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第61話

今回出てくる宗教や神々の話は、あくまでフィクションです。

実在する神さまはおそらくこんなファンキーな存在ではないと思われますので、くれぐれも今回の話を真に受けないでください。

「よう、東。久しぶりだな」


「せやな。前は花火の時やから、半年ぐらい空いてもうたか」


 成人式当日。


 式が終わった後、会場で一人誰に声をかけるかと物色中の宏に、田村が声をかける。


 なお、春菜は現在、電話で天音を介してやんごとない方々と話し合い中だ。


「春菜さんの話聞く限りでは、中村さんとは順調に進んどるみたいやん」


「まあ、所詮学生の恋愛だから、このまま結婚ってとこまで進むかどうかは何とも言えないけどな」


 美香と楽しそうに話す蓉子を見ながら、そんなことを言う田村。


 そのまなざしに浮かぶあふれんばかりの愛情を見ていると、普通にこのままゴールインしそうな気がして仕方がない。


「で、そっちのほうはどうなんだ? 前聞いた話とか山口から聞く近況とかからするに、なかなかややこしいことになってるっぽいけど」


「まあ、ボチボチっちゅう感じやな」


 田村から振られた話に、答えになっていない答えを返す宏。


 実際にはぼちぼちどころか、カメの歩みのような進展をした結果かえって身動きが取れなくなっているのだが、そんなことをわざわざ田村に言う必要もない。


 なので、とりあえずどうとでも取れる答えを返したのだ。


「で、この後の会には参加するんだよな?」


「春菜さんは用事入ってもうたから、参加できんの昼飯だけやけどな」


「そうなのか。まあ、藤堂さんも東も、凄く忙しそうだしなあ」


「教授いわく、これでも取材の類が学内の分だけやからマシな方らしいわ」


「へえ、そう言うもんなんだ?」


「らしいで」


 ピンとこない様子の田村に対して、分かっているような分かっていないような表情でそう告げる宏。


 天音や雪菜を見ていれば、取材や芸能界関係の仕事が絡んでくれば今よりさらに忙しくなることぐらいは普通に察せられる。


 が、実際に自分の身に降りかかっていないので、どうにも実感がわかないのが現実である。


「まあ、なんにしても、僕は今日は最後まで付き合うから」


「ああ、了解。どうせすぐ顔合わせるけど、一応幹事にそう言っとくわ」


 宏の予定を聞き、幹事にメッセージを飛ばす田村。


 そこに蓉子と美香、山口の三人が寄ってくる。


「お久しぶりね、東君」


「春菜ちゃんとはちょくちょくあってたけど、東君とは本当にご無沙汰だったよね~」


「せやな」


 顔を合わせて早々にそう挨拶をしてきた蓉子と美香に、田村に向けたのと同じような笑顔を向ける宏。


 それを見て、どことなくほっとした様子で山口が口を挟む。


「忙しいのは分かってたが、それ踏まえても最近恐ろしく付き合いが悪かったが、何かあったのか?」


「何かっちゅうと?」


「いや、美香が藤堂を誘ったときにずっと東が不在だったし、最近は学食にも顔を出す頻度が下がってたしで、な。何かとてつもない厄介ごとに巻き込まれているのではないかとか、恐怖症がぶり返していよいよ藤堂たち以外の女は無理になったのかとか、いろいろ心配になってな」


「心配せんでも、単純にまだ表に出せん案件で修羅場っとっただけや。あと、年明けからは今日のためにいろいろ準備しとってな。その関係でもなかなか手ぇ空かんかってん」


「準備?」


「別にどっきりとかするような内容やないからネタばらしすると、うちの会社で野菜の宅配事業やることになってな。その試供品とチラシをこの後の同窓会でばらまこう思って用意しとってん」


 宏の説明に、なるほどとうなずく山口たち。


 宏は特にどこの野菜と言っていないが、宅配するのは間違いなく春菜の畑で収穫した野菜であろう。


「そういえば、親戚に送りたいけど、道の駅にはいつ行っても残ってないってうちの両親が言ってたわね」


「従姉が道の駅に勤めてるんだけど、アズマ印の野菜は入荷分が並べ終わって五分も経たずに売り切れるって言ってたよ。おかげで他の野菜も引っ張られてすごくよく売れてるみたいだけど」


「私たちは春菜から直接貰ってるからピンと来てないけど、ネットでは凄い話題になってるようね」


「らしいなあ」


 蓉子と美香の言葉に、少し遠い目をしながらうなずく宏。


 売上金額でも規模や影響の面でも、畑の産物としては酵母や潮見メロンほどのインパクトはない野菜たちだが、あくまで比較対象の問題で、単体で見れば密かにかなり大きな話になっていたりする。


 最近では蓉子と美香が言ったように道の駅に並ぶと同時に売れていく状況になっており、一般人は他の入手手段がないこともあって、現在もっと流通量を増やしてくれという要望が山のように届いている。


