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第41話

「「「「「うわあ……」」」」」


 花火大会の三日後。澪の提案に従って、今まで足を踏み入れたことがない神の城の草原に来ていた宏達は、予想外に美しい景色に思わず声を上げていた。


 この草原は神の城の敷地内にある場所だが、初期設定で設置された採取場所とは違う場所である。


 そのため、特別に用事があるわけでもなく、澪に言われるまで存在自体を全く意識していなかったのだ。


 神の城内部にはこういう場所が何カ所もあるため、エアリスとアルチェムを向こうに送り返せるまで、その手の意識から漏れていた場所を確認するという名目でデートをすることになったのである。


 余談ながら、冬華とローリエは何やら空気を読んだらしく、適当な用事をでっちあげて別行動だ。もっとも、冬華はともかくローリエに関しては、やろうと思えばいくらでもやることはあるので、気を使って用事をでっちあげただけという訳でもないのだが。


「ここ、初めてだけど、こんなにきれいだったんだ……」


「せやなあ……」


 神の城の敷地内では数少ない、初期設定以降そのまま放置されてラーちゃんたちを含めて誰も手を出していないエリア。そのエリアの美しさに、そんな感嘆の声を漏らす春菜と宏。


 草原は、色とりどりの夏の花が咲き乱れ、鳥や虫の鳴き声が優しく聞こえてくる風光明媚な環境になっていた。


「それにしても、ミオさん。ここに誰も来たことがないって、よく気がつきましたね」


「前に用事があって一人でここに来た時に、ローリエが教えてくれた。その時から、師匠や春姉達と一緒に来れる時期を待ってた」


「なるほど……」


 アルチェムの問いに、正直に答える澪。澪の答えに納得するエアリスとアルチェム。


 が、微妙に引っ掛かりを覚えた宏と春菜は、澪に対してさらに突っ込んだ質問を繰り出す。


「で、澪ちゃん。その用事って何?」


「うちらに黙って単独で、っちゅうんは、ちょっときな臭い感じやでな」


「……黙秘権」


 春菜と宏に詰め寄られ、目を泳がせながらタバコを吸うジェスチャーで誤魔化そうとする澪。そうはさせじと、春菜が澪の両肩をつかむ。


「み・お・ちゃん?」


「……ユニコーンの角とかもろもろ使って、身長伸ばせないか頑張ってた」


「そういう事は、ちゃんと報告しようね」


「……ん」


 にっこり笑って問い詰めた春菜に負け、観念して何をしていたかを正直に答える澪。


 まだフェアクロ世界で日本へ帰る手段を探していた頃、澪はユニコーンの角を使って背と胸を増やす薬の研究開発をしていた。


 結果として薬事法に引っかからないレベルで一応効果自体はある、いわゆるトクホ(特定保健食品)レベルの効能を持つ物の開発には成功しているが、所詮健康食品レベルであったため、澪の体型にどれほど影響があったかは最後まで分からなかった。


 どうやらその時の薬をベースに、胸を大きくする効能を捨てて身長を伸ばす方に特化するよう開発を続けていたようだが、それがいつからか、またどの程度うまくいっているのかに関しては、現在の澪を見ている限りではかなり微妙なところであろう。


 というより、下手をするとさらに努力が裏目に出ているのではないか、という疑惑が付きまとう成長の仕方しかしていない。


 澪の回答にそのあたりのことまで察してしまった春菜は、ため息をつきつつとりあえず釘を刺し、気分をピクニックへと戻した。


「それにしても、見たことない花がいっぱいだよね」


「せやなあ。このあたりは特にいじってへんから、多分自然発生やねんけど、それにしては種類多いやんなあ」


「そうだよね。仮に自然発生じゃないとしたら、出所はどこなんだろうね」


 春菜の言葉に少し考え込み、もっと致命的な問題に気がつく宏。それを素直に口にする。


「っちゅうかそもそもの話、鳥とか虫の声聞こえてきてるけど、そいつらはどっから湧いたんやろうなあ」


「……虫は、ラーちゃんからの派生?」


「あり得へんとまでは言わんけど、それはそれで軽くホラーやない? 後、鳥に関する答えにはなってへんし」


 宏に突っ込まれ、若干目を泳がせながらうなずく春菜。同じにしか見えない芋虫からコオロギやキリギリス、セミなど鳴き声を上げる虫が次々と羽化してくる姿を想像し、軽く引いてしまったのだ。


 基本的に芋虫から羽化する虫はさなぎを経由するので、春菜が想像したように芋虫の姿からダイレクトに成虫になることはない。ないのだが、そもそもラーちゃんたちに関してはさなぎになった個体を見たことがないため、もぞもぞ動いている芋虫の背中が急に割れて中から虫が出てくるという、一歩間違えればグロ画像直行という映像を想像してしまったのである。


