第7話 ランドラゴン
月子の召還獣の暴走事件の翌日、月子は昨日の暴走時の事を殆ど覚えていなかったのか、その事をナイトメアに何も聞く事なく課外授業は終わる。
課外授業の翌日は休みとなっている為、ナイトメアは昼過ぎまで寝ていた。
そんな中、拠点のマンションに月子は訪れていた。
マンションはセキュリティーの為、入口で部屋番号を入力して、ナイトメアの拠点の部屋を呼び出す。
呼び出された事で、ナイトメアは渋々ベットから出て来る。
早朝からグラハムは仕事で出かけており、今はナイトメアしかいない。
監視カメラで呼び出した相手が分かる為、相手が月子だと知るとナイトメアはいつものキャラで答え、マンションの自動ドアを開ける。
月子がマンションに入り、部屋に来るまでにナイトメアは着替えなくてはいけなかった。
基本的にナイトメアは普段の生活がだらしない為、寝る時には下着してつけていない。
昨日は帰ってすぐにベットに入った為、髪は黒いままである為、ノワールとして外に出る時用に渡された服に着替え、寝癖でボサボサな髪を整える。
後は、リビングに月子に見られると不味い物をすぐさま、寝室に隠すと月子を迎える準備が整う。
月子がマンションに入り数分が経つと部屋の呼び鈴がなる。
ナイトメアはノワールのキャラで月子を迎えた。
「行き成り訪ねてごめんね」
「気にしないでください」
月子をリビングに案内して、月子をソファーに座らせるとナイトメアはその対面に座る。
「突然で悪いけど。聞きたい事があるの。一昨日の夜の事なんだけど……」
「事実だ」
ナイトメアは月子が話し追える前に即答する。
月子が一人で来たと言う事は真実や颯には言えない事だ。
月子の召還獣の暴走の翌朝は月子はその事をナイトメアに聞く事は無かったが、明らかにナイトメアの事を意識していた。
出来ごとは月子自身、殆ど意識もなくぼんやりとして覚えておらず、内容も余りにも現実身がなったから、夢だと思っていたが、どうしても気になってしまい、ナイトメアの元を訪れて来た。
ナイトメアもその事はおおよそ予測がついていた為、素で答える。
「あの夜、お前は召還獣を召還して私を襲い。私が返り討ちにした。それがあの夜に起きた現実だ」
「ノワールさん……貴女は一体……」
月子は急にナイトメアの態度が変わり困惑しているが、ナイトメアは気にした様子は無い。
「さぁな。知らない方が良いと思うぞ。それでお前が聞きたかったのはそれだけか?」
「どうしてあんな事になったのかが知りたいの」
「知るか。私も聞きたいな。どうしてお前が私を襲ったのかをな」
ナイトメアに答えを聞きに来て逆に質問で返されて月子は黙る。
「全く……少し確かめたい事がある。もう一度、あの召還獣を呼んでみろ」
「呼ぶってあの夜に私の召還獣はノワールさんに倒されているわ」
月子にそう言われてナイトメアは呆気にとられるが、グラハムに事前に日本は召還獣の研究に置いて後進国である事を思い出した。
ナイトメアにとっては常識的な事でも月子にとってはそうでないと言う事だ。
「良いか。召還獣ってのは大陸の方でも学者連中の間で意見が分かれているが、一般的な見解では召還獣は召還者の内に眠る力や、本質、願い、思想などを具現化した物と言うのが一般的だ。その為、同じ召還獣はこの世に二体と存在しない」
召還獣の中で似たような形状や似たような能力の召還獣は過去に何度も確認する事が出来たが、全く同一の召還獣は一度も確認出来てはいない。
「お前の場合はウサギだったな? ウサギは縄張り意識が高い動物だ。大方、今まで学園で築いた自分の立ち位置……つまりは縄張りに私が入り込んだ事を無意識の内に拒絶したかったのだろう。まぁ、恥じる事は無い。私に嫉妬することは誰もが思う事だ。お前だけじゃないさ」
「私がノワールさんの事を……」
確かに月子はナイトメアが転校して来るまでは成績優秀で運動もある程度が出来て、その他の事も優秀であった。
だが、ナイトメアが転校してからは、ナイトメアがその上を地で行く優秀さに心のどこかで嫉妬していたのかも知れないと言われると否定出来ない。
それと同時に友達だと思っていたナイトメアの事を心の底では殺したいと思ってしまった自分に嫌悪を隠せない。
