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大罪の悪魔と滞在する悪魔  作者: 聖湾
第一部 第三章
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第二十四話 ボクの日常(10)

 一日の終わりに、ボクは今日という日を思い返す。

 今日、一日の終わりを迎えられない人がいた。追憶に耽ることができるのは、生きている人間の特権だ。

 だからボクは感謝するべきなのだろう。日常の中に生きている事を。




「ただいま」

 ボクが家に帰ると、悪魔がゲームをやっていた。

 そういえば、買ってきたのをすっかり忘れていた。

 って、何でやってんだ? まだ渡してないぞ。

 元々、悪魔にあげるつもりだったとはいえ、それはまた別問題である。ジト目で睨み付けると、悪魔はゲームを止めてお茶の準備を始めた。

 そんなご機嫌取りは通じないぞ。


 ジト目で悪魔を睨み付ける。

 こそこそと悪魔がどこかから茶請けを用意する。


 まだジト目で睨み付ける。

 悪魔が雑巾を用意して必死に机を拭く。


 まだまだジト目で睨み付ける。

 とうとう悪魔が土下座をした。


 フッ、勝った。


 ボクは鞄を適当に床に置いて、お茶と茶請けを貰った。

 その横で悪魔は何事もなかったかのようにゲームを始める。

「・・・」

 コイツ絶対、反省していないだろう。反省だけなら猿でもできる。反省しないなら猿以下だ。

 ・・・悪魔と猿って、どっちが上なんだろう?

 永遠の謎だ。

 そんな事を考えながら悪魔のやっているゲームを覗くと、どうも買ってきたRPGのⅠをやっているようだ。

 ただ・・・

 レベル20!? もう?

 ずっとやってたのか?

 買ってきたのは昨日の夕方なんだけど。

 それとも、ゲーマーはこういうものなんだろうか?

 この様子だとすぐに終わりそうだな。選択肢を間違えたかもしれない。落ちゲーみたいなものの方が良かったのだろうか。格闘ゲームという手もあるか。

 何かないか、たまに中古のゲームを覗いてみようかな。

 そうこうしている内にお茶も済み、夕食の用意をしようと立ち上がった。

 前回は失敗したが、料理のバリエーションを増やさなければ。

「・・・?」

 だが、立ち上がって台所に向かおうとすると、何故か悪魔が服の裾を掴んだ。何事かと振り返ると、何故かふるふると首を横に振っている。

 何が言いたいのかよく分からない。

 悪魔の手を剥がして台所へ向かおうとすると、今度は悪魔が腰にしがみついてきた。

「ちょっと、離してよ」

 フルフルフル。悪魔の首が左右に振れる。

 悪魔を引き剥がそうとするが、悪魔は必死になってしがみついて離れない。

 もしかして、この間のオムレツの失敗を気にしているのだろうか。

「大丈夫、今日はきちんと作り方調べてるから」

 フルフルフル。

「だから大丈夫だって!」

 フルフルフル。

 信じられないのか、しがみついて離れない。

 本当に大丈夫の筈だ。悪魔は安心して良い。毒味はやってもらうけど。

 心配性の悪魔を引き剥がすのに、30分以上かかった。




 何だったんだろうな、アレ。

 ボクは料理をしながら、今日の出来事を思い返して小さく首を捻った。

 白衣を着た変な人の後を追ったボクは、彼が一人の少女を殺すシーンに遭遇した。

 それだけなら、警察に通報するべき事件なのだが、警察に通報しても相手にしては貰えないだろう。

 何故なら、殺された少女は塵になって消えてしまったからだ。

 あの消え方は以前にも見たことがあった。刀の子に斬られた悪魔に憑かれた女の人がそっくりな消え方をした。あれは悪魔に憑かれた人の消え方だ。

 実際、ほんの僅かだがあの少女からは悪魔の気配がしていたし、彼女は悪魔を連れていた。


 昨日、ボクを襲った悪魔を。


 あの悪魔がボクを襲ったのは、あの少女と関係があるのだろう。

 ならば、あの少女は悪い人で、彼女を殺したあの白衣を着た人は善人なのだろうか?

 うぅん。何だかそうは思えない。

 白衣の人は彼女を襲う前にサングラスとマフラーで顔を隠して、誰が見ても変質者のようだった。まあ、見かけで判断してはいけないのだろうが。

 あの少女は白衣の人を見た瞬間、酷く怯えていた。そして、白衣の人は怯える彼女に向かって酷く楽しそうに話しかけていた。

 彼女を殺した後も、ぶつぶつと何かを呟いていた。

 何を呟いているのかは聞こえなかったが、あれは絶対に危ない。

 彼にも悪魔が憑いていたようだし、危ない相手と危ない相手が鉢合わせして、より危ない方が残ったとか、そんなような状況に見えた。

 ぶっちゃけ、あの刀の子よりも危なそう。

 関わりたくないが、放置するのもそれはそれで危なそうだ。

 どうするかな?

 悩みながら無意識にスマホを手に取った。

 あの白衣の人は少女を殺した後、どこからかやってきた車に乗っていってしまった。

 最近では少なくなってきた白のセダンだ。車に詳しければ車種も分かったのかもしれないが、あいにくとそういう趣味はない。

 だが、あの車の持ち主には見当がついていた。

 運転手の姿は見えなかったが、車の中から覚えのある悪魔の気配がしたからだ。

 覚えがあるというと変だが、悪魔の気配というのはみんな微妙に異なる。どう違うと聞かれたら返答に困るが。

 あの気配は、以前学校に来た警察の人から感じた悪魔の気配と同じだった。

 だとすると、運転手は悪魔に憑かれた警察官。

 あの車は覆面パトカーだったのだろうか?

 考えてもよく分からない。

 もし権力を持った悪魔がいるなら、関わると厄介そうだった。できる限り関わらない方が良いだろう。

 そう思うが、何となく、嫌な予感がする。

 ボクはスマホを操作してあるファイルを開き、どうしたものかと悩んだ。

 開いたファイルを目でなぞる。




 メモしたあの車のナンバーを。


料理がどうなったかは、ご想像にお任せします。

ただ、料理中にスマホをいじるのはやめた方が良いです。

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