第8話 世界を渡る準備
珍しくちょっと早めの更新です。(それでも遅いけど ボソッ)
それでは第8話ですどぞー
10/7 ちょっとだけ修正しました
「質問はないですよね?無いよね」
やっと異世界に移る準備を始めるらしく俺は白の世界で仰向けになっている。
「それじゃあ今から魔力を受け渡すねー。ちゃんと力抜いて覚悟しとかないと発狂しちゃうよー」
さりげなく凄く恐いこと言われたので痛みに適応するよう力を抜いて痛みの感覚を頭の中で反復する。
少し経って身体の周りに何かが包み込む感覚がしてきた。気持ち悪くは無いが少しずつ重み、プレッシャーを感じてくる。
それが少しずつ強くなっていき全身が押し潰されるような感覚が襲う。
「っぐう……」
内蔵が潰されそうだ。呼吸出来るかどうかすら怪しくなってきている。痛いよりかは苦しい。苦しくて意識を失う事すら出来ない。
「ほらほーら、もっと辛くなるから我慢我慢」
「がはっ……」
肺を押し潰され口から強制的に空気が漏れる。酸素不足で頭がクラクラする。なるほど、これは横にならないと出来ないな。ぶっ倒れて頭ぶつけてしまいそうだ。
そんな事を考えてる余裕も次の瞬間消え去った。
「ぎぃ……」
頭が……痛……い………脳が…締め……つけ……られる……
「ぜっ……た…い……こ……ろす……き……だろ…………」
身体が自由に動かなく言葉を発するにも呼吸が出来ないため途切れ途切れになる。
海底にでも放り込まれたらこんな感覚なのだろうか。そもそも海底に沈んだら生きていけないな。
だったら重力関係の魔法でも受けたらこんな感じか?
いやそれなら上から押し付けられるハズだから違うだろう。だけど潰される感覚はこんなものなのだろうか?
痛みと苦しみを麻痺させるため頭の中で次々と必死に思考を展開していく。ただの現実逃避に過ぎないががそうでもしないとただキツいだけで時間が過ぎてしまう。
そんなんじゃ発狂する。
それに急激にではなく少しずつ痛みが増幅していくため気絶することも出来ない。
そんなことを考えているとようやく身体が軽くなった。
「終わったよー生きてるー?」
先程までの重圧が無くなり身体が少し軽くなった。重い装備を外したような解放感が湧き出てくる。
「君の身体を魔力に強制的に馴染ませて作り出せる様にしておいた。これで君は魔力を使えるようになった。おめでとう。
魔力は君が身体の中で生み出してその中を満たしているんだよ。ここは異世界の人たちと一緒で満たしている量と濃度で魔力の大小が変わってくるよ。
だけど君にはついでに膨大な魔力をストックする装置も組み込んどいたからね。魔力を作る器官とストックする装置はいくら人を分解して解析しても見付かんないから作ろうとしても無理だからね。
まぁ装置のことは誰にもわかんないはずだけど誰にも言っちゃダメだよ僕は君を信頼して教えてるんだ。
後の細かいところは自分で調べな。そっちの方が分かりやすいだろう。」
「長々しい説明ありがとう」
ついでにさっきの苦痛をなくしてくれたら最高だったのに。
ところで1つだけ忘れてる事がある。
「魔法創造に関しては何もないのか?」
まさか本当に忘れてる訳じゃ無いだろうな。
「それはもうとっくに終わってるよ。異世界に着いて一息ついたら『魔法創造【マジッククリエイト】セットアップ』て言えば初期設定が出るよ。」
「初期設定?」
「あとは自分で使いやすいように設定を入れ換えな。やれば分かるから。」
いや説明になってないし……
まぁいい後は一人で頑張るとするか。
「それで?」
蒼に尋ねられたが質問の内容を聞かされていないので質問で返すしかない。
「何がだ?」
「一通り準備は終わったけど他に聞きたいこととかある?」
聞きたいこと……小さいことくらいしかないな。
「じゃぁホントに小さな事だけど」
「ふむふむ」
「異世界の名前って何なの?」
すると相手は絶句したように固まり、次の瞬間笑い出した。
詳しくは記さないが色んなものが混じって聞くに絶えなかった。世界中の笑い声をかき混ぜたらそのようになるのだろう。
その姿はあまりにも人間らしい姿だったが根本的に違う。少なくともさっきは自分でそう言っていた。
落ち着いたのだろう笑い声が静まり話し出す。
「まさかそんなことを聞くやつがいるとは思わなかったよ。そんなこと聞かれた事なかったし」
気になるものだと思うのだが普通はパニックになってそこまで頭が回らないものだろう。
半年の猶予があったかどうかの違いだ。
「それじゃぁ教えてくれるのか?」
「残念だけどそれは無理。」
意外だな……
簡単に教えてくれると思ったのだが……
「じゃぁ逆に聞くけどこの世界の名前は何だと思う?」
「……地球?」
「それはただの惑星の名前じゃん。まだいくつか思い付くかも知れないけど全部違うよ。
世界に名前なんか無いし」
世界に名前なんか無い?