「気にするな。あの程度の召還獣じゃ千年経っても私に傷一つつける事は出来んよ」
ナイトメアがそう言うが気休めにもならない。
「今はそんな事はどうでも良い。召還獣は生物を模しているタイプでも生物ではない。生きているように見えるだけで、実際は生きているだけでも自我を持って言う訳でもない。だから、召還獣を殺したように見えても殺した訳じゃない。なんせ、生きている訳じゃないんだ殺すと言う表現はおかしいからな。そんで話しは最初に戻るが、確かにあの夜私はお前の召還獣のクロウサをぶちのめした。だが、召還者のお前の命がある限りクロウサが消滅する事はまずあり得ない。召還獣の能力によって再び出せる時間には差があるが、あの程度の召還獣なら丸一日が経っているんだ。問題なく出せるだろう」
ナイトメアの説明に月子は余り付いて行けない。
だが、確実に理解出来た事で自分は召還獣を召還する事が可能と言う事だ。
「私が召還獣を出せる事は分かったけど、どうやって出すの?」
「出るように念じれば良い。このようにな」
ナイトメアがそう言うといつの間にか、ナイトメアの手にはデスサイズが握られている。
「いつの間に……」
「私くらいの実力者になるとこの程度は寝ぼけていても出来る。初めは召還獣をイメージしながら、名前を呼べばいい。慣れれば名前だけで呼び出せるし、私くらいならそれを省略する事も可能だ」
月子は出した瞬間すら確認出来てはいなかった。
大抵の召還者は召還獣の名を呼ぶ事で召還する事は可能だが、ナイトメアはその過程すら省いている。
ある程度、訓練を積んだ召還者ならそれを行える事がとんでもない事だと分かるが、月子はそこまで理解出来てはいない。
「目を閉じて頭の中に召還獣の事を思い浮かべろ。そうすれば自然と召還獣の名前が浮かんで来る。その名を呼べ」
月子はナイトメアに従って目を閉じてあの夜の召還獣の事を思い浮かべる。
「恐れるな。暴走しても私なら余裕で止める事が出来る」
「うん」
そして、月子は召還獣の事を思い受けべていると召還獣の名前が頭の中に思い浮かべる
「……因幡」
月子が呟くと月子の後に月子の召還獣『因幡』が呼びだされる。
その姿は暴走した時とは違い、体毛の色が黒ではなく白くなっており、大きさも1メートル程度しかない。
「はやりか……」
それを見たナイトメアはある事を確信する。
「どう言う事なの?」
「お前の召還獣の暴走は人為的である可能性があると言う事だ」
「人為的って……」
つまりは誰かが意図的に月子の召還獣を暴走させたと言う事だ。
通常は召還獣が一度暴走するとその時に倒されたとしてももう一度召還すると暴走状態となっている。
それは暴走自体が召還獣の成長に伴う進化が原因で一度進化した召還獣は元に戻る事は無い。
だが、月子の召還獣は暴走状態の時よりも明らかに退化している。
その為、元々月子の召還獣は進化する程の力は無く、人為的に進化させられた為に起きた事である可能性が非常に高い事になる。
「何者かがお前の召還獣を暴走させた。理由は知らんがな」
すぐに思いつく事で月子の召還獣を暴走させてナイトメアを狙うと言う事だが、暴走させたとは言え、ナイトメアに並みの召還獣では意味がないと言う事に気がつかない奴が、召還獣を暴走させる技術を持っているとは考え難い。
ナイトメアもグラハム経由で召還獣の情報は持っている方だが、意図的に召還獣を暴走させる手段など聞いた事もない。
月子がナイトメアの友人であった事も敵であれば誰でも躊躇い無く殺す事の出来るナイトメアには意味がない事は少し調べれば分かる事だ。
「だが、私はそいつの事を付き止めねばならん。理由はどうあれ、私に刃を向けたのだそれ相応の落とし前は付けさせる。そう言う訳だ。月子よ。私を手伝え」
「私が?」
「そうだ。今のところ、そいつに繋がる手掛かりはお前だけだからな」
月子を選んだ理由は分からないが、今は月子しか手掛かりを言える物はない。
それに、自分の手足となって動く駒は必要だ。
「私で良いの?」
「無論だ。お前でなければ駄目だ」
月子は少し考えこむ。
ナイトメアに対しては罪の意識はあるが、一度暴走させている以上またあのような事が起こるかも知れない。
召還獣の知識ではナイトメアには全く及ばない上に戦闘能力も経験もない為、足手まといになるかも知れない。