 そんな宏達の前を、恐らくトンボだと思われる虫がすっと横切っていく。


 思わず権能その他で限界まで動体視力を強化し、そのトンボを観察する宏達。


「……見た目は、普通のトンボだね」


「ん。多分、地球に持ち込んでもまず分からない程度には普通のトンボ」


「私はトンボには詳しくないので、普通かどうかは断言できないのですが……」


「えっと、全く同じものかどうかはともかく、オルテム村には似たようなトンボが飛んでました」


「……普通のトンボをそういう観点で観察したことあらへんから、外見に異常がない限りは普通かどうかの判断できひんわ」


 マイペースに飛び回るトンボをじっくり高速で観察し、そう結論を出す一行。


 さりげなく運動神経に多大な難を抱えるエアリスまでその手の能力を身に着けているあたり、着々と迂闊に宏以外には嫁げない状態へ進化している。


「……ねえ、春姉」


「どうしたの?」


「ある程度は仕方ないにしても、ボクが思ってたピクニックデートと違うにもほどがある」


「ああ、うん……」


 思わずそのままの勢いで胡散臭さすら感じるほど普通に見えるトンボや花、鳥などを観察して考察すること約二時間。ついに素に戻った澪が、自分たちの現状を振り返ってそんな苦情を口にする。


 澪の苦情に、遠い目をしながら同意する春菜。この手の脱線はいつものこととはいえ、いつも通り過ぎて泣けてくる。


「とはいっても、デートでピクニックって、どんなことするのかよく分かんないんだけど……」


「一般的なイメージだと、花畑で追いかけっこ、もしくは手をつなぐなり腕を組むなりしつつ花とか景色を見て回って、お昼ご飯をビニールシートの上で食べてから男の人を膝枕、とか?」


「……無理じゃないかな?」


「……ん、無理」


 春菜に問われて漫画などの娯楽作品でよく見るピクニックの情景を口にし、突っ込みを受けるまでもなくそのあまりの現実味のなさに軽く絶望する澪。春菜の方も、四対一という特殊な状況で男性が特殊物件とはいえ、デート一つ満足にできない自身の恋愛偏差値の低さに、本気で泣きたくなっている。


 さらに問題なのは、宏当人はもちろんの事、アルチェムもエアリスもこの件では全く役に立たない事であろう。


 エアリスに関しては、そもそも王族にデートなどという概念があろうはずもなく、未婚の男女交際といえば基本はお茶会や夜会、後はせいぜい観劇かお互いの屋敷の庭などを散策する程度。それとて、王族となるとまず滅多なことではさせてもらえないという箱入りぶりだ。こういう時にどうすればいいかなど、思いつくはずもない。


 アルチェムはアルチェムで、エアリスとは逆の意味でデートという概念がない環境で育っている。基本的に農作業をしながらなんとなく近い年頃の相手を見初め、泥縄引きや収穫祭などのイベントで一緒に行動し、なんとなく結婚して子供を作り、子育てを終えたら何となく浮気して第二子をはらむ、もしくは仕込むというのが基本パターンだ。


 浮気以降の部分はセシリアと再会するまで知らなかったとはいえ、逆にそれ以前の部分はアルチェムの恋愛観にしっかり根付いている部分だ。特別に男女で遊びに行って何かする、という点に関してアイデアを出せないのも仕方なかろう。


「……とりあえず春姉、膝枕だけでも試してみる?」


「……その言葉を聞いただけで宏君からとんでもない緊張感が伝わってきてるんだけど、宏君がいいのなら一応試すだけは試してみようか……」


 今日は他にも予定している行き先があるとはいえ、このまま何もせずにすごすごと撤退するのは、何のために勝負服を用意してもらってまで挑んだのか分からない。


 そう判断して、覚悟と気合を入れて膝枕を試す決断をする春菜。宏のほうも、何やら悲壮感たっぷりの表情で、だが決して流されたわけではなく、自身の判断と決意を持って決めたという様子でうなずく。


 膝枕をするのに気合を入れる必要がある時点である意味アウトなのだが、そんな事実は言われずとも分かっているのでスルーである。


「えっと、宏君」


「お、おう……」


 乗せる側も受け入れる側も一触即発という感じの緊張感を漂わせながら、お互い人生初となる血縁以外との膝枕に挑戦する宏と春菜。


 春菜の性格や体形にふさわしく、柔らかいながらもしっかりと宏の頭を受け止める、枕としての機能は極上だと言える太もも。その女性らしい感触に男性の本能とヘタレの本性が宏の中で大暴れし、落ち着かないにもほどがある状態になる。


 しかも、お互いの顔が見えるようにと仰向けに頭を置いたため、春菜の迫力あるバストが宏の視界の少なくない割合をダイレクトに占拠している。


 これで緊張するな、というのは無理がある。


 この時点でまだ逃げ出さないあたり、宏の側にも現状に対して相当思うところがあるようだ。


「ど、どうかな……?」


 その緊張が伝わってくるだけに、春菜の方も不安が募る。


 そんな状況でも、宏の頭の重みと体温に妙な安心感と喜び、ときめきを覚えてしまっていたりする。


「……宏君?」


 問いかけに反応しない宏が心配になり、自分の胸が邪魔でいまいちはっきり見えない宏の表情をどうにか見れないかとやや前かがみになる春菜。


 春菜が前かがみになることで実に柔らかそうな双峰が急接近し、思わず悲鳴を上げそうになる宏。完全にヘタレの本性が男の本能をねじ伏せた格好である。


 その宏の反応に気がついた春菜が、大慌てで体を起こす。その際の挙動で若干宏の顔を胸がなぶる形となったが、幸か不幸か服と下着の厚み分が当たった程度で本体に届くほどではなかったため、宏がその柔らかさを味わう事はなかった。


