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101. リーサル・ワード

リーチェリカの言葉遣いに苦戦してついにはゲシュタルト崩壊一歩手前までになってしまった折田要です。

記念すべき第101話目ですっ!

 日が完全に沈み、暗闇が支配する森の中。

 いや正確には暗闇のおかげで満月が支配していると言っても過言ではない。

 唯一の光源は夜空で月と星だったが、それらも現在は雲により遮られて地上を照らす月明かりは弱い。星の光なんて最早論外に近いものだ。

 村や町の通りに並ぶ商店のほとんどが、商品を片づけて閉店している。日中は大勢の人が行き交う通りであるが、この時間帯ともなれば人の流れもまばらになる。

 それでも人通りが多い場所といえば、酒場や娼館などのいわゆる夜の店である。そのような店が立ち並ぶ通りは、昼とは逆に男の客や呼び込みをする女達で賑わっていた。

 その賑わいも百メートル程離れれば静かなもので、そこまで離れれば、今度は庶民が住む住居地区である。ほとんどの家から明かりは消え去り寝静まっている。明かりが点いたままの住居等、数える程である。

 森の方は木々によって月光を遮っているのだから、地上は暗闇に包まれていると表現しても良かった。

 その上でほんの微かにではあっても月明かりが降り注いでいれば、昼間と同じ・・・とまではいかないが、それ程視界に困る事はない。

 だが、当然ではあるがこんな暗い森の中に入る者はほとんどいない。


 ゴォォォォゥゥゥゥン…


 唯一の光源の内の一つの月の光のど真ん中に黒い一点が宙に浮いていた。

 音は羽虫の羽の音では無く、かと言って大きな鳥の様な生き物による羽音や鳴き声でも無かった。もっと別の何かだ。

 その黒い一点は大きな満月の端から端までに掛けてボールペンで一直線に真っ直ぐ書く様に飛んでいた。


「もうすぐ目標地点のダンジョンだ」


 どこにでも居そうな若い男の声。

 その声の主は航空支援が主なスタッフのフリューの様だ。


「ああ」


 フリューの言葉に返事をするのはシンだった。

 100人はおろか300人収容できてもおかしくない位広い、金属で出来た巨大な筒の様な空間。中では等間隔に備え付けられたライトから照らされ、灯りはほんのりと明るかった。シンは壁に備え付けられた椅子に座り、背中にはバックパックの様な物を背負っていた。外からは轟音が聞こえて外を見れば暗闇の空の上だった。これらの事を鑑みればある航空機にシンは乗っていた。それもシン一人だけだ。

 その航空機はC-17 グローブマスターIII(アメリカ陸軍の主力の軍用大型長距離輸送機)に似ているが、主翼と尾翼がかなり特殊だった。その翼には一つの主翼に付き28台のプロペラが埋め込む様な形でついていた。尾翼も同じく埋め込む様な形で12台のプロペラが付いていた。


「目標地点上空に着いた」


 フリューがそう言うと主翼と尾翼の向きが上に向いた。そのおかげで回るプロペラによりヘリコプターの様にホバリングが出来ていた。


 ジリリリリリリリリリ…!


 耳がつんざきそうになる位のけたたましくベルが鳴った。すると扉近くにあるさっきまで赤かく光っていたはずのランプが青く光った。

 シンはそれを確認した。


「青確認、降下する!」


 そう言って扉を開けた。


 ガチャ!


 グォー…ガタッ!


 ノブを回しそのまま引き戸の様にスライドして扉を開ける。スライドするに当たって特有の大きな音を鳴らす。


 ビュォォォォォォォォォォォ…


 開けた瞬間、外から猛烈な風が航空機内になだれ込みシンの衣服や機内の備品のベルト等が踊っていた。シンは被っていたワークキャップは飛ばされない様ヘルメットの様な顎紐が付けられていた。


「どうかお気をつけて!」


「ああ、世話になった。帰ったら()()を一杯な」


「はい!」


 フリューのその返事を聞いてシンは頷きそのまま扉から飛び出る様に空中に身を投げた。



 ビュゴォォォォォォォォォォォォォォォ…!


 地上に向かって真っすぐ落ちていくに当たって頭部が地上の方へと向いていた。シンの顔にはとてもでは無いが目をあけられない位の風圧を一気に受けていた。だが、それでも目を細めて地上を見ていた。


(ここ!)


 シンはタイミングを見計らい、体勢を変えて、右腰近くにある紐を引っ張った。


 シュルッ!


 ボッ!


 するとバックパックから何かが飛び出した。


 バッ…!


