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アンノウン ~その者、大いなる旅人~  作者: 折田要
旅の準備
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8.この先・・・

今回は2話連投になります。

 山の奥から太陽が姿を現し眩い光で夜の暗闇が徐々に消えていく。そんな朝にシンも含め皆はムシャムシャと各種類のパンを頬張っていた。

 ナーモは僅かなカレーに食パンに付けて食べていた。

 ニックはアンパンが気に入ったのか無我夢中に齧り付いていた。

 ククとココは菓子パンの内のジャムパンでやや取り合いになっていた。

 そんな2人の様子にシーナは眉間に皺を寄せながらピーナッツバターパンを少しずつ千切りながら口に運んでいた。

 そんな騒がしい朝食を送っている中エリーは何事も無い様にクリームパンを千切って口に運んでいた。

 またシンは特に注意もせず只々その様子を眺めながら惣菜パンのケチャップとマヨネーズがふんだんに掛かったウィンナーパンを頬張っていた。


「・・・・・」


 シンは少し前の事をボンヤリと思いだしていた。パンを最初に出した時はエリー以外の皆はこれがパンとは分からなかった様だった。エリーが最初にクリームパンを手に取ってそのまま千切って頬張り始めた時これがパンだと認識した様だった。

 これがパンだと分かり皆が食べ始めると訝しそうな表情で食べ始める。すると、エリー以外の皆は目を大きくしてガツガツと食べた。それからは一気に食べるスピードが上がり、遂にはエリーも自分の分が無くなってしまうと考え参戦し、シンはいつの間にか自分の分を手元に置いてあった。そして現状に至る。


(この世界のパンは硬いからか?)


 シンは皆の様子を見て何となく仮説を立てていた。パンが現在の様に柔らかい物になるまでは昔のパンは硬かったそうだ。その事を考えればこの世界のパンは硬いのだろう。

 その為なのか、一番人気が無さそうな食パンですらアッという間に食べきってしまったのだ。


 シンがそんな事を考えながら皆の様子を見ていると、ククとココがギャーギャーと喧嘩で騒ぎ続いた結果、遂にシーナが立ち上がり2人に向かって叫んだ。


「○○○○○○○!」


 未だにこの世界の言葉が分からないシンからすれば「ああ、シーナが何か言っていた」だけにしか見えなかった。だが口調や声から察するに恐らくククとココのジャムパンの取り合いの事で注意していたのだろう。


「○○○~」


 こちらも何を言っているのか分からないが、ククは何か文句を言っているように見えた。


「○○○○○」


 今度はココがククに対して何か文句を言っているように見えた。


「○○○○!?」


「○○○○○○○!」


「○○○○○!」


「○○○○○!」


 明らかに売り言葉に買い言葉の喧嘩の状態になって、ついに本格的な喧嘩が勃発しようとした瞬間シーナが


「○○~?○○~?○○○○○○○○○○~?」


 シーナは薄ら笑みを浮かべ、低い声でククとココに注意をしていた。すると決して寒く無いはずの朝なのにも関わらず、この近辺が急に冷え込んだ。


「「○、○○○○○○・・・」」


 ビクッと身震いし、涙目になり、2人揃ってシーナに怯えるような声で何かを言っていた。するとシーナはナーモ方へ急に振り返る様に見る。


「○○○○!○○○、○○○!」


 今度はナーモに対して何かを言っていた。


「!?○、○○?」


 急に自分の方へ矛先が向いた事に驚きたじろぐナーモ。それからはシーナの一方的な説教ターンだった。


「○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○・・・」


 何か長々とナーモに対して何かを言っているシーナ。言葉が分からないシンは何となく今言っている事はククとココに対しての注意を何故ナーモがしなかったのかについて文句と説教をしていたのだろうと考えていた。


「・・・○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○!?」


 ついに説教が終わったのか何かについて言い切ったシーナ。


「○、○○○○○○○○・・・」


 シーナのその言葉に対してナーモは力ない言葉で返事する。


「○○○○、○○○○!」


 それを聞いたシーナは最後に何かを言うだけ言って食事を再開する。どうやら文句と説教は終わったようだ。ナーモはパンを口へ運ぼうとする力が半減していたのかテーブルの上にパンを持ったままの手がそのまま置いていた。明らかに説教で疲れていた。その様子を見ていたシンは


(こいつ、オカンか?)


