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第36話

 学校関係は全国的に夏休み初日となる、七月下旬のある日のこと。


 レポートがらみで大学に登校していた宏と春菜は、朝から天音に呼び出されていた。


「夏休みなのに、朝早くから呼び出してごめんね」


「今日はレポートのための調べものと実験があったから、それはいいんだけど……」


「わざわざ呼び出すっちゅうことは、なんぞ厄介なことが分かったか起こったかっちゅうことですよね?」


「うん、まあ、ね」


 呼び出されたことより、天音がわざわざ呼び出さねばならなくなる理由の方に、全力で警戒を示す春菜と宏。天音の態度から怒られるようなことではないらしいとまでは察していても、だからと言って呼び出した理由が軽いとは限らない。


「とりあえず、二人が作ってる作物に関して、いい報告と厄介な報告があるんだ」


「なんかそれ、どっちも本質っちゅうか根っこの部分は同じ話のような気ぃするんですけど、ちゃいますか?」


「うん、まあ、そうなるかな」


 警戒心もあらわに確認を取った宏に対して、あっさりそのことを認める天音。それを聞いた春菜が、思わず天を仰ぐ。


「大体予想がついたよ。いい話っていうのは、メロンの栽培の事だよね?」


「うん。あれちゃんと新品種として登録できそうだ、っていう事がほぼ確定した感じなんだ」


「種から育てたにしては、ちょっと早くない?」


「ついでの実験で、作物の成長促進剤を使った株もあったからね。まあ、そんなの使わなくても、ハウス栽培だと肥料と気温、日照の条件さえきっちり整えておけば、普通のメロンより最大で五割ほど生育が速くなるみたいだけど」


 成長促進剤という単語と、条件だけで五割も速くなる成長。その両方に思わず顔を引きつらせる春菜。宏も大丈夫なのか、という表情を浮かべている。


 既に新品種として登録できることを確認している、という事は、もう現時点でその成長促進剤で、何世代目かの収穫まで持ち込んでいるという事だ。


 そこまでの速さで強引に成長させた作物というのは、果たして大丈夫なのか。また、そんな無茶をした畑は大丈夫なのか。そのあたりが、一兼業農家として非常に気になって仕方がない。


 成長促進剤を使わない素の生育速度にしても、間違いなくスキルの影響が出ている自分たちの畑ならともかく、研究所故に条件は最良だと言えど、普通のビニールハウスで元の品種とそこまでの差が出るのはかなり怖い。


 実のところ、品種改良の項目には普通に生育速度の向上も含まれており、原種と比較すると半分以下まで短縮されている品種もそれなりに存在している。


 もっとも、品種改良項目すべてに言える事だが、どこを原種とするかでこのあたりの評価は大きく変わってしまうのだが。


「その顔、多分成長促進剤に不安があるんだとは思うけど、そっちはそんなに警戒しなくても大丈夫だよ。品種改良の結果を早く確認するために開発したものだから、下手な農薬や怪しい肥料よりはるかに安全だし、コスト的にも普通の出荷用作物に使うには高すぎるしね」


「高すぎるって、どれぐらい?」


「大体プランター一つ分で、十万円ぐらいかかるかな? 正攻法でやってると何年もかかる分コストもすごい事になるから、新品種として成立してるかだけとはいえ、せいぜい百万ぐらいで一カ月半もあれば確認できるのは十分なメリットらしいんだよね」


「一カ月半? 一回でどれぐらいかかるの?」


「米とか麦みたいな比較的栽培期間が長いものでも、種まきから一週間で収穫に持ち込めるよ。ただ、一気に短縮する分手をかけられないから、どうしても味はちゃんと栽培したものより劣るんだよね。あくまでも、数代後まで狙った性質や形質が引き継がれてるか、確認するのが目的の薬剤だからね」


 天音の説明を聞き、成長促進剤についてはそういうものかと一応納得する春菜。


 実際、天音がこれを作った理由も、礼宮農業研究所や知り合いの農家、種子店などから、少々高くてもいいから一カ月程度で何回か収穫して確認できるような薬剤の開発はできないか、と要望があったからである。


 もっとも、この成長促進剤が完成したのが三年前、実用試験で問題ないとお墨付きをもらい、経済産業省、厚生労働省、農林水産省の三省庁から使用可の認可が下りたのが今年に入ってからという歴史の浅い代物であり、作るのに結構手間がかかるため生産量もまだ少ない。


 なので、実のところ天音は、身内の案件である宏達のメロンに関しては、この薬を使って栽培試験をするかどうかは当初迷っていたりする。


 その迷いも、各種組織が試食したメロンに一瞬で陥落した時点で、意味のないものになったのだが。


「っちゅうか、そんな高い薬剤使って、ええんですか? 僕らは単なる学生やから、さすがにそんな金出せませんけど……」


「そっちは大丈夫。礼宮農業研究所からの申し出だから」


「そういえば、酒にするっちゅうとったメロン、二週目入ってから収穫した奴以降のは、全部礼宮が買い占めてましたっけ」


「うん。今は栽培研究に回した分とお菓子とかに加工するのに研究してる分以外は全部、いくつかのパターンで熟成させて冷凍保存してるね。さすがに商品化して売り出せるのは来年以降になるけど、ほぼ商品化確定、みたいなものは明日ぐらいに試食用としてもらえるみたいだよ」