それらが、月子を躊躇わせる。
「……分かったわ」
だが、ナイトメアを殺そうとした償いをする為に月子はナイトメアに協力する事を決断する。
ナイトメアが月子とマンションで話している頃、グラハムは町でいろいろと情報収集をしていたが、静乃から連絡を受けて待ち合わせてをしていた。
グラハムとしても静乃と接点を多く持つ事は歓迎すべきことである為、現在は情報収集を切り上げて静乃を待っている。
「お待たせしました」
待ち合わせの場所で待つ事数分、静乃は大型のバイクでやって来た。
このバイクは超常現象対策局からの支給品だ。
静乃は幾ら、召還獣の能力で身体能力が向上していようとも、移動時に徒歩だと無駄に体力を使う為、対策局から移動用の最新式のバイクが支給され、それを普段から使う事が多い。
デパートでのナイトメアとの一戦で手加減されたとは言え、腹の穴を開けられると言う重傷を負った静乃だが、医者も驚く回復速度で数日で病院を退院し、すでに大型のバイクを乗り回す程に回復しているらしい。
「いえ。私も先ほど来たばかりですよ。それで急ぎの用事と聞きましたが?」
「ええ……まずはこれを見て下さい」
静乃は本当に急いでいるらしく、バイクに乗ったままで一枚の写真をグラハムに渡す。
その写真には一匹の魔獣が映されている。
黄色がかった、肌に強靭な爪と牙を持ち、二足で立ち腕は小さいがたくましい尾を持っている。
「これは……ランドラゴンですね」
「ラン……ドラゴン? コイツはドラゴンなんですか?」
グラハムは写真の魔獣に見覚えがあり、その名を口にすると、静乃は驚く。
ランドラゴン、それが写真に映されている魔獣の呼称らしい。
「ええ。ドラゴンです。と言っても大陸の学者が外見からドラゴンを呼称しただけですので、本当に物語に出て来るドラゴンと言う訳ではないですよ」
「そうですか……」
取り合えず、伝説や物語に出て来る空想上の生物のドラゴンと言う訳ではない為、静乃は一安心するが、今はそれどころではなかった。
「レイヴァースさん、このランドラゴンの対処法はありますか?」
「対処法ですか?」
グラハムは静乃にそう言われて首を傾げる。
グラハムの知る限りランドラゴンは対処をする必要の無い魔獣だ。
「どう言う事ですか? ランドラゴンは頭も良く非情に大人しい部類の魔獣です。放っておいても人間に害を加える事はないと思いますよ」
ランドラゴンは魔獣の中でも非常に大人しい魔獣で頭も良い為、人間に懐く事も珍しくない。
その上、丈夫な肉体を持つ為、怪我や病気にも強く都市同士を移動する時にランドラゴンに乗って移動することは珍しくない。
グラハムの実家でも何匹かのランドラゴンを飼っている。
「しかし、一昨日にここから少し離れた山に入った猟師がランドラゴンに襲われています。一人はランドラゴンに襲われて死亡し、もう一人は命からがら帝都に戻って来ました」
「猟師ですか……」
ランドラゴンが人を襲う可能性は絶対にゼロと言う訳ではないが、グラハムの中で幾つか引っかかる事がある。
「それが何か?」
「いえ、対処法と言ってもいくつもありますからね。この場では何とも言えませんね。よろしければ、私をその現場まで連れて行っては貰えませんかね?」
その引っかかる事を確かめたく思い、グラハムはそう言いだす。
魔獣の近くと言う危険な場所である為、当然静乃は渋る。
「私としてもこの前の時ような事は御免なんですよ」
この前の時と言うのはデパートでナイトメアと静乃が戦った時の事である事はすぐに静乃も分かった。
あの時は静乃は自身の実力不足であったと認識しているが、グラハムは自分の情報不足のせいだと思っていると静乃は思っている。
その為、今回現場に行くと言うのはグラハムの情報屋としての矜持なのだと静乃は解釈する。
「……分かりました」
本当は一般人であるグラハムを危険な場所に連れて行く事は進まないが、魔獣の脅威を野放しにはできない為了承する。
帝都から数キロ離れたところにランドラゴンのいる山はそびえている。
帝都の周囲に今まで魔獣の目撃例の無かった事から、この辺りまで足を延ばす猟師は少なくない。
そこに超常現象対策局第3班はランドラゴンの監視を続けていた。