 と心の中でそう言ってシーナを見ていた。するとシーナは目を細める。


 ギロリ・・・


 何を感じ取ったのか鋭い光が瞳に差し込みシンを睨んだシーナ。


「・・・・・・・・」


 咄嗟にフイッと目線を逸らし食事を続けるシン。


(まさか、俺の心の中の声を・・・)


 そんなあり得ない事を考えつつも最後の一欠片を口へ放り込んだ。


 朝食を済まし、前の雷が伴う程の豪雨によって洞窟の奥にできた水溜りを利用してカレーに使った鍋や皿を洗い乾かした。


 一通りの事が終えたシンはこの先どうするのかについて話そうと考えた。だが、シンはこの世界の言葉で話す事は出来ない。そこで、まずシンが話し、それを聞いたエリーが翻訳して皆に伝える、と言う方法を取った。


 皆に伝えたい用件だけを言うシン。


「俺に言葉を教えてほしい。その代わり、お前達の食事等の生活の面倒は見る。・・・どうだろう?」


 それを聞き取ったエリーが翻訳し皆に伝える。皆が話し合っている。


 10分位だろうか、少し時間が経ち年長者のナーモとシーナがこちらを見た。話し合いは決まったようでエリーがシンの元へ来る。


「・・・あなたに言葉を教える。その代わり、私達に食事と「生き方」を教えてほしい」


 生活の面倒見と「生き方」というのが追加してきた。


「「生き方」?」


「うん。戦い方、魔法を教えてほしい・・・」


 確かに今の条件から考えればシンが言葉を覚えたらさっきの取引は終わりという事になる。そうなれば皆はこんな訳も分からない場所に放り出される事になる。そうなれば少なくとも一番体が弱いだろうククとココは野垂れ死んでしまう可能性が高い。

 エリー達はシンがたった1人であれ程いた奴隷商人達を殺した。という事はそれなりに教わるものがあるのだろうと考えたのだ。せめて言葉を覚えるまでの間だけでも「生き方」を学ぶ必要があった。


 だがここで一つ問題が浮上した。シンは戦い方はともかく、この世界の魔法等全く知らない。「ブレンドウォーズ」の時の魔法や今あるオリジナル魔法は恐らく教えても使える事ができないだろう。


 困惑したシンはある事を思い出した。


「俺は魔法とかは分からないから教える事は出来ない。でも、連中の馬車に何かあるかもしれないからそこへ行ってみないか?」


 エリーは皆にそのことを伝えると承諾した。そこへ向かう人間は年長者のナーモと言葉が分かるエリーが付いて行く事になった。

 残りの皆は洞窟の中で待つ事にした。


「行くか・・・」


 シン達はそのまま馬車の所まで向かって行った。




 見つけた。連中を倒した時と同じ状態のままだった。


 あんなモノさえ居なければ・・・。


「何だ、あのちっこいのは?」


 そう呟くシンの視線の先には連中の死体を見に行くと変な生き物がいた。全身は緑色で耳は尖り、ギョロリとした目。腕と脚に毛むくじゃらの猿のような生き物がいた。腰に布を巻き、二足歩行はしているが猫背で、木の棍棒のようなものを持っており、中には剣を持っているのもいる。それが15匹ほど。


 そんな生き物を見たナーモが呟くように何かを言った。


「○○○○・・・」


 それを聞いたシンはこの世界の言葉で話している為、結局分からないからエリーに訊ねる。


「何だって?」


「ゴブリンだって・・・」


 小説やRPGとかでよく登場するモンスター、「ゴブリン」。伝承や作品によってその描写は大きく異なるが、一般的に人間に対立する人型生物で、独自の言語などを持ち、粗野な部族社会を形成する醜く邪悪な小人種族として描かれることが多い。因みにホブゴブリンは、ゴブリンに似たもっと大型の生物とされているが、元々は密かに家事を手伝う善良な妖精というのが伝承での姿とされている。


(ゴブリンってあんな猿みたいな姿だったとは・・・)


 エリーに詳しく聞くと、集団で人間を襲い食う。しかも、武器等の装備品を奪って自分の物にするそうだ。

 ただ、知能はあまり高くないそうだ。その為武器の手入れをしない為持っている武器のほとんどは錆びた剣等のボロボロな物が多い。

 ここまで聞くと姿こそ少し違う所があるが、ほとんどゲームや小説に登場する「ゴブリン」と一緒だった。


(と言うことは敵か・・・)


 右手の「BBP」は5本の指を刃状にする。それを見たエリーとナーモは驚き思わず訊ねた。


「○、○○○・・・」


「それって・・・何?」


 ナーモ自身シンがこの世界の言葉が通じないのは百も承知。だが、その事を忘れて尋ねてしまう物を見て思わず訊ねた。エリーはそんなナーモの言葉を翻訳するかの様に恐る恐る尋ねる。

 いつかは「BBP」の事を言われるだろうとは考えていたシン。だが、いざこうして聞かれると、中々答えられない。


「ああ、これは・・・魔法みたいなもんだ」


 そう言って納得させようとした。しかし、エリーとナーモは何か腑に落ちない顔をシンに向けてくる。


(俺は「現実とゲームの主人公と自分の理想の身体とで融合した存在だ」と言っても分からないよな・・・)


 説明が面倒。例え言ってもこの世界において理解の範疇を超えた事柄である為、相手に理解させるにはとてもでは無いが無理があった。結果として訳が分からなくなるだろうと思い適当に答えたのだ。


「・・・・・」 


 シンは今の右手を見てふと思い出した。


(そういえば、これ使いづらかったな・・・)