 黒い大きな布の様な物がシンの上で広がった。するとシンの落下スピードが急激に落ちてゆっくりとなった。また体勢が安定して下の様子をゆっくり景色を見る余裕ができた。

 どうやらシンが背負っていたのは地面に安全に着地する為に使われるメジャーな物、パラシュートだった。

 パラシュートを開いてシンが辺りを見回しているとアカツキから通信が入る。


「ボス、その周辺にダンジョンと思しき建築物がある」


 その言葉から察するにどうやら目的地はもう目と鼻の先にある様だ。


「了解、引き続き周辺警戒を頼むぞ」


「言われなくとも」


 シンはそう言って体の重心を前に移動させて、そのままパラシュートのゆっくりとした降下を利用しながら移動した。




 着地したシンはパラシュートをそのまま折りたたんで「収納スペース」(インベントリ)に入れる。


「ここらでいいか・・・」


 同時に、「収納スペース」(インベントリ)からグーグスとリーチェリカを出現させた。「収納スペース」(インベントリ)は生きている者であれば収納する事は不可能だ。だが、A.I搭載のアンドロイドのグーグスとリーチェリカは無生物と判断された為、「収納スペース」(インベントリ)に収納する事ができたのだ。


「・・・・・・・」


 出現したグーグスはゆっくりと赤い箱型の頭部が回転する。どうやら周囲を確認している様だ。


「・・・・・・・・・・」


 リーチェリカは瞼を徐に開けて周囲の様子を見た。こちらの場合は何か目新しい物が無いか調べている様だ。

 そんなグーグスとリーチェリカにシンは声を掛けた。


「2人とも異常はないか?」


 シンは無生物とは言え高い知性と知能を持って人間の様に接してくるグーグスとリーチェリカを「収納スペース」(インベントリ)に収納した事で何か異常があるのではないかと心配していた。


「問題ございません」


 答える時でもグーグスは未だにゆっくりと頭部を回転していた。


「いけるで~」


 リーチェリカはそう言ってゆったりと、優雅に手を挙げてそう答える。


 グーグスとリーチェリカの返答と態度、反応から鑑みればシンの心配は杞憂に終わった。


「そうか、じゃあ本題に入る」


 シンは後ろの方へ振り向く。


「アカツキが言うにはこの先に俺達の目的地があるそうだ。だよなアカツキ」


「ああ、茂みや木々で分からないかも知れねぇが、54m先にあるぜ」


 アカツキがそう答えるとリーチェリカが質問した。


「アカツキはん、その近くになんか生き物か、人の様な物ってあらしまへん~?」


 実はこうやって会話ができるのはグーグスやリーチェリカの様にA.Iである者であれば、通信機能が備え付けられている。ジンセキの関係者であればこの様な特有の通信ネットワークがを利用する事ができる。その為、アカツキ以外でもグーグスやリーチェリカ、ソラギリやクロハバキ等のA.Iはおろか通信機を埋め込んでいるシンとの通信も可能だ。


「いいや、その様子は見られないな。人がいた形跡はあるが」


 その答えを聞いたリーチェリカは少し残念そうに小さな溜息を付いた。

 アカツキが含みのある様な言い方に気になったグーグスは尋ねる。


「いた、とはどういう事でしょう?」


 その問いに答えたのはシンとリーチェリカだった。


「多分だが、そこは国かギルドが管理されている所で夜は監視しないのだろう」


「この世界の灯りの事情を考えたら、この時間に人は来いひんし、そこに当たるよりかは一旦離れて町みたいな人多う集まった所の方がよっぽど安全やろしね~」


 シンとリーチェリカの答えにアカツキは肯定に近い返答をした。


「まぁ、それが妥当だろうな。盗賊とかの犯罪集団の線であれば入り口に必ず見張りがいるだろうが、見る限りそんなのは無かった」


「腑に落ちました」


 それぞれの答えにグーグスは納得した。


「じゃあ、そろそろ行くか」


「はい」


「ええ~」


 シン達はそう言ってそのままダンジョンと思しき場所まで進んだ。




「ここがダンジョン・・・と思われる場所ですか」


「アカツキが言うには」


「ん~、遺跡みたいやなあ~」


 ダンジョンと思しき場所に着いたシン達。

 何処かの遺跡の様に入り口付近は民族風の紋様や装飾が施された跡があり、石造りのトンネルの様になっていた。縦は5m、横は8m程の大きさの入り口でレンガのように積まれた石壁と石の床が奥の方まで続いていた。


 なるほど、これならダンジョンでは無いか、と思ってもおかしくはなかった。


「さて、最初は誰かだが・・・」


 そう問題は誰が先に性能のテストを受けるかだ。シンもグーグスもリーチェリカもやる気満々だ。特にリーチェリカは実験用のサンプルが手に入る事ができる為この中で一番やる気があった。