魔獣に遭遇した事例の少なさから、慎重に対応せざる負えない為だ。
「動きがないな……」
「そうだね」
ランドラゴンから少し離れたところで龍之介と宮乃が双眼鏡を覗き、ランドラゴンの動きを監視している。
ランドラゴンは山の中の洞窟近くに陣取っており一昨日、3班が現場に到着した時から微動だにしていない。
監視場所は京子の召還獣の志那都比古の風で覆われている為、宮乃達の気配は匂いはランドラゴンには届いていない。
「動きは?」
「ないですよ。水を飲みに行ったりメシを喰いに行く素振りすらしないですよ」
そろそろ、監視の交代時間である為、京子が来るが状況は二人と交代した時と全く変わっていない。
「班長。例の方です」
そこに静乃がグラハムを連れて帰って来た。
静乃は事前に京子にランドラゴンに付いて情報を持っている人を連れて行くと報告している。
「彼が?」
「どうも情報屋のグラハム・レイヴァースです」
グラハムはにこやかに京子に名刺を渡す。
「それでは早速」
グラハムはついて早々、龍之介から双眼鏡を受け取ってランドラゴンを観察する。
「成程……そう言う事か」
少し観察すると、グラハムは呟く。
写真では分からなかったが、実際に現場でランドラゴンを観察すると、話を聞いた時の引っかかりが取れる。
「何か分かったんですか?」
「ええ……あのランドラゴンに対処は不要です。何もしなければ終わります」
「根拠は?」
流石に根拠も無しに何もする必要の無いと言われても京子を始めとして誰も納得がいかないのは当然だ。
「簡単な事ですよ。あのランドラゴンの後の洞窟の入り口付近を見て下さい」
グラハムに言われて一同は双眼鏡で入り口付近を見る。
「何かあるな……」
「あれはランドラゴンの卵です」
入口付近にはランドラゴンの物と思われる卵が転がっている。
「あのランドラゴンは自分の卵を守っているんですよ。だから、猟師の一人は帝都に逃げかえる事が出来たんですよ」
グラハムの引っかかっていた事は、猟師が帝都に逃げ帰る事が出来たと言う事だ。
ランドラゴンは生まれたばかりで無い限りは幼体の時でも人間以上の速度で走る事が出来て、その速度は数時間維持する事が出来る。
その為、ランドラゴンが殺す気で人を追いかけた場合、逃げ切るのはまず不可能だ。
だが、ランドラゴンは卵を守ると言う理由があったのならば、卵から離れ過ぎる訳にはいかない為、ある程度のところで追う事を止めるのも理解出来る。
「ランドラゴンは一生で一度しか、産卵を行わないと言う事が研究で明らかになっています。そして、その産卵する次期と言うのが、自分の死期を悟った時と言う事も判明しています」
比較的人間に懐くランドラゴンの生態については研究が進んでおり、すでにランドラゴンは一生で産卵をするのは自身の死期を悟った時とされ、理由は自分の生きた証を残すなどと様々な仮説が立てられているが、死期を悟った時と言うのはまず間違いはないとされている。
そして、ここにいるランドラゴンは産卵をしている頃から、自身の死期を悟ったと言う事になる。
つまりはその内、死ぬと言う事だ。
「つまり、あのランドラゴンはそう遠くなく死にます」
「そうか……だとしても、このまま撤収と言う訳にはいかないか……」
「ですね。少なくとも、ランドラゴンの死亡は確認しないといけませんね」
京子はそう言い、静乃も賛成する。
このまま監視を続けておかなければ、ランドラゴンの事を知らずに更なる犠牲者が出るかも知れない。
「助けてあげる事は出来ないんですよね?」
「余り、賛成は出来ないですね。加賀美さんには話ましたけど、ランドラゴンは頭が良くて大人しい魔獣です。その魔獣が卵を守る為とは言え、人を殺しています。理由は知りませんがあのランドラゴンはそれほど、人を憎んでいます。そのランドラゴンを助けても再び人を襲うようになるだけです」
宮乃が悲しそうにランドラゴンを助ける術をグラハムに聞くもグラハムはそう言う。
(だが、妙だ……ランドラゴンがこんなところに単体で生息しているとは考え難い。誰かが乗っていた物だとしても、人を殺すまでに人を憎んでいる理由が分からないな)
この辺りに魔獣がいない事は確認済みだ。
