第40話
お盆休みが終わっても、エアリスとアルチェムはいまだにファーレーンへ戻れなかった。
「なかなか帰れないね~……」
「そうですね……」
「ものすごく荒れてますよね……」
神の城で状況を確認し、ため息交じりにそう漏らす春菜、エアリス、アルチェムの三人。今日も時空は大荒れの模様であった。
最初の頃は楽観視してちょうどいい機会だからと大喜びでバカンスを楽しんでいた春菜たちであったが、さすがにそろそろ一週間となると諸々気になってくるらしく、三日目を過ぎたあたりから徐々に雰囲気が硬くなってきている。
「ローリエちゃん、神の城で増幅して強引に送り返すとか、無理かな?」
「時間軸の同期は取れているのでタイムスリップは避けられると思いますが、地表のどこに転移するか分からないので、避けた方が無難でしょう」
「やっぱりそうなるかあ……」
時空の乱れ方を考えるにまず不可能だろう提案を口にし、あっさりローリエに却下される春菜。とはいえ、分かっていただけに大してショックはない。
とはいえ、二人をあまり長期滞在させるのはリスクが大きい。行き来するのはともかく、居座る羽目になるといろいろ解決しないといけない問題が出てくるのだ。
「とりあえず、アルチェムさんはまだしも、エルちゃんは本気でそろそろ一度戻らないと困るよね?」
「そうですね。アルフェミナ様からの神託で、戻るのが遅くなっても対処はしてもらえているとはいえ、瘴気の浄化などの仕事は確実に滞っていますし」
春菜の質問を、割と困った表情で肯定するエアリス。
居るのが宏と春菜のそばなので、状況的には叱られるようなことはない。おそらく、むしろこの機会にもっと宏と距離を詰め、場合によっては既成事実を作ってくることすら期待されているだろうから、王族としての公務に関しては誰も問題視しないだろう。
だが、巫女としての仕事となると、さすがにそんなのんきな事は言えない。
すでに各種儀式を一週間はすっぽかしているのだ。地脈の調整やら瘴気の浄化やらに関しては、目も当てられない事態になっていそうだ。
「ハルナさんの権能では、いつ収まるかとか分からないんですか?」
「私がそういうのを下手に確認すると、体質の問題で誰にも予想できなくなるから手を出すな、って言われてるんだよね」
「ああ、なるほど……」
春菜の言葉に、いろいろ納得するアルチェム。こういうケースで春菜が未来を覗こうとすると、ほぼ確実に訳の分からないことになる。
このあたりの体質に関しては、アルチェム同様どれほど能力が高い神々でも、もはやどうにもならない領域に到達しているのだ。
「……あ~、やっぱりどうにもできそうにないよ」
「ハルナ様、自然現象相手に焦っても仕方がありませんわ」
「そうなんだけどね。やっぱり、エルちゃんのお仕事を考えると、一回向こうに移動できるだけの時間でいいから、安定してほしいなあって思っちゃうんだよね……」
「そうですね……」
春菜の言葉に、頷いて同意するエアリス。
現状はこちらに来る時間を前借しているようなものなので、仕事を放棄した状態でこちらにいる時間が長くなればなるほど、利息が付いた状態で返済する羽目になる。
いろいろ手詰まりとなっている現状、折角エアリスだけでなくアルチェムもこちらと行き来できるようになったというのに、エアリスが仕事で拘束されるのは、春菜としても全くありがたくない話なのだ。
「……やっぱり結局、宏君が作ってる何かが上手くいくか、時空の荒れが収まるのを待つしかないかあ……」
今日もまた、昨日まで何度も確認したのと同じ結論に達し、世界樹に手をついてがっくりする春菜。
「……しょうがないから、今後の事も考えて、長期滞在になった時に密入国扱いにならないよう手を打ってくるよ」
「はい、お願いします」
荒れ具合から、最悪夏休み一杯はエアリスとアルチェムが滞在する可能性もあると考え、長期滞在の時に一番問題になるであろう事柄に手を打つことにする春菜。
国境警備や入出国の管理の重要さをよく理解しているエアリスも、春菜の懸念に同意して対策を頼む。
そのあたりがピンと来ていないのは、割と出入りに関して緩い環境で育ったアルチェムだけである。
余談ながら、フェアクロ世界には転移魔法や転送石のような瞬間移動の手段があるが、こちらに関しては一部例外を除いて冒険者協会や商業ギルドなどに登録をしないと街への出入りは実行不可能で、また登録して出入りをすればばっちり記録が残る仕様だったりする。
無論、ファーレーン王家やバルド、オクトガルのように極めて高い転移能力を持つ存在には通じない対策ではあるが、普通の犯罪者や密偵程度ならば余裕で弾くことができるぐらいの強度はある。
なお、例外の一つに、アンデッドではない遺体やほとんど生命活動を停止している生命体の出入りは、検出ができないため防げず記録にも残らない、というものがある。この例外のおかげで、ピアラノークからエアリス達を救出した際に術で仮死状態となっていた彼女たちの帰還が記録されず、ぎりぎりまで生還を隠し通せたのだ。
