第九話 弱者の肖像(1)
僕の何が悪かったというのだろうか。
僕が弱い人間だったからだというのか。
ならば、弱さとは何だろう?
最初は些細な事だった。
あの男が・・・鹿野崎健三が虐めの常習者で、あいつに泣かされた子が沢山いるという話は知っていたが、僕は他人事だと思っていた。
たまにジュースを買いに行かされたり、日直の仕事を押しつけられたりするだけだった。
でも、段々とあいつ等の要求は頻繁になり、そして、段々と要求が大きくなってきた。
鹿野崎とその取り巻きに校舎裏に連れ込まれ、お金をタカられるようになった。
お金を持っていないと答えると殴られ、蹴られ、財布を取り上げられて中身を探られた。そして、実際に僕がお金を持っていないことが分かると、今度は親の金を持ってこいとか、万引きしてこいとか脅されるのだ。
その時は脅し文句に使われているだけだが、いつか本当に万引きをやらされるかもしれないとずっと怯えていた。
無論、僕だって何もしなかったわけじゃない。
友人にどうするべきか相談したところ、友人も小学生の頃虐めにあったことがあるらしく、親身に相談に乗ってくれた。
そして、彼のアドバイスに従って先生に相談することにした。
小説なんかだと、学校側は体面を気にして虐めをもみ消そうとしたりするのだが、あれはあくまでフィクションなのか、それともこの学校が善良なのかは分からないが、学校側も大きく取り上げ、僕の両親や鹿野崎の両親とも色々と話し合いの場を設けたりしてくれた。
それで一旦ははあいつ等の虐めもなくなり、僕は安心した。
でも、それは早計だった。
ある日、僕は再び校舎裏に連れ込まれ、鹿野崎達から暴行を受けた。
あいつ等に言わせれば、親や先生を持ち出すのは卑怯なことで、僕は最低の屑なのだという。
そして、今度こそ反抗しないようにと徹底的に叩きのめされた。
虐めがバレないように顔などの人目につく場所をさけ、大怪我にならないように手加減して延々と殴り続けるのだ。
僕は泣き叫び、最後には自分が悪かったと必死に謝った。
すると、鹿野崎は言ったのだ。
謝るなら誠意を見せろと。
鹿野崎が要求してきたのは、お金だった。それも、僕のお小遣いなんかじゃとても払えない金額だ。
僕は無理だと言おうとしたけれど、鹿野崎が拳を振り上げると、恐怖で体が強ばって何も言えなかった。
何でこんなことになったのだろう。
僕は暴力を振るわれるのが恐くて、何も反抗ができなかった。両親や先生に相談したら、もっと酷い目にあわされるかもしれない。
そしてついに、やってはいけない事をやってしまった。
親のお金を盗んだのだ。
それからはもう、転落する一方だった。
鹿野崎達は味をしめ、僕に何度も親の金を盗ませた。
両親は口に出しては言わないものの、僕がお金を盗んでいることを疑っていた。
今では、家の中でも針のムシロだ。
自分が盗みをした後ろめたさで、もう友人にも相談することができず、どんどんと僕は孤立していった。
もう、僕は鹿野崎達から逃れることはできないのだろう。
僕はそう諦観し、乾いた笑い声をあげることしかできなかった。
あれは、そんな時だった。
僕は、刀を持った一人の少女に出会った。