 突然変異で発生したメロンに対する、礼宮の前のめりにもほどがある姿勢。それになんとなく引くものを感じる宏と春菜。


 確かに完熟させたものは超絶的に美味かったが、世界的な企業がしゃしゃり出てくるほどのものとは到底思えないのだ。


「なんか、たまたまできた出所不明のメロンに、なんで礼宮がそこまで本気なのかがわからない……」


「なんでも、潮見メロンって名前で新しい特産品にしたいんだって。天然の希少糖とか摂取しづらいビタミン類とかの含有量も理想的な感じだったし、味の面でも東京の高級フルーツショップとかあっちこっちの高級レストランや料亭なんかがすごい食いついてきたしで、商売にしないなんてありえない状況らしいよ」


「うわあ……」


「ちなみに、認可が下りて大々的に栽培されるようになったら、二十年ぐらいは東君と春菜ちゃんに種子の使用料みたいなのが入ってくるって。さすがに種だから、そんなすごい金額じゃないらしいけど」


 そろそろメロンの方の話は終わりか、というところで、最後に天音が残りの爆弾を投下してくる。


「……ここまで来たら、メロンに関してはそういうものだって割り切ったほうがよさそうだよね……」


「……せやなあ……」


 もう考えるのも疲れた、とばかりに、ため息交じりにそう結論を出す宏と春菜。


「ただ、そうなってくると、悪い知らせっちゅう方が怖い感じやなあ……」


「そっちも、必ずしも悪いとは言い切れないんだけど、ちょっと厄介なことが判明した、っていうのが正しいんだよね」


 宏の正直な言葉に、少し困ったような表情でそう言いながら、大きめのモニターを投影して何やら映像を再生する天音。


 再生された映像に映っていたのは、誰もいない時間帯の宏と春菜の畑であった。


「……なあ、春菜さん」


「……うん、言いたいことは分かるよ、宏君……」


「っちゅうか、食虫植物って食用になったか?」


「ものによるんじゃないかな?」


 再生された映像を見て、乾いた声でそんな会話をする宏と春菜。


 最初に再生された映像には、宏達の畑のスイカが蔦を這いまわっている虫を消化吸収している様が、クリアな映像で見事に撮影されていた。


 恐らく言うまでもないことであろうが、少なくとも普通ホームセンターで売られているスイカの種や苗は、自分にたかってくる病害虫を食ったりはしない。


「トマトの映像も、なかなかすごい事になってるよ」


 スイカについてドン引きしている宏達に苦笑しつつ、トマトの映像に切り替える天音。


 トマトはトマトで、植物のやることとは思えないテクニカルで恐ろしい事をしていた。


「……もしかしてこれ、罠用の実を作って、そっちに鳥とか虫を誘導してる?」


「みたいやなあ……」


「……うわあ、離れたところまで枝伸ばして、そのまま枝先ごと地面に落としちゃったよ……」


「……っちゅうか、食うた虫があっちゅうまに死んでへんか?」


「……」


「……」


 これ以上コメントするのが怖い。そんな恐ろしい植物の生態を映し出した映像に、完全に言葉を失う宏と春菜。


 スイカやトマトの時点で大概だというのに、ナスやキュウリに至っては動いているとしか思えない真似をして鳥などを追っ払っていたりする。


 この分では、いつこっそり歩き出してもおかしくない。


 何より怖いのが、いずれ蝶になって自分たちの受粉を助けてくれる芋虫に対しては、あの手この手で誘導して食べる葉っぱの場所と量をコントロールしつつ、枝をわさわさ動かして外敵から保護するなどという真似をしてのけている。


 虫のコントロールなど、度合いの差はあれどんな植物もやっている事ではあるが、ここまでアクティブにいろいろやっている植物が、日本のこんな町中に近いところにある畑ではびこっているとは思わなかった。


「……これ、大丈夫なん?」


「……普通に考えて、絶対大丈夫じゃないと思うけど……」


 一通り見終わって、率直に疑問を口にして、窺うように天音を見る宏と春菜。その二人の視線を受け、苦笑しながら小さくうなずく天音。


「普通なら問題なんだけど、どうにもできないよね、実際。それに、少なくとも普通の撮影機材だと機械音でばれてこの映像は撮れないし、人間がいる状況では普通の植物だから、大規模な農場に手を出すとかでなければ大丈夫だとは思う。機材の方も、市販されてるものどころか軍用のものですらあっさり察知されちゃうから、テレビ局にっていうのはまず間違いなく問題ないよ」


