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ASTRAL LEGEND  作者: 七瀬渚
第5章/未来のために
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8.超越〜Transcendence〜



一夜明けた翌日、草木をしっとりと濡らす露も乾き始める晴れの朝。二人の妖精が庭園へと足を運んでいく。


慰霊碑と墓石の並びから少しばかり先へ行ったところ、開けたままのその場所には陽の光を纏って拡散させる噴水と、降り注ぐそれを惜しみなく浴びて一層鮮やかに煌めく薔薇の群れとがある。


帰るべき場所へ意識が向いているせいなのか、セレスは今更のように思い知らされてしまう。数週間過ごしてきたここは精神世界、幽体の集う【アストラル】…この上なく幻想的な場所なのだと。


やがて追い付いてきた王宮の皆と、セレス、マラカイトは向き合う形になった。アルタイル、ベガ、クー・シー、スピカ、それからレグルス。並んでいる顔を順に見渡していくうちに胸が苦しくつかえてくる。どうしようもなく沸いてくる、言葉に、できない想いで満ちてくる。


いくつもの記憶の欠片が頭の中いっぱいに広がって、チラチラと瞬いているようだった。恒星の如く。






朝食だけは昨日と同じように皆で囲んだ。いろんな話をした。嬉しい報告も耳にした。




ーー今度、レグルスのお母様に会うのです。




スピカが言った。恥ずかしがり屋な彼女らしく、頬を染めて伏し目がちに。時折大事そうにお腹を撫でる、そんな仕草を微笑ましげに見ていたレグルスも、彼女に続いて。



「俺らと過ごした場所を守りたいって一人実家に残ってたんだ。だけど自由にはしてやれなかった。いつ狙われるかわからないからって、厳重な警備を付けて閉じ込めるみたいにしていた。本当は年甲斐もないくらい活発な人なんだけどな」



だけど、これでやっと…



最後に小さく付け加えられた寂しげな声。それでもうっすらと滲むように笑んでいる、彼の姿を前にセレスも温かな息をこぼした。



それから若い姫と婚約者は、そっと寄り添い微笑むくらい。ぽつり、ぽつり、とたまに話すくらい。幸福と切なさが同居したような顔…実に静かなものだった。眺めながら思った。きっと彼らの目から見たら、私たち二人も同じように見えるのだろう、と。


アルタイルとベガはさすが大人とでも言うのか、肝が座っているとでも言うのか、気の利いた話題を度々振ってくれた。その都度、セレスは答えた。自身の名残惜しさを掻き消すべく、できるだけ明るく振舞おうとした。だけど…



