危女もとい鬼女
星さんの独白はスルーしても問題ありません。
女性は星円さんといいました。
「私、殺人鬼の大ファンなんです!」
星さんは目をキラキラさせながら、ズイッと迫ります。
J村くんは顔を歪めながら、ビクッと後ずさりします。
「生の殺人鬼に会えるなんて感激です!」
それから星さんは唾をペッペと飛ばしながら、自分がいかに殺人鬼を愛しているのかを語りはじめました。
「私が殺人鬼に興味を持つようになったのは中学生の時です。きっかけは、サンフランシスコのゾディアック事件でした。当時はまだシリアルキラーなんて名称も定着していない時代で、そのあまりの猟奇性に・・・・・・」
星さんはまだ語ります。
「・・・・・・しかしその頃の私はまだ恐怖心に捕われたままで、純粋な視点を持ち合わせていませんでした。ターニングポイントになったのは、ご存知かの名著『F〇I心理分析官』に触れて、犯罪心理学への理解を深め・・・・・・」
星さんはまだまだ語り続けます。
初めのうちこそ真面目に聞いていたJ村くんでしたが、次第にそわそわし始めると、チェーンソーを拾い、靴紐を結び直し、足元の雑草をブチブチと引っこ抜き始めました。
やがてJ村くんが地面にヘノヘノモヘジを書き始めた頃になって、ようやく星さんの話が終わりました。
「とまあ、そんなわけです。わかってもらえましたか?」
J村くんはコクコクと頷きます。
「うん、もう嫌というほどよくわかった。星さんは殺人鬼が大好きなんだ」
「はい! なので私とお付き合いしましょう」
「へ?」
J村くんは耳を疑いました。
「いまなんて?」
「ですから、私とお付き合いしましょう」
J村くんは戦慄しました。
初対面の相手に、それもチェーンソーを持った殺人鬼に交際を申し込むなんて、まともじゃありません。異常です。
「せっかくの誘いだけど・・・・・・」
J村くんが迷わず断ろうとすると、
「まさか、断ったりしませんよね?」
星さんの目がスッと細められました。
その眼光はさながら獲物を追い詰める殺人鬼です。
「ヒィッ!?」
J村くんが情けない声を漏らします。
怖くて仕方ありませんでしたが、背に腹は変えられません。後で後悔しないためにも、勇気をふりしばって宣言します。
「お断りしま・・・・・・」
しかしまた途中で遮られてしまいました。
星さんがJ村くんの手を手を取り、握手でもするかのように握り締めるてきたのです。
ギリギリギリギリ
「痛い痛い痛い!」
J村くんは思わず叫びます。
でも星さんは一向にやめません。
「さっき、私を襲おうとしていたよね?」
「・・・・・・」
「これって殺人未遂なのかな?」
「うっ・・・・・・」
「そういえば、この通りの先に交番があったよね?」
「っ・・・・・・!」
J村くんの視線がキョロキョロと宙をさ迷います。
きっと目にゴミでも入ったのでしょう。冷徹な殺人鬼は動揺なんてしないはずですから。
「それで返事は?」
星さんがニッコリ笑いながら、とどめを刺すように尋ねました。
「・・・・・・こちらこそ喜んで」
カの鳴くような声でした。
虫のカが漢字で出てこなかったので、カタカナにしました。わかりづらくてすみません。