 もっとも、宏の顔が春菜の胸に接触したこと自体はこれが初めてではないのだが。


「……これ以上は無理かあ……」


「……さすがに相当無理があるで、これ……」


 膝から転げ落ちるように脱出した宏が、太ももと巨乳によるプレス攻撃の恐怖に慄きながら春菜に言う。


 いくら覚悟を決めたところで、雄大な双峰が圧迫するように迫ってくるのにまでは、まだまだ耐えきれないようだ。


 その一部始終を見ていた他の三人も、自分の胸をペタペタ触りながらシミュレーションし、顔を絡めつつ厳しい表情を浮かべている。


「ハルナ様、ミオ様。膝枕は大変魅力的ですが、手をつなぐことすら長時間はためらわれる現状では、少々無茶が過ぎるのではないかと思います」


「というか、ミオさんの話聞いて、正直すごく現実味ないなあ、って思ってたんですけど、実際に膝枕してるの見たら予想以上でしたよね」


 頭の中でシミュレーションをして出した結論を元に、エアリスとアルチェムが更にダメ出しをする。少なくともハグぐらいはできないと、膝枕は無理くさい。


 はっきり言って、今の宏達では、全然レベルが足りていないのだ。もっとソフトなところから経験値を積み上げてレベル上げをしないと、膝枕なんて高度な真似は成功率ゼロである。


 そもそも、デートにレベル上げもくそもあるのかという意見はあろうが、彼らに関してはそうとしか表現できないので仕方がない。


「いろいろあきらめて、ちょっと早いけどお昼食べて次行ってみよう」


 自分たちのポンコツぶりと無能さにガックリしながら、とりあえず昼食を食べてここでのピクニックを切り上げることを提案する春菜。


 それを聞いた澪が小さく首をかしげる。


「お昼すませて次で仕切り直しするのは賛成だけど、ここ調べなくていい?」


「それしちゃうと、いつもの採取とか畑仕事と大差なくなりそうだし、多分際限なく採取作業を続けちゃう気がするんだよね」


「ん、了解」


 春菜の言葉に納得し、意見を完全に取り下げる澪。ただでさえデートとしてはかなり微妙な状況なのに、採取モードに入ってしまえば今回のチャレンジに完全に止めを刺してしまう。


 結局、風光明媚な場所で美味しい昼ご飯を食べた、ということ以外、デートらしい要素も楽しい思い出も作れないまま、草原でのデートは終わりを告げるのであった。








「……これはひどい」


 何かあった時のフォローのために、また、達也と真琴への報告のために、他の業務をこなしつつ草原でのピクニックの一部始終を見ていたローリエが、誰でも分かるレベルでの駄目さ加減に思わずつぶやく。


 何がひどいといって、デート中とは思えない会話がポンポン飛び出すのがひどい。


 さらに、普通の男性なら血の涙を流してうらやむであろうシチュエーションで、普通にビビッて膝から転げ落ちるという結果しか生まれないのがまたひどい。


 バイオリズムや精神的な負荷のメーターを見ても、膝枕中の宏はあそこまで怯えるほど追い詰められてはいなかった。なのにすぐに逃げを打つのは、もはや本人にもどうにもならない本能のレベルで癖として染みついているとしか思えない。


「……やはり、これはタツヤ様とマコト様に最初からリアルタイムでご覧いただくべきだったかもしれませんね」


 お通夜のような空気で弁当を食す宏達を見て、割と深刻そうな表情でそんな結論を出すローリエ。


 言うまでもない事だが、ローリエ本人には、男女交際の経験などない。


 が、今の体を得てローリエとして新生する際、世界樹を通してそのあたりのデータは知識として得ている。それも、フェアクロ世界だけでなく、地球のものもだ。


 そのデータと照らし合わせると、宏達のポンコツぶりは、その原因も含めてなかなか深刻な状況にあるのは断言できてしまう。


「マコト様はともかく、タツヤ様がお仕事なのは少々痛手でしたね、これは……」


 結局最後までお通夜のような空気が払拭されないまま昼食を終える宏達を見て、何とかして対策を取らねばと頭をフル回転させるローリエ。


 結局、最終的に達也と真琴の端末にダイジェストとフルバージョンでの映像データを送り込み、合間を見て確認してもらう事で可能な限り迅速に対処してもらう、という手段を取りながら監視と日常業務を続けるローリエであった。








「……海!」


 目の前に広がる水平線に、澪が珍しく妙に気合の入った声を上げる。


 昼食を終えた宏達は、デートの仕切り直しに神の城の外側にある海岸へと遊びに来ていた。


「あっちの方、設定した覚えのない島とかできとんなあ」


「というか、城の敷地内とダンジョン以外、ほとんど手をつけてなかったよね、確か」


「せやなあ」


 意外と複雑な海岸線を見渡し、人間の視力ではとらえられない水平線の向こうの地形なども確認した宏と春菜が、順調に育っている神の城の外側の世界を確認してうなずきあう。


 完全な球体になるまではまだまだかかりそうだが、広がった先にじわじわと大陸ができつつはある。


 このまま順調に百年ほど経てば、一つ二つは大陸が完成するであろう。


 さすがに完全な球体になり、宇宙が成立するまでとなると千年ぐらい必要そうだが、それでも地球ができてから陸上生物が発生するまでのタイムスケールと比較すると、あっという間だと言える時間である。


