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狙われた兎

「あの、手紙の人ですか?」

 私の靴箱の中に手紙が入っていて、名前と場所、時間が書かれていた。

「そうだよ。わざわざ呼び出してごめん」

「いえ。えっと、何の御用ですか?」

 私の上級生にあたる目の前の人はどこか恥ずかしそうに俯いて、ゆっくりと顔を上げた。

「俺とつきあってくれない?」

 そのとき告白した人の後ろで木の枝を踏んだような音がした。音に気がついたのは私だけ。

 私はちらりと視線を変えると、上級生が嫌なところに出くわしたとでも、言いたげな表情をしていた。再び告白した人に視線を戻すと、じれったいのか、そわそわしながら返事を待っていた。

「あの、すいません。おつきあいできません」

 自分自身、早くこの場を立ち去りたかった。頭を下げて、教室へ戻ろうとしたが、手を掴まれた。

「何で?」

 何この状況。ど、どうしよう・・・・・・。

「えっと、誰ともつきあう気がありませんので!」

 手を振り払い、教室へ走って行った。背後で何か叫んでいたが、振り向きもしなかった。

 全速力で走ったせいで、お腹が痛くなった。腹部をさえながら、廊下を歩いていくと、見たことがある人が立っていた。

 さっき、告白されたときに見た人だ。

「おい」

 ひっ!喋った!あ、当たり前か・・・・・・。

「何ですか?」

 私の質問に何の返答もせず、ゆっくりと歩み寄ってきた。

 私は少し怖くなり、少しずつ後ずさりをした。

「何で下がる?こっちに来い」

 睨みつけながら命令してきたが、逃げ道はないだろうかと視線をさまよわせる。それに気がついたのか、溜息をついたあと、私との距離を一気に縮めた。

 何か話そうかと思ったが、恐怖で全身震えていて、何もできなかった。

「これ、おまえのだろ?」

 手渡されたのは私のハンカチだった。

「ありがとうございます。これ、どこで?」

「さっきの場所」

 さっきって、告白された場所!そうだった。見られたんだ、この人に。

「せっかく時間があったから、のんびり過ごそうと思っていたのに・・・・・・」

 そんなことを言われましても、私にはどうすることもできないよ。

「あ、そういえば、前にも告白されていたよな?」

「何で知っているんですか?」

「クラスの奴」

 前に告白してきた人はこの人のクラスメイトだったんだ。

「そうだったんですか。あの、拾ってくれてありがとうございました。そろそろ行きますね」

「何か用事か?」

「いえ、そういう訳ではないです」

 もう話すことなんてないからです。それに・・・・・・。

「思い出した。お前、誰ともつきあわないって言っていたが、あれが仮に俺だったとしても、同じことを言っていたか?」

 急におかしな質問をしてきたので、思考が停止してしまった。

「何を馬鹿面しているんだ?」

「だって、変な質問をするから。そんなの当然ですよ!」

「何でそう言い切る?」

 一瞬、言葉に詰まってしまった。

「き、興味がありません」

 声が震えていたのは恐怖ではない。嘘を吐いているという罪悪感で圧迫されそうだから。

「へぇ・・・・・・」

 どこか面白そうに目を細めて笑っていた。

「はじめてだな。そんなことを言う奴」

 今度は声を出して笑い出した。恐怖がまた戻ってきた。

「名前は?」

「広瀬風音です。一年です」

「俺は早川海翔。二年」

 そろそろ解放されたいと思っていると、ふいに声をかけてきた。

「今、時間あるよな?ちょっとつきあえ」

 予想外の台詞に驚いた。それは私にとってはまずいこと。

「あの、用事を思い出しました。失礼します!」

 動揺していることに気づかれたくないと思いながら、踵を返した。

「待て」

 さっきみたいに走ればよかったのに、足を止めてしまった。振り向きもせずにじっとしていると、足音だけが響いていた。

「ひょっとして、男性恐怖症?さっきといい、今といい」

 あっさりとばれてしまった。これ以上嘘を吐いても仕方がないので、頷いた。

「俺と少し似ている」

「何がですか?」

「俺、女が嫌いなんだ。いつもうるさくていらいらするし、自分の好みの男がいれば、媚を売ってくる。見ていてストレスがたまる」

「私も女です」

「お前は他の奴と違う。だからこうして話している」

「私、性格も悪いですよ」

「どんな風に?」

「じ、自分勝手だし、泣き虫で臆病です」

「自分勝手かどうかは知らないが、臆病者だとは知った」

「本当にいいところなんてありません」

「それをお前だけで決めつけていいのか?」

「どういう・・・・・・」

 言葉を続けようとしたが、遮られた。

「俺がこれから見ていく。お前が言ったとおりの奴かそうでないか。俺が嫌な面を見たら、近寄ったりしない」

 見ていくってどういうこと?まさかこれからも一緒にいるの?

 そう思うと、背筋がぞっとした。青くなった私を見て、彼は面白がっている。

「そう怯えられるとぞくぞくするな」

 今、恐ろしいことが聞こえたけど、気のせいにしておこう。

「そういうことだからよろしく。さて、何か買いに行くか」

「い、嫌です」

「今日告白した奴にお前が言ったことはすべて照れ隠しのための嘘だったと伝えるか」

「やめてください。なんてことしようとしているんですか」

「俺はどっちでもいいんだぜ。行くか行かないかはお前が決めろ」

 ほとんど脅迫ととれるそれに従う以外、私には何もできなかった。

 私はこれからどうなってしまうのだろう。不安は少しずつ膨らんでいくばかりだった。




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