「それが終わったら、お昼ご飯の時にちょっと相談したいことがあるんだ」
「相談、ですか?」
「うん。丁度いい機会だし、澪ちゃんも呼んで、話し合いたいんだ」
「分かりました」
澪の名前が出たところで、春菜が何を相談したいのか悟るエアリス。口こそ挟まないものの、アルチェムもなんとなく察するものがあるらしく、了承の意を示すようにうなずいている。
「じゃあ、ちょっと行ってくるね」
「はい」
「行ってらっしゃい、ハルナさん」
何やら腹をくくった様子で神の城から出ていく春菜を見送り、とりあえず修行に入ることにするエアリスとアルチェム。さらに長期滞在になる事が確定したからか、今までよりしっかり修行に集中する。
「……なんだか、少し鈍った気がします……」
「エル様もですか……」
久しぶりにしっかり集中できた結果、ここ数日の神の城での修行が上の空だった証拠を突きつけられ、凹みながら危機感を新たにする巫女たちであった。
「エアリス様とアルチェムさんの件に関しては、もうこっちでちゃんと処理してるから安心して」
話を持ち掛けた春菜に対し、藤堂家を訪れていた天音は、サラッとそんな心強い返事を返した。
この日は何やら雪菜と話し合いをする必要があったとのことで、天音だけでなく美優も藤堂家まで来ている。
「今回に関してはどうやっても長引くと思ったから、アルチェムさんがこっちに飛ばされてきた時点で対応はしてあったんだよ」
「そうなんだ。でも、パスポートも何もなしで、よく問題なしで通せたよね」
「ここだけの話なんだけど、実は私、ゲートや宇宙ステーションの実証実験で、太陽系の外に拠点作ってるんだ。それで、もろもろの実験の最中に、太陽系外の文明と接触して、ね。政府の許可と監視のもと、二人ほど日本に滞在させたことがあるの。今回はその事例の類型として対処させてもらったんだ」
「……正月の宴会に何とも言い難いビジュアルの神様がかなり混ざってたけど、やっぱりそういう事なんだ……」
「うん」
知りたくなかった話を聞かされ、思わずげんなりした表情を浮かべる春菜。
身内が身内だけに地球外生命体の文明が存在しても驚きには値しないが、さすがにこちらの文明圏の神々と交流がある、どころか普通に宴会まで開いているとなると、いろいろ思うところはあるものだ。
「でまあ、エアリス様とアルチェムさんの事は置いとくとして、春菜ちゃんと東君にちょっと開業届出してもらわないとだめだから、その話もしたいんだよね」
「……まあ、そろそろかなあ、って思ってたんだけど、やっぱり?」
「うん。未成年だって事と受験生だって事で、とりあえず私の収入に組み込んでたけど、今後の事を考えるとそろそろちゃんとしておいた方がいいからね。春菜の場合、うちからのバイト料とかもあるし、メロンとかの知財関係の収入も考えると、今のうちからやっとかないとね」
天音と雪菜の言葉に、そうだろうなあとうなずくしかない春菜。
詳細は知らされていないが、最近の出荷量や周囲の反応を見る限り、間違っても扶養家族や非課税所得の範囲で済まなくなっている自覚ぐらいはあった。
なので、開業届を出して帳簿をつけ、青色申告を行うこと自体に否はない。それ自体はフェアクロ世界でもある程度やっていたことなので、難しいとも面倒だとも思わない。
問題なのは、単に青色申告でいいのかどうか、という点である。
「美優おばさんにちょっと確認したいんだけど、個人でいいの?」
「いきなりそこを確認するとは、春菜ちゃんもやるね」
「だって、現時点でお金になる要素って、ホワイトフェアリーのバイト料以外は、全部私と宏君の共同作業だしね。最終的にそこを目指してるとはいえ、現状では夫婦でも何でもないから、逆にお互い個人で決算ってなんとなく違和感が」
「東君の特許関連の収入も考えるなら、法人を設立してそのあたりの権利をそっちに移す、っていうのも十分ありだと思うよ。ボク個人としても、あのメロンとフィールドは、きっちりした弁護士とか司法書士雇ったうえでちゃんと管理できる法人を作ったほうが無難だと思うし」
「だよね。正直、そのあたり全部管理するのとか、私と宏君の手に余ると思うし」
ネックになる要素を並べ、うんうんとうなずく春菜と美優。今回のメロンのようなレベルで収益を生む知財関係は、ちゃんとした態勢を整えた上で管理しておかないとろくなことにならないが、いかに優秀であっても宏も春菜もまだ学生だ。
そんなややこしい管理業務など、まず手に負えない。
他にも個人経営だと、配偶者や同居している血縁関係にある従業員に対する給料が経費として認められないケースが少なくないなど、宏達の場合後から問題になりそうな要素が結構ある。現在はまだ夫婦どころか恋人ですらないので問題にはならないが、予想できる内容は早い段階でつぶしておくに限るだろう。