 余談ながら、亜空間に引っ込んでどこの世界にも顕現していない状態で神の城から見える空に関しては、太陽や月は本物だが星空は現時点では全部、ただの幻像である。


 それらの一部が実体となった時点で、神の城の外部空間は新たな世界として完全に成立するのだが、神の城という基点がなければ千年でそこまでは到達しない。


「それで、どないする?」


「師匠、春姉。せっかくだから、足だけでも海に入りたい」


「波打ち際でちょっと水遊びするぐらいはしてもいいかも」


 宏に話を振られ、真っ先に澪が要望を口にする。なんだかんだといって、海水浴はまだ一度しかしていないのだから、たとえ足首だけであっても、海に入れる機会があるなら入りたいのだ。


 そんな澪の要望に、春菜がそれも楽しそうだ、という感じでうなずく。エアリスとアルチェムも特に異存はないようで、すでに水遊びのために靴を脱ぎ始めている。


「ほな、ベースとして海の家でも用意したほうがええか」


「師匠、師匠。今から建設するの?」


「倉庫から出せば材木とかは十分あるから、そのつもりやけど」


「ヒロシ様。今日はできるだけそういう規模が大きめのものは……」


「せやなあ。ほな、コアの機能で海の家設置、でええか」


 エアリスにたしなめられ、あっさり方針を変更する宏。


 その様子にほっとしつつ、思わず罪悪感を抱くエアリス。


 正直、こういう部分を縛るからデートが上手くいっていないのではないか、と思わなくはないのだが、そこを縛らねばいつもと同じになってしまう。


 そんなジレンマに悩むエアリスの目の前で、海の家としては比較的立派なものが一瞬で設置される。


「今日は水着はなしやけど、このぐらいの設備がある海の家は建てといてもええやろ」


「そうだね。今年は無理でも、来年とか再来年とかに、今度はちゃんと海水浴しに来れるかもしれないし」


「来年は澪が受験やから、ちょっと厳しいんちゃうか?」


 そんなことを言いながら、海の家の冷蔵庫に持ってきていたジュースやお茶を淹れて冷やし始める宏と春菜。


 草原はそれほどでもなかったのだが、海岸は結構暑い。なので、良く冷えた飲み物があるに越したことはないのだ。


「で、水遊びやねんけど、僕はちょっと嫌な予感するから、かき氷の準備でもしながらここで見とくわ」


「……嫌な予感?」


「何っちゅうかこう、な。至近距離やと、アルチェムが怖い」


 宏の言葉に、当のアルチェムを含めた全員が納得する。幸いにして、本日の服装は少々水にぬれたぐらいでエロい事になる素材でもデザインでもないが、それでもアルチェムの盛大なエロトラブル的自爆に巻き込まれるとどうなるか分からない。


 その際、宏が近くにいると、遠くで様子を見ているケースよりはるかに悲惨な状態になることは断言してもいい。


 宏が混ざっていなければ単にずぶぬれになって若干ヤバい感じに服が乱れる程度で済むのが、宏が混ざると全員派手に濡れた状態で服が脱げ、下着など致命的なものが流されて回収不能、という結果になるぐらいにはひどくなる。


 場合によってはもっとえらいことになる可能性もあり、そうなると春菜達の方もどんな態度でいればいいのか分からなくなる。


 すでに大方完治して、単なる女性に対してヘタレなだけに近い現在の宏なら、これまでほど派手におびえることはなかろう。


 が、例えヘタレでなくとも対応に困って取り乱しそうになるであろう状況ではある。


 それで問題になるような間柄でもないが、いろんな意味でまだ早いのも間違いない。


「そういう訳やから、あんまり体冷やさん範囲で遊んでき」


「うん。ちょっと遊んで来たら、かき氷食べて今度はボートか何かで沖の方に出ない?」


「せやな。それやったらアルチェム的な意味で転覆が怖いし、動力付きのそこそこちゃんとした奴の方がええな。あっちに桟橋設置して、適当な船出しとくわ」


「了解」


 宏の言葉にうなずき、海の家の備品からサンダルを人数分借りて波打ち際に向かう春菜。途中で澪たちにもサンダルを渡し、みんなで小走りに海へと突撃する。


 その様子を見守りながら、かき氷の準備を進めていく宏。といっても、かき氷機にセットするための氷以外は、すべてありものの流用ではあるが。


「とりあえず、イチゴにメロンにマンゴー、レモン、ブルーハワイ、みぞれ、あんこ、抹茶、練乳っちゅうところか?」


 倉庫の中を漁り、かき氷のシロップやトッピングを用意していく宏。基本的にこれらのシロップは、ほとんどが国民的かき氷系アイスバーを再現した際についでに作ったもので、香料と着色料以外はすべて同じという、由緒正しい庶民的なかき氷シロップである。


