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大罪の悪魔と滞在する悪魔  作者: 聖湾
第一部 第三章
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第十八話 ボクの日常(8)

 ボクは平和な日常の中で生きている。

 でも、日常とその外側の境界線がどこにあるのかは分からない。

 案外なんでもないところに境界線はあるのかもしれない。

 まあ、悪魔をそれと一緒にするのは無理があるが。




 うぅん。何が良いかな。

 ボクは学校の帰り道に寄った中古ゲーム屋で腕を組んで悩んだ。

 悪魔が家で暇つぶしをするために何かゲーム機でも買ってこようと思ったのだが、何が良いのか分からない。

 白ロムのスマホというのも考えた。ボクのスマホからデザリング(注:テザリング)で通信不要のアプリをダウンロードさせれば良いかとも思ったのだが、スマホのバッテリーは結構高い。家でやるだけなら、ずっと充電してれば良いかもしれないが。それに、本体も出来るだけ安く済ませたい。

 そこで、先に中古のゲーム屋を見ることにしたのだ。

 まず気を引かれたのは据え置き型のゲーム機だ。これならボクも遊ぶ事が出来る。ただ、ボクが家に帰ってもテレビを占領されそうな予感がする。今でもボクの好きな番組にチャンネルを変えると、邪魔はしないが凄く恨みがましい目で見つめてくるのだ。

 そうなると携帯ゲーム機しかないのだが・・・

 新しいのはやっぱり高い。ついでにソフトも高い。これなら白ロムのスマホの方が良さそうなくらいだ。

 となると、やはりこれか。

 手に取ったのは、乾電池で動く中では比較的新しい携帯ゲーム機二種類。流石にカラーの方。これなら一部のプレミアを除けばゲームのカートリッジも安い。カートリッジの電池が不安ではあるが。

 ・・・流石に、アドバンスぐらいでないと可哀想かな。

 でも、悪魔だし。

 一旦店を出て他の店を見てみることにした。最近は意外なところでもゲームの中古を扱っている。レンタルビデオ屋とか、古本屋とか。

 記憶をたどって中古ゲームを扱っている店に向かっている途中、見覚えのある顔を見つけた。向こうもボクに気が付いたのか、足を止めてこちらを見ている。

「おう、久しぶりだな」

「こんにちは、先輩。それに日置君も」

 以前に出会った新聞部の先輩が日置君と一緒に居た。先輩は気軽に挨拶してきたが、日置君の方は目を丸くしていた。

 嫌な予感がする。

 せっかちなのか、先輩は雑談抜きで質問してきた。

「なあ、この辺で不審な人物を見かけなかったか?」

「? 特に思い当たりません」

 ボクは首を捻って答えた。

 何だろう? あの刀の子の事を聞かれると思っていたので、先輩の質問は少々予想外だった。

「この辺りで通り魔事件が起きてるんだ。その事件を追ってるんだが・・・手掛かりが何もないから、こうして足で稼いでいるんだ」

 ボクが余程不審な顔をしていたのだろう。先輩がそう説明を加えてくれた。

 へえ。そんな事件があったんだ。そういえば、今日はオムレツの一件で慌ただしくてニュースを見てなかった。

 どっちにしても、あの刀の子とは関わりなさそうだけど、何で日置君が一緒に居るんだろう。

「日置君もその事件を追っているの?」

「一応は。彼女を探そうにも、手掛かりが何もない。でも、彼女が悪魔と関わりがあることは分かっている。だから悪魔が関わっていそうな事件を片端から調べてみようと思ったんだ」

 ・・・そもそも、悪魔について知りたくてあの人を捜してるんじゃなかたっけ? いや、悪魔なんて見て理解できるものでもないし、彼女から話を聞くのは間違ってないのかな。

 何れにしろ、悪魔が関わっているか分からない事件を一つ一つ追うとは気の長い話だ。

「それなら、学校に聞いてみたら?」

 初めて彼女を見かけた時、近所のお嬢様学校の制服を着ていたのを思い出して言ってみた。

「? 学校? 先生達は彼女の事を知らなかったよ」

 日置君が首を傾げたのを見て、この間はあの学校の制服を着ていなかった事を思い出した。

 そういえば、何で制服着てたんだろう。

 あの後、学校に行ったのか? 刀持って?

 まあ、どうでも良いけど。

「前に彼女が瑞高の制服着て歩いているのを見かけたよ」

「ホントか!?」

 ボクが日置君にそう言うと、先輩が目を見開いて叫んだ。

 ちなみに、瑞高というのは例のお嬢様学校、瑞蘭女学院高等科の略称である。友達からの又聞きだが、全体的にルックスのレベルが高く、あの学校の生徒と付き合うことはステータスだとかなんとか。

 やはり、高校生は彼氏彼女とか、お付き合いとか皆しているんだろうか? 高校生恐るべし!