 今の右手の「BBP」は5本の指で相手を切り裂くようになっていたが、それぞれの指に力が分散して使いづらかった。ゲームではあっさりと切り裂いていたが、現実では斬り込みが浅いため、下手をすればなます傷を与えるだけで相手に軽いダメージしか与えていない様な結果になってしまいかねない。そうなってしまうと後々が面倒な事になり、最悪命の危険に晒される可能性もある。早々に自分に都合の良い形に変えなければならなかった。


(ゲームと現実とではこうも違うとはな・・・)


 軽い溜息を吐きつつ暫く考え・・・


「これならどうだ?」


 思いついたのが腕を全体に刃状にしてみた。思う通りに動くかどうかを確かめるために少しだけ動かす。


(ダメだ、固定されて上手く動かせない・・・)


 刃の部分と腕の大部分が固定されて、細かい動きができない上に前よりも使いづらくなってしまった。


(手のみは・・・)


 次に手だけにしてみた。


(今度は短いな・・・)


 刀身の長さが短くなり、まるで鉈だった。さっきと比べればマシだが今度はリーチが足りなくなっていた。


(・・・難しいな)


 シンは一旦考えをまとめてみた。


(えーと、なるべく片手で扱い、刀身は長く、いざ両手で使う事になっても平気な形・・・)


 シンは何か思いつき右手に意識を集中する。


「・・・・・」


 シンは親指を突き立て親指を日本刀の形にして、残りの指で握れる様なイメージを思い浮かべる。


 グググググ…


 親指が変形する。突き立てている親指の方は刃渡り70 cm程、幅3 cmの刀の様な形になり、親指の第一関節より少し下は長さ20 cm程、幅3.5 cm程に柄のように伸ばした。


「ふむ・・・」


 シンは自分の右手の形を見て、少し動かし満足する。


(これなら問題ないだろう)


 こうする事で刀を持ったように細かい動きができる上に両手で持つ事ができる。しかも、手以外の前腕と上腕を触手状にして広範囲に斬ることができるようになった。


 また、傍から見てもさも刀剣を握っているように見える。「BBP」の事を誤魔化すのにも使える。


 色々な形に変わっていき、終いには刀の様な形になったシンの右手にエリー達は唖然とする。


「・・・・・」


(これで良し)


 そんなエリー達を他所に満足のいく結果になった事にシンは早速ゴブリンを撃滅するためにゴブリンがいる所へ向かった。


 ゴブリンは「ギー、ギー」と鳴きながら周りを見渡していた。


 ガサッ


 シンは前回の奴隷商人や狼達同様、ゴブリン達の前に出る。


「ギー!」


 シンの存在に気が付くと2匹のゴブリンが威嚇し襲いかかって来る。


 ヒュン!


 風を切ったような音がした。


 すると、2匹のゴブリンから


 ブシュ―…!


 血を吹き出し袈裟斬りの形で真っ二つになっていた。


 突然仲間のゴブリンが何が起きたにも関わらず死んでいったゴブリンを見て・・・


「ギィー!」


 と鳴くと、シンに対して警戒行動のような態勢に入った。


 ヒュン!


 ヒュン!


 ヒュン!


 だがシンは慌てる事も無く次々と風を切るような音を鳴らしながら流れるような動きで奥にいるゴブリンへと向かい・・・


 ドスッ!


「ギ、ギィ・・・」


 シンの刀がゴブリンの胸を貫いた。


 シンは辺りを見渡すと


「これで全部か?」


「・・・・・ギ?」


 ブッシュー…!


 ドサドサドサドサドサドサ!


 僅か2秒でゴブリンを死体に変えてしまった。


「○、○○○~!」


「す、凄い・・・!」


 あまりの事に思わず称賛の言葉にするエリー達。


 だがシンは


「!」


 何かやらかしてまずそうな顔をしていた。


「あ、あの・・・どうかしたの?」


「・・・ゴメン。・・・・・・・・・武器ごと斬っちゃった」


「BBP」の刀は、切れ味がとんでもなく鋭かったのだ。


 鉄でできた剣をまるで豆腐を切るかのように・・・。


 結局、剣等の武器のほとんどは刀身からスッパリ切れていてとてもでは無いが使えるとは言い難かった。今日の戦利品は傷ついて無い1.4mの魔法の杖2本と各種の本と書類、干し肉が入った袋、金貨が入った袋だけだった。


「じゃあ、帰ろうか・・・」


「うん」


 ナーモも頷く。


 今日の戦闘でやり過ぎてしまった事に反省するシン。そんな中エリーはまだ、馬車の中で何かを漁っていた。


「エリー、何か見つかったのか?」


 シンがそう尋ねるとエリーは徐に振り向く。


「もうない・・・」


 そんな素気ない返事を聞いたシンはここにいても何も出てこない、そう判断したシンは2人に帰る様に言った。


「じゃあ皆がいる所に帰るか」


 それを聞いたエリーは無言で頷いた。ナーモはシンが何を言ったのかについてエリーから簡単に説明を聞いて頷いた。

 そのまま皆がいる所まで帰ったシン達。





 しかし、馬車の中からある書類を見つけ出したエリーはその書類を服の中に隠していた事にシンは気づかなかった。


追記 改善してほしい部分がございましたらご連絡ください。

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