 ちゃんと果汁その他を使って本物志向で作ったシロップもあるにはあるのだが、海の家で食べるならこれだろうという事で、あえて安っぽいほうにしているのだ。


 おかげで高級素材を使わざるを得なかった小豆や練乳との落差はすさまじい事になっているのだが、ここまで極端ではないだけで、現実のかき氷でも往々にして起こっている事なので気にしてはいけない。


 特にあんこに関しては、小規模な和菓子屋のかき氷だと市販のシロップに自家製のあんこで金時系を作っていることも多いため、レベルの差がすごい事になっているケースはいくらでもある。


「……なんぞ起こるとしたら、そろそろか?」


 楽しそうに波打ち際できゃあきゃあとはしゃいでいる春菜達を見るとはなしに眺めながら、試運転で作ったブルーハワイのかき氷をつつきつつそんなことをつぶやく宏。楽しそうな春菜達に文字通り水を差すことになりそうだが、最初からそのリスクを踏まえて遊んでいるので、盛り下がることだけはないだろう。


 などと余計な事を考えたのが悪かったか、目の前で澪とエアリスが急に大きく引いた波で砂に足を取られてバランスを崩し、春菜とアルチェムに勢いよくぶつかる。


 どうにか踏みとどまった二人に追い打ちをかけるように、今まで静かだった海が突如大波を春菜達にたたきつける。


 威力的には体を持って行かれるほどではないが、澪やエアリスを受け止めた結果、バランスを取り直す際に頭が下がった体勢になっていた春菜とアルチェムは、もろに頭上から波を食らってしまう。


 さすがにその体勢で頭から大波を食らえば立っていることなどできず、四人そろってずぶぬれになりながら砂浜につんのめる。


 波が引いた後には、なかなか見事な格好になった春菜達が残されていた。


「……一緒になって遊んでなくて、よかったで……」


 距離があるため詳細が分からない事を人知を超えた何かに感謝しつつ、バスタオルや服の洗濯その他が終わるまでの着替えを準備する宏。


 その間にも見事にやっちゃった状況に楽しそうに笑いつつ、春菜達はせっせと最低限の身づくろいをする。


 ちなみに、一番派手に服が乱れたアルチェムと澪は、少なくともゴールデンタイムにモザイクなしで放送するのは不可能、と断言できるぐらいにはしっかりとポロリしていた。


 一番被害が少なかったエアリスはブラの肩ひもが見えた程度、春菜はそれにプラスして胸の谷間と右胸のカップの上の縁から二センチ程度が露出する、といった乱れ方をしている。


 使われている生地が透けるものではなく、また煽情的ではなく芸術方面に振っているとはいえ、デザイン的に最初から結構きっちり綺麗に体のラインが出る服だったため、幸いにしてずぶ濡れになったからといって大した影響はない。きちっと服を整え直せば、派手に濡れたなと笑い話で済ませられる程度である。


 が、それでもさすがに潮水なのでちゃんと洗って手入れして乾燥させなければ、あとからいろいろ問題が出てくる。


 それは春菜達の体についても同じなので、身づくろいが終わったら水遊びをさくっと切り上げて、四人そろって海の家まで駆け戻ってきた。


「派手にやったなあ」


「うん。油断はしてなかったんだけどね」


「シャワーの準備は出来とるから、体洗ってき。服はローリエに任せとけば、十分もあれば何とかしてくれるから」


「うん」


 宏に促され、シャワーブースへと消える春菜。その後を追って、他の三人も移動する。


『そういう訳やから、春菜さんらの服、何とかしたって』


『お任せください。十分といわず、五分以内に新品同然に復元して見せます』


 宏に頼まれ、胸を張ってそう断言するローリエ。管理者として宏の権能の一部を使える彼女にとって、神様的な意味で特殊な素材を使っていない服を新品同然にするぐらい造作もない事である。


 そもそもの話、デザインはともかく使っている素材や技術だけを言うなら、本日春菜達が着ている服は日本製ゆえにドールサーバントでも作れるものだ。


 というのも、魔力その他が絡まない、純粋な縫製や紡織の技術自体は平均を取れば日本の方がはるかに優れているとはいえ、道具とスキルがなければ針すら通らない布、などというものはさすがに日本には、というか地球にはない。特殊な針でなければ縫えない布はあっても、その針さえあれば縫うだけなら素人でもできるのだ。


 そして、魔力が絡まない作業なら、神の城のドールサーバントはどれだけ複雑で難しい作業でも再現可能である。


 もっとも、このあたりの事は、宏が職人から創造神へと神化した影響が強く出ている部分なので、同じように創造神が作ったドールサーバントでも研究者畑だったり魔導士出身だったりする場合は、こうはいかない。


 その代わり、宏がいまいち得意ではない分野はそういうタイプの独壇場なので、どんな前歴の創造神が優れているとは一概に言えないのだが。


 なお、五分というのは過去の実績から割り出した、春菜がシャワーを浴びて体をきっちりぬぐい、髪を乾かし終えるまでの最短時間である。


 無論、権能を使えば一瞬で終わるのだが、十分ほどでローリエが何とかする、という話が出ているのにそんな無駄な事はしない。


 無駄な事はしないが、今回のようにシャワーで潮を落とすだけ、というような場合は、春菜の入浴時間はびっくりするほど短くなる傾向がある。


 こればかりは身についた習慣のようなものらしく、ゆっくりしてもいいと言われても無意識に手早く終わらせてしまうらしい。


 だったら宏がその場で服を元に戻せばいいのでは、と言われそうだが、洗濯機に放り込む以上の事で身近な女性が直前まで着ていた服に手を出せるようなら、先ほどのキャッキャウフフを遠巻きに眺める、なんて寂しい事はしていない。