 が、それを受けて素直に出荷量を増やそうにも、既に道の駅はキャパいっぱいまで出荷している。かといって、スーパーなどに卸すと、あっという間にブランド価値がなくなる。


 そのあたりの兼ね合いを踏まえて、若干値上げした上で送料を載せる形で宅配することにしたのだ。


「しかしこう、学生ベンチャーなんぞ腐るほどあるやろうけど、家庭菜園をきっかけに新種のメロン作ったり妙な酵母発見してバイオ方面に展開しとるんはさすがに他になさそうやなあ……」


「新種のメロンは偶然起こる可能性が絶対ないとは言えないけど、酵母とかはそれ専門で研究してなきゃどうやって発見するんだって話になるからなあ……」


 遠い目をしたままの宏の言葉に、苦笑しながらそう同意する田村。


 新種の何かを発見したことをきっかけに、というバイオ関連の学生ベンチャーは結構多い。


 が、それらは全部卒研などの研究中に発見して、というのが普通であり、あまりに妙なことが頻発するから畑の土や作物を顕微鏡で調べてみたら何か変なのがいた、という春菜のケースは滅多に起こることではあるまい。


「まあ、酵母に関しては基礎研究以外はうちらの手ぇ離れそうやから、後は基本特許収入と酵母液そのものの売り上げで左うちわ、っちゅう感じやな」


「あの手のバイオ関係って、一山当てたらすごいお金になるっていうものねえ」


「そのかわり、そもそも新種当てるん自体が、宝くじ一等当てるぐらいの確率らしいけどな」


「そりゃまあ、そうでしょうねえ」


 言わずもがなな宏の言葉に、苦笑しながらそう答える蓉子。


 そうそう当たりを引けるようなら、微生物で億万長者になどなれる訳がない。


「にしても、春菜ちゃん遅いね~」


「まだ話が終わらないのかしら」


「東は何の話してるか知ってるんだよな?」


「守秘義務があって言われへん類やけど、一応な。聞いとる内容的に、多分もうちょいかかると思うわ」


 守秘義務を盾にとっていろいろごまかしながら、とりあえずそう告げる宏。


 思えば言えないことも増えたものである。


「しかし、何っちゅうかこう、受験生やっとったころはこんなに守秘義務でがんじがらめになるとは思わんかったわ……」


「普通の大学生は、守秘義務で言えない類の事情なんてめったに抱え込まないからなあ」


「さすがにゼミに入ればそうでもないのだろうが、それでも妙なバイトにでも手を出さん限りはそこまでガチガチに縛られたりはしないだろうな」


 何とも言い難い顔で妙なことをぼやく宏の言葉に、生温い視線を向けながら同意する田村と山口。


 さすがに大学生にもなれば、バイトなり研究室なりで守秘義務を背負うこと自体は珍しくなくなってくる。


 が、研究関連はともかく、バイトでそこまで厳しい義務を背負う羽目になることはあまりない。


 というより、東工作所での春菜みたいな例外を別にすれば、まともな経営者なら漏れたら致命的になるような情報をバイトに握られるようなことはしない。


 なので、宏のように言えない話ばかり積み上がっていくような状態になる大学生は、少数派もいいところだろう。


 さらに宏と春菜の場合、うかつにしゃべれない情報を自分からどんどん作り出している上に、そのペースと漏れた時のヤバさが類を見ないレベルになっている。


 さすがにこんな大学生がごろごろしていたら、その方が誰にとっても困るだろう。


「で、話を変えるとして、試供品って何入ってるの?」


「タマネギ、ニンジン、ジャガイモのカレーセットとアレンジがしやすくてそないかさばらんエンドウ豆とかマッシュルームとかやな」


「かさばらないって、エンドウ豆は鞘に入った状態だとかなりかさが高いと思うんだけど?」


「豆類は基本、鞘剥いて新技術の特殊製法で作った鮮度保存パックに詰めとんねん。ちなみに、パックの新技術はうちの学部の先輩が発明した奴で特許は出願済み、権利は礼宮が持って行っとる」


「それを東君が言っちゃえるってことは、情報解禁はされてる、と?」


「そもそも、今日渡すチラシに思いっきり書いてあるからな」


「なるほどね」


 宏の説明に納得する蓉子。


 もうすでにチラシができていて今日からばらまくという段階ならば、情報規制も何もない。


「で、その鮮度保存パックって奴は、どういう代物だ?」


「袋詰めして封したら、一年ぐらい入れた時の状態を維持するっちゅう代もんやな。うちらが入学したころに性能試験が終わって、量産化のために四苦八苦しとってん。発明した先輩、これのために二年留年しとるし」


「その量産化に、お前と藤堂も関わってるのか?」


「一応な。で、とりあえず量産ラインでの試作品でも半年は生肉とか生魚の品質変化がないっちゅう試験データ出たから、公表と市販にGOがかかったんよ。っちゅうても、穴とか空いたら一瞬で機能無くなるから、目安として一週間ぐらいっちゅうことにしてるけどな」


「生肉が半年腐らない、か……。それはまた凄まじい代物だが、スーパーとかでの一般販売の予定はあるのか?」


「今はラインの都合で一部業者向けで埋まっとるけど、礼宮にその気があるんやったら今年中にはスーパーとかに並ぶやろ。っちゅうても、どうにか量産できるようになったんはスーパーで無料配布しとる汁たれ防止のビニールぐらいのサイズだけで、いわゆるレジ袋とかごみ袋とかのサイズはまだまだこれからっちゅうとこやけど」


