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第8話  疾走の獣




 グラハムがランドラゴンの監視をしている頃、ナイトメアは月子の訓練に付き合っている。

 今日は、学院の屋上でナイトメアと模擬戦を行っている。

 何故、目立つ学院の屋上で模擬戦としていうのかと言うと単にナイトメアが高いところが好きだからだ。


因幡いなば!」


 月子の掛け声と共に因幡は爪に炎を纏わせてナイトメアに襲いかかるが、ナイトメアはひらりとかわして、飛び上がる。

 因幡はナイトメアに爪に纏っている炎を投げつけるが、ナイトメアは裏拳で炎を弾くと屋上の手すりに着地する。


「まぁ、こんなものか」


 ナイトメアは手すりから降りると月子は膝をついて肩から息をしている。

 月子の訓練は手始め手に召還獣の召還している持続時間を延ばす訓練から始めている。

 すでに名前を呼ぶだけで召還する事は出来ている為、次はその召還時間を延ばす事にした。

 現在では平均して10分程度が限界だが、実戦を行う為には最低でも1時間は出せなければ戦いにならない。


「15分。少しは延びたな」

「ハァハァ……ノワールちゃんはどのくらい出せるの?」


 月子は水分を補給しながら、ふと気になった事をナイトメアに尋ねる。


「私か? 私は何日でも行けるぞ」

「何日って……」


 月子は召還者になって召還時間を延ばす事がいかに大変か理解出来るようになった為、ナイトメアが何日も出していられると言う事がいかに凄い事なのか実感出来る。


「まぁ、私は月子にそこまでレベルになる事は全く期待していない。月子は最低限、自分を守れるだけの力を身につければ良い」


 月子が強くなるかどうかは、ナイトメアにはどうでも良い事だった。

 月子が人為的に召還獣を暴走させられたのならば、最低限は自分の身は自分で守れる程度の力を付ければ良く、戦闘はナイトメア一人でカタを付ける気でいる。


「最低限かぁ……」


 最低限とナイトメアは言うが敵が何者でどれほどの力を持っているか分からない以上、何処までが最低限なのか分からない。


「ま、全てを私に委ねれば万事解決だ」


 ナイトメアは自信満々にそう言い、屋上から学院のグラウンドを眺める。


「アレは……颯か?」


 ナイトメアはグランドを走っている人影を見てそう言う。

 すでに日も傾き、グラウンドには颯以外は誰も走ってはいない。

 月子もグラウンド見るが人影を見つける事が出来るが距離がある為、誰なのかまでは判別は出来ない。


「良く分かるね」

「まぁな」


 月子は召還者となり、ナイトメアの本性を知ってから、ナイトメアの無駄なハイスペックぶりに驚くばかりだ。

 

「さて、今日は終わりにするか」

「そうね。ノワールちゃん。明日は私は生徒会の仕事があるから訓練は出来そうにないわ」

「それなら丁度良い。明日は私も用事があるのでな」


 その日はそれで二人は帰宅する。












 翌日の放課後、月子は生徒会の仕事でナイトメアは以前より誘われていた陸上部の練習に参加していた。

 と言っても正式に陸上部に入部した訳ではなく、今日一日の体験入部だ。

 ナイトメアも暇つぶしで参加した。


「それじゃ、レイヴァースさんは佳澄と50を一本走って貰える?」

「分かりました」


 陸上部の部長に言われてナイトメアと颯は50Mのレーンに立つ。

 そして、二人は位置につくと、審判の生徒が笛を吹きスタートする。

 颯は陸上部のエースだけあり、同年代の女子では早いが、それ以上にナイトメアの方が早かった。

 二人の50M走は周囲の予測を裏切りナイトメアの圧勝で終わった。


「早いな……」

「颯さんこそ」


 ナイトメアはそう言うが、実際ナイトメアは全力を出している訳ではない。

 手加減したつもりだったが、それでも颯よりもだいぶ早かった。


「もう一回頼める?」

「ええ……何度でも構いませんわ」


 颯もナイトメアに負けたままではいられないらしく、何度も挑戦するが、ナイトメアは最後まで息を乱す事も汗一つ掻かずにその日の部活を終えた。








 更に翌日は一昨日同様に屋上にて月子の訓練を行った。

 その日も日が落ちるまで訓練を行ったが、日が落ちると因幡の炎は必要以上に目立ってしまう為、訓練を中止し下校しようと校舎から出て来ると、グラウンドでは颯が走っている姿が見える。

