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大罪の悪魔と滞在する悪魔  作者: 聖湾
第一部 第二章
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第十話 正義の味方(2)

 私は悪魔という名の悪意と闘う為に全てを捨てた。

 そして私は戦士になった。悪魔を絶つ剣に。

 でも、世界を蝕む悪意は悪魔だけじゃない。




 私が悪魔の気配に気が付いたのは偶然だった。

 あの日、悪魔の関与が疑われていたある少女の行方不明事件を調べていた。

 結局のところ、その事件は悪魔憑きではなくただの変質者の仕業であることが判明し、私は警察に匿名の情報提供をしただけでその件を離れた。

 不可解な事件の全てが悪魔によるものではない。

 そして、悪魔によって引き起こされた事件でないのならば、私の出る幕はない。一般人の領域の出来事は、一般人の手で解決されるべきなのだ。

 調査が空振りに終わった私は、ふとした気まぐれで隠れ家にしている廃ビルに歩いて帰ろう思った。

 現状で私が調査しなければならない事件はなく、急いで戻る必要はなかった。ハカセは悪魔と闘うことは出来ないので、現地の調査は私がしなければならなかったが、こと情報収集ではハカセの足下にも及ばない。手伝おうとしても足手まといにしかならなかった。

 そして、ある中学校のフェンスの脇の歩道を歩いているとき、不意に悪魔の気配を感じたのだ。

 一瞬、フェンスを乗り越えようかとも思ったが、今はまだ明るく、何処に人の目があるか分からない。私は仕方なく通用口に回り込み学校の敷地に潜り込んだ。

 生徒たちに見つからないように木々の陰に隠れながら悪魔の気配を追っていくと、どうやら気配の大本は校舎裏のようだった。

 意を決して、校舎裏に乗り込む。

「え? だ、誰ですか?」

 そこに居たのは、この学校の生徒らしき一人の少年だった。正直ぱっとしない冴えない風貌に、驚きの表情を張り付けている。

 明らかに学外の人間がいることに驚いているのだろう。 私が着ているのは以前通学していたセーラー服だ。この学校は制服は自由なようだが、他校のセーラー服を着ている人間は流石に居ないだろう。それに、そもそも私は本来なら高校に通っている筈の年齢だ。

