたのはギアだったからだ。


「我はドラードと申す!」


 古代ローマの服装である白いトーガの様な服を身に付けた、高々に「ドラード」と名乗るギアが仁王立ちしていた。


「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」


 ギルド内は一気に静まり返った。大半の冒険者は呆気に取られるか、お、おう、と言いたげな沈黙だった。一部のギア・・・ドラードの事を知っている冒険者はまた?、と言わんばかりの顔をしていた。


(ああ、そう言えば、今のギアは()()()()()だったな)


 ギアの姿を思い出したシンはそのまま近づいた。


「久しぶりだな、ドラード」


 シンはそう声を掛ける。するとその声に気が付いたギアはシンの方へ向かった。


「うむ、久しぶりだな、シンよ」


「ああ、早速だが、話があるんだ」


「うむ、その事なのだが、すまぬが出立の準備をしてくれぬか?訳は行きながら話そう」


 どうやらギアは急いでいた様だ。サクラに急かされて(脅されて)いたのだろうか、焦っている様にも見える。


「そうなのか?分かった。もう準備ができているから、いつでもいいぞ」


 シンは素直にギアのその言葉を受け取り、ギアはシンの言葉に頷いた。

 頷きを見たシンはマリーの方へ向いた。


「そう言う事らしいから、急で悪いんだがここを発たせてもらう。・・・久しぶりに話せてよかったよ」


「私も話せてよかったわ。また会いましょう」


「ああ、またな」


 シンはギアの後を追う様にして、ギルドを後にした。


最近まで出来る限り、更新の頻度を多くして読んで下さっている方々に楽しんで下さるようにして参りました。

ですが最近、私の身体があまり調子が良くございません。近いうちに病院に通院する事も考えています。

ですので大変申し訳ありませんが更新の頻度が一気に落ちます。しかも、この話以降の更新がいつになるのかが未定です。修正の方も滞ると思います。

ただ、11/28までには更新か、閑話を投稿しようと考えています。

大変ご迷惑をおかけしますが、どうか楽しみにしてお待ちして頂けると嬉しい限りです。

こんなアホな作者ですが今後とも「アンノウン ~その者、大いなる旅人~」をよろしくお願いします。

ここまで読んで下さりありがとうございます。

次回をお楽しみに!

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