「そっちも心配だけど、本当に食べて大丈夫だったのかもちょっと不安になってきてるよ……」


「せやなあ……」


「そっちも大丈夫。栄養価とか栄養バランスはすごく理想的だけど、おかしな成分とかは入ってないから。せいぜい、一部の不足しがちな栄養素が普通より吸収しやすくなってる程度」


 それはそれでどうなのか、という情報を告げる天音に、どうにも表情が渋くなる宏と春菜。天音が大丈夫というのであれば、神様方面から文句が来ることはないのだろうが、情報化社会というやつを甘く見るのも怖い。


「どっちにしても、畑の事は東君と春菜ちゃんが向こうで身に着けた技能が影響しちゃってる要素で、普通の人でも一世紀に何人かは出るようなものだから、私達でも口をはさめないんだよね。私から言える事は、毎日でなくていいから、畑仕事するときにはそっち方面でも作物の様子に注意して作業してね、っていうことぐらい」


「注意して、って言われても……」


「結局、気ぃ付かんと思うんですよね……」


「だろうね。ものすごくうまく擬態してるから、メロンの事で疑問持ってなかったら、私も現場押さえたりとかできなかったと思うし」


 無茶言うな、とばかりの春菜と宏の反応に、苦笑しながらうなずく天音。言っておいてなんだが、さすがにちょっと無理があるのは分かっている。


「とりあえず、今のところ表立って何かが起こるわけじゃないけど、知っておかないとあとで問題になりそうだから、今のうちに状況だけ教えておきたかったんだ」


「そうですね。確かに、これは知らんかったで済ますんは無理がありますわ」


「でも、本当にこの野菜とか果物、食べて大丈夫なのかな?」


 蔓がうねうね動いていたナスや、実にたどり着く前にたかっていた虫を消化吸収していたスイカを思い出し、そんな不安を口にする春菜。その不安を払拭するように、天音がそのあたりの調査結果を告げる。


「実とか一般的に食べられてる部分は大丈夫。ただ、蔓とか茎とかは出来るだけ避けた方がいいかもね」


「やっぱり、そのあたりには問題があったんだ」


「検査した限りでは大丈夫だったけど、普通の人からしたら、あんまり気持ちのいいものじゃないしね。特にスイカの蔓」


「……確かに」


「っちゅうか、ここまでやっといて、実に毒がないっちゅうんも不思議な感じやなあ……」


 天音の言葉にうなずきつつ、毒性がなく食べて大丈夫という点を本気で不思議そうにする宏。その宏に対し、さらに天音が解説をする。


「それは、不思議でも何でもないんだよね、実は」


「っちゅうと?」


「結局のところ、どういう形で毒物を持ってるか、ってだけの話なんだよ。そもそも根本的な話、毒性のあるものを一切体内に持っていない生物って、ほとんどいないんだよね。人間だって、必須栄養素や必須ミネラル、最終的に汗とかトイレとかで排出する老廃物なんかの中に、それ自体は毒っていう成分が結構含まれてるし」


「ああ、確かに」


「二人の畑の作物は、内部に持ってる毒性を人間に影響がなくて、かつ病害虫には強い効果のある化合物や消化液に合成して、農薬的なやり方で使ってるだけなんだよ」


「それ、ホンマに人間に影響ないんですか?」


「どれもこれも唾液や胃液に含まれる酵素に反応してショ糖と食物繊維に化ける成分だから、人間が影響を受けることはないよ。きっちり成分を抽出すれば、害が少なくてかなり便利な自然農薬として使えるんじゃないかって本気で検討する程度には、見事な化学反応だったし」


 聞けば聞くほど、どんどん魔境化が進んでいく春菜の畑の作物。いくらエクストラスキルとはいえ、いくらまだまだ本気など出してはいないとはいえ、「神の農園」スキルは無駄に頑張りすぎである。


「とりあえず、あと問題になりそうなのは、花粉とか種とかが変なところに飛んで行かないかって事なんだけど、それこそ気にするだけ無駄だしね」


「そもそもの話、使ってる苗も種も全部ホームセンターで買ってるF1種の奴だから、次世代に同じ形質が受け継がれるかどうか自体怪しいよ、おばさん」


「そうだよね。むしろ、あのメロンはよく、ちゃんとした新種として定着したよね」


 花粉やら何やらの問題に対し、春菜が思うところを告げ、天音が同意する。


 以前にも軽く触れたが、F1種というのは作物の分類の一つで、一代交雑種とも呼ばれている。育てやすく収穫量を見込みやすい種が安定して手に入るという利点があるため、現在の農業では広く使われているものだ。


 が、このF1種、次の世代にどんなものができるか分からない、という致命的な欠点を抱えており、その点があちらこちらで問題視されている。


 なぜそんなことになるのか、それ自体は簡単な話である。例えばF1種のキャベツを作る際、掛け合わせているのがキャベツ同士とは限らず、片側が白菜だったりレタスだったり、場合によっては一般的には根菜扱いされているものだったりと、交配できる植物なら何でもあり、というレベルで掛け合わせているのが原因だ。


