第14話 黒幕と暗幕
副題に意味はありません。フィーリングです。感覚です。
批評感想大歓迎。
体が全く動かない。
どうやら体の動きを封じる魔法のようだ。
目の前には老人が…… いや、もうぼかす必要もないか。無駄に引っ張る必要も無いだろう。村長が愉悦に浸っている。何が愉しいのだろうか。見てて愉快なものではない。言ってしまえば気持ち悪い。
それだけではなく均等に俺を囲むように並んでいるローブを被っている人影。体型からして男性だろうか。その影は13人。俺を囲むように均等に並んでいる。その手には死神が持つような鎌、そしてその刃には頭蓋骨のようなものが突き刺さっている。それも全員分。
まるで死神のようだがなんというか黒魔術師の方が近い気がする。
さっき見たのは死者を弔ったのではなくこれをするためだったのか。それにしても腐敗して骨だけになるほど時間は経っていないはずだ。どうなってんだろうな。肉を削いだだけなのかな? 時間かかりそうだし無駄だよな?
集中して見てみると髑髏も子供の大きさだったり大人の大きさのだったりでバラバラだ。
それにこの骨たちはやっぱりそれぞれの関係者だったりするのだろうか。
家族恋人親友宿敵、そんな関係であるはずの髑髏を鎌に刺して晒す。最悪の気分だろうな。
それが事実かは置いといての話だが。
そう言えば一休さんは髑髏を掲げて歩いていたと何かの話で見たな、あれはいったい何を伝えるためなんだっけ?
思い出そうと必死になっていたら村長が口を開いた。
「全く、せっかく盗賊を操って村人を生け贄に捧げたのに邪魔しよって。村人以外の血のせいで計画が台無しになってしまった。」
……やはり黒幕はこいつだったか。いや分かってたけど、それしか無いと確信すらしてたけど。
「まぁいい。」
村長は尾のを地面に杖のように立てながら言葉を続けた。
「お主の魔力は相当あるようなのでな。代わりに生け贄にさせてもらうぞ。」
その言葉と共に俺の足元に魔方陣が現れる。それは俺を囲んでいる13人の村人達の足元にまで届いている。
結構聞きたいことあるんだけどな。例えばどうやって盗賊を操ったのかとかなぜ村人を生け贄にしようとしてたのに俺一人で済むのかとか。
あとはさっきの魔法を使ってないはずの攻撃の解説とか。教えてくれるはず無いか。
(はぁ……)
ため息つこうとしたが口が動かず心の中で呟く。
しょうがない。
このままじゃ何も出来ないし、ボチボチ反撃を開始しますかね。
(転換『魔を観る玩具の瞳』)
言葉と同時に瞳にボタンの様な模様が現れる。これはハイエナモドキの時から考えていた魔力を観るための魔法を網膜に張り付けた。
コンタクトのようなイメージで他にも数種類の能力を切り替えができるようにしてみた。これで攻撃は出来ないが戦闘の助けにはなるだろう。
そして『魔を観る玩具の瞳』の能力は文字通り魔を観る。魔力の量も確認できるし魔法を見ればその構成だって観れる優れものだ。なぜ玩具なのかは自分でも分からない。ただボタンから玩具へと連想しただけだ。
視界にフィルターがかかるような感覚がし体をを拘束してる魔法の構成が現れる。
パズルを解くように魔法を解く。
どうやらこれは神経に影響する魔法らしくとても複雑な魔方陣と式が俺に絡み付いてる。
まあ構成がわかれば一つ一つの意味が理解できるから別に難しいものじゃないけどな。
もしかしてパズルからオモチャを連想したのかな? 自分のセンスが分からない。
自分のセンスは置いといて、この絡まっている魔法を自分の魔力を使って糸をほぐすようにバラバラにして一つ一つの式を効果がなくなるまで細かくしていく。
後もう少しで身体が完全に動くというところでいったんやめる。後は合図一発で解けるようにだけして体はまだ固定している。やろうと思えば力ずくでも魔法を解除できる。
しかしあえてそれをしない。
理由は魔法を解かれたことを悟られないためだ。
正直言って儀式が少しだけ楽しみだったりする。
何のための儀式なのか、どれほどの代償が必要なのか、ただそれを知りたいだけだ。
いっぺん儀式が始まり魔法が使われたらこの瞳で魔法の構成を観ることができる。後々何かしらに使える日が来るだろう。何の為の儀式か分からないが生贄が必要なら召喚と見て間違い無いだろう。
その魔方陣を見てから殲滅しても別に支障はでないはずだ。もちろん保険はかけとくが。
村長が目の前で呪文を紡ぎ始める。内容からして悪魔か神話上の生物を呼ぶための呪文なのだろう。俺を中心に13人の村人まで魔方陣が広がっている。
なるほど、あいつらが魔方陣を作ってるのか。
目だけを動かして魔方陣を観る。
混沌、枷、破壊、魔軍。 魔軍!?
魔軍ってこととりあえず味方ではないよな。混沌とか言ってるし。
とりあえず喚んで良いものでは決して無いだろう。生贄として捧げるのは殺人を犯したことがない人数名の血と恨み辛みなどの負の感情、そして道を作るための魔力か。
どうやら殺人を犯した人間の血の分だけ必要な魔力の量は増えるらしいな。
なるほどさっきの戦闘中に使った魔法から魔力量を判断されたわけか。後程対策が必要かな?