 山口の疑問に、そう答える宏。


 この鮮度保存パック、保存能力こそ今までに類を見ないほどのものだが、それ以外の特性は基本的に宏達の日本で一般的に流通しているビニール袋と殆ど変わらない。


 ならば量産化は簡単かと思えばそうではなく、密閉することが条件なのでちょっとした傷でも場合によっては機能が無くなる上、百度以上の熱に長時間さらされるとやはり機能が無くなるため、そのあたりの問題をクリアするのに相当苦労する羽目になったのだ。


 今あるものより大きなものを量産できていないのも、そのあたりの理由が大きい。


 また、一年ぐらいというのも、どちらかというと生分解性ビニールの劣化が早ければ一年ぐらいで始まるという事情が大きい。


 使われている技術自体はプラスチック以外にも適用できるので、現在金属やセラミック、ガラスなどの劣化しづらい素材での検証が行われている。ビニールでの実用化を先行させたのは、単に軽くて扱いやすく、馴染みがあって普及させやすいからというのが主な理由だ。


 なお、宏達の日本で一般的に流通しているものと同じなので、この鮮度保存パックは土に埋めておけばそのうち分解される。


「お待たせ、宏君」


「おつかれさん。上手いこと行きそう?」


「何とも。会ってみてからの話になりそうな感じ」


「まあ、せやろうなあ……」


 現段階では答えづらい宏の問いかけに、思わず苦笑しながらそう答える春菜。


 有名すぎて逆に事前情報が皆無な相手と上手くいくかなど、会ったこともないこの段階では分かるはずもない。


「とりあえず、今から気をもんでても始まらないから、開き直ってお昼は同窓会を楽しむことにするよ」


「それでええんちゃう?」


 何やら腹をくくった様子の春菜を、宏が生温い視線を向けつつ肯定する。


 宏とて、明日は我が身だ。


「なんか、いろいろ大変そうだな……」


「正味な話、高校時代はこんな事なるとは思ってへんかったわ……」


「だろうなあ」


 なんだか非常に遠くへ行ってしまった感がすごい宏と春菜を見て、思わず同情してしまう田村。


 考え方はともかく本人たちの気質は高校時代から何一つ変わっていないだけに、非常に窮屈しているのが察せられてしまう。


「まあ、今日はその辺のしがらみを忘れて、同窓会で鬱憤を晴らせばいいさ」


「そうそう。みんな笑い話として聞いてくれるって」


「てか春菜ちゃん、東君。そろそろいい時間だから、お店に移動しよう」


 山口の言葉に蓉子がのっかり、いいタイミングだからと美香が移動を促す。


 こうして、宏たちの成人式は、つつがなく終わることが出来るのであった。








「みんな、グラスは持った? まだ二十歳になってない子は、ちゃんとノンアルコール?」


 同窓会、昼の部。幹事の安川が、無事に全員集まったのを確認してから、乾杯の前の確認をする。


 かつて文化祭実行委員の女子として活躍し、その後も様々な細かいイベントを回してきた彼女は、今回の同窓会の幹事も進んで引き受けてくれたのだ。


「じゃあ、ちゃんと無事に成人式が終わったことと、なんだかんだでみんなちゃんと活躍してることを祝って、乾杯!」


 安川の音頭に合わせて乾杯するクラスメイト一同。こうして、同窓会はつつがなくスタートした。


「東はいきなりウィスキーか」


「ビールはいまいち馴染めんでなあ」


「あ~、分かる。あたしもワインとか日本酒はともかく、ビールとか発泡酒ははちょっと苦手かな」


「私もラガー系はあんまり好きじゃないわね。クラフトビールには好みのものもあるんだけど、飲み放題のメニューには大抵入ってないのよね」


 ウィスキーのダブルを傾けながら言う宏に、納得の声を上げる美香と蓉子。


 ブームになったこともあるクラフトビールだが、現在は日本酒やウィスキーなどに近いポジションに落ち着いてしまったため、飲食店では飲み放題どころか取り扱い自体していない店も多いままである。


 美優がかつて宏を連れて行った会員制のバーですらクラフトビールは扱っていなかったのだから、宏達の日本における定着度合いは推して知るべしであろう。


 そもそも、三百五十ミリ入りがジュースより安いことがあって全国どこへ行っても同じ品質のものが手に入る酒など、発泡酒や第三のとつくものを含むラガー系ビールとチューハイおよび梅酒の類ぐらいしかない。