 そうやっていろいろ掛け合わせたもののうち、狙った結果が出た組み合わせを商品化したのがF1種であるため、次の世代ではキャベツを栽培したのになぜか出来たのがレタスだったり白菜だったり、キャベツだったとしても食味がおかしかったり親世代の致命的な欠陥が表に出たりと、メンデルの法則に忠実に従ってかなりカオスな結果が出るのである。


 ほとんどの鍋物に投入される白菜が自然に起こる交雑によりなかなか原種が確保できず、実際に広く栽培され始めたのが実は大正時代だったりと、新たな作物の導入は常に交雑の問題との戦いの歴史の側面があるのだが、長くなる上に本筋から外れるので割愛する。


 宏達の新種のメロンを、わざわざ手間とコストをかけてまで大急ぎで原種になっているかどうか確認したのも、F1種のメロンが突然変異を起こしたという出自の問題が非常に大きい。


「まあ、そういう訳だから、また何かが突然変異で新品種になる可能性は結構高いし、畑に関してはちょっと注意してね」


「はーい」


「とりあえずメロンに関しては、普通の栽培試験の方でも今年中にあと三回ぐらい種まきから収穫まで行けそうだから、来年に品種登録と普通の農家さんでの出荷用試験栽培、再来年から本格的に栽培開始ってスケジュールになりそう。交雑するとまたややこしい事になりそうだから、来年はメロンは一株に絞った上で潮見メロンだけにしてくれると助かるよ」


「了解。そうやってブランド価値を高めるようにって、美優おばさんから言われてるって事でいい?」


「そういう事。野菜と違って果物は、ものによってはけた外れにお金になるから、本当に慎重にやってね」


 その言葉で、天音の用事が終わる。


 こうして、翌年以降、メロンは物々交換に使いづらくなってしまうのであった。








「……あれ? お父さんとお母さんからメッセージ?」


 天音の研究室を後にし、図書館でレポートを一本やっつけた後、昼食のためにカフェテリアに移動したところで、春菜の端末にメッセージが入った。


「スバルさんと雪菜さんから? また珍しいな」


「うん。……うわあ……」


「どないしたんよ?」


「えっとね、畑とか市場とか工場から出る捨てちゃう食材使って、材料費をタダで料理作るって番組あるよね?」


「……もしかして、収録がこの辺になるっちゅうことか?」


「……みたいなんだよね。しかも、お父さんがゲストとして参加するみたい」


 春菜の説明に、思わず青ざめる宏。春菜も、心底困った顔だ。


「日程はどないなん?」


「幸か不幸かって感じなんだけど、ちょうど温泉に行く日だよ。あの番組の収録が何時から始まってどういうスケジュールで動くかは分かんないけど、早めに潮見から脱出しておいた方がよさそうだよね」


「せやな。後、安永さんとか兄貴らとも相談がいるやろ」


「うん。天音おばさんに礼宮関係の人たちとも相談したいかも」


 そう言いながら、次々とメッセージを送っていく春菜。


 天音や美優の方も情報を把握しているらしく、即座に返事がくる。


「……達也さんがご飯食べてからこっちに来るんだって。詩織さんも一緒みたい。礼宮に関しては、達也さんが代理だって」


「真琴さんと澪は?」


「真琴さんは、ちょうど今澪ちゃんと深雪と安永さんを回収したところで、ご飯食べてからこっちに来るって返事があった。どうも、お母さんから直接メッセージが来てたみたい」


「僕の端末に来てへんっちゅうことは、雪菜さんもスバルさんも手ぇ抜いたわけか……」


「だろうね。今日は私達は一緒に行動するって最初から言ってあったし、別にいいんじゃないかな?」


 完全に春菜とワンセットで扱われているという事実に、宏が遠い目をする。もはや肩が触れるような距離で一緒に居ても恐怖症的な意味でのプレッシャーを感じなくなって久しいとはいえ、ここまで露骨に周囲から外堀を埋められると反応に困るところはある。


 春菜の事が嫌いなわけではもちろんなく、ちゃんとした告白こそされていないとはいえ、これだけずっと真っ直ぐに好意をぶつけられて、気のせいだなんだと言い逃れする時期はとうに過ぎている。


 春菜相手に限った話ではなく、それこそエアリスや澪、アルチェムに対しても言える事だが、宏がその気になればその時点で即座に恋愛関係に発展する、否、実質的には既に恋愛関係に発展していると言ってしまっても、当事者以外は誰も否定しないところまで、相互の気持ちは高まっている。


 だが、本人や周囲の態度や言葉からもはやその領域に達していると分かっていても、男としての自己評価が底辺を這っている宏は、どうしても自信を持てずにそこから踏み込めない。


