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大罪の悪魔と滞在する悪魔  作者: 聖湾
第一部 第四章
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第三十五話 ボクの日常(14)

 終わりの始まり。

 黄昏時は、一日の終わりである夜の始まり。

 すなわち、黄昏時から始まる物語とは、終わりの物語である。

 ・・・面倒くさ。ボクはさっさと寝たい。



 先輩から電話がかかってきた時、ボクの家ではバトルが発生している最中だった。

 ボクVS悪魔。謎のタイトルマッチである。

 バトルの始まったのは、例によって、悪魔がまたボクのスマホを勝手にいじったのが原因だ。どうやら、携帯ゲームのRPGの攻略に詰まって、ボクのスマホで攻略サイトを見ようとしたらしい。

 まあ、それだけならバトルが始まる程の事ではなかったのだが・・・

 その時、悪魔がボクのダウンロードしたゲームアプリの存在に気付いてしまった。

 あの瞬間、間違いなく悪魔の七つの瞳がキラリと輝いていた。

 そして、躊躇うことなくアプリのストアに飛び、勝手にゲームアプリをダウンロードしようとしたのだ。

 それを見てボクは戦慄した。

 流石に有料アプリには手を出そうとはしなかったが、アレを放置してはいけない。ボクはそう直感した。

 絶対にボクのスマホをゲーム機代わりにするようになる!

 躾は最初が肝要だという事は身に染みて知っていたボクは、とっさにスマホを取り上げた。

 それを見た悪魔は・・・

 ボクの目の前に正座して土下座をした。

 いや、そんな事したって貸さないから。

 ボクはそれを無視する。くるりと悪魔の姿が見えないように体の向きを変えたが、悪魔は器用に土下座したまま移動してボクの正面に回り込んできた。

 壁の方を向いたら、悪魔の身体が壁にめり込んで頭と手の先だけ出ているのが気持ち悪かった。


 土下座する悪魔。

 無視するボク。


 土下座する悪魔。

 無視するボク。


 土下座する悪魔。

 無視するボク。


 土下座する悪・・・


 いい加減にせいや!


 ボクが根負けしそうになった時、先輩からの電話がかかってきたのだ。

 ボクは思わずガッツポーズし、土下座していた悪魔は力無く床に崩れ落ちた。




「うむむ。あのままバトってるのと、どっちがマシだっただろう」

「バトってる? 何言ってんだ?」

 ボクが愚痴をこぼしていると、先輩は不思議そうな顔をして首を傾げた。

 だが、どうでもいい事だと思ったのか、すぐに視線を戻して言った。

「気乗りしないのは分かるが、監視の目を緩めるなよ」

「何でボク等が監視する必要があるんです? あの刀の人に任せた方が良いんじゃないでっすか?」

「刀の人って、アヤメさんの事か。日置の命がかかってるかもしれないんだ、俺等だってできる限りの事をするべきだろう。監視だけなら、あの人の足を引っ張る事も無いだろうし」

「・・・あいあいさー」

 ボクは肩を落として返事をすると、言われた通りに視線を戻した。


 夜闇に沈む病院を。


「ねえ。まだ続けるんですか?」

「・・・まだだ。もう少しだけ」

 どれくらいの間、監視していただろうか。電灯に照らされた僅かな空間しか見えない。

 病院に着いた時には八時を過ぎていた。黄昏時を過ぎていたのであの闇色のヘドロも見えず、悪魔憑きが病院内にいるかも確認できなかった。

 監視に飽きた、というか最初から興味の無かったボクとしては、さっさと帰りたかった。先輩に隠れてスマホで遊んでいたので、スマホの電池も無くなりかけていたし。

 しかし、先輩はまだ粘りたいようだった。

 でも・・・

「か、かあちゃん、いや、今は、わ、分かったって・・・ああ、すぐに帰るから・・・」

 先輩の携帯がなった時にはチャンスだと思った。

 スマホを見たら、もう11時を過ぎている。中学生を叱るには遅すぎる。もしかしたら、先輩は隠れて家を出ていたのかもしれない。特に向こうは知らないだろうが、ここは町の中心部からは外れているので明かりも少なく、辺りはかなり暗い。

 ボクはこれで帰れると喜んだのだが、先輩はとんでもない事を言い残して先に帰ってしまった。

「じゃぁ、俺は先に帰るけど、お前はもうちょっと粘ってみてくれ。家から電話があったら、もう帰ってくれて良いからな」

「え? あ、ちょっと・・・」

「じゃぁな!!」

 先輩はボクが帰りたがっている事に気付いていたのだろう。強引に言うだけ言って逃げるように帰ってしまった。

 ・・・家から電話があるまで待ってたら、いつまで経っても帰れないんだけど。

 腕を組んで悩んでいる時だった。

「おりょ? こんな遠くまで?」

 ボクは驚いて病院の方へ振り返った。


 病院から悪魔の気配がした。


 今居るのは駐車場の隅だ。病院までは結構ある。黄昏時ならいざ知らず、この距離で悪魔の気配が感じ取れるとは思わなかった。

「いや、これは二人分・・・かな?」

 悪魔の気配は、微妙に違和感がした。強弱があるというか、印象がころころ変わるというか。

 もしかしたら、二人の悪魔憑きが戦っているのかもしれない。だとしたら、片方はあの刀の子だろう。

「全然気付かなかったなぁ。監視の意味無かったんじゃない?」

 このタイミングからすると、多分、先輩が帰った頃にはもう既に刀の子は内部に侵入していたのだろう。それに気付かなかったのだから、この監視がどれ程ザルだったのかが良く分かる。

 まあ、こんな時間帯に潜入するとは思いもしなかったけど。

 あの刀の人が忍び込んで調べるだろうとは思っていたが、普通は深夜とかだろう。

 ? そういえば、何でもう暗いんだろう。

 ボクはふと奇妙な事に気が付いた。

 外灯を除けば、病院の明かりはほとんど消えている。病院なら、夜勤の人とか当然居るんじゃないだろうか?


 これって罠かな? 罠だよねぇ。


 ボクは頭が痛くなってこめかみを押さえた。

 刀の子に任せておけば良いかと思っていたけれど、もしかしたら不味いかもしれない。

 刀の子に関わりたくないけど、刀の子が罠にはまって返り討ちにあったら、流石に日置君の身が危ないかもしれない。ついでに、知らないところで悪魔の力を受けていた事を考えれば、ボクの身も。

 おいどんは、どうしたもんだべさ。

 ボクは悩んだが、仕方なく病院に向かう事にした。

 ま、最低限、刀の子の状況だけでも確認しておくべきだよね。

 そうしてボクは歩き出す。




 物語の終わる地に。


次が第1部の最終章です。第2部はある予定ですが(予定は未定)、第1部で話は完結します。

元々、第2部が本編で、この話は主人公の一人の過去話のつもりだったのですが、本編のプロットが詰まって、過去話の方ができたので、こちらを第1部にしました。

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