第15話 道程と出会い
やっぱり小説読んでると書く暇がなくなりますね
村を出て一本の大きな道を歩く。朝日と風の囁く森を背景に今回の事を整理しよう。
あの後村はいったいどうなったのか。答えは全てなくなった。建物は炭も残らず灰にして生け贄になったであろう村人と今回の一夜の騒動の黒幕である村長は血の一滴髪一本残らず処理をした。
聞いた(拷問した)限りだとこの村、いわゆるカルト教団の集まりでコミュニティを組み立てた後にその集団で出来た村だそうだ。
召喚予定だったのは皆大好きフェンリル、銀の狼のイメージが強いが神話では神オーディンを喰ったとされる妖獣だ。
理由は聞けなかったが少なくとも世界に混乱を巻き込みたかったのであろう事は分かった。しかし、それにしては魔術の規模が小さかったような気がする。
不完全だったとはいえ封印できたのは幸運だっただろう。
条件ありとはいえ神話生物にも対応できるのが分かったのも結構な成果だ。神話なんかと関わるのは以後ないと思いたいが。
とりあえず聞けたのは世界の硬貨の価値と国の事。各々の説明はその時にしましょうかね。
国々の地形関係も調べておきたいし今のままじゃ曖昧すぎる。
そう言えば村長が放った鎌でのの攻撃、あれは魔力とは違う闘気と呼ばれる力だそうだ。少し魔法で試してみたが俺には使えなかった。魔法との相性は良くないのだろうか、それとも元々才能がないのか。どちらにせよ修得には時間がかかりそうだ。これは独学じゃ使えなそうだし誰かに教えを請うべきかな。
でもそんなことは後回しだ。それより王都にさっさと着けるようにしないと。
話はそれからだ。
今向かっているのはレッフェントと呼ばれる国の王都、さっきまでいた村はこの国の西に位置する森に作られたらしい。
王都って事は王政なんだろうな。良いイメージ無いけど偏見でしょ。王政なんて当たり前の制度だし。
俺がこの世界に住み着いた場所は恐らく森の北部、二ヶ月暮らしていた洞穴から南に下って村から東に進んでいることになる。
この調子で休憩を減らさなくとも王都まで2日もかからずにすみそうだ。
調べてみたが今は人の反応は一切ない。この森は誰も入らないような秘境だったり危険だと指定されでもしたのだろうか。
それならなるほど確かにあそこの村は隠れるのににもってこいの場所にあったわけだ。ここまで森だらけだとわざわざ入ってくる人もいないのだろう。
いまは更地になってて村の影も形もないただの広間みたいになっているはずだが。
ふと周りを見てもやはり全て木で包まれている。
あと二日間この風景だけを見るのだろうか。このままじゃ精神的に辛そうだ。
ただでさえ森の中で景色が変わらないのに川すら見当たらない。これは運が悪いだけなのかどうなのか。
たまにある事とイベントと言っても。
「ぎゃあぎゃぁ」
「てめえは要らねえ」
翔んできた鳥を回し蹴りで違う方向に飛ばす。クリーンヒットかな。殺してはいないはずだが。
このようにたまに魔物が襲ってくる事以外は本当に木しか見つからない。
流石にこの風景は飽きてくる。
馬車でも何でも乗り物を調達する必要があるかな。そこまでお金があれば良いけど。いやでも国境間などの長距離の移動ぐらいじゃないと使わないか?
