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大罪の悪魔と滞在する悪魔  作者: 聖湾
第一部 最終章
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第三十九話 正義の味方(9)

 剣は道具だ。

 その切っ先が誰に向けられるかを選ぶのは使い手であって、剣ではない。

 ならば、真実、切っ先を向けるべき相手が使い手ならば、剣に何ができるというのだろう。




 ようやく傷が塞がり動けるようになった私は周囲の様子を調べる事にした。もっとも、傷が塞がったとはいっても戦闘は厳しいだろうが。

 動きながらでは悪魔の回復能力をもってしても傷を癒す事はできないが、悪化もしないのでそれで満足するしかないだろう。

 一刻も早く周囲の状況を確認する必要があったからだ。

 あの悪魔憑きを倒した事で全てが解決していれば良いのだが、未だこの場に漂う出所の分からない悪魔の気配を思えばそれも期待できない。

 周囲は薄暗く見にくいが、非常灯を頼りに部屋の中の様子を探る。

 タイヤの付いた移動式のベッドがいくつかと、用途の分からない大きな機材。雰囲気から医療関係か薬剤関係の機材だろうと予想が付くが、そちらの知識の無い私にはなんなのか分からない。

 メモや資料などは何も残っておらず、ここにいた悪魔憑きの正体は分からない。

 そこで私はこの部屋の奥に目を向けた。

 この部屋には私が入ってきた扉の他に、それとは反対側にもう一つ扉があった。

 その向こうに手がかりがある事を祈るしかない。




 奥の部屋も、間取り自体は同じだった。

 しかし・・・

 誰かいる?

 部屋の中に並ぶベッドから、人の気配がした。一番近いベッドにそっと近付き、様子を窺う。

 眠っている?

 ベッドには中学生くらいだろう少年が横たわっていた。意識は無い様子で、呼吸がひどく深い。眠っているというよりも、昏睡していると言った方が妥当だろう。

 何故だろう。どこかで見た覚えがあるような気がする。

 しかし、私にとって何よりも重要なことは・・・


 少年からは微かに悪魔の気配がした。


 私は小さく息を呑み、困惑を押し殺して少年の様子を窺った。そして、確かに少年の体から悪魔の気配がする事を確信したのだ。

 それは異常な事だった。

 悪魔の気配は通常、悪魔の力を行使している時にしか感じ取れない。昏睡している相手から悪魔の気配がするなど考えられない。

 あるいは、物語に出てくる夢魔のように、眠りながら力を行使する悪魔なのだろうか?

 すぐには目覚めそうにない事を確かめると、他のベッドを調べる事にした。

「これは・・・!?」

 立て続けの予想外の事態に、私の口から思わず驚愕の呻きが漏れた。

 他のベッドに寝ている人間からも、同じように悪魔の気配がしたからだ。

 ベッドに寝ている人間の性別年齢はバラバラだったが、何故か中学生くらいの少年は何人もいた。そして、その全員から程度の差こそあれ、微かに悪魔の気配がするのだ。


 そして、私は見つけた。

 ベッドに眠る日置少年の姿を。


 探していた少年の姿を見つけて安堵すると共に、その少年から悪魔の気配がする事に動揺した。

 私の知る限り、彼が悪魔憑きという可能性は極めて低かった。それにもかかわらず、今の彼からは悪魔の気配がした。

 行方不明になってから、今までの間に何があったのだろうか?

 私は手がかりを求めてこの部屋を調べ始めた。




「悪魔憑きのリスト?」

 私は部屋の一角で一冊のリストを見つけた。

 驚いた事にそこにはこの街に現れた悪魔憑きの名前や能力、経歴が調べ上げられていた。身辺調査や心理分析までされている。

 しかし、私にとって一番衝撃的だったのは、その悪魔憑きの何人かに見覚えがあった事だ。いや、よく記憶を辿れば、ほぼ全ての悪魔憑きに見覚えがあるような気がする。

 そこで私はハッとある事に気付き、慌てて部屋の一角にあったベッドに駆け寄り、その顔を確かめた。

「・・・!」

 間違いない。そこには見覚えのある悪魔憑きが横たわっていた。


 かつて日置を苛んだ悪魔憑き、大須賀勝だ。




「どういうこと?」

 大須賀の悪魔は私に喰われ、前後不覚となった大須賀はハカセに後始末を任せていた筈だ。

 具体的にどうしたのかは関心がなかったのでハカセに確認していなかったが、それが何故ここにいるのか。

 行方不明となっていた日置と共に。


 ハカセが何か関わっている?


 ・・・そんなわけはない。

 ハカセは悪魔憑きの存在を私に教え、これまでも様々なサポートをしてくれた。

 そのハカセがこの事件と関わっている筈がない。

 何か手がかりはないのか。

 胸の中に生じた不安を打ち消そうと、私はもう一度この部屋を調べ始めた。

 最初に手にしたのは先ほどの悪魔憑きのリストだった。

 リストの記載の中に、リストの持ち主の手がかりがないかと、正確に言えばハカセが関わりないという証拠がないかと舐めるように読み込む。

 そこでふと、おかしな記載に気が付いた。

『投薬 試作037番 0.07mg/日 27日間』

『誘導 対象Aに対する執着 31分/日 142日間』

 これはなんだろう。全員ではないが4分の1くらいの悪魔憑きにはこうした記載がある。

 そして、リストの最後の方には別枠のリストがあり、記載も少々ことなっている。

『投薬 試作011番 0.03mg 42回分 中毒症状の確認により中止 投与の状況要確認』

 このもう一つのリストに載っている人物は、どれも何らかの問題が生じて『何か』が中止されているようだ。

 一体、何をやっているの?

 このリストだけでは分からない。

 リストの側にパソコンがあったが、パスワードがかけられていて中身を見る事はできなかった。

 ・・・本当なら、ハカセに任せれば良いのだけど。

 私は下唇を噛みしめて悩んだ。

 そう、ハカセを信じるなら、今から電話をかけて応援を頼めば良いのだ。

 でも、どうしても踏ん切りが付かない。

 心の中に生じた微かな猜疑心がその決断を迷わせていた。

 そして、私がもう一度周囲を調べようとした時だった。




 唐突に、私の胸を熱い衝撃を伴った何かが貫いた。




 背後から聞き慣れた、しかし、聞いた事のないほど冷たい声が聞こえた。


「ふむ。私に任せてくれれば良かったのだがな」




 そうすれば、死ななくても済んだかもしれないのに。


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