思い通りにはならないものだ。空席を眺めながら思った。そこは終始埋まることはなかった。彼女は、いなかった。






ねぇ…



春風が心地良く抜ける庭園。すり寄るようにクー・シーが切り出す。


「二人とも、本当に帰っちゃうの?」


しょんぼりとうなだれる彼の目はすでに潤いを帯びている。マラカイトが言葉もなくその頭をポンポン、と叩いた。不器用だ。セレスはすぐ横で笑いかける。



「きっと夢を叶えるから…私たち。クー・シーも頑張るのよ」



あなたは強いわ、と続けると、ずずっ、とすすり上げる音。すぐ後にマラカイトの手をすり抜けた、クー・シーがこちらへ向かった。



セレス…



か細い声と共に胸元に飛び込んできた。



「大好きだよ…!」



がっしりしがみ付いた小さな彼が、また会おう、絶対、鼻声で繰り返す。その奥であんぐりとしたのはマラカイトだった。



「お前っ…それは反則だろ…っ!」



あたふたとする彼の様子に、みんな堪え切れずに笑った。本当に素直な二人。似た者同士だと気付いているのかしら?くすぐったく感じたセレスも思わず笑ってしまう。



セレス。


マラカイト。



また新たに、気配が近付いた。相変わらずべったりとくっついたレグルスとスピカ。この二人は一体、どれだけ見せ付ければ気が済むのか、と、セレスの笑みに苦味が混じる。


ふと、あっちの世界での言葉を思い出した。“バカップル”って言うのよ、そういうの。教えてやりたいところだけど、ここは大人しく聞くことに。



「こっちのことは任せてくれ」


レグルスが言う。



「お二人が守ってくれたアストラルを必ず良い世界にしてみせます、彼と一緒に。だから…」


フィジカルを、どうか…



スピカの声が消えかかる。寂しげな雰囲気が漂ってしまう。ええ、セレスは頷いた。凛とした笑みを浮かべて見せて、二人に向かって手を。



「信頼しているわ、レグルス、スピカ様」



すぐにがっしりと握り返したのはレグルスのものだった。自身の華奢な手を包み込む白く細長い指、少し湿ってひやりとした感触、見下ろしていたセレスもやがて顔を上げる。


視線が正面からぶつかる。燃えるような赤の瞳。焼き尽くす業火よりも温かく照らす情熱的な色、とでも言おうか。ともかくそんな優しい例えがしっくりくる。当初、恐れていたのがまるで嘘みたいに美しくて、動きも忘れて魅入ってしまう程。かつて心揺さぶられた相手ならなおのことだ。



次にスピカの手を取った。まだ少し不安が残っているように見える彼女の表情に向かって、大丈夫、と言ってから…


「元気な赤ちゃんを産んでね、スピカ様」


こく、と頷いたスピカはほんのり血色良く染まった顔で微笑む。母になってなお健在な少女気質は、きっとこの先も変わることはないのだろう、と確信めいたものを感じてしまう。こっちまでくすぐったくなってしまう。



そんな乙女な母の横で俺様な父の方が動いた。隣の彼の正面に立っていた。


「ありがとう、マラカイト」


そう言って手を差し伸べるレグルス。まごついているマラカイト。だけどやがて、二つの手は結ばれた。セレスはほっ、とため息をこぼした。


こちらこそ…そんな声がした。不器用な彼なりの精一杯だとわかる。まだ固いながらもうっすらと笑みを浮かべている。対する方も同じように。


本当に不器用…そこはよく似ていると今更ながら思った。何故私はこんなたぐいの男にばかり?そう思うなり苦笑が漏れた。



不器用な男二人が離れると、入れ替わるようにアルタイルとベガがこちらへ歩み寄る。また、強い握手を交わす。



「お二人には感謝してもし切れない」


「世界は違っても私たちは繋がっています。いつか一つになるときの為に…」



それぞれの世界で、それぞれの未来を。



ベガの言葉にセレスはええ、と力強く返す。アルタイルもこちらへ頷いた。彼の逞しく大きな手が天に向かった。祈りのように。



空から降り始めた白い光の粒が濃度を増し、柱を成し、セレスとマラカイトの身体を包んで更に膨らんでいく。いよいよそのときが…実感を覚える中、セレスの胸にはまだ一抹の心残りがあった。




ーー仕方ない。



いつかは離れなくてはならなかった。わかっていたこと、後はもう信じるしかない、と自分に言い聞かすも、彼女の姿が脳裏から離れない。それでも光は広がっていく。瞳孔の収縮が追いつかない程に。セレスはついに瞼を閉じてしまう。



みんな…



心の中で祈った。



どうか元気で。そして、どうか、ミラのことを…



そのときだった。



声がした。遠くから。聞き慣れた高い声色、少女の声。間違いなく自分を呼んでいる、彼女の…


セレスは顔を上げた。眩い光が薄れ、じんわり痛みながら視界が開けた。元に戻った光度にまだ慣れない瞳が向かい来る彼女の小さな姿を捉えた。



ミラ…!!



