第一話
第一話もプロローグみたいになってしまいましたが、ご容赦ください。
・第一話
自分が他の人と違うことは自覚していた。
自分に見えているものが他の人には見えない。
何度言っても笑われるか怖がられるだけだ。
最初に異変に気付いたのはいつだったろうか。
確か15の時、絶対にはずしてはいけないと言われているマ
スクをうっかり外してしまった時だ。
うっすらとした光を感じた。柔らかくて、温かい光を。
光を追っていくとそこにあったのはボロボロの町だった。
錆びついた建物の合間には不自然に整備されたビルがのぞ
いている。
そこをマスクと耳にデバイスをつけた人々が何食わぬ顔で
行きかっている。
あまりに異質な光景に恐怖感ばかりがつのっていく。
怖くなって目を閉じると、そこにはいつも通りの美しい街
並みが広がっていた。
次に覚えているのは、冷たい檻の中だ。
警察と政府の役人が大勢いた。口々に誰にも言うな。と連
呼している。
まるで罪人のような扱いだ。だが、そうするに足る理由が
あるのだろうとも思った。
自分…つまり後藤華月が住むイーストシティは日本の首都
で、旧東京があった関東圏を覆うほどの大都市だ。
現在の聴覚拡張デバイスを用いた聴覚社会の礎を築いた共
感覚技術研究所があり、それを通して疑似視覚情報を世界
中に発信しているいわば世界の中心だ。
都市環境の保全のために高い税金をかけ、建物の整備など
に充てられている。これが学校で習った歴史の情報だ。
しかし、華月が目にしたのは、錆びついたビルと荒れ果て
た町の姿だった。
つまりは政府の行っていることの実態である。そんなこと
が市民に広がれば現在の社会が崩壊しかねない。それゆえ
の待遇というわけだ。
聴覚に頼り、視覚を捨てたことで維持されていた虚構の平
和と政府の安寧を根底から覆しかねない存在であるところ
の華月をどうするつもりなのか。
『良くて牢屋行きか…』
政府が下した結論は…。