そこまで考えて何となくぼんやり歩いてるのが馬鹿らしくなってきた。昔は旅なんかは徒歩か船が基本だったとは言え休めるような店があったはずだ。
それに景色も変わるはず。
それにたいして今は見渡す限り木だらけ、あってもたまに獣が襲ってくるくらいだ。
そういえば観察してるうちに獣にも二種類いることに気付いた。魔力を持つものと持たないものだ。
とはいえ能力に違いがあるわけではない。強いて言うなら魔力を持つものに襲われる機会が多いことぐらいだ。襲いかかって来る目は生きるためだけじゃなくて敵視とか恨みとかそんな感じだった。
迷惑な事この上ない。さっきのように急に襲ってくるのだ。イライラもする。
……しょうがない。走るか。
イライラするなら身体を動かせば良い。適当に獣を狩っても良いけど処理が面倒くさい。それに走れば予定も短く出来るし一石二鳥だ。
ここに来てから近距離の移動しかしていなかったし、長時間の異動に慣れた方が良いだろう。
長距離の移動なんて必要なかったからな。良い機会だ。
念のために言っておくと俺の身体能力は元の世界と変わってない。成長チートは肉体には影響しないので技術でカバーしている形だ。
とは言えどうしても技術だけじゃ補えないときがある。その時の為に使っているのが「身体強化魔法」
いわゆるドーピングである。
この魔法は何も考えずに使っても効果はあるが神経や筋肉等を意識して活性化させることで効果は上がる。
魔法を体に纏うか体の中で使うかの違いだと思う。
基本的に短距離の、回避や不意打ちくらいにしか使っていないがこれからは長時間の使用も必要となるだろう。そのためのテストも兼ねている。
火事場の馬鹿力とはちがい脳のストッパーを外してるわけではない。あくまで活性化だ。
「っふーーー」
息を整え魔法を意識する。どこを重点的に機能させるか、壊れにくくするか。それが大切だ。
そして身体が整ったことを確認し走り出す。
―――――――――――――――――――――――――――
「おっとぉ……」
全力疾走とはいかなくともそれなりの早さで走っていると探知に人の反応がした。このまま走ってると怪しまれるだろうスピードを落としてクールダウンし息を整えながらその反応に近づく。
それにしても意外と持つものだ。三時間ぶっ続けで全力疾走してたが結構な魔力の減りを感じただけで疲労で足が震えてることもない。ペース配分無視で走っていたのだがな。
もしかしたら魔力を体力の代わりに使うことも出来たりもするのかな? だったら結構な無茶も出来るようになる。
しかし魔力を代わりに使う時のコストがちょっと高すぎる気がする。時間がたてばたつほど必要な魔力量が増えるようなそんな感じ。
そういえば闘気とやらで身体強化も出来るのだろうか? 魔法と併用できれば使えるかもしれない。
おっと、そろそろ反応があったところか。
近づいてみるとそこには四人の男たちがいた。容姿までは遠くて分からない。強いて言うならそのうち二人は獣耳が生えているくらいである。あれはイヌ科かな。
にしても男の犬耳なんて見てもつまんねぇな。
その犬耳の背が高い方と体格の良い青年が動物の死体から何かを剥ぎ取っている。角や牙、あとは耳か。
牙や角はともかく耳なんて必要あるのか?
毛はどうやら焼け焦げてしまっていて使えなそうだ。魔法を使えるやつがいるらしいな。良く見れば周りに焦げた跡が残ってるし。火の魔法だろう。
後二人の男は辺りを見渡してる。敵が来ないように警戒してんだろう。
丁度良いや。
赤い髪をした眼鏡の男に近付いて話しかける。
「そこの兄さん、レッフェントってこっちであってるよね。」
走った進行方向に向けて指をさしながら聞く。
どうやら近付いて来たのに気づいてなかったのか目を丸くしてから
「ん、あぁこっちの方角であってるよ。」
多分、と付け足しながら答えてくれる。多分って……
しかしなんか困惑してる目をしてるな。見回りしてたのに近付くのに気づけなかったからか?
いまいち自信が無さそうなので反応に困っていたが監視してたもう一人の犬耳の茶髪の男がどうやらこちらに気付いたらしい。
話を聞いた後、
「何なら一緒に昼飯でも食うか? オレたちもその後ギルドに依頼の報告しなきゃいけねぇし」
なんて言葉を貰った。
そう言えば騒ぎがあってからまだ飯を食ってなかったな。
まぁ良い機会だ。迷う必要もなさそうだ。騙されやすそうな人達だけど。
でもその飯はそこに転がってる肉なんだろうな。
まさか丸々一頭分食べるとかは無いよな?。
「じゃあお言葉に甘えて」
昼飯は猪の丸焼き、ビックリするほどワイルドだ。
下手すると生肉を貪るよりワイルドかもしれない。
漫画みたいな丸焼き? いや、赤髪の眼鏡が火の魔法をぶちまけただけだ。
あれ絶対中まで火が通ってないだろう。
そんなわけで食事をしようと肉の近くに夜とちょっとした違和感が走る。
何かに囲まれている。いや、包まれているのか?