 では春菜はというと、まだまだこのあたりのコントロールは微妙に怪しく、今回のケースで下手に手を出すと服になる前まで巻き戻しかねないので、最初から自力で何とかする発想はない。


 その気になればほぼ何でもできるというのに、この程度の事ができない所がこの二人らしいと言えばいえるだろう。


「とりあえず、ちょっとあったかいもんを何か……。せやなあ、ミルクセーキでも用意して、かき氷は小さいカップでええか」


 そう言いながら、海の家のガスコンロに鍋をセットして湯を沸かし、さくっと作ったミルクセーキを湯煎で温め始める宏。


 ミルクセーキが熱すぎない程度にいい感じに温まったところで、ローリエからの連絡と共に服が戻ってくる。


 さらに数分後、予想通り年頃の女性としてはかなり早く着替えを終えた春菜が、シャワーブースから出てきた。


「いくらお湯のシャワー浴びたっちゅうても、何やかんやで体冷えとるやろうから、ミルクセーキあっためといたで」


「あ、うん。ありがとう」


「かき氷は、それ飲んでちょっと落ち着いてからやな」


「そうだね」


 宏の言葉にうなずきながら、温かいミルクセーキに口をつける春菜。優しい甘さとちょうどよい温かさがじんわりと広がり、なんとなく気持ちがほっとする。


 先ほどまでのテンションは完全に落ち着いてしまったが、春菜的には盛り下がったというよりあるべき姿にたどり着いたという印象だ。


「で、春菜さんはかき氷は何味がええ?」


「イチゴミルクかな」


「了解や」


 ミルクセーキを飲み終わるのを待って春菜のリクエストを聞き、かき氷機を動かしてガリガリと氷を削っていく宏。ほどなくして、小さめの皿にこんもりとかき氷の山が出来上がる。


 そこにチープな赤色のシロップを適量かけ、練乳を垂らしてスプーンを添え、春菜に手渡す。


「ほい」


「ありがとう」


 宏からかき氷を受け取り、早速スプーンを氷の山に突っ込もうとしたところで、澪とエアリスがほぼ同時に出てきた。


「あっ、かき氷」


「あったかいミルクセーキあるから、先それ飲んでからにしよか」


「ん」


 早速かき氷に食いつく澪に対し、ミルクセーキの存在で牽制する宏。宏の言葉にうなずき、今飲むのに適温のミルクセーキを受け取ってちびちびと飲み始める澪。


 澪にならって同じようにミルクセーキを飲んでいたエアリスが、ほっと一つため息をつく。


「女の子の風呂とかシャワーは時間かかるもんやけど、それ踏まえてもなんかアルチェム遅いなあ」


「アルチェムさんは、どうにも髪の毛にいろんなものが派手に絡んでしまっていまして、今一生懸命洗い流しておられます」


「なるほど。まあ、ちゃんとは見てへんかったけど、アルチェムは派手に食らってた感じやからなあ」


「ボク、巻き添え食らって、アルチェムとおそろいって感じで前がフルオープンになった。よくボタン飛ばなかったと思う」


「そういう情報はええから」


「ブラまで外れたのは、フロントホックが敗因だと思う」


「そういう情報は要らん、っちゅうてるやろ?」


 しつこくポロリ情報をぶつけてくる澪にジト目で突っ込みながら、再びかき氷機の前でスタンバイする宏。


「で、自分らは何にする?」


「ボクはマンゴーミルク」


「そうですね……。みぞれをいただいてもよろしいでしょうか?」


「了解や。にしても、エルはまた渋いとこ突くなあ」


「少量なので、シンプルなものがいいかな、と思いまして」


 珍しいところを突いてくる、などと妙なことに感心している宏に、小さく微笑みながらそんな答えを返すエアリス。かき氷に限らず、エアリスは妙に渋い好みを見せることが多々ある。


「ほい、おまたせ」


「ありがとうございます」


「ん、マンゴーミルク美味しそう」


「っちゅうたかて、練乳はともかくシロップはぶっちゃけ、色と匂いがちゃうだけの砂糖水みたいなもんやからなあ。見た目とちごてものすごいチープな味わいになっとるはずやで」