 中学生とは間違われる筈がない。

 そう、多少私の背が低くても、間違える筈はない。きっとそうだ。いや、絶対だ。

 その少年を警戒しながら辺りの気配を探ってみるが、どうやら悪魔の残り香のようなもので、悪魔の気配そのものではなかった。

 それ自体は予想の範疇だった。

 悪魔憑きだからといって、四六時中悪魔の気配をまき散らしているわけではない。悪魔の力を振るっている時にしかその気配を感じ取ることが出来ない。

 今のように偶然気配を感じ取ったとしても、現場に到着したときにはもう残り香しか残っていないというのはよくある事だ。

 ただ、予想外な事もある。

 それは、何も起きていないことだ。 

 悪魔が力を振るえば、大抵の場合何らかの事件が起きる。軽いものでは器物の破損、重いものでは虐殺だ。

 だが、ここにはそうした事件の痕跡がなかった。おそらく、被害を受けた物なり人が既に移動してしまったのだろう。

 私は目を細めてこの場にいた子供を観察した。

 この子供が何かを知っているかもしれない。或いは、この子供自身が悪魔憑きという可能性もある。

 もっとも、私が気配を感じてからここにたどり着くまでかなりの時間が経っている。悪魔憑きがこの場に残っている可能性は低い。

「お前の名前は?」

「え?」

「お前の名前は何かと聞いている」

 子供の愚鈍な反応に苛立ちながらも言葉を重ねる。

「あ、あんたは何なんだよ!」

 だが、子供は私の言葉に反発して、食って掛かってきた。

 これだから子供はイヤなのだ。

 身の程を弁えない。

「黙れ。お前の名前を聞いている」

 視線に少し殺気を込めて改めて聞く。子供は私の視線を直視すると真っ青になった。

 子供相手に大人げないとは思うものの、一刻も早く悪魔の手がかりを手に入れる必要がある。子供の情操教育にまで気を使っている余裕はない。

「・・お、大須賀 勝です」

 子供が怯えた様子でおずおずと答える。

 大須賀 勝。

 子供の名前を心の中で反芻しながら、こっそりと懐を確かめICレコーダーが動いている事を確かめる。

「何時からここに居た?」

「えっと、ついさっきです」

「ここで何か見たか?」

「・・・いえ、何も」

「本当でしょうね?」

「・・・はい」

 大須賀は頷いたが、そこに微かな躊躇いがあったことに気が付いた。

 無理矢理聞き出そうかとも思ったが、それは最後の手段だ。そこで、少々方向性を変えて尋問してみる。

「何故ここにいたの?」

「何故って・・・」

「理由もなく校舎裏になんてこないでしょう」

「・・・」

「答えなさい」

 俯いてしまった大須賀の襟首を掴んで無理矢理顔を上げさせる。

 大須賀はフルフルと体を振るわせながら答えた。

「その・・・友人が、ここに呼び出されたって聞いて・・・」

「友人が呼び出された?・・・何があったの?」

 私が手を放すと、大須賀は再び顔を俯かせた。

「その、友人がいじめにあってて、そのいじめっ子に呼び出されたらしいから気になって・・・」

「虐め? ここで虐めがあったってこと?」

「多分。俺が着いた時にはもう誰も居なかったけど・・・」

 私はそれを聞いて、顎に手を当てて考え込んだ。

 ここで虐めがあったのならば、おそらく悪魔を使ったのはその当事者の誰かだろう。

「その子達の、被害者と加害者の名前は?」

「ええっと・・・」

 大須賀は彼らの名前を答えた。

「そう。もう良いわ」

「え? あの・・・」

 聞けることは聞いた。そう判断した私は身を翻した。

 後々また聞かなければならないことがあるかもしれないが、一度情報を整理しなければまとまりのない質問しかできないだろう。情報の裏を取り、ハカセと相談する必要があった。

 後ろで大須賀が何か言おうとしているが、そんなことは気に留めない。

 まずは加害者と被害者の現状の確認だ。


 結論から言えば、加害者も被害者も無事だった。

 あれからハカセに連絡を取り、虐めの当事者について調べてもらった。大須賀の身元も調べてもらったが、送られてきた顔写真は確かにあの子供で、偽名など使ってはいないようだった。

 校舎内に入ることは出来ないので、死角となる物置の陰から校庭の様子を窺っていたが、当事者は全員無事に体育の授業に出ていた。

 こうなると、怪しいのは加害者の方だろう。

 校舎裏で悪魔が力を振るった気配がある。被害者が悪魔憑きであるならば、加害者達は体育の授業に出ることなど出来ないだろう。今頃は良くて保健室でうなされている筈だ。

 となると、怪しいのは加害者側の方だろう。

 悪魔の力を手に入れた悪魔憑きが、その力に酔って他者を迫害するのはよくある事だ。

 だが、加害者は一人ではない。誰が悪魔憑きかはまだ不明だ。虐めの首謀者が一番怪しいのは確かなのだが、確証はない。

 やはり、彼らを監視し、悪魔の力を振るった現場を押さえるべきだろう。おそらく、次の虐めの現場で悪魔が現れる可能性が高い。

 そんな事を考えている時だった。

 不意に視線を感じて振り返ると、ここの生徒らしき子供が不審そうな顔でこちらを見つめていた。

 私が睨み付けると、慌てて顔を逸らして逃げていく。

「ちっ」

 私は舌打ちした。

 あの子供が教師を連れてくるかもしれない。長居は無用だった。

 私は急いでその場を離れた。


 私が再び悪魔の気配を感じたのはその数日後のことだった。

 どういう手段を使ったのかは知らないが、ハカセは校舎の隅の宿直室の鍵を手に入れてきた。何でも空調も水周りもない不便な部屋で、今では新しい宿直室ができたため使われていないらしい。

 だが、前回の現場は目と鼻の先にあるので、監視するには都合が良かった。

 そして、ある日の昼休み、再び悪魔の気配を感じたのだ。

 私が校舎裏に駆けつけると、数人の少年達が座り込む小柄な少年を囲んでいた。

 彼らはいきなり現れた私に驚いた様子だったが、リーダーらしき少年が真っ先に気を取り直し、私に睨み付けてきた。

「何だ、ネェチャン。何の用だ?」

 リーダーの少年が私を威圧しようとガンを付けてくる。

 彼らの中では比較的背の高いが、正直、睨み付けてきても威圧感は感じない。まさに背伸びをした子供だった。

 私はその少年を無視して、彼らを一人一人観察する。

 悪魔そのものの気配は消えていたが、その残り香はまだ消えていない。

 例え今は悪魔の力を使っていなくても、悪魔憑き本人にはまだ残り香がある筈だった。

 そう、その筈だ。

「おい、ネェチャン、無視してんじゃねぇぞ! 剥いてやろうか!」

 吠える少年など全く眼中にない。

 私は驚愕に目を見開いていた。

「そんな馬鹿な」

 私は呆然と呟く。




「悪魔憑きが居ない?」


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