 中学時代に受けた恐怖症を患うほどの仕打ちは、トラウマを乗り越えた今でも深く根を張っているのだ。


 春菜が恋愛面で宏以上にポンコツなおかげで、普段はこのあたりを深く考えずに済んでいるとはいえ、こういう事があるとちょくちょくヘタレが顔を出してしまうのである。


「まあ、とりあえず、先に昼食べてまおうや」


「そうだね」


 なんだかんだ言っても、全員そろうまで三十分程度はかかる。食事の時間ぐらいはあるだろう。


 とりあえずその旨を伝え、いつものように食堂備え付けのティーサーバーでほうじ茶をもらう宏と春菜。


 そのタイミングで、同じようにお茶を汲みに来た男子学生に声をかけられる。


 同じ総合工学部の一年生、小林正樹である。


「よう、東、藤堂。お前らも今から昼飯か?」


「せやで。小林もか?」


「ああ。つっても、夏休みはメニューが少なくて、ちっとがっかりしてたところなんだが」


 そう言って、トレイを見せる小林。トレイの上には、ご飯に味噌汁、漬物、千切りキャベツと豚の生姜焼きという、どこにでもある生姜焼き定食が並べられていた。


 ちなみに、ボリュームの方はなかなかのもので、普通の女子大生なら十分に満足できる分量である。


「メニュー少ないって、どんな感じ?」


「日替わり二種類とうどん、そば、カレーだけだな。うどんとそばは具が固定で、カレーもカツカレーは無し。カレーうどんもない。デザート類もプリンぐらいしか売ってない」


 思った以上に絞られているメニューに、確かにそれは少ないと頷く宏と春菜。


 単品メニューを足せないのも痛いが、どんぶりメニューがないのも痛い。


 なお、ご飯、味噌汁、漬物の三品は通年で単品販売している。


「小林君、煮豆とか食べる?」


「食うけど、なんで?」


「間食用に余分に作ってきたのがあるから、どうかな、って。男の子だったら、それだけだとちょっと物足りないよね?」


「まあ、ちっと足りない。いつもだったら一品か二品足すんだけど、流石にうどんまではなあ」


「じゃあ、分けてあげるから、一緒に食べようよ。ここで会ったのも何かの縁だし」


「二人がいいんだったら、そうさせてもらえるとありがたい。別に一人で昼飯食うのには慣れてるけど、話し相手がいるならその方がいいし」


 間食用に煮豆を作って持ってくる女子大生ってどうなのか、などとちらりと思いながらも、春菜の申し出をありがたく受ける小林。総合工学部の一年生全般に言える事だが、小林もどちらかというとぼっちな感じである。


「はい、これ。好きなだけとって食べてね」


 クーラーバッグから取り出したタッパーを開けて、全員の席の真ん中に置く春菜。大豆だけでなく人参やレンコン、昆布、こんにゃくなども三割ほど入った、割と気合の入った煮豆である。


「他にも、金山寺味噌なんかもあるで」


「野菜につけて食べると、美味しいんだよね」


「……いつもこんなものを持ち歩いてるのか?」


「私と宏君だけで行動してる時は、最初から長丁場になりそうだって分かってる場合だけかな? 真琴さんや山口君なんかとご飯食べる予定がある時は、他にもいろいろ、こういうタイプのちょっとした常備菜や果物、デザートなんかを用意してるよ」


「デザート、っちゅうても、大抵は朝に畑で収穫した果物適当に、っちゅう感じやけどな」


 未成年の現役大学生は、普通学校でそんな食生活はしない。思わずそんな感想が頭によぎりつつも、とりあえずあえて何も言わない小林。


 この二人が毎朝学校に来る前に畑仕事をしてきていることも、その際に過剰な収穫があって余らせていることも、その野菜を物々交換に回していろんなものを入手していることも、海南大学では有名な話である。


 細かい事を気にしていては、恐らくこの二人とは付き合えない。そう悟り、ありがたくおかずを分けてもらうことにする。一番気になっているのは、宏達の弁当箱に入っているアスパラと人参の豚肉巻きと筑前煮だが、交換できるようなおかずもない現状、それを口にしない程度の慎みはある。


 なお余談ながら、宏と春菜が仕込んだ金山寺味噌は、物々交換で入手した地元の米を使った味噌に、畑の野菜を細かく刻んで入れたものだ。


「この味噌、うまいなあ」


「自家製やからな」


「てか、俺、そのまま食べる類の味噌って、初めてだ」


「食べない家は、全然食べないみたいだよね、こういうの」


「豆もすげえうまい。これ、全部二人が育ててる野菜?」


「レンコンと昆布は、貰いもの。さすがに貸し農園に沼地とかないし、漁業権持ってないから勝手に昆布回収するわけにもいかないし」


 春菜の説明に、そういうものかと納得する小林。親が研究職とはいえ、普通のサラリーマン家庭に育った彼は、農業には詳しくない。


 バイオテクノロジー関連に絡むこともあり、総合工学部ではある程度農業についても学ぶが、残念ながら一年生の前期、それもまだ夏休み前となると、本来専門外になる農業関連の内容まではやらない。