「海の家のかき氷は、それが風情」


 宏の余計な一言に、最初からそういうものだと分かっている澪が妙に力強くそう反論し、表情を動かさず実に美味しそうにマンゴーミルクのかき氷を味わう。


 その隣では、エアリスがどことなく幸せそうに目を細めながら、頭が痛くならないように量を加減しつつみぞれを食べている。


「しかしこう、毎度のことながら無色透明に近いみぞれシロップは、かかってんのかどうか見てもよう分からへんなあ」


「かけた直後は表面が解けるからまだ分かるんだけど、時間たつと自然に解けたのかシロップがかかって解けたのか分からなくなるよね」


 量が減ってきて単に氷水にしか見えなくなってきたエアリスのかき氷を見ながら、そんなどうでもいいことを口にする宏と春菜。


 そのあまりのどうでもよさに苦笑しつつ、ほぼ単なる砂糖水になってきた残りのかき氷を飲み干すエアリス。


 エアリスが器を置いたところで、ようやくアルチェムがシャワーを終えて出てくる。


「お待たせしました」


「おつかれさん。とりあえずミルクセーキ飲んで一息入れ」


「はい、ありがとうございます」


 春菜達同様に適温に温められたミルクセーキを飲んで一息つき、少しまったりするアルチェム。


「で、今のうちにかき氷用意しとくけど、アルチェムは何がええ?」


「えっと、確か宇治金時でしたっけ? 緑茶と小豆が乗ったものを食べてみたいです」


「ほいほい。せっかくやからミルク宇治金時にするか?」


「そうですね、お願いしてよろしいですか?」


「おう」


 アルチェムの注文にこたえ、氷をがりがり削って抹茶シロップをかけ、手早くあんこと練乳をトッピングする宏。その手際は、かき氷屋をやれる領域に達している。


 もっとも、今時の日本では、夏場でもこんなチープなかき氷一本で勝負するのは不可能だろうが。


「そういえば、宏君のかき氷は?」


「自分らが水遊びしとる間に、機械の試運転で作った奴食べたで」


「何味?」


「誰も選ばん予感があったブルーハワイやな」


「ああ、確かに、誰も選ばなそうだよね」


 春菜に問われ、自分の選択を告げる宏。宏の答えに、思わず納得する春菜。


 正直な話、青という微妙な色に加えて名前からもどんな味かよく分からないブルーハワイは、子供の頃はまだしもそれなりにいい年になった今では、どうにも選択肢に上らない感じである。


 これが、同じ青でもソーダ味といわれると全く気にせず選択肢に入れるのだから、人間というのは身勝手なものだ。


「結果的に、定番のはずのメロンとレモンがあぶれたわけやけど」


「人数的に、被りがなくても誰も選ばないものは出てくるから、しょうがないよ」


「まあ僕がひねくれたっちゅうんもあるけど、エルがまさかのみぞれやったからなあ。普通にあぶれそうな奴が両方選ばれるっちゅう珍事が発生した訳や」


「ちなみにボク、メロンミルクとマンゴーミルクでちょっと迷った」


「私はハルナ様が食べていた分量を見た時点で、みぞれ以外の選択肢はありませんでした」


「量が多かったら、別のんえらんどったん?」


「多分、メロンかレモン、もしくはミルク金時を考えていたかな、と」


 エアリスが挙げた選択肢に、やはり王道はそうだよなあ、みたいな感じでうなずく一同。


 余談ながら、この会話に口をはさんでいないアルチェムは、食べる量の加減を間違えて頭痛に襲われ、目をぎゅっと閉じて痛みをやり過ごしていたりする。


「それで、この後どないする?」


「ボートとかクルーザーで沖に出るのも楽しそうだけど、そういうのは宏君が水着OKになってからにしよっか」


「ん。シュノーケリングとかもしたいから、今回は見送りでいいと思う」


「ほな、船以外で何したいとかあるか?」


「そういえば先ほど、いろんな種類の貝を結構見ました」


「だったら、潮干狩りとかで貝を集めて、潮汁作る?」


「それは素敵ですね」


 ボートを避ける、となった時にエアリスが浜辺の生き物に言及し、春菜が海の醍醐味の一つを提案する。


 その提案に目を輝かせて即座にエアリスが食いつき、他のメンバーも首を縦に振ってOKをだす。


 こうして、浜辺でとれる海産物を集めて料理し、ちょっと早い夕食をみんなで食べて終わりにする、という事で話がついたのだが……。


「これが砂上の楼閣っちゅう奴やな」


「師匠、焚きつけておいてなんだけど、ちょっとやりすぎだと思う」


「というか、ヒロシさん。波が直撃してもびくともしない砂の城って、砂上の楼閣という表現には合わないんじゃないでしょうか……」


「そもそも、よく砂の量が足りたよね、これ」


「そうですね。それに、このお城は素敵なのですが、砂という素材だと中に入るのも躊躇われますね」


 途中で澪に焚きつけられて砂の城を作った宏が、その鉄筋コンクリートでも埋め込んでるんじゃないかというレベルの頑丈さと普通に生活できそうな規模のものを完成させてドヤ顔をし、全員から総突っ込みを受けるのであった。








 そしてその日の夜。


「全員、正座」


 ローリエからこの日のデート映像を見せられた達也と真琴が、愛の説教部屋という事で宏達を呼び出してダメ出しを行っていた。


「なんで正座なのかは、分かってるよな?」


「うん……。さすがに、これをデートと言い張れるほど、私達の心は強くないから……」


 終わってから一日を振り返り、思わずがくりとしていたところに達也と真琴から呼び出しを受け、正直に自分でも駄目だと思っていることを告げる春菜。


 そんな春菜の自己申告にうなずき、ダメ出しポイントを逐一潰していく達也と真琴。


「まず草原ピクニックだが、膝枕が不発なのはしょうがないにしても、その前のノープランぶりはいただけない。ネタを振ったのは澪なんだから、せめてそのあたりはもうちょっとなにがしかの計画を立てておくべきだったな」


