第11話 この頃の時代がどんな時代だったか
この頃の時代は、まさに天下泰平の世であったといえる。
西暦では18世紀の初頭、西暦1700年代の初頭という時代。
戦国の世はすでに100年以上も昔の話。当時を知っている世代はとっくの昔に死に絶え、もはや歴史のヒトコマと化していた。
戦乱の無い、天下泰平の時代。
一方で、幕末の動乱も、この時点では140年~150年くらい、後の時代の話。
つまり、はるかはるか未来の話。
戦国の世は、はるか過去、幕末の動乱期は、はるか未来という、まさに戦乱の世を全く知らない、まさに天下泰平の世だった。
もちろん、全てが天下泰平というわけでもなかったのだが、一般庶民が戦乱に巻き込まれることのない、わりと良い時代だったかもしれない。
戦乱の世=悪い時代、
天下泰平の世=良い時代と、この基準にあてはめるとするならば。
しかし一方で、戦が無い、ということは、戦に備えて訓練をする必要もない、ということになり、所持している武器はお飾りで持っているだけ、ほとんど使用されることもないままに、宝の持ち腐れとなっていたのだった。
これで、紀州藩では、そんな武器なんか保管しておくだけ費用の無駄、とばかりに、
武器を廃棄処分するのではないかと思いきゃ、
そこは武門の誉れ高い、吉宗のこと。なんと、武術の訓練を奨励したのだった。
剣術だけでなく、馬術や水泳なども奨励した。
ところが、これが脇田久次にとっては、またまた困りもの。
何しろ、転生前の、冴えない男子中高生だった頃は、学校の通知表で、体育で1をとるほどの、極度の運動音痴だったのだ。
これはとんでもない主に仕える羽目になってしまったな、と思ったら、まさに途方に暮れるところだが、
「そうだ、ここでチートだ。チートの力で、運動を何でも出来るようにしないと…。」
そしてある日のこと。この日は剣術と馬術の訓練に、吉宗が直々(じきじき)に立ち会った。
「うぬぬ…。最近の武士たちは、満足に馬にも乗れぬのか…。
馬術とはどういうものか、この吉宗が見せてくれよう、馬をひけい!」
パカッパカッパカッパカッパカッパカッ!
吉宗は華麗な手綱さばきを見せる。そして馬に乗りながら、華麗に刀を振るう。
その迫力に、配下の侍たちは、ただただ呆然とするばかりだったが、
パカッパカッパカッパカッパカッパカッ!
「……!そのほうは、もしや脇田久次!」
脇田久次は、吉宗にも引けをとらない手綱さばきを披露して見せた。そして、刀のほうも、見事に華麗に振るって見せた。
無事に馬術と剣術の訓練を終えた脇田久次は、吉宗に直々(じきじき)に声をかけられ、お褒めの言葉をいただく。
「脇田久次!本日の馬術の披露と、剣術の華麗なる刀さばき、実に見事であった!
他の者どもはこの脇田久次を見習うように!よいな!」
「ははーっ!」
この言葉を聞いて、脇田久次は一瞬、勝ち誇ったような表情を見せた。
「やったぞ!これで名実ともに、認めてもらったぞ!」
脇田久次はさらに、思わずニンマリした表情を見せたのだった…。