「とりあえず、資本金は一千万でスタートするとして、後ろ盾になる宣言もかねて礼宮商事も百万か二百万は出すから、そっちもどんな形でもいいから合計で八百から九百万ほど用意してね」
「……隠し貯金がある私はともかく、宏君にはかなり厳しい金額だよね……」
「別に、東君と春菜ちゃんだけで出す必要はないよ。それこそ溝口ちゃんや香月君にも出資してもらうのもありだし」
「それに見合うだけのリターン、返せるかなあ……」
「ほとんど毎日渡してる野菜と果物だけでも、何年かで百万円ぐらいは行くんじゃない?」
春菜の懸念を、そんな風に笑い飛ばす美優。実際、野菜や果物は毎日となると地味に出費がかさむ項目なので、数年で百万ぐらいになってもおかしくはない。特にブドウやメロン、スイカなどの高価な果物が入れば、五万十万はあっという間である。
「それにしても、美優おばさん。達也さんの事を香月君って呼ぶのはまあ分かるとして、真琴さんを溝口ちゃんって呼んでるんだ」
「飲み友達兼情報源だもん。っていうか、溝口ちゃん、すごいよね。新聞の株価欄見せただけで、ヤバそうな銘柄と跳ねそうな銘柄勘で当てるんだよ? あの娘の手にかかれば、春菜ちゃんたちに出す百万や二百万の出資金なんて、はした金も同然じゃない?」
大財閥の社長であり、成長分野や成功しそうな会社、化ける人材などを見抜く目に天性を発揮すると評判の美優をしてすごいと言わせる真琴。大物トレーダーとなれる素質は十分だというのに、現在は投資家としては休業し、腐女子趣味に走ってその才能を持ち腐らせている。
「まあ、そのあたりの事とか、所在地どこにするかとか設立何時にして決算をどこに持ってくるかとか、そういう細かい話は日を改めてうちの顧問の司法関係の人たちと一緒に詰めるとして、東君と相談して会社名は考えておいてね」
「会社名か……」
美優に会社名と言われ、すぐに一つの名前が思い浮かぶ春菜。
宏と立ち上げる会社というなら、基本これしかないという名前。だが、実体や現在の主な収入源を考えると、いまいちしっくりこない事もあり、これしかないと思いながらも、とりあえずこの場では胸にしまっておくことにする。
「で、この件に関して、他に何か言っとかなきゃいけない事ってあったっけ?」
「この場ですぐに思いつくことは、特にはないかな。あっ、さっきちょっと言いそびれたけど、新会社には私も出資するよ」
「私はさすがに無理かな。在籍中の、それも自分が直接教えてる特定の学生に直接便宜図るのは問題があるし」
「天音姉さんはしょうがないよ」
「天音ちゃんは、東君と春菜ちゃんの師匠って名前だけで十分だと思うよ」
美優の台詞に色々えぐい事実に気がついてしまい、思わず遠い目をする春菜。
大財閥である礼宮のバックアップを受け、天才・綾瀬天音の直弟子が立ち上げ世界のYUKINAが全面協力する新会社。
考えるまでもなく、すさまじい大プロジェクトにしか見えない。
その実態が特許の管理と農作物の生産販売である辺り、看板と中身の落差はもはや詐欺のレベルではなかろうか。
「後はもう、弁護士さんとか税理士さん、司法書士さんなんかと一緒に、金銭的に一番有利になる中身を相談して決める感じかな」
春菜がそんなわき道にそれた事を考えているうちに、大人たちの間では大体の話がまとまったようだ。と言っても、春菜の意識がそれている間に出た話など、せいぜい宏の負担軽減に、畑仕事の追加報酬的な名目で贈与税がかからない範囲の金額を渡す、程度の事なので、聞いていなくても大して問題はないのだが。
「じゃあ、新会社に関しては後日って事で、今日の花火大会について春菜ちゃんにちょっと確認」
「何かな?」
「アルチェムさんだったっけ? その娘の分の席、どうする?」
「あっ……」
美優に聞かれて、ようやくアルチェムの席について完全に意識から漏れていたことに気付く春菜。
二人を早く帰すことばかり気にしすぎて、花火大会の事を一切考えていなかったのだ。
「……まだ、大丈夫?」
「うん。もともと数人程度の増減は予定に入ってるから、今から連絡すれば十分間に合うよ」
「……良かった。じゃあ、アルチェムさんの分もお願いしていい?」
「了解」
春菜の答えを聞き、さっさと手配を済ませる美優。それを見ながら、アルチェムの浴衣をどうしようかと頭を悩ませる春菜。
自分も大概だが、アルチェムはそれに輪をかけて体型的に和服と相性が悪い。さらに言うと、アルチェムの容姿や雰囲気にあう柄の浴衣があったかどうかも思い出せない。
実のところ、エアリスも去年の浴衣は微妙なラインなのだが、元々浴衣というのは縦はともかく横方向の体型変化に対しては調整しやすい服なので、それほど背丈が変わっていない今年はまだ何とかはなる。が、これは澪にも言える事だが、来年は恐らく、主に胸と身にまとう空気の問題で新調したほうがよさそうな雰囲気である。