その場の全員がそちらを振り返る。口々に彼女の名を呼ぶ。目の奥が熱くて痛くって、たまらなくって震えてくる。



「セレス…もう、間に合わないかと思っ…」



切れた息はもはや最後まで言葉を紡げない。ミラがすぐ目の前まで辿り着いた。全速力で駆け付けたのだろう、こんな痩せ細り、弱った身体で。セレスは考える間もなく、彼女をしかと抱き締める。ふわり、と花の香りがする。腕の中の彼女に尋ねる。



「ミラ…もう、動けるのね?」



ミラがぴくり、と小さく頷く。充血に囲まれた水色の瞳が見上げた。セレス、私…頻繁にしゃくり上げながら彼女は言った。



「死んでしまおうって思ったの。シャウラが逝ってしまって、どうしていいかわからなくて、彼を失った記憶を何度も何度も夢に見て…」



「ミラ…!」



死という言葉が胸の奥で不穏に響いて、思わず彼女の細い肩を強く掴んだ。そんなこと考えないで。そう言いかけたとき、だけど、とミラが切り出した。セレスは動きを止めた。小さな淑女が艶やかで切なげな笑みを浮かべて見上げていた。



「セレスとマラカイトさんのことを、思い出したの」



思いがけない言葉だった。セレスは思わず、え、と漏らしてしまう。マラカイトもきっと同じだ。両手で交互に涙を拭いながら、ミラは更に言う。



「信じていれば、きっとまた逢えるって。だから私、信じたい」



うん…



詰まる声で返すなり、セレスはまた彼女を力一杯抱きすくめる。小ぶりな身体が温かい。ミラは生きている。彼女の望むものが何であろうと、それは彼女自身の為のものなのだ。そしてそれを恥じる必要などない…絶対に。セレスは彼女に視線を落とす。


「生きて、ミラ。あなたの為に」


涙で視界が霞む。まだ何処か壊れそうに危うい笑顔の彼女に言った。



「約束したんでしょう?精一杯に生き抜いて…」



今度こそ彼に捕まえてもらうのよ。



そう続けると、ミラが身体を丸めて嗚咽を漏らした。上から覆い被さったセレスも一緒に肩を震わせた。





落ち着いた頃、ミラもスピカに付き添われて皆の中に混じった。見届けたアルタイルが再び空高くへ手をかざす。


光が満ちていく。みんなの姿が白に飲まれていく。やがて“身体”の感覚が遠のいた。


繋いだはずのマラカイトの手の感覚さえ、もうわからない。でも、失われたのではない。


別々のコップに注がれた水が蒸発して登るように、空中で一つに溶け合っているのだとわかった。そこへ懐かしい匂いと温度が重なってくる。




【桜庭伊津美】が戻ってくるのを、感じた。








光が薄れていく、程よい闇の訪れ…そんな気配で瞼を開いた。ゆっくりと。



少しザラついた質感の無地のものが広がっている。沈み込む身体。背中に受ける柔らかい感触。ゆっくりと身体を起こした。自分のものとは思えないくらい、重い。



見渡してわかった、ベッドの上。電気はついていないが、カーテンの隙間から明るさが差し込んでいる。白っぽい日差し…どうやら昼、らしい。


視線を落とした。とりあえず自分がパジャマを身に付けていることを確認した。ふわふわと漂うような定まらない意識がしばらく続いた。それから突如、思い立って床へ降りた。息を飲んだ。



姿見の中に、彼女が、いる。桜庭伊津美。他でもない、自分自身。呆然と立ち尽くしていた。



今は一体、何月何日なのだろう。戻ってきたのか、それとも夢だったのだろうか。疑問で埋め尽くされる脳裏に彼の姿がよぎる。辺りを見回した。ついさっきまで近くに感じていたはずなのに、その姿が、ない。



そんな…



動悸がみるみる速度を増す。汗が滲み、呼吸が乱れ始めたときだった。



ピンポーン…



鳴り響いたチャイムの音に、はた、と動きを止めた。返事をする母親の声と足音とが、下からかすかに聞こえてくる。



あら、優くん、もう大丈夫なの?