 前期は総合工学基礎以外に選択で三つほど専門分野をやる以外は、とにかく一般教養を詰め込まれる。農業をはじめとした他の分野にちょっかいを出すのは、早くて二年の前期からだ。


「にしても、藤堂って意外とよく食べるのな」


「私、ひそかにかなり燃費悪いんだよね。それに、農作業とかやってるから、こっそり筋肉ついてて基礎代謝高目だし」


「なるほどなあ。まあ、それ以上に、大体いつ見ても一緒に行動しててこういう飯時におんなじ中身の弁当をこれ見よがしに広げてて、それで付き合ってないってのが一番驚きなんだけどなあ」


「よく言われるよ」


 付き合っていない、というのが普通に詐欺くさい宏と春菜の関係に、どうにも腑に落ちない感じで首をかしげつつ、金山寺味噌をドレッシング代わりにしてキャベツを食べる小林。


 その小林のストレートな意見に苦笑しつつ、自家製チーズと朝採れ卵で作ったチーズオムレツを堪能する春菜。今日のオムレツもいい出来だ、などと内心で自画自賛するのはいつもの事である。


 その横で宏が人参とアスパラの豚肉巻きを実に美味そうに食っているが、それを見てしまうと羨ましくてしょうがなくなるという理由で、必死になって目をそらしている小林が微妙に哀れを誘う。


 親しくもない相手に言う言葉としては、小林の言葉はデリカシーだの礼儀だのというのを完全にブン投げた割とアウトなものではある。普通ならアウトなのだが、言われ慣れていることに加え、小林の態度は純粋に驚いているだけで、この手の事を言ってくる人間によくある妙な含みとかネットリとした下心的な感じとかがないため、特に不快感を覚えることがなかったのだ。


「しかし、夏休み中ずっと昼がこうとなると、自炊できるようにした方がいいかもなあ……」


 どうやら、宏と春菜が付き合っていないことに関してそれ以上の興味はないらしく、サクッと飯の話に移る小林。今までの経緯だとかなぜ付き合うに至っていないのかとかお互いにそれで問題ないのかとか、そういったコイバナ的な意味で好奇心をそそるような要素を気にするそぶりすら見せない。


 宏と春菜が付き合ってないと知ったとたん、いきなり春菜を口説こうとする男も多い中では珍しいぐらい淡泊な反応である。


「小林は、確か寮生やったか?」


「ああ。水沢寮に入ってる。有難いことにちゃんと休み中でも飯は出してくれるから、朝晩はいいんだけどなあ」


「学食にこだわらんかったらええんちゃうか、と思うんやけど」


「外は結構高いからなあ。そば信のサービス定食でも、週に何回もとなると結構きつい」


 三百円と破格の安さを誇るA定食を平らげながら、懐事情を理由に外に食べに出るのはきつい事を告げる小林。


 とはいえ、独り暮らしで、しかも昼食だけだと、自炊の方が安くつくとは限らないのが割と難儀な点である。しかも、学食は納豆は三十円、それ以外の小鉢は五十円均一で結構なボリュームがあり、四百円も出せば一般的な男子学生の胃袋を大方満たせる値段設定だ。この値段で栄養バランスも考慮して、となると、余程料理と買い物が得意な人間でなければ厳しいだろう。


 学生寮だと、朝晩は間違いなく寮で出される食事の方が安くて栄養バランスが取れているのも、自炊を阻む壁になっている。


「まあ、自炊頑張るんやったら、あまりもんの野菜でええんやったらいくらでも提供したるで?」


「そんなに料理得意じゃないのがネックだな。ぶっちゃけ、卵焼きと目玉焼き以外は、カレーと焼きめしと野菜炒めしか作れない」


 男子学生に最も多いであろうレベルの料理の腕前を、情けない顔で自己申請する小林。当然、野菜炒めの味付けは焼き肉のたれ一択だ。


「そこはもう、頑張って練習するしかあらへんなあ」


「教えてあげてもいいんだけど、場所と時間がちょっとね」


「こっちも、教わる時間が厳しいしなあ……」


 いつの間にか用意されていたきゅうりスティックに金山寺味噌をつけてかじりながら、宏と春菜の言葉に申し訳なさそうに告げる小林。


 正直に言うならば、日中に宏と春菜から料理を教わる時間を捻出できるなら、その時間で日雇いの短期バイトでもした方が確実に問題は解決するだろう。


 残念ながら、総合工学部に所属している限り、勉強とレポートが多すぎて日中にそんな時間は作れない。


 まだ実家の工場の手伝いができるような余裕がある宏や、それに付き合える春菜が異常なのだ。


 その二人ですら、今日と明日は実験とレポートに割かねばならないのだから、総合工学部がどれだけきつい学部かよく分かる。


「……ちょうどいいレシピサイト見つけたから、これ見て練習すればいいと思うよ。他のお野菜は明日持ってきてあげるから、今日のところはこのきゅうりとトマトを持って行って、このあたりのレシピを試しに作ってみればいいんじゃないかな?」