もっとも、澪に関しては来年は、ではなく来年も、というべきかもしれない。去年の浴衣はどうにも変にいかがわしい感じになってしまい、結局今年も新しいものを作ったのだから。
「アルチェムさんの浴衣、今からで調達できるかなあ……」
「未来さんなら、何とかしてくれるんじゃない? それも喜々として」
「未来ちゃんだったら、浴衣なら三十分もあればデザインから完成まで終わらせるよね、多分」
春菜の悩みに、あっさり雪菜と天音が最適解を告げる。
去年同様、礼宮邸本館のテラスから花火を見るのであれば、場所代的な意味も含めて未来に頼むのが一番角が立たないのだ。
「そうそう。ちょうどいい機会だから、蓉子たちにアルチェムさんを紹介するついでに、本当の事を話しちゃおうかと思うんだけど、どうかな?」
「いいんじゃないかな?」
春菜の思い付きのような言葉に、雪菜があっさり賛成する。美優も特に問題を感じていないようで、一つうなずいて同意する。
その二人の反応を見て、天音が口を挟む。
「話をするのは別に問題ないと思うけど、春菜ちゃんが女神になっちゃったとかその関係の話は濁して、事故で飛ばされたことと、向こうとこっちを行き来する手段を見つけて戻ってきたことだけに絞ったほうがいいかな。まあ、こんな注意はするまでもないとは思うけど」
「ああ、うん。そこはわざわざ言わないつもり。さすがにまずいって事は分かるから」
念のために、という感じで天音に釘を刺され、素直にうなずく春菜。
知られたからといって特に困るわけではないが、どんなトラブルにつながるか分かったものではないので、知られずに済むならそれに越したことはない。
「じゃあ、浴衣の事とかあるし、エルちゃんとアルチェムさん呼んでくるよ」
「ほーい。そう言えば、宏君は? 後、澪ちゃんたちは?」
「宏君はエルちゃんたちを一度向こうに送り返す手段について研究中で、澪ちゃんたちとはお昼の後に礼宮の更衣室で現地集合の予定」
「なるほどね。まあ、春菜」
「何?」
「大学入ったばかりの頃にも言ったと思うけど、焦って行動する必要ないからね。できる事がないっていうのは、機が熟してないって事かもしれないわけだし」
真面目な顔でアドバイスをくれた雪菜に、小さく微笑んでうなずく。どうやらここ最近の焦りは、母親にはすべてお見通しだったようだ。
多忙でめったに顔を会せないというのに、やはり親というのはすごいしありがたい。
そんなことを思いつつ、エアリス達と合流して昼食を食べるために、神の城へ転移する春菜であった。
「……二人とも、なんだかすごくへこんでるみたいだけど、どうしたの……?」
「たった数日で、これほど鈍っているとは思いませんでして……」
「しばらくは、かなり本気で修業しないとだめかなあ、って……」
「そうなんだ……」
かなり本気でへこんでいるエアリスとアルチェムに、かける言葉も見つけられずそういうしかない春菜。
考えようによっては明日は我が身なのだが、その事実からはあえて目をそらす。
「とりあえず、お昼作ってくるよ。何か食べたいものある?」
「そうですね……。昨日はお昼も晩もお魚をいただきましたので、獣肉系がいいかな、と」
「さっきまで私もエル様も結構本格的に修行してたので、少しがっつりしたものが欲しい感じです」
「了解。そうだね、もう少しドラゴンのお肉を消費したいから、ハンバーグでも作るよ。達也さんたちが解体したときに出た端切れのミンチ使ったのでいいよね?」
「お任せします」
エアリスとアルチェムのリクエストを聞き、サクッとメニューを決める春菜。
ウォルディス戦役の時にドラゴンスケイルメイルを大量に作った際、達也と真琴が大雑把に解体した肉類の中には、いい感じでハンバーグに使いやすいミンチが結構なボリュームで残っている。
達也も真琴も生産スキルはなくとも解体スキル自体はカンストしているので、ほぼくず肉同然のミンチといえども、生臭かったり血が混ざりまくったりといったことはない。
さすがに宏や春菜、澪が解体してからミンチにするより質は落ちるが、せいぜいブランド牛がノーブランドの国産和牛になる程度の差なので、春菜の腕でしかもハンバーグとなると、それほど味に影響は出ない。
それが分かっているだけに、エアリスもアルチェムも特に気にしない。
そもそも、この後はお祭りなのだから、昼からあまり豪勢なものを食べるのはよろしくない。ドラゴンハンバーグが豪勢でないという結論には異論もあろうが、今時日本ではハンバーグ自体はご馳走に入らない、というのは誰も異を唱えないだろう。
「さて、料理を始める前に、宏君にも確認かな?」
厨房に転移し、ハンバーグの材料を用意する前に宏に連絡を取る春菜。おそらくメニューに文句は言わないだろうが、ハンバーグではなくチキンステーキの気分、という可能性もある。
今日みたいに作る分量が少ないのであれば、惚れた相手の要望は叶えたいのだ。
『宏君、そろそろお昼だよ』
『おっ、もうそんな時間か』