少しの間の後に続いた母の声。直後、ドタドタと足音が騒ぎ出す。階段の方から聞こえるそれは確実にこちらへ迫って、ついにドアの開け放たれるタイミングで止まった。



伊津美っ!!



名を呼ぶ声の主が立っている。すぐ目の前に。懐かしいゴワゴワの茶髪、日焼けした肌。尋常じゃないとわかる表情に全身が強く脈を打つ。



ねぇ…



やっと、伊津美は口を開いた。ずっと求めていた、彼の姿を見て。



「優輝、やっぱり…本当…?」



言い終わるその前から彼はづかづかと歩み寄って来た。それから一気に引き寄せられた。苦しいくらい強く締め付ける硬い腕。懐かしい匂い。伊津美は息をするのも忘れて顔をうずめる。彼の声がした。



「ああ、本当だよ」



止まった時間が動き出したかのように、伊津美はやっと息を吸い込む。彼を見上げる。


「今は、いつ?何月何日?」


「3月7日」


優輝が答える。更に詳しく続ける。


「あれから二週間くらい経ってるけど、俺らはインフルエンザで休みってことになってるらしい」


彼の困惑の表情を見上げながら、伊津美は、そう、と呟きため息をこぼした。失踪扱いになっていないことがわかって胸を撫で下ろした。


安堵の為か少しふらついた伊津美を優輝が支える。二人は身体を寄せ合ったまま、ベッドの上に腰を下ろした。



「アストラル王がうまく手引きしてくれたみたいだけど…」


指先で鼻をこする。彼が小さく言う。


「どうせなら失踪前に時間を戻してくれればなぁ…」


少し不満気な横顔を見て伊津美は笑った。それは無理でしょ、と返す。振り向く彼に更に言う。


「それぞれの世界に幽体が二つずつ存在することになってしまうもの」


そう解説してみせると、ああ、と呟く優輝。納得したように目を開いたかと思うと、時折首を傾げている。その様子が可笑しくて伊津美はまた笑みをこぼす。



心地良い春の空気が包み込む、二人っきりの場所、私の部屋。広い彼の胸へと伊津美はそっと顔を寄せた。応えるように彼の腕が背中に回る。自然な流れ、今はただこうしていたい。



伊津美…



艶っぽく呼ぶ声が耳元をくすぐる。伊津美は見上げた。優しく慈しむような眼差しが目の前にあった。ときめきとはまた違うものを求めてそこへ近付く。ゆっくり瞼を閉じた二つの顔が重なろうとしていた。



「優くん、伊津美の調子はどぉ?食欲あるなら一緒にお昼でも…」



突如、入ってきた、どちらのものでもない声。二人は反射的に振り返る。身体を離して平静を装うには時間が足りなさ過ぎた。何故気付かなかったのだろう、肉体に戻って感覚が鈍った?悔やんでみても、もう遅い。



