ヘッポコ殺人鬼。
ネット小説初投稿です。
休日にのんびり更新していく予定です。
可愛がっていただけると嬉しいです。
よろしくお願いします。
J村くんは殺人鬼です。
チェーンソー片手に獲物を狩ります。情けも容赦もありません。
その日の晩は新月でした。
辺りは真っ暗で、寝静まった住宅街は閑散としています。時々、街灯がチロチロと点滅しているくらいです。通り魔にはうってつけの夜でした。
JR村くんは物陰に隠れると、ホッケーマスクを被りました。
息をひそめて獲物を待ちます。
さっそく向こうから人影がやってきました。
「・・・・・・畜生、あんのバカ弟子めえ!」
その人はガチムチマッチョの筋肉達磨のような男性でした。
黒いタンクトップから、丸太のような腕がのぞいています。
何かトラブルでもあったのでしょう。かなり気が立っているらしく、忌々しそうに唾を吐き捨てています。
J村くんは慎重な殺人鬼です。
触らぬ神に祟りなし。
筋肉ダルマさんはやり過ごすことにしました。
次にやってきたのは、小さな男の子でした。
「・・・・・・」
今度は力も弱そうですし、一緒に親がいる気配もありません。
これはチャンスです。チェーンソーのスロットルに手が伸びます。
しかし思慮深いJ村くんは、ふと違和感を抱きました。
こんな時間に子供がひとり出歩いているのは不自然です。
J村くんは最近の子供は凶暴だというニュースを思い出しました。
きっとこの男の子は、手のつけられない不良少年に違いありません。
J村くんは黙って男の子が去っていくのを見送りました。
最後にやってきたのは、腰の曲がったおじいさんでした。
「七月は〇夕で酒が飲めるぞ~っと、ひっく!」
お酒を飲んでいるのか千鳥足です。
上機嫌に『日本全〇酒飲み音頭』を歌っています。
酩酊したおじいさん。一見するといいカモですが、なぜか襲おうという気になれません。
J村くんは首を傾げ、すぐその理由に気がつきました。
おじいさんの目は正気でした。
ゆるみきった表情の奥で、しかしその瞳は鋭く光っています。
何かの武術の達人なのでしょう。ふらつきながらも隙がありません。
J村くんが尻込みしていると、突然、おじいさんが鋭い突き蹴りを放ちました。
ボッ、ボッ、ボボッ
その姿はさながら『酔拳』のジャッ〇ー・チェンでした。
変幻自在。予測不能。
一般人にはとても読み切ることなどできません。
突きのようにも、何かをつかもうとしているようにも見えます。
やがておじいさんは、必死の形相で民家の塀にしがみつきました。
そして安堵の表情を浮かべると、路傍で盛大にリバースし、フラフラと塀伝いに歩いて行きました。
その後も何度か様子見を繰り返す内に、空が白み始めました。
こうなるともう獲物を望むのは難しいでしょう。
「・・・・・・ふっ、今日は命拾いしたな、羊ども」
J村くんはニヒルに呟くと、トボトボお家に帰りました。
決して負け惜しみではありません。違うったら違うのです。
読了ありがとうございました。