 それらと対抗するには、日本でのクラフトビール、それも特に全国流通を担える大手酒造メーカーのものはまだまだ歴史が浅く、市場の認知度も低い。


 結局のところ、これだけ強固に定着しているビールのイメージを変えるのは、そう簡単ではないのだ。


「そう言えば、忘れてたけど春菜はまだノンアルコールなのよね」


「うん。料理に合わせやすい、ちょっと辛めのノンアルコールカクテルにしてもらったよ」


 黒っぽい色のドリンクを軽く持ち上げながら、洋子の疑問に答える春菜。


 居酒屋の必死の努力によるものか、クラフトビールは入っていなくてもノンアルコールカクテルは充実している飲み放題が増えて久しい。


 もはや、酒を飲めない人間はウーロン茶というイメージは過去のものとなりつつある。


 その後しばらく、ようやく飲酒解禁になった面子による酒の話題が続く。


「そういや、相良は九月から海外留学だったか?」


「おう。マサチューセッツで経済学勉強してくるわ」


 酒に関する話題が一段落したところで、田村が東京でたまに会う機会がある相良にそう話を振る。


「経済学って、日本とアルゼンチンには微妙に役に立たないんだよね」


「ああ、知ってる。ついでに言うと、過去に起きたことを理論づけするのが経済学だから、意外と未来に起こることの予測には役に立たないのも知ってる」


「そう言う認識やのに、留学するんや」


「ぶっちゃけ、俺の場合はチャンスがあったから好奇心満たすために行くって感じだからなあ。せっかく誘ってもらったんだから、役に立つ立たないはともかく見識広げるのにはちょうどいいんじゃねえかってな」


「なるほどね」


 相良の考えに、そう言うのもありかもと納得する春菜と宏。


 普通ならすごいともてはやされそうな大きな話なのに、何となく大したことない感じで進んでいるのが剛毅な話である。


「そういえば、春田君と児玉さんが芸能界デビューするって話を聞いたんだけど、そのあたりはどうなのよ?」


「そんな大層な話じゃないんだけど、今年の学祭で上演した自主製作映画がなんだかすごく評価がよくて」


「で、映研の期待の新人として主役やらせてもらった俺と児玉に声がかかった、って訳だ」


 美香から振られて、経緯を説明する春田と児玉。


 その話を聞いた春菜が、美香に視線を向ける。


「春菜ちゃんが心配するのも分かるけど、映画が評価高かったって言うのは本当だよ。あたしもみたけど、ハリウッドの大作より面白いと思ったし」


「そっか。……ん~、とりあえず後で名刺コピーさせてもらっていいかな? 個人情報関連に引っかかるかもしれないけど、本当に大丈夫なところかだけは確認しておきたいから」


「あっ、それあたし達のほうから頼みたかったのよね。だって、芸能関係だったら間違いなく藤堂さんが一番詳しいし」


「俺らじゃ、それがまともなスカウトなのか判断できないしなあ」


「あと、申し訳ないんだけど監督と脚本やった先輩のところの名刺も、チェックしてもらっていい?」


「うん、任せて」


 春菜の申し出に、ありがたそうに頭を下げてくる春田と児玉。


 それを見て嬉しそうに引き受ける春菜。


「で、二人は付き合ってんの?」


「いんや。っつうか、自主製作映画の絡みでえらい目見てたから、うちの映研じゃ基本それどころじゃなかったし」


「なるほど。じゃあ、デビューして人気でた早々のスキャンダルは避けられそうって感じか」


 非常に仲がいい春田と児玉について、若者らしくそういう視点でつついてみる田村。


 そのある種当然の疑問をばっさり切り捨てた春田に対し、特に深く追及することなく田村が納得する。


 普通ならもっと深く疑いそうな状況だが、春田と児玉の間には、付き合っているもしくはどちらかが相手に懸想している間柄特有の空気が一切ない。


 なので、付き合っていると言われたらむしろ偽装カップルを疑っていたところだったりする。


「なんだかみんな、進路が決まって立派になってきてるような……」


「っていう事を藤堂とか東とかが言うのは嫌味でしかないからな」


「そうそう。たった二年で世紀の大発見と大発明をいくつもやってのけて、さらに今や業界では知らぬ者のいない高品質食材の生産者が、あたし達ごときの内容で何言ってんだ、って話よ」


 その後も次々に出てくる将来の進路に、思わずそんなことをつぶやく春菜。


 その春菜のつぶやきに、相良と児玉が即座に突っ込みを入れてのける。


「で、物は相談なんだけど、潮見メロンを一玉融通してもらえない? そうそう買えるような値段じゃない上に店に並んでも結構すぐに売れちゃってさ。元締めと元クラスメイトでたまに連絡とってるって妹にばれてから、ものすごくうるさいのよ……」


