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R崎にて

以前のバイトの上司のNさんはもともと幽霊だとかなんだとかの妖しいものが見える性質ではない。ただ、憑依されやすいのだそうで、なんだか、そういうものにあって不機嫌になったり体調を崩す事が多いのだそうだ。そんな経験の中からいくつかの話を聞いた。


これはNさんがまだ学生だった頃の話で、今から十五年くらい前の話だ。当時NさんはI県のR崎というところで一人暮らしをはじめた。何の変哲もない学生アパート。何の変哲もない部屋。そのはずだった。


ところが、暮らし始めてみるとなんだか違和感がある。きっと家具の置き位置でも悪いのだろうと思って、あちこち動かしてみてもやっぱりだめだ。特に部屋の四隅がおかしい。どうも自分ひとりでいるのに他に人の気配がするのだ。それもなんだか落ち着かない気配だ。

Nさんはそう言った気配がする度に、テレビをつけたり、なにか作業をしたり、本を読んだりして不安な気分をごまかした。

気配は、起きている時にもあったが、寝ているともっと明確になった。ある晩は寝ているNさんの顔の上に白装束の女が長い髪をたらして覗き込んでいる。ある時はベッドの足元で誰かがうずくまっている。そうして、その不気味さに耐え切れなくなると寝るのを諦めて、テレビをつけて誤魔化すのだった。すべて気配だったから、もっと大きな感覚があるとなんとなく気にならなくなるのだった。


ある夜のこと。Nさんが寝ていると何かが引っ張る。ぐいぐいと手足を持ち上げるような感触に気がついた。やがて、それがむしろ下に引っ張りこむように誰かが体を引っ張っているのがわかった。いつもどおり、起きよう起きよう、こんなのは早く振り払ってしまえ! そう思うのだけど、体がピクリとも動かない。あっと思うと体から自分がすっぽり抜けたような感覚がした。

どうしたのだろうか?

そこは自分の部屋ではなかった。部屋は白い壁紙に覆われていて、天井も白。時分はそこをふわふわ漂いながらすべるように移動していくのだ。白い壁白い天井、それにイチゴなどのフルーツの柄がのっていて、さらに机にかけるようなビニールみたいな透明なものがかかっていた。まったく知らない他人の部屋だ。しばらくそこを壁伝いに漂っていたNさんだったが、そこに突然、人が現れた。顔の形もはっきりしないその人物だったが、なにやら怒っている事だけはわかった。さんざん怒鳴りつけられると、何を言っているのかもわからなかったが、すっと気が遠くなりそこから先は何も解らなくなった。

気がつくと、自分はいつもどおりベッドで寝ている。ただ、何かが起こっていたのだろう。ものすごい疲労感が全身にあった。


まだある。これも就寝後のことだ。寝ていると、なんだか胸に圧迫感がある。それは布団の重さだとか全然そんなものじゃない。

“なんか苦しいナァ、なんか苦しいナァ ”そう思って寝あぐねている。うーん、うーん、唸っているうちにだんだんと感覚が鮮明になってくるのだ。生々しい重さが身体にかかってくる。

“おかしい、首が苦しい。これは嫌だ。きっといつもの奴だ。起きよう起きよう! ”そうやって目を開けると中年の男が目を見開いてぐいぐい首を締め上げているではないか! Nさんの体はその時、金縛りのようになっていてほとんど動かなかった。だが、このままじゃいけない! はやく振り払わないと! そう思って一心に念じているうちに、はっと体が動く瞬間があった。無理やりに体を動かすと、その中年の男は闇に解けるようにスーッと消えてなくなった。

もちろんその晩もテレビをつけて朝まで起きている羽目になったのだそうだ。


こんなことがあんまりにも続くので、Nさんは実家の母に相談した。すると“部屋の四隅に盛り塩でもしておけばいい “と言われたので早速ためしてみると、その日から怪しい気配はぱったりと消えてなくなり、Nさんも不快な目にあわなくなった。


元々、この部屋に何かがあったのだろうか? いわゆる心霊物件と言う奴だ。しかし、本当の理由が他にあるのじゃないかと私は思う。なぜならR崎で彼女が体験した怪異はその部屋だけではなかったのだから。


NさんのアパートはJ線のS駅から出ている、単線ワンマン電車のR崎線のR崎駅から三十分ほどのところにあった。ある夜、それも真夜中の十二時前後と夜更けの頃だ。

アパートから駅の間にはガストがあって、その脇をいつも自転車で帰っていた。

その夜はなぜだか、こんな真夜中なのに前から、おばあさんがやって来るのだ。水色のシャツを着て白いパンツの六十代のおばあさんだ。それも唐突に前方に現れこっちに向かってくる。避けるそぶりもない。“あ! 危ない!ぶつかる!!! ”急ブレーキをかけたが間に合わなかった。完璧にぶつかったのに、なんともない。素通りしてしまったのだ。後ろを見ても周りを見渡しても、そんなおばあさんの姿はどこにもなかった。跡で気がついたことだが、その通りは道を挟んで向こう側に墓場があったそうである。

些細な事を含めれば、彼女がR崎で体験した事は数え切れない。


Nさんはその土地になにか縁があって、その縁が普段以上にそういった妖しいものとの関係を強化していたのではないか?

きっと本当は誰にでも縁のある土地と言うのがあって、それとめぐり合うことは思ったよりも少なくないのではないだろうか?


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