ポイズンクッキング
J村くんがアパートに帰ると、なぜか星さんもついてきました。
当然のように部屋へ上がり、当然のようにくつろいでいます。
「何でここにいるんだ!」
J村くんが咎めるように問うと、
「あなたがそこにいるから」
危険な香りのする答えが返ってきました。
ストーカーも真っ青です。
「恋人が離れ離れなんて不自然です。これからは一緒に暮らしましょう」
「結婚もしていないのに同棲だなんて! 不潔だ! 君の両親だって納得しないぞ!」
「それなら平気です。父と母はもう旅立たせましたから」
さらりと恐ろしいことを言います。
「どこへ?」とは聞かないほうがいいでしょう。
「家事は私が担当します。さっそく手料理を振る舞いましょう」
星さんは一方的に決めて立ち上がると、台所に向かいかけ、ふと思いついたように振り返りました。
「くれぐれも私から逃げようなんて考えないでね。あなたも豚箱で臭いご飯を食べるのは嫌でしょう?」
星さんは唇を三日月のように吊り上げます。
J村くんはガクブル震えながら何度も頷きました。
さながらヘビに睨まれたカエルです。
星さんはJ村くんの返事に満足したのか、台所へ姿を消しました。
すぐに調理をする音が聞こえてきます。
トントントン
ジュージュー
ザッザッ
ボフン
「ボフン?」
J村くんは嫌な予感がしました。
「お待ちどーさま」
星さんができ上がった料理を運んできます。
「っ・・・・・・!?」
J村くんはちゃぶ台に並べられたそれらを見て絶句しました。
チャーハンからは紫色の湯気が立ち上り、中華スープはコポコポと気泡が弾けています。ジュワアァァァと何かが溶けるような音も聞こえます。
まるで地獄の釜の蓋が開いたようです。
これなら豚箱で臭いご飯を食べる方がマシでしょう。
「・・・・・・味見はしたの?」
「ええ、いいできだったわ!」
いい笑顔が返ってきます。
「さっき変な音が聞こえたけど・・・・・・」
「私の愛を注入しました!」
またまたいい笑顔が返ってきます。
「どうぞ召し上がれ!」
その純粋な笑顔を前に、J村くんは断ることができませんでした。
「・・・・・・い、いただきます」
パクッ
「ぐふっ!?」
ピーポー ピーポー
食中毒でした。