「……なるほど。動画もついてるし、少々とかひとつまみとか判断に困る表現もないから、俺でも作れそうだ」


 春菜が探し出してくれたレシピサイトと、そこに掲載されていた料理を見てありがたそうにうなずく小林。


「でも、このトマトときゅうり、多すぎないか?」


「寮生の人たちって、小林君と似たような感じの人も多いんでしょ? みんなで練習してみんなで自炊できるようになれば、ちょっとお金出しあうだけで美味しいものを食べられるようになるよ」


「野菜やったら売るほどあるから、いくらでも言うてや」


 どこに持っていたのか、二十本ほどのきゅうりと十個ほどのトマトを渡され、そんなことを言われる小林。ここまでされてしまうと、今更後には引けない。


 結局、小林は他の一年生を巻き込み、水沢寮昼食自炊クラブを立ち上げて料理の練習に邁進することになるのであった。








「なんか、色々ごめんね」


「畑に関しては、この場にいる人間全員が恩恵受けてるから、気にする必要ないんじゃない?」


 集合した人間全員に対する春菜の謝罪と、それに対する真琴の返事で、テレビ収録に対する話し合いが始まった。


「とりあえず、雪菜ちゃんとスバルさんのおかげで、不意打ちだけは避けられたから、まだよかったよね」


「うむうむ。事前に知っておけば、年寄りがどうとでも対処できるからの」


 天音の言葉に、安永氏が好々爺の風情を崩さずに頷く。


「それで、天音ちゃんが観察しちょるっつうことは、畑にテレビカメラが入るのはまずい訳じゃな?」


「多分大丈夫だとは思うんですけど、あんまり撮影されたくはないかな、って感じではあるんですよね」


「なるほどなるほど。じゃったら、食える範囲の虫食いや規格外品を多めに確保しておけば、誤魔化しはきくかの」


「そうですね」


 協力的な安永氏の言葉に頷く天音。できるだけ、畑に近寄らせないに越したことはない。


「どうしても畑を撮りたい、って言われたら、どうします?」


「その場合は、横山さんか山口さん、長瀬さん、松岡さんあたりに身代わりになってもらえばよかろう」


 テレビ局の強引さを知る春菜が口にした気がかりに対し、同じように道の駅に野菜を出荷し、そこそこ人気を博しているリタイア組の名前を挙げる安永氏。


 畑仕事をしている時間帯が違うため、あまり顔を会せる機会はない相手だが、揃いも揃って若者とお祭り騒ぎが好きな、気のいい六十代後半の人たちである。


「あ、出荷場の方に誘導するんだったら、礼宮から提案があるんですが、いいですか?」


「綾乃ちゃんからかね? どんな話じゃ?」


「例の潮見メロン、登録の方に問題がなさそうなら、売りに出せなくて持て余してるって名目で宣伝代わりにただでくれてやったらどうか、って」


 達也が口にした礼宮からの提案に考え込む天音。その天音に、その場にいる人間全員の視線が集中する。


「……まあ、目途は立ってるし、圧力かける意味でもありはありかな。問題は、ルールに抵触するかどうかだけど」


「実際、まだ売りに出せなくて持て余しとるからのう。あの番組のルールには抵触せんはずじゃ」


 宏と春菜には今朝報告したばかりだというのに、新品種として潮見の農家や農協から既に熱い視線を注がれている潮見メロン。それだけに試験栽培で採れた量も多く、未だに収穫があることも手伝って、生産者の取り分に関しては冗談抜きで持て余しているのが現状だ。


 試食して感想を集める時期もすでに終わり、現在は今まで渡していなかった人間に渡すには事前申告して許可を得ることになっているため、消費量が増えないのである。


 何より、いくら美味しかろうが、どれほど食べても飽きない味だろうが、毎日毎日大玉のメロンを一個食べられる家庭はそうはない。というより、毎日続けば飽きる飽きないに関係なく、たまには別のデザートを食べたくなるものだ。


 酒にするにもそろそろ仕込める量の限界に達しており、現在は消費量が漸減している状況である。


「ねえ、綾瀬教授、安永さん。それだったら、宏達の畑は現在調査中って事で、マスコミシャットアウト出来るんじゃない?」


「ああ、そうだね。何があって突然変異が起こったか調査してる最中で、関係者以外は外乱要因になるから現在進入禁止、ってことにして、メロンの栽培してるところを知りたいなら海南大学に来てほしいって言えばどうにかなるかも」