不思議に思い周辺を『玩具の眼』で見渡す。
これは……
「結界?」
「あれ? 何で気付いたの?」
自分の呟きに赤毛の男が反応する。
何でって……
えーっと
「なんか食べてるときに違和感があったというか空気が変わったと言うか……」
嘘は言ってない。
「なんで結界だと分かったんだ?」
今度は青年が話しかけてくる。
何か興味を持たれてしまったようだ。
「前に似たようなものを見たことあったので、仕組みはさっぱりですが」
「だったら今度教えようか?」
赤毛さんがとても魅力的でめんどくさい提案をしてくる。
まぁ目で観れば仕組み分かるしなー、まぁせっかくの厚意だ。受け取らないわけにはいけない。
「すみません、魔法部類は適性が無くって」
ある世界で、厚意がどうこう言いながらあっさり嘘をついた男がいた。
っていうか僕である。
魔法は苦手とか言って魔法をばんばん、しかも高い威力のを使ってたら絶対妬まれるし恨まれる。
これからは魔法自重するか。
魔法は必要なときにだけ使うか。
身からでたさびと言うか自業自得である。
ざまぁ自分。嘘をつくからだ。
「ところで少年、名前は?」
残念そうな赤毛を横に見つつナイフで肉を取りながら貪っているとリーダー格なのだろう犬耳で目の鋭い中年が尋ねる。
中年とは言っても目からわかる通り弱々しさは欠片もなくまるで軍隊の隊長のような厳しさを思わせる。慕う仲間が多そうだ。
鋭い目は生まれつきなのだろう。
「コウと言います、一応武器なら手広く扱えますがとりあえず今はこれを使ってます。」
魔獣のの牙を利用して作ったタガーを少し掲げながら言う。話しかける前に用意しといた物だ。
名字は必要ないだろう。貴族とかと勘違いされたくない。
「そうか、私はアダンと呼ばれている。一応このチーム『不運の鳥』のリーダーをさせてもらってる。ところで軽装備のようだがどうしたんだ?」
「実は師匠の実験に巻き込まれましてね」
「詳しく聞いても?」
が興味を示したように反応する。他の三人も同様だ。
「その辺は飯食った後レッフェントに行きながら話しましょうよ。暇潰しくらいにしかならない話ですけどこの後徒歩なんですよね? だったらある程度時間もありそうですし」
「じぁあとりあえず最後の質問」
最後の一人、説明もしてないが筋肉質で戦闘好きそうな男が聞いてくる。勝手に最後の質問にしけどそれで良いのか?
ありがたくはあるけど。
「どのくらい戦える?」
戦闘馬鹿だったか。決闘とかになったら嫌だな。
どのくらい戦えるか。っねぇ?
どのくらいってまぁ……
「とりあえずこのくらいは」
持ってた短剣を投げ奥にいる獣に投げつける。
ちょうど脳天に突き刺さったと同時に走り柄を掴んで獣の頭をドロップキックし剣を引き抜く。キックの勢いで獣が木にぶつかったのを確認し手を使って着地する。足の指が地面についたと同時に地面を蹴り木に突っ込む。
それと同時に左手に鎖を巻き剣を横に構え右手で柄を掴み左手を刃に当て押し出すように敵の首を切り落とす。ギロチンのように刃が斜めってはいないが首を切り落とすなら同じだろう。両刃だったから下手したら左手が上下に別れるとこだったが。笑えねぇ。
「とりあえず二回程確実に殺してみました。あと三匹くらいなら同じ時間で倒せます」
そのための二度殺しだ。一撃じゃ早すぎて一匹しか殺せない。かかった時間なんて一秒を簡単に切ってる。だって剣を投げただけだぜ。
あとはアクロバットな動きを見せて戦闘スタイルを誤解させる。これであちらがそれなりに勘違いしてくれるだろう。
俺だって元一般人だ。自分の力量は理解してる。どのくらいが生活しやすい力なのかも。まぁこの世界の住民が弱すぎでもしたら論外だがそれはないだろう。
魔物みたいな分かりやすい敵がいるから元の世界みたいに武器頼りじゃなくて多少は鍛えてるだろう。人間相手の戦争をする暇はなかなか無いだろう。
別に人間が生物の頂点と言うわけではないのだ。人間を簡単に蹴散らせる生物だっているはずだ。
それとは余り関係があるわけではないがこの前にいた盗賊の強さを参考にしてそいつらより少し強いくらいを演じる。
せっかく手に入れた力で暴れたい気持ちもあるにはあるがそんなのはあの村の時みたいに必要な時にだけ使えば良いだろう。
もちろん腕が錆びないように訓練は欠かす気はないが。
「でも対人間は苦手ですね」
盗賊を全滅させといて何を言ってるか分からないだろうが魔法を使ったからあの虐殺が出来たのだ。何度も言うが身体能力は人の領域を脱してない。
ただの武器で多人数戦とかまだ無理だ。そんなの叶華師匠の芸当だ。
予防線を張ったところで四人を見るがそれぞれ違う反応をしていた。
驚愕している者、納得している者、疑問に感じている者、無表情で目を細くする者。ただどれも畏怖を感じさせる目はしていない。
どうやら想定どおりの強さに調整できたようだ。
「後はもう質問無いですよね」
みんなが頷く。
「それじゃあ王都までの案内料は護衛と言うことでよろしくです」
のメンバーが驚いてるのを他所に肉の最後の一切れを口に入れた。美味しいけど塩が欲しいな。
結界:空間と空間を区切り、一つの領域として成り立たせる魔法。魔法の中でも技術面が重要になっている。空間把握能力と緻密な条件付けが必要になるため使える人は魔法使いの中でもまれ。