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大罪の悪魔と滞在する悪魔  作者: 聖湾
第一部 第一章
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第四話 ボクの日常(2)

 悪魔は結構便利だった。面倒臭い家事を代わりにやってくれる。

 だからボクは忘れていた。

 悪魔が、恐ろしい存在だということを。




 今日も悪魔は朝食の準備をしてくれた。昨日、卵を買っておいたら、目玉焼きも作ってくれた。ただ、ボクの作り方の知らない料理は作れないようなので、劇的に食環境が良くなったわけではない。

 もっとも、掃除や洗濯もしてくれるので、かなり生活が楽になったので贅沢はいえないが。

 初めて悪魔が洗濯をしてくれたときは、悪魔が洗濯物を干すのを見て近所の人に見つかったら大変だと慌てた。でも、どういう訳か悪魔は他の人には見えず、いつの間にか洗濯物が干されていることに誰も違和感も感じないようだった。


 ちょうど朝食を食べている時の事だった。

 今日は早めに起きたのでボクはテレビを見ながら朝食を食べていた。テレビでは最近起きたストーカー事件や、人が刃物で刺し殺された事件が報道されていて、ボクは物騒だなぁとのんきに考えていた。

 そこへ、突如として車が壁にぶつかったような激しい音が響きわたった。

 何事かと飛び出すが、すぐには何が起きたのか分からない。他の部屋の住民も飛び出してきたが、ボクと同じように何が起きたのか分からず、しばらく首を捻っていたが皆自分の部屋に戻ってしまった。

 ボクも同じように部屋に戻ろうとしたが、ふとおかしなものを見てしまった。


 隣のアパートの一室。その部屋の扉が・・・無い。


 その部屋がどうなっているのか、何故か無性に気になった。後になって思えば、あの時ボクはあの部屋に近寄るべきではなかったのかもしれない。

 好奇心は猫を殺す。


 ならば、好奇心は人をどうするのだろう?




「何これ?」

 扉の無くなった部屋にたどり着いたとき、ボクは目を丸くした。


 扉が・・・引きちぎられていたからだ。


 まるで熊に殴られたように歪んだ扉が、アパートの廊下に転がっていた。

 そして、部屋の中から男の人の悲鳴が聞こえてくる。

 恐る恐る部屋の中をのぞき込むと、抱き合う一組の男女の姿があった。

 もしかしてやっちゃったか?

 カップルのラブシーンに首を突っ込んでしまったのかと焦ったが、あの悲鳴を思い出し、もう一度様子を確かめる。

 すると、女性の顔は見えないが、男性の顔には明らかな恐怖が浮かんでいた。

 そう、抱き合っている女性に対する恐怖が。

 よく見れば、二人は抱き合っているのではなく、女性の方が一方的に抱き締め、男性は必死にそこから逃れようとしている。

「離してくれ! 離して! 頼む、殺さないでくれ!」

 男性を抱き締める女性の腕には、明らかに異常に力が入っている。あのままでは背骨をへし折られてしまうかもしれない。

 もっとも、女性の方は彼に危害を加えるつもりは無いようで、優しい声で男性に語りかけている。

「大丈夫。もう大丈夫だよ。もう悪魔はいないの」

 悪魔?

 女性の言葉にボクは首を捻り、そしてようやく気付く。


 ああ、そうか。彼女は・・・


「・・・?」

 その時、いつの間にかボクの隣に誰かが立っている事に気が付いた。

 振り向くと高校生と思われる制服を着た女の子が鋭い眼差しで部屋の中を睨みつけていた。

 彼女の着ている制服は、たしかこの近くにあるお嬢様学校の制服だ。

 実際、よく手入れされたロングヘアと、日に晒されたことの無いような真っ白い肌は、いかにも良家の子女というイメージだった。

 そして、何よりもすごい美人だ。

 まあ、本当はお嬢様だからといって美人とは限らないのが現実だけれど、お嬢様はケアをしっかりしているので素材を最大限に生かせる。その結果、比較的美人に見える。

 お嬢様なのに美人でないのは、それだけ元の素材が悲惨ということだろう。

 そんな世のお嬢様から抹殺されそうなことを考えていると、その少女は何の迷いもなく部屋の中に足を踏み入れた。

 それを見送っていたボクは、彼女が布に包まれた何か長い棒のような物を背負っていることに気が付いた。

 何だろう。酷く嫌な気配がする。

 その棒が何かは分からないが、酷く不吉なものだという予感がした。

 ここから逃げるべきだろうか?

 ボクがそう考えたときにはもう手遅れだった。

 部屋の中の女性が振り返り、少女を睨み付けて言った。


「・・・貴方、悪魔ね」


 敵意をむき出しにした女性の視線に、しかし、少女は微塵も揺るがない。

 女性は抱き締めていた男性を離すと、少女に向かい合った。

 解放された男性は二人から少しでも離れようと必死に部屋の隅で縮こまる。

「この人を傷つけさせはしない。貴方たち悪魔が何度現れようとも、私はこの人を護ってみせる」

 そう宣言して女性が取り出したものを見て、ボクは悲鳴を上げそうになった。


 女性が取り出したのは、血塗れの包丁だった。


 包丁の柄の部分まで血が染み込み、ツンとした鉄錆の匂いが鼻に付く。

 誰の血かは知らないが、この血液の主は確実に死んでいることだろう。ここで、その血が捌いた魚の血と信じられるほど楽観的にはなれなかった。

 少女はそれを見ても顔色を変えなかった。

 無言で背負っていた棒のような何かを手に取り、布を取り去る。

 ソレを見た瞬間、その場にいた全ての人間が息をのんだ。


 それは、日本刀だった。


 少女がスラリと刀を抜くと、それまで感じていたものとは比較にならないほどの嫌悪感に襲われた。

 何か、黒い靄のようなものが刀身にまとわりついている。

 その凶悪な気配に息を飲みながらも、女性は気丈に敵意を向けた。

「私は・・・悪魔になんか負けない!!」

 叫ぶような女性の宣言に、少女は失笑した。


 そして彼女は指摘する。




「お前も悪魔だろうが」


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