ここ数年、魔獣の目撃情報がない事を考えると、今まで見つからないところにいたのか最近、この辺りに来たのかだ。
見つからないところにいたとなると、何故今になって猟師に見つかったのかが疑問でこの辺りに来たとすれば誰が持ち込んだのかが疑問となる。
(それにアレは成体で寿命には遠い筈だ。遠目で見ても外傷はない。どう言う事だ)
遠目で見てもランドラゴンには致命傷になりうる外傷は見られない。
ランドラゴン自体は見た感じでは若い成体で寿命と言う訳でもなさそうだ。
(病気の線も考え難いとなると何か別の理由があると言う事か)
ランドラゴンは簡単に病気にならず、なったところで死ぬ事は稀である為、考えられる可能性は老いでも外傷でも病気でもない別の要因となる。
だが、今のグラハムにそれを確かめる術はない。
「レイヴァースさん、申し訳ないが、最後まで付きあって貰えますか?」
「ええ、構いませんよ」
グラハムとしても、ランドラゴンの死因に興味がある為、最後までランドラゴンの監視を見届ける事にする。
グラハムが合流し数日が経つ。
その間もランドラゴンは全く動く事はなく、ただそこで動かずに死を待っているだけだった。
「そろそろですね」
グラハムは数日前と、最近のランドラゴンの様子を比べてそう判断する。
ランドラゴンがただ、死ぬ事を監視するだけである為、誰もが余り良い気はしておらず悲痛な表情を浮かべている。
「後味の悪い仕事だな」
「ああ……そうだな」
龍之介と静乃がそう言っているとグラハムがランドラゴンの方に歩いて行く。
「レイヴァースさん!」
「もう死んでますよ」
感傷的になっていた為、皆は気づいてなかったが、数分前からランドラゴンはその場で寝たまま微動だにしていない。
言われてみれば死んだかのように見えなくはないが、単に寝ているだけの可能性だってあるが、グラハムは死んでいると確信している。
「大丈夫ですよ」
グラハムはランドラドンの近くまで歩くとランドラゴンを少し叩く。
その行動に静乃達は肝を冷やすが、ランドラゴンは全く反応しない為、すぐにグラハムの元に急ぐ。
「何をやっているんですか!」
「だから、大丈夫だって言っているじゃないですか」
グラハムはあっけらかんとそう言う。
「でも、これで仕事は終わりね。後はこのランドラゴンを埋葬してあげましょう」
京子の意見に静乃達は異論はないが、グラハムは内心で舌打ちをしていた。
ここで放置してくれれば後で回収して、死因を詳しく調べる事が出来た。
近くで見たところでも、ランドラドンの詳しい死因は特定出来る物は何もない。
火葬されるよりかはマシだが、少々面倒になる。
だが、この状況で埋葬に反対する事は静乃達の心象が悪くなり、心象を悪くしないで埋葬を阻止する手段は今のグラハムにはない。
その為、埋葬の阻止は諦める。
埋葬が決まるとランドラゴンの遺体を埋めるのに丁度良い広さの場所まで龍之介の召還獣のレグルスで運び、皆で穴を掘ってランドラゴンの遺体を埋葬する。
「それで、これはどうします?」
黙祷が終わると、グラハムはランドラゴンが最後まで守って来た卵を静乃達の前に出す。
「ランドゴンの卵は不思議な事に親が死んで少しすると孵化します。そろそろ孵化する頃だと思いますよ」
ランドラゴンの卵はグラハムの言う通り、親のランドラゴンが死んで少しすると孵化する。
親が生きているうちは産卵後に何日しても孵化する事がなく、産卵してすぐに卵でも親がすぐに死ぬとすぐに孵化する事が確認されている。
その理由は分からないが、一説には生まれて来る子は親の生まれ変わりであるからとされているが親と子のランドラゴンの性格は正反対である事も多い為、真偽は定かではない。
グラハムがそう言っていると、卵は動き皹が入る。
グラハムは卵を地面に置くと卵が割れて幼体のランドラゴンが生まれる。
「可愛い……」
生まれたランドラゴンは親のランドラゴンの様な黄色い肌ではなく、黒みがかかっている。
生まれたばかりのランドラゴンは小さく泣きながらも辺りを見渡すと、静乃によって来る。
静乃はランドラゴンを抱きかかえると、ランドラゴンは静乃の顔を舐める。
「おい……なんだ?」
「そのランドラゴンは加賀美さんの事を気に行ったんですよ。ランドラゴンの中には自分の背中に乗せる人間を選ぶ個体もいると聞きますからね」
