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首吊坂の冒険

『幽』怪談実話コンテストに応募した作品です。


残念ながら落選しましたが……

深夜のファミレスで職場の同僚のTさんはその話をしてくれた。

「二十歳の時にhの今の家に越してきたんだけど、それ以前はnの方に住んでいたんだ 」

ちょっと間を置いてTさんは続けた。

「その時さ、家の裏手にh坂って坂があって、まあ、そこは坂って言っても階段なんだけどさ、みんな首吊り階段とか言ってたんだ。よく首吊り自殺があったから。ほかにも変質者なんかが出て、女の人の悲鳴が聞こえたりしたよ。朝になったら、パトカーとか救急車が来てたりとかね。なんか、ちょうど首吊るのにいい枝振りの木が生えてるんだ。すぐ脇にお墓があった。あとね、でっかいお屋敷があったんだよ 」

Tさんの言うh坂は、私もさんざん使った道だった。ちょうどTさんが住んでいたころはは折れ曲がった見通しの悪い階段で、日もあまり当たらない。崖沿いにちょっとした沢が流れていて、ジメジメした不気味な場所だった。

「当然の事だけど、昔誰かが住んでいたんだろうけど、俺の子供の頃にはもうずっと使われていない状態だった。中は昔のまんまだったんじゃないかな? 家具だとか食器だとかが、中にあるのが窓から見えたからさ 」

Tさんの家は首吊り階段の入り口辺りにあった。そして、その坂とTさんの家の間くらいに細い横道があって、その奥に大きな木造の門があった。大人の背丈よりも、ずっと高くって、小学生だったTさんの身長の倍くらいある頑丈な門だ。つつじの植え込みに挟まれるようにして建っていたそれは、いつもずっと閉まっていたが奥のお屋敷の入り口であることだけはわかっていた。

ある秋の日、台風のせいでその扉が半ばから折れて開いていたのだった。それを好奇心旺盛な小学生の男の子がほうっておくわけはなかった。Tさんはいつも一緒につるんでいたKちゃんIちゃんと一緒に話しているうちに、自然と門の奥に足が向いたのだった。

いつものちょっとした冒険の気分で門をくぐると、一直線に道が続いていた。

「まるでファミコンのゲームの隠しステージをプレイしているみたいで、わくわくした気分だったよ。そういう年頃って秘密の場所って好きじゃない? 」

その後になにが待ち受けるかも知らずに、Tさんたちは道をずっと進んで行った。

やがて道は緩やかに傾斜して屋敷へと通じた。普段、坂から覗くばかりの洋館に興奮しながら、それを横目にやり過ごした三人は裏の林の方に抜けていった。お屋敷それ自体よりも、どこかへ続いていく道に興味を持ったからだ。林はすぐに崖に突き当たり、三人はがっかりしたが、かわりに面白いものを見つけた。

「テントがあったんだよ。ブルーシートのテント 」

そのテントは崖に挟まれるようにしてたっていた。

「誰かいないのかな? そう思って見ていても、まったく静かで、人のいる気配はしないんだ。きっとホームレスが住み着いているんだろう。ここらへんにも住んでいるというし…… で、よく見てみるとテントの周りには、コンロのようなものが置いてあった。やっぱり誰か住んでいるんだ。そう思ったよ 」

「で、しばらく眺めていたんだけど“誰かいないのかな、これ? ちょっと石投げてみようぜ! ”ってそういう話になったんだよね。それが例によって、Kちゃんが言い出したんだ。Kちゃんっていつもこういうことがあると率先して首を突っ込んで、事態をかき回すタイプだった。必ずいるでしょ? そういう子ってさ 」

そうして、テントに向かって石を投げ出した。最初は“まずいかなぁ ”と思ったTさんもIもそのうち釣られて石を投げた。

ボス、ボス、ブルーシートに石が当たる音が間抜けに響く。しかし、テントから反応はない。しばらく、様子を見てみるが静かなままだ。

そのままもっと近くに行って、テントの様子を確認する。改めて近くに行くと辺りには調理器具一式が並べてあって、なんだかちょっとしたキッチンのように見えた。

しかしそれだけだ。やはり、静かなまま、何の変化もない。

「なんだ、つまんないなぁ 」

誰かが、気の抜けた声を上げた。すると、その声に反発するかのように、ガサガサ! と急にテントが動き出した。三人は、「わあ! 」と驚いて一目散に駆け出した。

「なにせ、出し抜けでしょう? 石を投げている時は調子に乗ってるから平気なんだけどさ、すっかりびびっちゃってさー でも……」

本当に恐ろしいものはその時に目に入ったのだ。三人が振り返ったその目に映ったのは、林の木と言う木に打ちつけられた藁人形の群れだった。

「藁人形には小さなお札が貼ってあった、それも全部の人形にね。真っ赤な字で呪文が書かれてた。どれもテントを中心にして打ちつけられてたから、これだけあるのに俺たちはまったく気がついてなかったんだ。藁で出来た顔がみんなこっちを見ていてね。目も鼻もないのに、なんだか見られているようでぞっとしたよ 」

でも、そのまがまがしい光景に驚いて固まっている事は出来なかった。なぜなら背後にはテントの主がいるのだから。

「あいつがこんな事をやったんだ! って思ったら俺たち、半分パニックになっちゃってさ。つかまったらどうなるだろうって夢中で林を駆け抜けたら、いつの間にか首吊り階段だったんだよ。そいつは結局そこまでは追いかけてこなかった 」

そう言って、しばらく空中を見つめてからTさんは腕を組んだ。

「後で考えると、あれ、ホームレスじゃなかったのかもしれない。だって、ホームレスにしては置いてあった道具がいいものだった気がするんだよね。あいつ、誰も入らないあそこで、毎日ああやって人を呪っていたのかも知れない 」

「しばらくして屋敷は壊されちゃってさ、今となっちゃあ、あいつがどうなったのかなんて、わからない。屋敷が壊される時までいたのかとか、どこへ行ってなにしてるのかとか、まったく解らない。屋敷の跡はマンションが建っちゃってさ。お屋敷よりでっかいマンション。せっかくだから見に行く? 」

Tさんはそう言うと、私をそのマンションまで車で送ってくれた。夜の坂を見に行くのはやはりどことなく不気味で、相変わらず湧き水が染み出してジメジメした階段だった。

ただし、件のマンションはまるでお城のようにそびえていた。そしてその分、木々が減って見通しはよくなっており、昔の不気味さを少しは和らげていた。二人でこの坂の思い出を語りながら、階段を一番上まで登り、帰ってくると、蛍光灯の暗がりに猫が随分潜んでいてこちらを見ていた。淡い光に、なんだかマンションがかすんで見える。


この(・・)マンション(・・・・・)は(・)大丈夫(・・・)なん(・・)だろう(・・・)か(・)? 私はすこし気にかかった。




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