あら。



開きかけたドアの向こうに佇む伊津美の母が手で口元を覆った。


「ごめんなさい、邪魔しちゃったわね」


そう言ってすっ、と引っ込む。ぽかんと固まった伊津美の顔はみるみる熱を帯びていく。



「お母さん、違うから!」


慌てて叫ぶも、返ってきたのは冷やかすような口調だけ。


「病み上がりなんだから程々にしなさいよ~」


「何を!?」


真っ赤になりながら投げ付けた問い。しかし足音は階段の方へと遠ざかってしまう。勝手に、納得したみたいに。



「何って、お前…」



背後から小さな呟きがした。伊津美は熱の冷めない顔で振り返る。耳まで朱に染めてうつむく優輝の姿。いたたまれない羞恥心はついに、最高潮へ。



「何照れてるのよ、優輝まで…っ!」



ドスッ、と響いた鈍い音。みぞおちに肘を打ち込まれた優輝が低く呻いた。






再び静かな時間が訪れた。さっきよりも少しばかり距離を置いて座る二人。斜め下を見つめ黙りこくる優輝を伊津美は横目で見た。


さすがにやり過ぎてしまったか…伊津美はそっと彼に近付き肩に触れる。彼がやっと顔を上げる。


「ごめん…恥ずかしくて…」


上目がちにして言うと、優輝はまた視線を落とし、小さく首を横に振る。その仕草は遠い昔に見た緑の髪の彼に重なってくる。伊津美は首を傾げて問いかけてみる。



「どうしたの?シャイなカイトに戻っちゃった?」



カイト。その部分で彼が反応したように見えた。ん、と呟いて更に近付くと、長い吐息の音が聞こえた。いつの間にか優輝が困ったような微笑を浮かべていた。彼は言った。



「何か俺ら、人間の枠を超えちまったみたいだ」



そうよ。伊津美は返す。ぎゅっ、と彼の服の肩を握って。


「前世の記憶を持つフィジカルの人間…超人の仲間入りね。王妃様はそれを心配していたのよ」


口にしながらもうすでに、彼の戸惑うような顔の動きに影響を受け始めている。これから先、見えないものへの不安は自分の中にもあるのだ、と。お互いがそれを知り、支え合っていければ崩れることはない。そう、信じていたいけれど…



優輝は断っても良かったのに。



ぽつり、呟いていた。いつもより細く見える肩に、もう鉱石も何も埋まっていない額を押し付けながら思い返した。


無茶な判断をさせてしまったかも知れない。彼のことだ、私を一人にさせないように、などと考えて、きっと…


動くことができずにいた。そこへやがて届いた彼の声。



ーーいや、これでいい。



思いのほか落ち着いた口調に驚いた。彼らしい優しげな視線が振り向いた。



「理解者なら伊津美だけで十分だ」



ただ…



寂しげな陰を落としながら彼は続ける。



「お前はどっちの方が好きなのかなって。俺は今、昭島優輝だけどマラカイトでもある。あのときの後悔を繰り返さない為に、俺は変わったんだ」



彼の持ち味とも言える優しくも真っ直ぐな眼差し。囚われたように見入る伊津美に彼はついに突き付けた。



「伊津美は、どっちの俺でいてほしいんだ?」



優輝?それともカイト?



彼の瞳が問いかける。伊津美はしばし、口をつぐんだ。じゃあ…しばらくしてから切り出した。趣味の悪い選択を今度は彼に突き付ける為に。



「優輝は、伊津美とセレス、どっちがいいの?」



えっ、という間の抜けた声を受けて伊津美はほくそ笑んだ。やっぱり、ね。そう思った。それは…などと口ごもっている彼に、我ながら見事に決まっているであろう余裕の表情を見せ付けてやる。馬鹿ね…内心で更に罵りながら。



「私は“あなた”が好き」



他でもない、あなたを愛してる。



今度はこちらが真っ直ぐ見つめる。遠慮も容赦もなしに、真っ正面から。彼の唇がかすかに震えているのも知りながら。


「どっちとか、ないから」


はっきりと言った。


「あなたがあなたである以上、名前も容姿も関係ないの」


一緒に居させて。そう言って浅黒な頬に触れた、次の瞬間、強い引力に引き込まれた。



伊津美…



低く呟く彼が腕に力を込める。背中を強く握って応える。重さが迫る。身体が傾く。


「ちょっ、ちょっと、優輝…」


伊津美は慌てて抗おうとするが、相変わらず重心はお構いなしに偏っていく。やがて彼の荒々しい息遣い、そして声が…



「好きだ…!!」


「ちょっ、優輝、待って!ドアが…っ」



ついに押し倒された、伊津美は必死の思いで叫んだ。



「ドアが開きっぱなし…お母さんに聞かれるーーっ!!」




…また一つ、教訓を得た。男が獣と化す可能性のある場では、万全の態勢をとっておくべきだと。



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