第一話 ボクの日常(1)
三ヶ月ほど前から、ボクの家には悪魔がいる。
ボクの家といっても、親のお金で借りている小さなアパートの一室だけれど。
ある日、目を覚ますと、目の前に化け物の顔があった。
真っ黒な鼻も口も無い顔に七つの目があった。全身真っ黒な体はボクとそれほど身長は違わない。
だけど、背中から生えた真っ黒な翼のせいで、ボクよりずっと大きく見えた。一つ一つの翼は小さいのだけれど、36枚もある。そして、その翼にも目がついていた。
どう見たって化け物だ。こんなものが目の前に現れたら、誰だって泣き喚いて逃げ出すだろう。
でも、ボクは全く恐怖を感じなかった。そして、何故か一目見て確信した。
これは悪魔だと。
悪魔なんて見たことはないし、そんなものが存在するなんて信じてもいない。
でも、ボクには分かったんだ。
どうしよう。
何の危機感もなく、ボクはぼんやりと考えた。
顔を逸らして時計を見ると、もう朝ご飯の準備をしなければならない時間だ。
朝ご飯といってもトースターでパンを焼いて、牛乳で流し込むだけなのだけれど。
一人暮らしを始めた頃は、パックで紅茶を入れたりしていたけど、今ではお湯を沸かすのも面倒臭くなってやっていない。そんな時間があるなら、その分だけ寝ていたい。
と、そこでボクは気が付いた。
電気ケトルが音を立ててお湯を沸かしている。
何故だろう?
ボクが首を捻っていると、悪魔がボクの傍を離れて電気ケトルの元へ向かった。
電気ケトルはそこそこ高いから、壊されると困るんだけど。
ボクがそんなことを考えていると、悪魔は勝手に戸棚を開けて紅茶のパックと急須を取り出し、急須にパックとお湯を入れて紅茶を煎れ始めた。
とりあえず、壊す気は無いようだ。
ボクは安心すると服を着替えた。
着替え終わって振り返ると、悪魔が焼いたパンと紅茶を机の上に用意していた。
「いただきます」
ボクは手を合わせると、ありがたく朝食を食べた。
朝食を食べ終わると、悪魔は食器を流しに持っていき洗い始める。
ボクは鞄の中を見て忘れ物が無いことを確認すると、時計を確認した。
いつも通りの登校時間だった。
「いってきます」
ボクはそう言って家を出た。
悪魔は手を振ってボクを見送っていた。
そして、駅のホームで電車を待っていたボクは、今朝の出来事を思い出し、思わず叫んでいた。
「何でボクの家に悪魔がいるの!?」