「あっ、こっちも。金は何とか工面するから、売ってくれると助かる」


 その突っ込みから流れるように、そんな要求をぶつけてくる児玉と春田。


 もっとも、口調と表情からあくまで冗談の範囲なのは明らかである。


 なお、潮見メロンがそうそう買えるような値段ではないのも、店に並んでもすぐ売り切れるのも事実だ。


 少々小ぶりで見栄えが悪いものでも三千円から、普通のものだと一万円はくだらないのが潮見メロンだが、ボーナスやお中元の時期には飛ぶように売れる。


 大学生が自腹で買うのはかなりつらい、どころか一般家庭の主婦でも自家消費のために買うとなると二の足を踏む値段であろう。


「私達個人としては別に一回ぐらいタダで融通してもいいんだけど、おばさんたちがどう判断するかなんだよね」


「潮見メロンは田村とか山口にもタダでは渡してへんしなあ……」


「いやいや。金は出すってば」


「てか、さっき貰ったパンフの通販では、潮見メロンは扱わないの?」


「現在検討中、だよね」


「せやな」


 春菜と宏の反応から、なかなか難しそうだと判断してがっかりして見せる相良たち。


 なんだかんだで潮見メロンは特別扱いされているため、開発者でかつ生産者の春菜と宏ですら簡単には決められないのである。


「まあ、どうにもならんものは諦めるとして、だ。東、藤堂。作ってほしい野菜とかはある程度リクエスト可能か?」


「これからの季節のもんやったら、別に問題あらへんよ」


「畑広げる予定もあるから、リクエストはむしろありがたいかも」


「じゃあ、後でメモしたのを送る」


 続けても不毛で宏達を困らせるだけ、と判断した山口が、野菜のリクエストに話を変える。


 その後、野菜の話を中心に、料理の話へと話題が移っていく。


「……ずっと、こうしていたいな……」


 宴もたけなわ、という感じになったところで、意味深なことを言い出す春菜。


「何、春菜。ちょっとおセンチ?」


「なんか意味深なこと言うとるけど、別になんぞシリアスな話があるんやのうて、もうそろそろ中座せなあかんからやろ?」


「ああ、なるほど」


 宏のネタばらしを聞いて、妙に安心したように首を縦に振る蓉子。


「この後のこと考えたら、ちょっと憂鬱なんだよね……」


「っちゅうたかて、今更逃げられるもんでもないやろ?」


「そうなんだけどね……」


 宏にたしなめられ、深々とため息をついて立ち上がる。


「ごめん、私これから用事があるから、ここでお先に失礼させてもらうね」


「ああ、お疲れさま。っていうか、東君はいいの?」


「私だけなんだよね、面倒くさいことに」


「そっか。まあ、がんばって?」


「うん、ありがとう」


 幹事の安川に声をかけ、支払いを済ませて店を出ていく春菜。


 見送ったクラスメイトが心の中で冥福を祈りたくなるほど煤けた背中を見せながら、天照大神との会談に臨む春菜であった。






「……引きこもりたい……」


 神界の某所。春菜との顔合わせを前にした天照大神が、どんよりとした表情でそうつぶやく。


「まだ始まってもいないのに、何言ってるんですか」


 そんな天照大神を、付き人として参加している天鈿女命アメノウズメノミコトが必死になってなだめる。


 天岩戸に引きこもった天照大神を引っ張り出して以降、何度か記紀に載らないレベルのプチ引きこもりを繰り返す天照大神をその都度引っ張り出すのに呼び出され、今ではすっかりお世話係のポジションが定着してしまっている天鈿女命。


 ただし、それを本人たちが喜んでいるかどうかは永遠の謎だが。


「そもそも、ここはあなたの守護領域でしょうが。主神のあなたが逃げ腰でどうするのよ?」


 サラスヴァティとしてこの場に来ている弁財天が、思わずあきれてそう突っ込む。


 本来ならもう二柱ほど来る予定だったのだが、面倒ごとを押し付けられるのが嫌だからと今日になっていきなりバックレたのだ。


 これ以上人数が減るのは、サラスヴァティとしても勘弁願いたい。


「でも、あの娘すごいリア充オーラ放ってる。正直、本気の姿見せつける前に帰りたい……」


「お見合いに臆した腐女子みたいなこと、言わないでください……」


「でも、私が非リアなのは、神話を見ても確定的に明らか。だから、早く帰って二次元嫁と二次元婿に囲まれて癒されたい……」


「なんで太陽神なのに陰キャの干物女やってるのよ、あなた……」


 「主神がこれでいいのか」とか「主神がこれでよく繁栄できるな日本」とかそんな感想を抱きつつ、必死になって天照大神を何とかしようとする天鈿女命とサラスヴァティ。


 絶世の美女三人が華麗な衣装を身にまとって行う寸劇としては、何とも残念さが漂う内容である。


 現住所の主神だからとこの役目を押し付けられた天照大神も大概貧乏くじだが、この二柱が引かされた貧乏くじはそれを大きく上回るだろう。


「うう、神衣で人と会うのは緊張する……。ジャージが恋しい……」


「何で、神衣よりジャージのほうがリラックスできるのよ……」


「だって、ジャージだったらうっかり変な奇跡とか起こす心配ないし……」


「ああ、うん。確かにそれは間違いないわね……」


 天照大神の神としてどうなのかという言葉に、頭を抱えつつそう答えるしかないサラスヴァティ。


 実際の話、今の神々にとって神衣とは、体の一部という次元まで馴染んだ服であるとともに、己の力を十全に発揮するための姿でもある。


 ただし、十全に発揮することとそれを完全にコントロールしていることとは別問題で、精神状態によってはくしゃみしたり感情がオーバーフローしたりした拍子に、己の権能が軽く暴発することは起こりうる。


 その結果、必要以上に豊作になったり起こす必要のなかった天災が起きたりしてしまい、場合によっては地上に生まれてはいけない種類の能力を持った生き物が誕生するというなかなか致命的な事態が発生することすらある。


 これは別に天照大神に限った話ではなく、上は主神クラスから下はふくらはぎの神のような弱い神まで、神に分類される存在は全員身に覚えのある話だ。


 なので、暴発事故を起こしたくない天照大神が、どう頑張っても緊張せざるを得ない春菜との面談で神衣を着ていたくないというのも、サラスヴァティや天鈿女命からすれば分からなくもない話ではある。