「「「・・・・・・・」」」


 その場にいる3人は顔を見合わせ互いに互いに頷き合った。


「「「最初はグー!じゃんけんっぽんっ!」」」


 シンとグーグスはパー。リーチェリカはチョキだった。つまり、この勝負、リーチェリカの勝ちだった。

 リーチェリカのやる気のおかげなのか勝利を呼び寄せた様だ。


「うちん勝ちや~」


 右手でピースサインをするリーチェリカ。


「・・・・・・・・・・・・・・」


 無言ではあるものの負けた事に対するショックを受けて固まっていたのはグーグスだった。


「チッ…」


 明らかに聞こえる舌打ちの主はシンだった。


「悔しがっても、うちが先やで~」


 そんなシンとグーグスに少し胸を張り自慢する様に言うリーチェリカ。


「・・・だけど、観測要員として俺とグーグスは付いて行くからな」


「別にええで~」


 リーチェリカは足取りを軽くしてルンルン気分で歩いて行った。シンとグーグスは納得がいかない様子のまま付いて行った。


「・・・取敢えず入るか」


「そうやなぁ~」


「はい」


 シンとリーチェリカとグーグスは入り口の前に立つ。


「じゃあここから始めるぞ」


「は~い」


「はい」


「じゃあスタート!」


 リーチェリカの性能テストの開始の言葉と同時にシン達は中に入った。


 カッカッカッカッカッカッカッカッカッ…


 すると石の上で靴を履いた足で歩くと特有の靴音が洞窟内中で鳴り響いた。




 シン達は誰一人としてライト等の灯りを点けなかった。シンは夜目が効くし、グーグスとリーチェリカの目・・・と言うよりカメラは暗視ゴーグルの様な機能が備え付けられていた。その為中がどんなに暗くても見えない位の僅かな光のおかげでよく見える。

 ダンジョンの様な遺跡の中では通路左右に部屋があるのかそれぞれに入り口があった。

 そして、この中の様子が分かり、ここがダンジョンでは無い事がすぐに分かった。


「盗賊の塒やなぁ~」


 暗い中で唯一の灯りがともされていた。その灯りは原始的でとてもダンジョンの備品とは考えられなかったもの、火が灯された簡素な松明があった。

 そしてそれを持った人が部屋と思しき入り口からからワラワラと出てくる。

 そこから導き出される答えは、ここはダンジョンでは無く盗賊の塒という事だ。


「何だてめぇら!」


「旅人か?」


 複数の男達が出てくる。男達の顔を見れば無精髭にぼさぼさの髪やスキンヘッド、顔つきは険しいか凶悪そうな顔つきだった。服装はやや汚れており、武装していた。

 この事を見れば彼らがまともな職業に就いておらず、犯罪に手を染めていると考えてもおかしくなかった。


「おい、こいつら3人だけだぞ!」


「それに、そこの女結構いいじゃねぇか!」


「男どもは殺して女は傷つけんなよ!大事な商品だからな!」


 間違いなく盗賊だった。しかも口ぶりから察するに人間を拉致して奴隷として売買している様だ。

 その様子を見たシンはリーチェリカに声を掛ける。


「リーチェリカ」


「何~?」


「奴隷以外は・・・」


「かまへんやなぁ~」


 声を挟む形で答えるリーチェリカ。だが、答えはシンが望んでいた答えだった。その証拠にシンは頷いていた。その様子を見たリーチェリカは思わず笑った。

 そんな様子のシンとリーチェリカに盗賊の男一人が芝居じみた様なセリフを吐く。


「最後の挨拶はもうすん・・・」


 男がそこまで言った瞬間の事だった。リーチェリカの姿が瞬時に消えた。


 ボッ!


 ズンッ!


「ぐぼぉあ・・・!」


 腹部に鈍い痛みを覚え、思わず悲鳴を上げる。何故こんな事になったのか。そう思い、原因を見た。

 その原因はリーチェリカが右ひざで男の腹部を蹴っていた。

 その事を確認した蹴られた男はその場で膝から崩れる様に倒れた。


「・・・・・」


 リーチェリカはニッコリ笑いながら別の盗賊の男の方へ向き瞬時に姿を消した。


 ボッ!


「!」


 ガッ!


「ぐがっ!」


 リーチェリカの左足で男の顎をアッパーの様に蹴った。男は脳が揺れてしまいこちらも同じく膝から崩れる様に倒れる。

 するとリーチェリカはニッコリと笑いながら他の盗賊の男達の方へ振り向き、優雅に手を頬に当てる。


「うちなぁ、よう分からへん事があるんやぁ~・・・」


 そう言って小首を傾げる様に傾ける。


「この世界の人間って~頭部をバイオロイドに付けても動くんかいな~。それからな~この世界の人間って臓器移植可能なんかいな~。それとな~制限か禁止された薬物ってこの世界の人間に効くんかいな~。ああ、考えだしたら切りがあらへん~」


 学の無い人間であれば何を言っているのか分からない。

 だが、口ぶりから察するに自分達が負けてしまえば命の危険以上の危険な目に遭う、という事だけは分かった。

 漸くやばいと感じ始めた盗賊の男達は持っていた武器で構え始める。


「そやさかいね・・・」


 次の瞬間盗賊の男達は今までにない恐怖を味わう事になる。


「調べさせてもええ?」


 リーチェリカの顔は満面な笑みだった。しかし、その言葉と笑みは酷く悪寒を覚えるものだった。

 まるでもう二度と自分として生きていけられない様な恐怖を体現しているかの様な・・・。


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