『うん。何か食べたいものある?』
『食べたいもんっちゅうか、夕方ぐらいまで手ぇ離せそうにないから、片手間で食べられるもんしか無理やなあ』
『そっか。エルちゃんたちと話してて、ドラゴンハンバーグにしよっかって話になってるけど、なんだったらそのハンバーグ使ったハンバーガーにする?』
『せやな。手間やなかったらそれで頼むわ』
『単にバンズで挟むだけだから、大した手間じゃないよ。とりあえず、それで作っておくね』
宏の状況も確認し、手早く料理に入る。一緒に食べられないのは残念だが、エアリス達のこともあるし、何より宏が集中してものづくりをしている時に、邪魔をするのは本意ではない。
なので、やるべきことは最高においしくて作業にプラスの影響があるハンバーガーを作ることである。
「とはいえ、こういう事には意外と鋭いから、使うのは当初の予定通りくず肉にしないとだめかな」
ハンバーグの材料を用意しながら、そんな独り言をつぶやく春菜。ソーセージなどを作る場合を除き、他の料理に使えるようないい肉、それも高級部位になるようなものをわざわざミンチにするのは、宏が案外嫌がるのだ。
なので、工夫のしどころとしては、他の具材や付け合わせの類となる。
いわゆる端切れのくず肉の内出来るだけいいところをかき集め(といっても、そのくず肉自体が最初から倉庫の中で品質別に分類されている上にトン単位であるので、さほどの苦労もなかったが)、玉ねぎやニンジンなどの野菜類をお互い引き立て合うレベルのものを見繕って準備する。
そこから先は、基本的に普通のハンバーグの作り方と変わらない。一部に軽く火を通して味見し、微調整の隠し味に味噌を混ぜた以外は何一つ変わったことをせず、四人分のハンバーグを完成させる。
「後は、宏君の分をハンバーガーにすれば終わりかな?」
あまり崩れないようにしっかり目に焼いたハンバーグに、ハンバーガー向けのとろみが強く垂れにくいソースをつけてレタスやチーズ、目玉焼きなどと一緒にバンズで挟み、念のために保温、というより状態固定の機能が付いた紙でくるんで、フライドポテトやサラダのクレープ、飲み物と共に宏のもとへ転送する。
自分たちの分は、普通に米とみそ汁のハンバーグ定食スタイルだ。
『宏君、ご飯できたから、そっちに置いておくね』
『おう、ありがとう』
宏のもとにハンバーガーセットを送った後、自分たちの分をサクッと盛り付け、トレイに並べてカートに乗せて、エアリスとアルチェムの待つ食堂へ転移する春菜。
「ご飯できたよ」
「ありがとうございます」
「うわあ、美味しそう!」
春菜が持ってきたハンバーグ定食に、目を輝かせるエアリスとアルチェム。今や迷った時のハンバーグというレベルで定番化しているとはいえ、やはりちゃんと作ったハンバーグには不思議な魅力と魔力があるようだ。
「宏君は今手が離せないからって事でハンバーガーにしたんだけど、そっちの方がよかった?」
「そちらも魅力的ですが、ハンバーガーはやはり、どちらかというとピクニックなど外出先でいただく方が美味しい気がします」
「そうですね。やっぱり、落ち着いて腰を据えて食べるんだったら、ご飯にみそ汁のついた定食が一番です」
春菜の問いかけに対し、無駄に信念のこもった眼で言い切るエアリス。そのエアリスに力強く同意し、いただきますをして箸を手に取るアルチェム。
なお、今回のハンバーグ定食は、食べやすいように小さめの俵型にしたものを二つ作り、一方にはとろとろの自家製チーズを乗せ、もう一方はプレーンなハンバーグにして味に変化をつけている。
添えてある黄身がとろける半熟卵の目玉焼きは、好みで黄身をハンバーグに絡めるもよし、そのまま食べるもよし、ご飯に乗せてハンバーグソースを混ぜ、卵かけごはん風にするのもあり、という至れり尽くせりなチョイスである。
春菜としては大葉おろしを乗せてポン酢をかけたハンバーグも用意したかったのだが、一つの皿に盛りつけるとソースが混ざって味がカオスになるので断念している。
付け合わせは人参のグラッセとボイルしたブロッコリーに、宏のものと一緒に揚げたフライドポテト、更にサラダも別につけられているので、贅沢とは言わないがなかなか手の込んだ昼食になっていると言えよう。
「ん、いい出来」
「とても美味しいです!」
「なんだか、しっかり修行してがっつり体動かしておいてよかったって、心底思います」
春菜的にまあまあ満足いく仕上がりのハンバーグに、満面の笑みで舌鼓を打つエアリス。へこむことも多かったが、自身を研ぎなおすためにしっかり修行したことを思わず感謝してしまうアルチェム。
そんな三者三様の反応の後、じっくり味わうように黙々と食事に没頭する春菜達。
口の中に広がる肉汁の旨味がソースやチーズと混ざり合い、食べたものを天国へといざなう。卵の黄身と一緒に食せば桃源郷が見え、肉汁とソース、チーズ、卵の黄身が入り混じったタレをご飯にかければ至福の時間の始まりだ。