「暴発を心配するのは分かるけど、さすがにジャージはダメよ。一応主神なのだから、初対面の時ぐらいはある程度威厳というものを見せないと」


「だから、本気の姿を見せつける前に帰りたい……」


 サラスヴァティの言葉に、話をループさせにかかる天照大神。


 実のところ、天照大神に限って言えば、主神としてだろうが陰キャとしてだろうが、本気の姿を見せないほうが誰もが幸せになれるのは間違いない。


 特に主神としての本気はそれすなわち世界の危機という状況なので、見ないで済むなら見ないほうがいい。


「それで、私たちが面倒を見なきゃいけない娘は、いつ来るの?」


「えっと、多分もうそろそろなんじゃないかと」


 これ以上天照大神になにをいっても、ひたすら話がループするだけ。


 そう判断したサラスヴァティの問いに、天鈿女命が自信なさげにそう答える。


 その答えを肯定するかのように、絶妙なタイミングで春菜が入ってくる。


「すいません、遅くなりました」


 入室するなり、まずはそう謝罪する春菜。


 遅くなったと言っても別に遅刻したわけではなく、そもそも神々の時間感覚では待ったというほどでもないのだが、それでも新米の自分が最後に到着しているのだから、最低限の礼儀として謝罪したのである。


「大丈夫。まだ時間前」


 とってつけたようにきりっとした態度に化けた天照大神が、労うように春菜に告げる。


 その変わり身の早さに舌を巻きながらも、天鈿女命が春菜を席へ誘導する。


「とりあえず自己紹介。私は天照大神。あなたのルーツとなった神の一柱で、日ノ本を見守る役目をしている」


「私はサラスヴァティ、別名弁財天ね。今回はインド地域の代表として参加させてもらっているわ」


「天鈿女命です。天照大神のお世話をさせていただいています。私のことはウェイトレスだとでも思っていてください」


「時空神になった藤堂春菜です。本日はお手間を取らせてしまいまして、申し訳ありません」


「私にルーツを持つ人の子から同胞が生まれる、それ自体はめでたいこと。祝いはしても謝罪されるようなことではない」


 またしても謝罪を口にする春菜を、表面上は堂々とした態度でそうたしなめる天照大神。


 内心では、もしかしてさっきの会話聞かれてたんじゃ、などと慌てていたりする。


「むしろ、私としては直前になって逃げた連中のほうが気に食わない」


「そうね。後で軽く締めておかないと駄目かしらね」


「私たちがやると、場合によっては戦争になる。この子に関する事だから、天音かアインにやらせればいい」


「天音だと貫禄が足りないから、アインの仕事かしらね」


 話をしているうちに怒りがわいてきたらしく、唐突に物騒な話を始める天照大神とサラスヴァティ。


 なお、アインとは春菜と宏の指導教官の名で、春菜の直接のルーツは実はこちらにある。


 どこの神話にも属していないことと権能という概念に縛られていないことから、今回のように角が立たないように問題児に制裁を下したり、フェアクロ世界に邪神を押し付けた創造神のような存在を始末したりといった、割とダーティな役目を請け負っている。


 その積み重ねによるものかいろいろアンタッチャブルな存在として扱われることが多く、宏が指導教官と言い続けたのもあまり大っぴらに名を口にしてはいけないという空気を察しての事である。


 実際には別に誰彼かまわず襲い掛かるような存在でもなければ制裁案件以外で動かないわけでもなく、内容に関係なく担当者の手に負えないトラブルを解決するのがアインの仕事なのだが、どうにも制裁案件が目立つため脛に傷を持つ連中がビビりまくって妙な空気を醸成しているのが現状である。