 すでに部活は終わっており、自主練習だろう。


「今日もやっているのか」

「昨日、ノワールちゃんに一度も勝てない事が悔しかったのよ」


 颯は今日一日、元気がなかった。

 その理由を月子は昨日、ナイトメアに一度も勝てなかった事にあると考えている。

 陸上部のエースとして颯は非常に負けず嫌いなところもあり一度もナイトメアに勝てない事が悔しかったのだろう。


「そう言うものか?」

「ノワールちゃんも負けず嫌いみたいだし、負けると悔しいでしょ?」

「負けた事など無いから、負けた時の気持ちなど知らん」


 ナイトメアは本気で分からない表情をする。

 ナイトメアにとっては常勝が当たり前で敗北した事など一度もないらしい。

 月子も本気で分からない表情をしているナイトメアを見て妙に納得する。


「アレ? 月子にノワール。珍しいな二人がこんな時間に下校するなんて」


 二人が話していると、颯が二人の存在に気がついて話かけて来る。


「ええ。月子さんの生徒会の仕事を少しお手伝いをさせて貰いましたの」


 ナイトメアは瞬時にノワールのキャラになる。

 すでにナイトメアの本性を知る、月子は未だにこのギャップには慣れない。


「へぇ。そうなんだ。ノワールは何かと万能だからな」

「そんな事はありませんわ」

「あるよ。昨日も私は一度も勝てなかったしさ。何か秘訣とかあるのか?」

「特別な事は何もしてませんわ」


 ナイトメアがそう言うと颯の顔が曇る。


「へぇ……何もしてないんだ」

「ええ……私なんて普通ですよ」


 ナイトメアは笑顔でそう言う。

 その瞬間、月子の視界は大きく揺れる。

 すぐには何が起きたのか分からなかったが、視界が安定すると自分はナイトメアに抱きかかえられて、ナイトメアが飛び上がっているのだと気がつく。

 ナイトメアはグラウンドに着地する。


「全く……」


 ナイトメアはぼやきながらも、月子を下す。


「何が起きたの?」

「私が聞きたい。どう言う事だ? 颯」


 ナイトメアがそう言うと月子は颯の方を見る。

 そこには颯がゆっくりと二人の方を見る。

 その颯の目に光は無く、颯の両足が帯電した馬の蹄の様な形になっている。

 ナイトメアが月子を抱きかかえて飛んだのは両足が変わった颯が高速の蹴りを放ったからだ。


「どう言う事……まさか!」

「そのまさかだろうな」


 月子にも何となく、今の颯の状態が理解出来た。

 数日前にも自分に起きた現象と同じ召還獣の暴走なのだろう。

 しかし、颯の両足の変化以外、何も起きた様子はない。


「武装型か?」


 ナイトメアは颯の状態からそう察する。

 武装型の召還獣が暴走した場合、その武器を持っている人間の意識と肉体を乗っ取る。

 見たところ、颯の両足の馬の蹄が颯の召還獣なのだろう。


「月子。お前はすぐにシロウサを出せる準備をしておけ」


 ナイトメアは肩を回しながら指示を出す。

 すると、月子には颯が消えたように見えて、一瞬でナイトメアとの距離を詰めてナイトメアに蹴りを喰らわせていた。

 だが、ナイトメアには完全に見切っているらしく、颯の蹴りを受け止めている。


「雷属性らしく早いじゃないか」

 