「ん、反省してる」


「海に関しては、割と頑張っていたとは思うわね。ただ、折角波打ち際でキャッキャウフフしてるっていうのに、宏が逃げちゃったのもそれを許しちゃったのも、ちょっとマイナスね」


「楽しくはあったのですが、後から考えれば今回の趣旨的にそれはどうなのか、というのは反省しております」


「何よりアウトなのが、途中でサンドアートを焚きつけた澪と無駄に城作ったヒロだ」


「潮汁の方に全力出すならまだしも、一人遊び的な砂の城で本気出してどうすんのよ」


「「ごめんなさい……」」


 自分でも駄目だったんじゃないか、と思ったところをきっちり叩かれ、がくりとする宏達。


「とまあ、一般的な価値観からダメ出しはしたが、そもそも根本的な部分で間違ってたんじゃねえか、と思わなくもないんだよなあ、実際」


「そうねえ。そもそも、デートって言ったところで、基本的には楽しく遊ぶだけなんだから、無理に型にはめたり普段やってることを排除したりっていうの自体が駄目だったんじゃないかって思うのよね」


「もっと言えば、一対四のハーレム状態でデートなんて、俺らだってどうやればいいかアドバイスのしようがねえ部分だしなあ」


「なのよねえ」


 一応一通りのツッコミとダメ出しを終えたところで、前言をあっさり翻してそんなことを言い出す達也と真琴。


 今回に関しては、駄目だしすべきは実は、最初の草原の時に採取に走らなかったことなのでは、などと思わなくもないのだ。


 もっと言うならば、デートという事で身構えすぎたことと、揃いも揃ってキャッキャウフフがそれほど絡まない野外での一般的な遊びをよく知らない、というのが最大の問題だったのではないか、というところである。


 しかも、体を使う系のものは、どう考えても大惨事につながる未来しか見えない。


 さすがにこうなってくると、交際人数は片手の指が余る程度とはいえデート経験自体は豊富な達也でも、アドバイスをするのは難しい。 


「ただまあ、デートのイロハ、みたいなのは知っておいても損はないでしょうし、いきなりぶっつけ本番でデートしようとしたことも駄目だったところかもしれないから、達也と詩織さんが今度手本見せてあげる、ってのはどう?」


「お前さんがレクチャーするんじゃ、駄目なのか?」


「今現在相手がいないのに、どんな説明しても説得力なんてないわよ。それに、いくら男が欲しいと思ってなくてもさすがにそれは空しすぎてねえ……」


 真琴の意見に、ふむ、という感じでうなずく達也。とはいえ、宏が日本の繁華街レベルの混雑はまだ厳しい事を考えると、デートと言っても限度はある。


 そのあたりをどうするか、とか、近いところでいつ自分たちの時間が空いているか、とか、そういったことを考えているうちに、ふとエアリスとアルチェムがいつまで地球に滞在するのかという疑問にぶつかる達也。


 早めに潰しておくべき問題でもあるため、素直にそのあたりを確認する。


「そういえば、エルたちは帰る目途が立ったのか?」


「一応手段の方は構築したで。ちょっと準備はいるけど、明日でもやろうと思えばどうにかはなるわ」


「そうか。だったら、向こうでのエルたちの仕事その他が落ち着いてから、ウルスで合同デート、みたいな形でやるか?」


「そうですね。私はともかく、エル様の事を考えるとその方がよさそうです」


「アルチェムさんも、他人事というわけではありませんよ?」


「あ~、そうですね……」


 帰還の話が出たところで、エアリスとアルチェムがどことなくブルーな表情を見せる。


 どうやら、もはや帰りたくないレベルで向こうでの仕事が詰み上がっているようだ。


「とりあえず、もうじき夏休みも終わるから、ヒロたちも時間取れなくなるだろうし、全員が落ち着いてからになるだろうな」


「そうね。それに、送り返すのはできても、行き来できるようになるわけじゃないんでしょ?」


「せやな。さすがに、そっちは研究してへん」


「だったら、どっちにしても先の話になるから、空間の状態が落ち着いて全員の体が空くまで、今回分かった問題点をどうカバーするかじっくり考えればいいと思うわ」


 真琴の言葉に、神妙な顔でうなずく一同。


 結局、翌日にはあれだけ荒れていた空間がピタッと凪ぎ、普通のやり方でサクッと帰還することになるエアリスとアルチェムであった。

Gカップ以上の巨乳の人が膝枕した際のした側、された側のお互いの視界がどうなってるかは、自分では検証しようがないので、かなり適当なことを書いております。

特にする側なんてどうやっても無理なもんで……。

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― 新着の感想 ―
[一言] ヘンドリックとアンジェリカも帰れずに足止めされていたと思うのですが、話題にはいっさい出て来ませんでしたね
[一言] あれだフリーレンの空が半分云々かな? 膝枕の頭の置き方(縦か横)とか置く深さたかにもよるけど。
[一言] 偽乳でも付けて視点を下げる…とか (Gカップ)
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