「ついでに、そっちでも調査も試験栽培も終わって食い切れん新品種とか、押し付けたらどうじゃ?」


「ああ、それいいかも。安永さん、誘導お願いできます?」


「おうおう、任せておけ。何だったら、ついでに肉でも釣ればよかろう」


 どうやら、いいように宣伝と官僚に対する圧力として今回の収録を利用する方針に決まったらしく、やたらいい笑顔で天音と安永氏がうなずきあう。


 そこに、澪が口を挟む。


「ねえ、教授。こっちに情報が来たって事は、多分スタッフにも雪菜さん一家の情報流れてる」


「あ~、ついでに家族を撮影したい、って考えそうだよね。春菜ちゃんと深雪ちゃんをどうにか引っ張り出そうと、あっちこっちの製作会社が頑張ってるって二人ともよくぼやいてたし」


「だったら、どうせ旅行に行かないから、わたしが収録に顔出そうか?」


 澪の指摘から派生した懸念。それに対して、深雪が人身御供に立候補する。


「最悪の場合はそうなるけど、いいの? というか、大丈夫?」


「受験生であることを盾にとるから、あんまりしつこくはできないはず。それに、わたしはお姉ちゃんほど芸能界にアレルギーないし」


「まあ、深雪ちゃんがそれでいいんだったらお願いするけど、特にメリットとかはないと思うよ」


「後でお母さんから、バイト代でも貰うよ。お姉ちゃんと違って、わたしはそんなに収入あるわけじゃないし、わたしも一応ホワイトフェアリーの所属タレントだし。あと、上手くやれば収録終わった後に何か奢ってもらえるかもしれないから、そこをちょっと期待してたりなんか」


 割とちゃっかりしたことを、しれっと言ってのける深雪。このあたりのずぶとさは、春菜にはないものである。


 なお、ちゃっかりしている割には、深雪も芸能人として本格的に活動する気はゼロだ。春菜と違って、テレビなどに顔を出す類の仕事を、ちょっと美味しい臨時収入のあるアルバイトと割り切って引き受ける程度である。


 春菜はほとんど把握していないが、潮見で小学生や中学生にインタビューする類の番組には、何度かバイト代をもらって顔を出していたりする。


「あ、でも、一応渡せるもの、何か用意しといてくれると助かるかな?」


「庭のシイタケ、食べられる奴で普段捨ててる分を横によけとくよ。間引いたやつとかね」


「うん、お願い。でも、芸能人の娘なのに庭でシイタケ育てて家の中で味噌と醤油仕込んでる女子大生って、言葉にしてみるとすごい残念臭漂ってるよね」


 深雪の厳しい突っ込みに、反論できずに沈黙する春菜。


 フェアクロ世界にいた時は全く気にしていなかったが、地方とはいえ生まれも育ちも大都市の女子大生として見ると、かなり残念な仕様なのは否定できない。


「旅行行く日やったら、冷蔵庫の中にある金山寺味噌とか、消費期限的に怪しなってくるかもなあ」


「ああ、確かに。あれ、野菜の部分が意外と日持ちしないんだよね」


「そういうのもラベル貼っといてくれたら、上手い事押し付けとくから」


「うん、お願い。前日に冷蔵庫とか食料庫見て、食べられる範囲で傷みかけてるのとか仕分けしとくよ」


 だんだん、体よく不用品を押し付ける方に計画が移りつつある対策内容。


 それを聞いて、思わず遠い目をする達也と真琴。


「詩織さんは、何かアイデアとかある?」


「ん~、特にこれと言ってはないかなあ。ただ……」


「ただ?」


「おかず味噌とかメロンとかシイタケとか、食材がすごくカオスだなあ、って……」


「「「「あ~……」」」」


 詩織の漏らした感想に、言われてみればという感じで声を上げる宏、春菜、澪、深雪の四人。


 料理への使い道などいくらでも思いつくとはいえ、シイタケ以外は割と使い勝手が悪い。


 特に金山寺味噌はそれ自体が単品で食べるものとして完成しているので、素人が料理に使えとポンと渡されても困るだろう。


「だったら、爺もできるだけ使い勝手が悪そうなものを押し付けようかの」


「一応、お父さんも料理するのでほどほどにお願いします」


「スー坊なら、少々妙な食材が揃ったところでどうとでもするさね」


「まあそうだけど、やっぱり限度が……」


 自分の事を棚に上げて、安永氏をたしなめる春菜。そんな春菜の気遣いもむなしく、スバルが当日ゲットした食材は潮見の魔窟ぶりを示すかのように無駄にバラエティに富んでおり、関係者全員を大いに困惑させるのであった。

知らない人間が泥棒目的で侵入しようとするとなぜか蔓植物が絡まって身動きが取れなくなる魔境、それが春菜さんの家庭菜園です。


ちなみに余談ながら、春菜さんの畑でとれる潮見メロンは、ものによっては末端価格が札束になるという家庭菜園にあるまじき結果に。

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[一言] 松岡さん、永瀬さん、山口さんに…横山さん。おや?
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