 なので、この場にいる神々のように、気にしない存在はとことんまで気にしていない。


「さて、自己紹介も終わったことだし、本題」


「はい」


「まず、私達にそんなにかしこまった態度は不要。というか、疲れるからむしろ態度崩して……」


「あのねえ、天照……」


 どうやら主神モードの持続時間が切れたらしく、いきなり緩いことを言い出す天照大神。


 それに即座に突っ込みを入れるサラスヴァティ。


 いくら何でも、崩れるのが早すぎる。


「ジャージが恋しい季節すぎてつらいから、可及速やかに態度を崩すように」


「態度崩せって言うのはいいとしても、もう少し頑張って取り繕いなさいよ……」


「ルールとか実情の説明には、こっちのほうが絶対に都合がいい」


「そりゃまあ、そうでしょうけど……」


 本気の姿を見せつけたくないとか言っていたのは何だったのか、と突っ込みたくなる言動をとる天照大神を、半ばあきらめつつもどうにかしようと言葉を重ねるサラスヴァティ。


 七福神のイメージとは程遠い、苦労人属性が透けて見えるやり取りである。


「……あの、お二人は、って言い方でいいのかな?」


「「そのあたりは、通じればどうでもいい」」


 質問しようとして呼びかけ方に悩む春菜に対し、声をそろえてその悩みをばっさり切り捨てる天照大神とサラスヴァティ。


 多神教の神々は基本的に、そう言う事柄に対しては非常に寛容というか雑である。


 さらに言うと、長い年月を経た結果、よほどの力の差でもない限り、上下関係についても呼び捨てタメ口当たり前ぐらいには雑になっている。


「えっと、じゃあ。お二人は昔から仲がいいんですか?」


「別に、そんなに親しくない」


「こういうやつだとは知ってても、ここまでとは知らなかったわね」


「まともにやり取りするようになったの、やたら強い権能持った新神が出現してから」


「正直、私は七福神なんてこじつけのせいで巻き込まれた感じね」


「あまり親しくないから、ビキニアーマーにチェーンでバイクのパターンなのかそれともきゃる~んとか言ってくれるのかとか、今どういう風になってるか期待してたらまさかの委員長系おかん属性とは……」


「私としてはむしろ、天照がここまで見事に干物女化してるのが予想外だったわね」


 いきなり澪が言いそうなことを言い出した天照に対し、思わずため息交じりにそう言い返すサラスヴァティ。


 そのやり取りに、思わず目を白黒させる春菜。


「まあ、今ので分かったと思うけど、私たちのような存在の維持に多少なりとも信仰がかかわる神は、地上のイメージとかにある程度引っ張られるのよ」


「だから、私が非リアの陰キャで引きこもりの干物女なのは、主に地上のサブカルチャーのせい」


「ことあるごとに引きこもろうとするのは神話の時代からでしょうが……」


 都合のいいことを言い出した天照大神に対し、サクッと引導を渡すサラスヴァティ。


 双方ともに、威厳も何もあったものではない。


「まあでも、日本とアメリカのサブカルチャーがやたら強い影響を与えてくるのは否定できないわね。うちでもどっかのゾウが関西弁のおっさんになってるし」


「日本のアニメと漫画は、世界中の神話とか埋もれてた物語とかを魔改造しては輸出するから、地味に現地でも侵食されがち」


「アメリカはアメリカで、なんだかんだ言ってもハリウッド映画は世界中で上映されるし、それ以上に粗製乱造されるB級映画はノイズとしては最強の影響力を持つのよねえ」


「サメの神格持つ神は、最近いろいろ素敵なことになってる」


「どの神話だったか忘れたけど、頭十個にしっぽ四本でサメ入りの巨大竜巻を起こすっていう使い道のない権能を得た神がいたわよね」


「ブードゥ関係とか、別物になりつつある」


 サメの神の話を聞いて、思わず何それ見たいと言いそうになる春菜。


 映像技術と情報物流の発達は、神々の世界を想像以上に深刻に汚染しているようだ。


「それで、日本の神々は変化するのが当たり前って感覚だからそれほど問題はないけど、神話によってはそうでもない集団も結構いるのよ」


「私が引きこもりたいのも、そういう連中と関わりたくないから」


「あなたは年がら年中引きこもろうとするでしょうが」


 油断するとすぐ漫才のようなやり取りを始める天照大神とサラスヴァティに、思わず苦笑してしまう春菜。


 どちらも立派な体格とエロボディをお持ちの美女だが、その会話は澪と真琴のやり取りと変わらない。


 もっとも、イメージ的には日本古来のストーンとした体形の美を体現していそうな天照大神がボンキュッボンなのは、恐らくサブカルチャー、それもエロ方面の作品の影響で変化してしまっているからなのだろうが。


「そういう訳だから、神々との会話の時は、向こうが振ってくるまで地上の娯楽作品の話題は避けるのがベター。日本ですら、私とかサラスヴァティみたいに笑って流してくれる神ばかりじゃない」


「そうね。逆に、暦がどうとかそのあたりは深く気にする必要はないわ。年末年始と一年の長さが統一されたおかげで何かと便利になってるから、いちいち文句を言う神もほとんどいなくなってるし」


「えっと、それってやっぱり地上の神事とかが今の暦に合わせて行われている、って言うのも関係していますか?」


「それは当然、影響している」


 春菜の確認に、よくできましたとばかりに言い切る天照大神。


 実のところ、地上の影響を受ける割にはそれほど地上のことを気にしていない神々にとって、暦など争う理由としては薄い。


 そもそも、一世紀だろうが一年だろうが一日だろうが同じような時間感覚で過ごす神々にとって、一年が何日かというのは大して影響しない。


 新年会ですら、感覚的には一日のうち何度かある飲み会の一つに過ぎなかったりする。


「あと、これはたぶん誰かから聞いていると思うけど、地上の宗教の戒律とか対立は、私達の付き合いにおいて一切気にする必要はない。そもそも同じ神をあがめながら違う宗教として対立してる事例が多すぎて、いちいちこっちが気にしてられない」


 暦の話から地上の事を連想したのか、人間として生きている分には割と重要な要素についてアマテラスが説明する。


「初めて新年会に参加したとき、私達の面倒を見てくれた仙人の方からそのことは教えていただいています。その時は人間が勝手に決めた戒律なんて知ったことじゃない、っていう事なのかと思っていましたけど……」


