右筆(祐筆=ゆうひつ)となった僕の、実に身勝手な考えです。そしてこの「身勝手」という言葉は広辞苑から抹消してほしい言葉の1つです
この物語は、主人公である僕の視点から書かれてはいるが、正直な話、僕自身はこの時代において、特に何か功績をあげたというわけではない。
むしろ、周囲の状況に翻弄され、それに対して、全く何らなすすべがなかったといったところだ。
ただ、この時代にやってきて、見てきたこと、聞いてきたことを、ありのままに書きしるす、いわば、右筆(祐筆=ゆうひつ)としての役割を、果たしてきたつもりだ。
現代人のように、ただ数ばかり多くて、自分らの私利私欲、目先の欲得のことしか考えないような時代の連中とは違い、この当時の日本人たちは、まさに小説の題材にするにふさわしいような人物たちが数多くいる。
それにしても、昨今のこの世界では、「自分さえよければ」というようなやつが主人公の物語がうける、という風潮があるようだが…。
この物語は、見事に「主人公が何もしない」という物語である。
まあ、何かしたところで、この時代の大きな流れ、うねりというものを、変えられるはずもないとは思うのだが…。
正直、最初はそう思っていた…。
しかし、これまで生きてきたこの時代の、さまざまな人物たちとの出会い、そして歴史を動かしていく経緯を見ていくにつれ、いつしか僕の考えは変わっていくのだった…。