基本的にランドラゴンは人に懐いてさえいれば誰でも乗せるが、稀に特定の人物しか乗せないランドラゴンも存在する。
それはランドラゴンは人となりを見抜くからとされているが実際のところ、ランドラゴンの本能が自分が乗せるべき主を見つけたからだ。
生まれたばかりとは言え、ランドラゴンの本能が静乃を主と認めたのだろう。
「それでどうします?」
「どうすると言われてもだな……」
「そのまま放置すると言う手もありますが、それでは親の様に人を襲う可能性もありますから、今の内に殺しておくと言うのも一つの手ですよ」
今は静乃に懐いている上に生まれたばかりで爪もなければ牙もなく、丈夫な皮膚も出来あがっていない。
その為、今ならば十分に始末が可能だ。
下手に見逃せば親と同じ末路になる事も十分に考えられる。
「レイヴァースさん……この子供はきちんと育てれば人を襲う事はないんですね」
「それどころか、鍛えればここまで来たバイク以上の足になります」
ランドラゴンは地上での乗り物としては最上級と言う者までいる為、最新のバイクの非ではない。
「班長、この子供を3班で育てでは駄目でしょうか?」
「そうね……公にする事は出来ないでしょうけど、育てる事で魔獣の生態系が少しでも分かると言えば上からも許可は出ると思うわ」
「でしたら、まずは名前を付けててはどうですか? ランドラゴンと言うのは種族の名称で私達を人間と呼ぶのと同じですからね」
「そうだな……隼丸と言うのはどうだろうか」
静乃がそう言うとランドラゴンは嬉しそうに声を上げる。
「おお、そうか。気に行ったか」
静乃はそれを名前が気に行ったと解釈するが、実際にところは不明だ。
「静ちゃん。お母さんだね」
「姉さん! 変な事を言わないでくれ!」
「良いんじゃないか。魔獣とは言え、母親代わりでもやれば少しは女らしくなるんじゃないのか?」
静乃を宮乃と龍之介がからかうのをグラハムは少し離れたところから眺めている。
静乃は隼丸と言うオスの様な名前を付けたが、ランドラゴンは交尾をする何処とか、性別はメスしかいない。
卵も死期を悟ると体内で生産する為、オスは存在していない。
実際には性別と言う定義すらないが、卵を産むと言う事でメスと言う事になっている。
つまり隼丸と名づけられたランドラゴンもメスと言う事になるが、静乃達に水を差す気は毛頭ない。
「今回は助かりました」
「お役に立てて幸いです」
京子がグラハムに礼を言う。
グラハムの情報がなければランドラゴンを強制的に排除しようとして、少なからず、3班にも被害が出ていたかも知れないが、今回の任務では怪我人は一人も出ていない。
「そこで物は相談だ。少し前に君の事は静乃から聞いている。赤髪の死神や、デパートを占拠した連中の事に関する情報をいろいろと持っているようですね」
「役に立たなかった事もありますけどね」
「そんな事はないですよ。我々にとっては貴重な情報です。そこで、貴方の情報を私達の力として貸して欲しい」
グラハムはその申し出に少なからず驚く。
静乃が上司である京子に自分の事を話している事は想定していた。
その為、少しつづ自分の持つ情報の有意性を見せて対策局の内部に入りこむ為にスカウトをされる気でいたが、以外と早い。
「それは私に超常現象対策局に入れと?」
「そうとって貰って構いません。今回の事を始めとして我々には情報が少な過ぎる。今まで大きな被害が出なかったのが奇跡と良いくらいにです」
その事はグラハムも感じていた。
事前の調査で日本は魔獣や召還獣の研究は明らかに遅れているが、実際に日本に来て見てそれが異常であると感じていた。
まるでどこかで情報統制によって限られた情報しか出回っていないのかと勘繰る程にだ。
「成程……そう言う事でしたら、喜んで私の力を貸しますよ」
若干、上手過ぎる話しではあるが京子の周りに黒い噂などはグラハムの調べでもなかった為、今の言葉に嘘は無いと判断した。
ここで断ってしまえば、次に対策局に入り込むのが難しくなる為、多少の危険が伴おうと飛び込むしかない。
「助かります。これからよろしく頼みます」
「こちらこそ」
京子はグラハムに手を差し出すとグラハムも応じる。
こうして、グラハムは超常現象対策局に入り込む。