「基本的にその理解でいいわ。そもそもの話、宗教の戒律なんて大部分はどこの宗教でも大差ない当たり前の生活規範だし、それ以外も大部分は地域ごとに特化した『守らなければ中毒などで死ぬ』という内容を記しているだけよ。私達からすれば、わざわざ神と紐づけなければ守れない方が不思議で仕方がないわね」


 春菜の確認内容を肯定し、ついでに前々から思っていたことを口にするサラスヴァティ。


 神々からすれば、いい加減生活規範ぐらい神の名に頼らずとも守れるようになってほしい、という感じらしい。


「宗教の対立は基本的に、水と食料の奪い合いとか権力争いとかに勝手に私たちの名前を使ってるだけ。実際の神々の間での対立と、地上の宗教対立は九割以上は一致しない」


「九割ということは、一割ぐらいは神様が関わってるんですが……」


「人と神が近い時代はよくあった。ただ、今でもそれを引きずってるのはごく少数だし、発端はそうでも今では全く別物に変質してる」


 地上の宗教関連に関するもう一つの注意事項を、春菜に説明する天照大神。


 一見すると当たり前に感じるようなことではあるが、ちゃんと説明しておかないと現状を確認する前に攻撃を仕掛けに行く新神が時折出てくる。


 特に排他的で狂信的な国・地域の出身だと、この辺りのリスクは非常に高くなる。


 そういう意味では、日本出身故に民族および宗教に関してはニュートラルな春菜は、この辺りの教育が楽な存在ではある。


 ただし、自己コントロール不能な種類の権能を持っている上無駄に力が強くて他も色々コントロールが甘く、今の今までこの手の教育が一切行われていない、という点ではこれまでの問題児と問題児ぶりではさほど変わらないのだが。


「で、それを踏まえて、各神話との付き合いで気をつけなきゃいけないことを説明すると……」


 春菜がいろいろ納得したところで、サラスヴァティが本題について説明する。


 実のところ、天照大神は主神な上に引きこもりがちな性質上、その手のことについてあまり深い事情は知らない。


 なので、時折春菜と一緒に驚いたり感心したりしている。


「……なんだか、タブーの内容が人間のコンプレックスとあんまり変わらないような……」


「それは当然。だって、私達をもとに人間が生まれているし、生まれた人間の活動や感情から私たちも影響を受ける」


「えっと、じゃあ、恐竜とかが文明を持ったりしたら、神様の姿も恐竜みたいになるんですか?」


「昔はそうだった。今はそうじゃなくなってる」


「昔は……?」


「うん。特殊な滅び方をしたから化石も文明の痕跡も残っていないけど、恐竜が文明を持っていた時代があった。ただ、文明を持っていた恐竜の姿は、あなたたちがあっちの世界で見た竜人族みたいな感じになってたけど」


 考古学の世界に激震を走らせる証言が、天照大神の口から放たれる。


 それを聞いた春菜が思わず固まっている間に、さらに追撃が飛んでくる。


「あの頃は私たちもトカゲだったり鳥だったりの要素が強かったわよね」


「うん。でも、痕跡とか一切残ってないのに、龍とかみたいなかつて存在したものが神話とかにはばっちり言い伝えられてるのって、不思議なものがある」


「遺伝子に記憶として残っているのかもしれないわね」


「……」


 神々による、衝撃的にもほどがある会話。その内容に言葉も出ない春菜。


 そんな春菜を横目に、各神話の神々が白亜紀やジュラ紀の頃どうだったのかで盛り上がる天照大神とサラスヴァティ。


「お二方とも、春菜さんが固まっておられますので、そのぐらいになさってはいかがですか?」


 そんな春菜を見かねて、今まで黙っていた天鈿女命が口を挟む。


「ああ、すまない。なかなかこういう話をする機会がなかったから、つい盛り上がってしまった」


「いくら事実と言えど下手をすれば単なる悪口合戦になるから、こういう機会でもないとなかなかあの頃の思い出話ってできないからついね……」


「みんなあの頃は脛に傷を持ってるから、基本黒歴史」


「あの、それを私が知ってしまうのってどうなんでしょう……」


「わざわざ当人に面と向かって自分から口に出さなければ、特に気にする必要もないわ。触れないようにするって言うのが暗黙のマナーっていうだけで、別に秘密って訳でもないことばかりだし」


 恐れおののく春菜に対して、軽くそんなことを言ってのけるサラスヴァティ。


 その後も色々と聞かなくていい話を聞かされまくった結果、知りたくもないのに各神話の黒歴史や弱みなどに大変詳しくなってしまう春菜であった。

感想欄で元祖引きこもりだけあって天照大神が引きこもりそう、みたいなことを言われたせいで、気が付いたら完全に澪の同類になってしまったわけですが……。


あと、さすがに色んな意味でアウトなので、うちの話の弁天様は「きゃる~ん」とか「スワティラーラ!」とか言ったりはしません。


なんにしても、こういう話を書いても即座に命の危機につながらないだけでも、日本在住の日本人でよかったとしか言えない今日この頃……。

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― 新着の感想 ―
[一言] >いい加減生活規範ぐらい神の名に頼らずとも守れるようになってほしい そりゃそうだ
[一言] 春菜がずっとこのままでとか言うと本当になりかねないから怖いな
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