そんな文句のつけようもないハンバーグ定食の最後のひと口を食べ終え、三人そろって満足そうにため息をついて食後のお茶に手を伸ばす。
「それで、ハルナ様。相談したいこと、とはどのような事なのでしょうか?」
最初のお茶を飲み終わり、人心地ついたところで、エアリスが切り出す。
エアリスに問われ、一つうなずいて春菜が口を開いた。
「さっき、お母さんに焦るなって言われたばかりなんだけどね、宏君の事でちょっとね」
「ヒロシ様に、何かあったのですか?」
「別に、何もないよ。最近いろんなことが急に形になり始めて、一気に忙しくなっちゃったっていうだけで、特に問題になるようなことは、ね」
「では、何を悩んでおられるのでしょうか?」
「私達、このままでいいのかな、って」
春菜のその一言で、悩みを全て理解するエアリス。話を聞き出すのをエアリスに任せていたアルチェムも、思わず表情を曇らせて視線をテーブルに落とす。
「本当に、何もないんだ。良くも悪くも、高校卒業した後は何も変化がなくて、ね」
「……それは、難しい話です……」
何やら焦りをにじませている春菜に、難しそうな表情でうなずくしかないエアリス。
このまま良い友達のまま、ずっと年を重ねていく。そのことに対して焦る気持ちは、それこそエアリスだって持っているのだ。
「あの、ハルナさん。一つ確認していいですか?」
「何かな?」
「ヒロシさんに、誰か他の女の人が近づいてるとか、そういう事はあるんでしょうか?」
「それは大丈夫。というか、そうだったとしたら、こんなにのんびりは構えてられないよ」
アルチェムの確認に、春菜がはっきりとそう答える。
宏の大学での人間関係をすべて把握しているとは言えない春菜ではあるが、宏が自分の知らぬところでまともに女性と接触し、距離を詰めたかどうかぐらいは見ていれば分かる。その程度には、宏の事をずっと見てきている。
そもそもの話、宏は春菜か真琴か山口が一緒にいない状況では、基本的に進学前から親しい女性以外と接触するようなことはない。
大学構内にいる時間の八割を春菜と共に行動している、というのもあるが、そもそも宏が自分から女性に近づくなど、学生課の受付のようにどうしても必要なケースのみだ。それ以外で接触しそうになると、当たり障りのない挨拶を少しして、そのままそそくさと逃げてしまう。
ラブ的な意味で宏に目をつけている女子学生も何人かいるのだが、その鉄壁ぶりに加え論文の関係で総合工学部棟からほとんど出てこないこともあり、今のところまともな接触には至っていないのだ。
「だったら、変な事を考えない方がいいかもしれませんよ?」
「そうなんだけどね。なんかこう、ね……」
春菜がどうしてここまで焦っているのか理解できず、どうしたものかと顔を見合わせるエアリスとアルチェム。
言うまでもない事だが、エアリスにもアルチェムにも、春菜が感じているのと同様の焦燥感や心身ともに宏を求める欲求はある。が、それと同じぐらい、今は宏にそれを求めても負担になるだけだという諦念も持ち合わせている。
そのあたりは春菜も同じだと思っていたのだが、そうではなさそうなのが二人の困惑につながっている。
「うまく言えないんだけど、エルちゃんもアルチェムさんも日本に滞在できるようになったから、今動かないと後悔する気がするんだ」
「では、ヒロシ様にはっきり気持ちを伝え、受け入れてもらうように働きかけるのですか?」
「……動くっていうと普通はそうなんだけど、今それやってもまだ上手くいかない気がしてて、でも何かはしなきゃいけないって確信だけはあって、どうすればいいのか全然わからなくて……」
「「……」」
春菜の悩みや焦燥感を聞き、思わず祈りを捧げるように手を組んで瞳を閉じるエアリス。何と答えればいいかと天を仰ぎ、虚空に視線を彷徨わせるアルチェム。
正直な話、春菜の言わんとしていることは理解はできる。だが、この期に及んでなお、納得や共感という意味ではピンと来ていない。
そもそも、現時点でやっていないことなど、告白と性的な事が絡むあれこれ、後はせいぜい一般的な意味でのデートぐらいなものだ。
一般的なデートコースをなぞるように遊びに行く、というやり方をすれば辛うじてデートは告白前にできなくもないが、それ以外は普通、愛の告白を済ませて彼氏彼女の間柄になってからの行動である。
告白なしで、だが宏にそのあたりを意識させつつ負担をかけないようにアプローチするというのは、すでに思いつく限りの事をやっている。
これ以上となると、それこそアルチェムの体質に頼って誰も悪くないのに性的な接触が起こる、という方向に持って行くぐらいしか思いつかないのだ。
「……あの、ハルナ様」
「……エルちゃん、何かアイデアでた?」
「ハルナ様が納得するようなものは思いつかないのですが、そもそも根本的な話、そういう話をするならミオ様も一緒でなければいけないのではないかと……」
