狼が与えた罰
「何ですか?ここ」
今日は休日。駅で待ち合わせをして、こうして一緒にいる。強制的に。
「見てわからないか?喫茶店」
目の前にある店は確かに喫茶店だけど、なぜここに?美味しい物を食べさせて、油断させようという罠なのかな。
「入るぞ」
カランカランと音を立てて入ると、店員が近づいてきて、席を案内した。
メニューを見てみると、ドリンクの種類が多く、じっくりと見た。
少し悩んだあと、メニューを閉じて、顔を上げると、海翔先輩はすでに決めていたようだ。
「何にする?」
「バナナジュースとチョコレートケーキにします」
店員を呼び、私のものと先輩のものを注文した。店員はにこやかな笑顔で中へ戻って行った。
「朝ご飯を食べなかったんですか?」
先輩はポテトサラダサンドとコーヒーを注文した。
「少ししか食べなかったからな」
さて、いつ罰がやってくるのか、内心ビクビクしている。
こっちの気も知らずに、先に来た飲み物を飲んでいた。
「強張った顔をしているな」
「!そんなこと・・・・・・」
「そんなに心配しなくても、まだ何もしない」
まだってことはいつかはするってことに違いない。今これを考えないでおこう。怖いから。
ストローが動かないように指で支えながら、ジュースを飲んだ。
冷たくて美味しい。喉が潤っていく。
「まさか俺が学校のガキとこうして出掛けるとは思わなかった」
「たった一つしか違いません!」
「そうやってムキになるところが子どもだ」
「わ、私は今まで男の人と二人で行動したことがありません!」
「じゃあよかったな。貴重な体験ができて」
冗談じゃない。私がどれだけ男の人を怖がっているか、少しは知ったくせに!
「海翔先輩は・・・・・・」
ちょうどそのとき、注文した物を持ってきたので、続けて話せなかった。
店員が去ったあと、海翔先輩はサンドイッチを取って、私に渡そうとした。
「ケーキがあるので、いいですよ」
「餌付け」
「もう!」
口元を手で押さえていたが、明らかに笑っていた。
私はケーキに視線を戻し、一口食べた。しっとりとした食感がいい。もっと甘いのかなと思っていたが、そうでもなかった。
「風音、甘党だな」
「そうですね。結構好きです」
「他に何か好きなものはあるか?」
「えっと、いろいろありますよ。丼とかパスタとか、卵料理も好きです!」
「へぇ、逆に嫌いな物は?」
「えっと、苦いものやすっぱいものは苦手です」
「辛いものは平気か?」
「それも苦手ですけど、キムチ鍋は卵を入れたら、食べられます」
海翔先輩は目を見開いていた。
あれ?私、何かおかしなことを言ったかな。
「入れるものなのか?」
「だって、入れないと食べられません。そのままじゃ辛い」
以前に卵を入れずに挑戦してみたが、すぐにお茶を求めた。それ以降はずっと卵を入れて、食べている。
「お前、変わっているな」
「そんなことないと思います」
「家ではいつも何をしている?」
「えっと、インターネットや読書をしたり、料理もしますね」
「料理は得意?」
「得意ってほどでは・・・・・・。練習中です」
「頑張れ」
「はい。そういえば、来週の水曜に家庭科の授業で調理実習があります」
作るものは確か、ご飯を炊いて、ハンバーグと野菜スープだった。
楽しみだな。とびっきりいいものを作らなくちゃ!
「作ったら、俺のところまで持ってこい」
無茶なことを言わないでください。無理に決まっているじゃないですか。
「持ち帰りができないものですよ」
「そうか。それなら仕方がない」
わかってくれた?いや、なんか嫌な予感がする。
そしてそれは見事に的中した。
「それじゃあ、俺の弁当を作れ。いいな?」
「何でですか?早起きは無理です」
第一、弁当を作ったことなんてないよ!
「目覚ましをセットすれば、いいだけだろ?水曜でいいから」
「本気で?」
先輩にここまでする必要性を感じられない。
「もっと重い罰がいいか?それならここじゃなくて、別の場所で・・・・・・」
私はブンブンと首を振った。これ以上この人の思い通りになったら、身が持たない。
だいたい別の場所ってどこ?何考えているのか、わからない。
「私達、先輩後輩の関係ですよね?」
「今のところはな」
思わず首を微かに傾げると、それを見て苦笑いをした。
「罰を一つだけにしているんだから、感謝してもいいと思うがな」
どうしてそうなるんだろう。
この人と出会って、まだそんなに経っていないけど、えらそうにして、まるで悪魔だと心の中で囁いた。
このことを口にして、罰を増やされるのは勘弁してほしいから、決して口にしない。
それにしても、どんな弁当にしよう?
「入れてほしいものはあるます?」
「唐揚げと卵焼き、他はまかせる」
やっぱり定番のおかずだな。そうだ、逆も教えてもらわなきゃ。
「これだけは嫌というものはありますか?」
「とくにない」
嫌いなものはないんだ。私はいくつもある。
「わかりました」
あーあ、いつになったら、この人に解放されるのかな。自由になりたい。
「楽しみだな」
私はあなたと同じ考えではありません!
本屋に行って、弁当の本をチェックしなくちゃ!