跳梁
山だったり海岸だったりと、普段人のいないところへ行くと、やはり怪異に会う事も多い。
これはそんな話の中の一つだ。
以前、夏になると毎年キャンプをしていた。
私はボーイスカウトをしていたのだ。
毎年行くのは団キャンプと言うもので、下は小学校低学年から、上は大学生までが参加する(とはいっても同じところに泊まるわけでもなければやることも違うが)大きな集まりだった。夏の夜であった。
しかし、場所は富士山麓、青樹が原の樹海近くのことで、夜になると吐息も白い。
夜も深く、空は星がきらきらと輝いていた。晴天である。リーダーたちは少し離れたリーダーサイトを離れ、大食堂の方に移動して会議およびその後の酒盛りに行っていて、人がいるのは我々のサイトくらいのものだった。
他の仲間たちは昼の疲れで寝静まっており、私一人がポチポチと音を立てる熾きをかき回しながら一人の時間を楽しんでいたのだった。当時私は班では一番年長だったので一人のんびり出来る時間が欲しくて、また、自分の性格上の事もあってこういう風に楽しむ事があった。
その夜も歌の一節ではないけれど、僅かに漂う熾きの暖気と青く輝く星星を眺めて一日の出来事をかみ締めていた。
時折、キーンキーンと澄んだ音が響いた。鹿の声だ。
だがやがてそれも聞こえなくなった。
静かな夜だった。
思いを馳せるのに十分だった。
そんななか、ふと“パシャン、パシャン”という音が遠くから響いてきたのだった。
それは何かが地面を弾むような音で、最初は森の木の葉に何かが当たっているか、どこかで地雨でも降っているのだろうと思ったのだが、それにしては嫌に規則的だった。
しかも、前で聞こえたかと思えば後ろから聞こえ、右かと思えば左から聞こえるのだった。音は小さかったがなぜか耳に付くので間違えようがなかった。
不安になってきょろきょろと見回してみても、あざ笑うかのように違う方向から音はするし、夜の森は木々の影が続いて見ようとすればするほど意識を遠くへ運ぼうとした。
森で遭難すると言う事があれば、こういう感覚になるのだろうな・・・・・・
と薄ら寒い思いに駆られ逃げ出したくなったころだった。
木々の影の間を小さな小さな光が二つ、まるでじゃれあっているようにつきつはなれつしながら弾むのが見えた。
まるで埃の様な光であった。細い糸を引きながら、子供が駆け回るような雰囲気だった。
遠くにある時は目の錯覚かと疑うほどだったが、まるでかくれんぼのように木の陰に隠れ隠れしながら近づいてくるのだった。
それが林を縫う様子は何ともいえない怪しげな様子で変な無邪気さを感じさせた。
やがて、私のすぐそばの茂みまでやってくると暫く鳴りを潜めていた。
不気味な沈黙だった。
“パチリ”
と、なにかの爆ぜる音がしたと思うと、急にどっと女の笑い声が二つ渦を巻くように聞こえ先ほどの光の玉が凄いスピードで私を取り囲んだ。
うわ!っと飛び上がると、渦を巻くように風が起こり、いっそうおかしいと言うように笑い声がました。
風と光の玉は体中を巻き上げるように立ち上り、木々の梢に達してふっと消えた。
あとには、すっかり冷えた熾きがしんとした森の夜露に濡れ始めていた。