「……そうだね。確かにそうだよね」
「後、事情を知る部外者の、それもできるだけ年が近い方に相談に乗ってもらう、というのは無理なのでしょうか?」
「……だったら今日、蓉子たちにエルちゃんとアルチェムさんの事情を説明するから、その時にちょっと相談に乗ってもらおうか」
「そうですね。それがいいかもしれません」
エアリスの助言を受けて出した春菜の結論に、二人して微笑んでうなずくエアリスとアルチェム。
偏った人生経験しか持たない自分たちでは、春菜の焦りを受け止めることも宥めることもできない。そう結論を出したエアリスとアルチェムは、見事に他人に丸投げしたのであった。
「なるほど、そういう関係だったのね」
その日の夕方。早めに集合して着付けを済ませた春菜達は、宏に話を聞かれないように縁日に繰り出すふりをして、礼宮庭園にある関係者以外立ち入り禁止の建物を借りて蓉子、美香、田村、山口の四人と話し合いを始めていた。
なお、この場には香月夫妻はいない。妊娠中の詩織を人混みに連れていくリスクを避けたのもあるが、宏を自然に足止めしてもらう役目も請け負っているからだ。
「正直、腑に落ちてはいなかったのよね。特にエアリス様に関して」
「だよね~。エアリス様って、間違ってもVRギア使ってゲームとかやるタイプに見えなかったし」
「しかし、異世界とはなあ……」
「信じられん、といいたいところだが、アルチェムさんのその耳を見せられたのではな……」
エアリスの存在に対する違和感がようやく腑に落ちた、とうなずく蓉子と美香の横で、異世界の存在とその証拠であるエルフ耳に、田村と山口がうなっている。
「しかし、びっくりするぐらいあっさり受け入れたわねえ、あんたたち」
「さすがは春姉の親友」
その様子に苦笑していた真琴が、正直な感想を口にする。澪も感心したようにうなずいている。それを聞いた蓉子たちが、何をいまさらといわんばかりにあきれた表情を真琴と澪に向ける。
「そもそもの話、春菜自身が漫画とかの主人公的存在なんだから、異世界に飛ばされて帰ってきました、ぐらいの事だったらありそうで終わる話ですからね」
「いやいやいや、それで納得されても困るんだけど……」
「納得しないよりいいでしょう? あ、一応念のために言っとくけど、私達は他の人にこんな与太話みたいな事実を言うほど馬鹿じゃないからね」
「言われなくてもそこは信用してるよ。というか、そもそもそのあたりを信用してなきゃ、こんな話しないよ」
なかなかに斜め上の理由で納得されてしまったことに抗議しつつ、一応秘密は守ってくれるだろうと信用している事だけはちゃんと伝えておく春菜。
「で、春菜ちゃん。この事実を踏まえた上で相談したいことって、何かな?」
「うん。せっかくエルちゃんもアルチェムさんも日本に滞在できるようになったんだし、何か新しい行動を起こしたいんだけど、どうすればいいかが思いつかなくて……」
「春菜。一つ確認だけど、それは大前提として、告白するっていうのはなしなのよね?」
「うん。多分、まだうまくいかないだろうから」
「そう。で、女性であることを意識させつつ、東君に負担にならないように、その上でこの四人が揃ってる時にしかできない事をしたい、と」
「そういう事になるかな?」
春菜が出してきた条件を確認し、宏に思いを寄せる四人の美少女に視線を向ける蓉子たち。
この中の一人でも恋人にできるのであれば、恋愛という点ではまず間違いなく勝ち組となれるであろう、心身ともに良くできた女性たち。
着ている服が浴衣なのでそんなにはっきりとボディラインは分からないが、着替えている時に見た限りでは、一番貧相な澪ですら女性らしい凹凸という点では蓉子を上回っている上、澪とエアリスはまだまだ育っている最中だ。
しいて難を言えば、見た目だけで言えば澪に、実年齢の面だと澪とエアリスに性的な意味で手を出すと、普通に前科がついてしまう事だろうか。
正直な話、この中から一人選ぶのであれば、残った三人をどうするつもりなのかと気になって仕方がない所だが、現在はスタートラインにすら立っていないので、現段階での追及は考えないことにする。
それを踏まえて出せる結論は一つ。宏がどの程度のセックスアピールまで大丈夫かを確認しつつ、春菜達が女性であることを再認識させるネタを考えればいい。
「そうね。いっそ、海水浴かプールにでも行ってきたら?」
「なあ、蓉子。海水浴はそろそろやめておいた方がいいんじゃないか? 盆休みを過ぎた今、どこの海岸もクラゲがピークだ」
「ああ、確かに。そんなところに春菜がのこのこ行って、巨大クラゲが流れ着きましたとか言い出したら大パニックよね」
「蓉子が私をどう思ってるのか、一度しっかり話し合いたいところなんだけど、それ……」
「とりあえず春菜ちゃんが引き起こしそうなことについては横に置いておいて。そのあたり踏まえると、やっぱりプールかなあ。エアリス様とアルチェムさんは泳げるの?」