「日置、行くぞ!!」

「はい!!」

 先輩が勢い良く駆けだし、日置君が慌ててその後を追う。

「あ、そうだ。ありがとな!」

 そのまま行ってしまうかと思ったが、日置君は立ち止まって礼を言った。

 何となく手を振ると、日置君も手を振って去って行った。

「・・・」

 実は今の情報、この前、日置君に話しかけられた時には既に持っていた情報なんだけど・・・ま、良いか、言わなきゃ分かんないだろうし。


 結局、ボクが買ったのは中古屋で見つけた500円の乾電池で動く某有名携帯ゲーム機だった。そして、少々奮発して買ったのは某有名RPGのⅠとⅡがセットになった移植版ソフトと、そのⅢの移植版ソフトだ。特にⅢはカラーの初期にでたらしく、当時はかなりの話題になったとか。

 本体は安かったのに、ソフトがかなり高かった。ついでにニッケル水素電池も高かった。

 うむ。ボクも遊ばないと元が取れないな。

 そんな事を考えながら歩いていると、ふと今居る場所が先程日置君達とあった場所だと気が付いた。

 大通りから一本外れた小道。三人並んで歩けばもうすれ違えないだろう。道の左右には門や庭のない家屋がビッシリと軒を連ねている。

 晩御飯の支度だろうか。オバサン達がよく歩いていた。時折、猛進してくる自転車とヒヤヒヤしながらすれ違う。

 この道の方が少しだけ近道だったのだが、大通りの方が良かっただろうか?

 そんな事を考えていた時だった。

 不意に・・・




 世界が灰色になった。


「・・・!?」

 何が起こったのか分からなかった。

 買い物籠を持ったオバサン達が何事も無かったかのように歩き、ヘルメットを被ったおじいさんが騒がしい音を立てて原付で走る。

 世界はそれまでと全く同じように動きながら、ただ色を失っていた。色の無い白黒の世界。

 灰色の世界の中で人々が生きるその様は、まるで大昔の白黒ビデオのようだった。確かにそこで人が生きているの

に、それが過去の幻影のように感じられた。

 何が起きたのだろう?

 最初に考えたのは、目の病気だった。何かの病気で色の認識が出来なくなったのかと思ったのだ。ボクは自分の想像にぞっとした。

 でも、すぐに違うことに気が付いた。

 自分の目が正常だと分かった訳ではない。むしろ逆だ。


 闇が、蠢いていた。


 道行く人々の体の中に、闇色のヘドロのような塊が見えたのだ。闇はまるで鼓動する心臓のように蠢き、伸縮し、膨張し、そして押しつぶされた。

 最初、その闇は人の体の中だけでなく、視界を埋め尽くすほどに漂っているように見えた。

 だが、すぐにそれが違う事に気付いた。どうやら、この闇の塊は間にある遮蔽物に関わらず視界に移るらしい。

 色を失った世界は、まるで廃墟のようだった。

 灰色の廃墟を、闇が浸食していた。

「・・・あれは・・・」

 そして、ボクは気が付いた。

 遠くに、おそらくはこの通りからさらに一本外れた通りに人の形をした闇が漂っていることを。

 それを見た瞬間、ボクの脳裏をある言葉が過ぎる。

「・・・悪魔?」

 アレは悪魔だ。理屈ではなく理解した。

 そしてボクはソレを視る。

 悪魔からこぼれ落ちた、一滴の闇色の雫を。

 コップから水がこぼれ落ちるように闇色の雫がこぼれる。

 ボクの視線が無意識の内のその闇色の雫を追う。


 落ちる。


 墜ちる。


 堕ちる。


 『       』へと・・・




「どうしたんだ?」

「え?」

 ボクの耳元で不意に誰かの声が響き、ボクはハッと辺りを見回した。

 そこは先程まで居たどこにでもある通りだった。いや、ずっとここに居たのか。

 ただ、世界に色が戻っていた。

「・・・なんでもありません」

 ボクはそう言って頭を下げると歩き始めた。

 あの悪魔の居た方角へ。




 ふむ。実は行く必要ってないんじゃないかな?

 悪魔の居た方角に向かって歩きながら、ボクはふとその事に気が付いた。

 あの灰色の世界で視た悪魔が実在するかどうかは気になるが、今行けば悪魔と鉢合わせする可能性もある。そんな危険を犯して確かめる必要はあるだろうか。

 ボクはいつの間にか足を止め、腕を組んで考え込んでしまった。

 だからだろうか。


 気が付いた時、悪魔はすぐ目の前に居た。


 ボクの悪魔と同じ真っ黒な体。猫背なのでよく分からないが、ガリガリに痩せ細った体は2メートルを超えるのではないだろうか。口も鼻も耳も無い頭部に黄色い光を放つ真ん丸の二つの目が見開かれていた。

 そして、悪魔は無言で手に持っていたソレを翳した。鋭い光を放つメスを。

 医者の商売道具であるソレが悪魔の手にある物だった。

 人を救うという本来の用途に反し、それは容易に人を殺す凶器ともなり得る。

 そう、今まさにそうであるように。

 悪魔はゆっくりとメスを振り上げる。

「・・・」

 そして呆然と悪魔を見上げるボクに向かって、悪魔がメスを振り降ろし・・・


 砕け散った。


 悪魔が大きく飛び退き、砕け散ったメスの破片が地面に落ちる。

 音は一切しなかった。

 日常の雑音の中に紛れてしまった、無音の活劇。

「・・・あ?」

 その時、ようやくボクの脳が正常に働き、ボクは何が起きたのかを理解した。

 そして、ボクの呻きを合図にしたように、悪魔は怯えたように体を震わせる。その巨体にも関わらず、悪魔はまるで狼に怯えるウサギのようだった。

 そのまま悪魔は身を翻して逃げ出し、ボクは呆然とそれを見送った。

 何が起きたのか、何も考える事が出来ない。

「・・・」

 ボクは黙ってソレを視た。

 メスを砕いたソレを・・・




 ボクの肩から生える悪魔の腕を。


作中で出せなかった名前。

ゲームボーイカラー。ワンダースワン。ドラクエ。ゲオ。ブックオフ。

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