 颯はナイトメアに受け止められている右足を軸にして、ナイトメアに左足で飛び蹴りを繰り出すが、ナイトメアは腕でガードする。


「残念だが、当たらんよ」


 まだ余裕の表情のナイトメアは受け止めている右足を話して、思いっきり颯の顔面を殴り飛ばす。

 足を離された事で颯は吹き飛ばされてグラウンドの端まで飛んでいく。


「颯!」

「大丈夫だ。顔の形が変形しない程度に手加減はした」


 ナイトメアがそう言うが、全く安心出来ない。

 だが、吹き飛ばされた時に起きた砂煙の中に立ちあがる影が見える。

 恐らくは颯だろう。


「ほう……立ちあがるか。仕方がない」


 ナイトメアはデスサイズを出す。

 今までは颯を殺さないようにデスサイズを使わずに素手で戦っていたが、ナイトメアは少々めんどくさくなった為、デスサイズを召還する。

 颯はスタートの構えをすると、一気にナイトメアとの距離を詰めるが、ナイトメアも少し前に出るとデスサイズの柄で颯の腹を殴り付けてそのまま地面に叩きつける。


「大丈夫だ。背骨は折れない程度に手加減はした」


 月子に何か言われる前にナイトメアはそう言う。

 明らかに大丈夫ではない程に叩きつけられたが、颯はびくびくと動いている為、少なくとも死んではいないだろう。

 びくびくと動いていた颯の動きが止まると颯から黒い影が飛び出す。

 

「コイツは……」


 その現象にナイトメアは少なからず驚いている。

 黒い影は形が変わりやがて二本の角が生えた馬の様な生物に変わる。

 二本の角は帯電し、その姿は伝説上の生き物のバイコーンに良く似ている。


「颯!」


 月子が颯に駆け寄り、ナイトメアが二人とバイコーンの間に立つ。


「颯! 大丈夫!」


 月子が颯に呼び掛けると颯はうっすらと目を開ける。


「月子……それにノワール? 私……どうして……」


 今までの記憶が全くないのか、颯は状況が分かっていないようだ。


「説明は後だ」


 ナイトメアはデスサイズを構える。

 バイコーンは角をナイトメアの方に向けてすぐにでも突っ込んできそうな気配を見せている。

 颯はいつもと雰囲気の違うナイトメアに戸惑っている。

 バイコーンは雷を帯びながらナイトメアに突撃する。

 その速度は早く、月子と颯には見えていないが、ナイトメアは余裕で見切っており、デスサイズの一閃でバイコーンを両断する。


「終わりだ」


 余りにもあっさりとした結末にナイトメアの強さを知る月子も驚いている。


「終わったのか?」

「見ての通りだ」


 バイコーンを片づけたナイトメアはデスサイズを肩に担いで二人のところに戻って来る。


「一体何がどうなって……」


 未だに状況の飲み込めない颯にナイトメアは月子にした時と同じ説明を行う。


「そうか……ごめん。ノワール」

「気にするな。あの程度の召還獣などどうと言う事は無い」

「そっか……凄いんだな。ノワールは……」


 颯はバイコーンを一撃で仕留めたナイトメアの事を素直に凄いと思った。


「当然だ。そんな分かり切った事はどうでも良い。月子ならず、颯も召還者として目覚めたんだ。私に協力して貰うぞ」


 月子の時とは状況は違うが同じように暴走が起きている為、颯も手の届くところに置いておいた方が良い。

 その為、ナイトメアは颯に手を差し出す。


「そうだな……ノワールには迷惑もかけた事だし、私の出来る事なら協力するよ」


 颯も状況を理解し、自分と月子の召還獣の暴走の謎を解く為に協力をする事を決めた。

 颯はナイトメアの手を取り、ナイトメアは颯の手を引いて起こす。

 こうして、颯も召還者として目覚め、新たな仲間となった。





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