蓉子と田村の会話にジト目で突っ込みを入れる春菜をなだめつつ、エアリスとアルチェムに話を振る美香。美香に問われて首を横に振るエアリスと、うなずいて泳げることをアピールするアルチェム。
エアリスに関しては、正確には泳げないというより浮かんだ状態で前に進む効率が極端に悪いといった方が正しいのだが、見た目の上では大差ないのでここでは深く追求しないことにする。
「じゃあ、エアリス様に泳ぎ方を教える、っていう名目でプールで水遊びすれば?」
「むう、なんか楽しそう……」
美香の提案に、宏に対するアピールとは別次元で食いつく澪。
去年は海もプールも禁止で、今年は競泳水着事件以来なんとなくタブーになっているので、そういう水遊びに憧れがあるのだ。
「ふむ。水橋が食いついているという事は、東を誘うかどうかとは無関係に、やはり一度はプールに遊びに行けばどうだ?」
「そうだね。宏君誘ってっていう度胸は多分お互いにないから、女の子だけでここのプールとかで遊ぶのは考えようか」
「ん、それがいい。エルとアルチェムもいい?」
「ええ、もちろんです」
「こっちは暑いですし、水遊びも楽しそうですよね」
宏に対するアプローチ、という内容からあっさり逸れて、みんなで普通に遊ぶ計画に走る春菜達。
その様子を見て、やっぱりヘタレたかとお互いの見解を確かめ合う蓉子たち。
実のところ、緊急事態だったとはいえ春菜はビキニ姿で長時間宏と一緒に行動した実績はあるのだが、それが集団となるとまだ自信がないようだ。
「で、あっさり話それたけど、結局宏に対してはどうするのよ? それと、その女の子だけでプールで水遊びって、あたしもカウントに入ってるわけ?」
「そりゃ、真琴さんはカウントに入ってるよ。宏君はまあ、達也さんとセットで声だけかけてはみるけどね」
「正直、プール自体は楽しそうだけど、あんたたちと一緒にっていうのは少々遠慮したいわねえ……」
浴衣がよく似合う胸元をポンポンとしながら、自虐的に言う真琴。温泉旅行に続いて見事な自爆である。
「で、そこは置いとくとして、結局それだったら春菜が焦ってる理由の解消にはつながらないと思うんだけど、どうするのよ?」
「それなんだけど、ボク蓉子姉のおかげで、ちょっと思いついたことがある」
「何よ?」
「そもそもボク達、師匠とデートらしい事って何もしてないから、それこそ普通にデートの範疇に入ることをすればいい」
「具体的には?」
「ピクニック」
ピクニック、と聞いて怪訝な顔をする一同。その顔には、このくそ暑いのに、という気持ちが思いっきり浮かんでいる。
「ピクニックって、どこ行く気よ?」
「何カ所か、ずっとスルーしたままのところがある。そろそろ、確認の意味でも見に行かなきゃいけない」
「見に行かなきゃいけない? ……ああ。言われてみれば、食堂とか温泉とかは頻繁に使ってるのに、スルーしたままの場所がかなりあるわね」
「そういうところを確認しつつ、ボク達だけでイチャイチャしっぽりデートピクニックとか」
「しっぽりするかどうかはともかく、ありっちゃありよね」
澪が言っているのがどこの事か分からず怪訝な顔をする蓉子たちを置き去りにして、春菜が口を挟む前にどんどんと話を進めていく澪と真琴。
「春姉、春姉。エロくならない範囲でボクたちの体がもう大人になってることを示しつつ女性であることを師匠に再認識させられる服とか、未来さんに頼んで大丈夫?」
「できるとは思うけど、断言はちょっと……」
いきなり張り込んだ話をする澪に、戸惑いながらもそう答えるしかない春菜。
未来の事だから大喜びで作ってくれはするだろうが、エアリスたちが帰れるまでに間に合うかは未知数である。
「とりあえずそのあたりは、それこそ未来さんに相談してからにしなさい。で、春菜は落ち着いた?」
「うん。なんとなくやることが決まったら焦りがすっと引いた感じ」
「だったらついでに釘刺しとくけど、デートの日は畑仕事は休みなさい。そのせいで関係が変に安定しちゃってる部分あるから」
「了解」
「エルもアルチェムも、宏と春菜が畑仕事に走らないように注意しときなさい」
「分かりました」
「頑張って阻止します! 未来の私達のために!」
真琴に釘を刺され、確かにそうかもと納得する春菜。それでも安心できないとばかりに、春菜の畑仕事阻止を誓うエアリスとアルチェム。
この話を持ち掛けた際、未来は大喜びでかつ無料で請け負ってくれはしたものの、結局服がすぐにできる訳もなく、当然のごとくプールも宏に断られて、結局翌日は女だけで水遊びと相成ったのであった。
法人設立周りに関しては、フェアクロの日本と現実の日本では異なる部分が多々あるという事をご了承ください。
素材と料理人の腕と調理方法だけでご馳走から食べたいものがないときにとりあえず選ぶ日常食までこなせるハンバーグの万能ぶりは脅威だと思います(小並感