「だったらたまにある世界を往き来する物語の表世界や裏世界とかも違うのか?」
「世界に裏表があっても表と裏の世界があるわけ無いじゃん。だから鉄人兵団がいた鏡の世界も存在しないよ。鏡とかを世界の通り道にすることは出来ないわけでもないけどね。
それで世界の名前の話だったな。人は存在を知らないものには名前なんてつけれないよ。さっき出た地球だって違う星の存在があって始めて地球って名前になったんだよ。
異世界の存在を知ることが無いからそれには名前を付けられないよ
「だったら魔法や神様はどうなるのかって?
だって両方とも妄想の産物じゃないか。ただ妄想したことを本当にあるように細分化して系統化してるだけ。
妄想したことに名前を付けて分別してるだけだよ。
君が行くのはその妄想が現実にあるだけの世界って訳だ。
それでも異世界の物語はあるのに名前はない。あるのは鏡の世界、魔法の世界、科学の世界、剣の世界、ゲームの世界、本の世界、夢の世界、精神の世界、本能の世界、理性の世界、生の世界、死の世界、光の世界、闇の世界、有限の世界、無限の世界、白の世界、黒の世界、無人の世界、有人の世界、などなど挙げてけばキリがないがどうしても『~の世界』と形容する言葉がないと表せられない。こんなのでは名前とは言えないよ。建物を『大きな建物』とか『レンガの建物』って表してるのと同じだからね。それが建物の名前では無いってこと。
でもなんで魔法や神様には固有名詞が付けられて世界には付けられていないか。
簡単にいってしまえば必要かどうかだよ。
魔法の名前なんてゲームや小説で使うから分かりやすいように個別化するために作られて火の魔法や水の魔法なんて分かれてる、神様なんて政治や人心掌握の為に作られたから設定は細かく決まった方が良い。
それに対し世界だ。世界設定は物語でも完全なる大前提。ここは~な世界、ただそれだけで十分な設定となるんだよ。だから名前なんて必要ない。
だからこの世界にも他の世界にも名前はないんだよ。
ごめんね教えられなくて。」
なんか名前以上にすごいものを知った気がする。
軽い放心状態を見てなにか勘違いしたのか蒼人形は、
「世界の名前は教えられないけど代わりに君の存在としての名、所謂真名だっけ?教えてあげるよ」
そう言って周りに誰も居なく聞く人など俺一人しかいないのに耳元に近づいて小声で名前を告げる。
「これはいったいどうなんだよ……」
「でもその通りなんだから仕方無いんだよ。」
いや……でもこれは…………
「念のために聞いておくがこの世界にはこれは居ないんだよな?」
「そうだよこの世界にはいないよ。まぁちょっと世界の仕組みが違うし。
まぁちょっとした面白いものもあるから楽しみにしときな」
つまらなくはないと思うがめんどくさそうではあるな。
「これは滅多に使っちゃいけないからね。存在そのものだし」
「いくらなんでもこれは面白すぎだろ。こんなの伏線にしか思えねぇよ。」
こんな偶然があるものなのかね……
最後まで回収しなそうな伏線ではあるがな。
「じゃぁ一区切りついたところでそろそろ異世界に送るね。」
「え?もうなのか?」
話が濃すぎて先ほどの痛みすら完全に忘れてた。
「あとはきみの意識を無くすだけだからね。
穴に落とすような定石はしないよ。」
それは恐らく一番古典的な異世界への送り方だと思うがもっと捻ったのは無かったのか?意識を無くすって……
そして転移が始まったのか足から少しずつ粒子状に変化してきた。なるほど確かにこれでこの世界とはお別れらしい。
最後の挨拶くらいははするか。
「たった二回会っただけだったがこの時間は結構面白かったよ。他にも手があっただろうに俺が死なないように気遣ってくれてありがとな」
「こっちだって久々に会話が出来て嬉しかったよ。普段あまり話さないのに饒舌になっちゃったからね。次会うことなんて無いけど君の人生の謳歌と活躍を期待してるよ。《惣崎 滉》君」
始めてか?こいつに名前を呼ばれたのは。まぁいい。
俺は粒子になりつつある顔を反対側に向けて最後の言葉を放つ。
そこは何もない、ただ白に包まれた空間だった。
「「じゃあな、友よ」」
人生初の人外との友情と別れとなった。
粒子化が終わり意識は優しい黒に塗り潰された。
やっと名前が決定いたしました。
案くれた方々ありがとうございます。
次話からは異世界です。