そしてこいつら一人一人の魔力は大体『業火の遊び場』一時間分くらいか。これがこの世界の魔法使いの平均か? なら俺は儀式の材料にはもってこいの存在だったな。魔力量は異常と言い切れるしね。
そんなことよりどうする?喚ばれたら下手したら世界が滅亡だってするかもしれない。
しかも肝心の召喚物を知ることが出来なかった。いったい何が召喚されるのやら。
もちろんさせる気は無いが。
とりあえずこの魔方陣は保存させてもらおう。いつか使う機会があるかもしれない。無いと思うけど。
取りあえず脳内に『魔法創造』を展開させそこに追加する。ただ意識するだけだから作業は一瞬で終わる。
ついでに一つだけ魔法を作る。
そんなことをしていると急に魔力が抜ける感覚がする。化物が通る道のために魔力が使われ始めたのだろう。
せっかく二ヶ月貯めてた魔力が台無しじゃないか。
村長がこちらを見て驚く。大方魔力を吸い取られていながら平然としてるのに気がついたのだろう。
ただ動けないだけだけど。さっきの魔法、上手く使えれば動揺を隠すのに一役買ってくれそうだ。
「想像以上だったの。せめて道しるべくらいになってくれたら良かったがまさかここまでの量と質だったとは」
これなら上質の贄となってくれそうだ。
そう呟き村長は上を見上げる。
空は真っ暗のままだが悪雲が立ち込めている。そろそろなのか?
魔方陣が光だし13人の立ち位置から中心に向かって螺旋を描くように蛇のようなものが蠢めき始めた。
その蛇たちは円の半分まで近づくとそれぞれ繋がりだし円の形に変形していく。
そこから分かれて魔方陣の外側が回りだし空の雲がそれに応じるように大きな穴を開ける。
まるで世界を繋ぐように橋を掛けるように。
身体に掛けられた魔法を解除し上を見る。体に支障は無さそうだ。
その穴からは魔力のようなものが溢れだし一ヶ所に集まろうとしてる。
良く見ようとしたが強大なプレッシャーと寒気を感じ今の状態でソレを見ると発狂しそうだ。ふざけて言うとSAN値直葬だ。発せられる空気だけで身体は震え、思考は止まる。
「何で途中で中断させようとしなかったんだ。好奇心に完全につられた。クソッ、さっさと逃げるべきだった!!」
自分の口からそんな言葉を発っせられる。
それを聞いた村長は愉悦に染めた笑みをもっと深くさせる。
「ありがとうよ、貴様のせいで失敗したかと思ったが思わぬ活躍をしてくれたな。コレで世界は終わる。その瞬間を目に焼き付けるんだな」
そう言って再び空を見上げる。
もう回避する策は無いのか…… 早すぎる終わりだったな。
「何てね(・・・)」
体を固定していた魔法を解除して魔法を起動する。
足元にある魔方陣が再び光だし、封印術が発動する。
魔方陣は召喚の逆再生のように動き出す。さっきまで召喚のために頑張っていた13人は封印のための礎として魔方陣に巻き込まれる。
蛇のように蠢いていたものは13人がいた位置まで戻るとそこから鎖が出現し空に一直線に向かっていく。
そこから先はそれを見ていない。やったのはひたすら式を書き連ね鎖に繋げていただけだ。力を奪うための式を、そしてより確実に処理ができるように。
魔方陣が光るのを止め徐々に薄くなっていく。終わったようだ。
後に残っていたのは13本の鎖が絡み合った一本の槍。
化け物を封印したものだ。鎖一本一本が化け物の力を奪い封印を強める。ちゃんと準備してたら衰弱死させることだって出来るはずだ。試した事無いから恐らくでしかないが。
ただこれを武器として使うのは危険すぎる。なんせ化け物が封印されてるのだ。
急に復活したら絶対に死ぬ。今回は魔方陣を利用できたから良いが次はそんな余裕絶対にない。それにそこまでの魔力が残ってある自信もない。
とりあえず帰っていただこうか。
消えかけていた魔方陣に魔力を流し一部だけもう一度発動する。すると地面から少しだけ浮いたところに穴があいた。やっぱり道だけならここだけ発動すれば十分なんだな。
今開いたのはさっき化け物が通ってきた道の出口で今は入口だ。
それ以外は生け贄となるもの表記と召喚する存在を記したものらしい。そこに封印されてる槍を投げ入れ化け物がもといた世界まで道を通す。道は化け物の魔力を利用して作り直す。
帰り道くらいは自分の力を使え。
封印は即興だったため直ぐに壊されるだろう。もって30分、召喚にかかった時間を計算すれば間に合うはずだ。その間に二度と召喚されないように道の入口を完全に消し去る。これで二度とこれないはずだ。
そう言えばあの化物の名前なんだったんだろう?
姿を一切見てなかったからどのような存在か分からなかった。
有名な存在だったりするのだろうか……
まぁすぐに分かるか。
軽く伸びをして失神してる村長に近づく。
残り魔力はどのくらい残ってるかな?
自分の身体を調べるとどうやらまだ余裕があるようだ。
じゃあ聞きたいことを聞きますか。
酒に酔ってるように意識を曖昧にさせるのだがこれは人の目が付くような場所では余り使えない。酒場で使うのが効果的だろう。
気を失っている村長に『水球』を使う。
「はっ、何があった!? フェンリルはどうなった!」
なるほどあれはフェンリルだったのか。じゃああの鎖はさしずめグレイプニルってとこか? この世界には北欧神話が広まっているのかな? それとも翻訳でそうなっているのか?
にしてもフェンリルか……
一目見たかったな。
創作物の中でも有名な獣だ。白銀の毛のイメージが少し強いがどうなんだろうな。
しかしあのプレッシャーは尋常じゃなかったのはなんでだ?
知識の中でも結構な強さを持っていたがあそこまで危険を感じるほどでは無かったはずだ。
神話になったような二人と修行したんだ。
だったらあの力はフェンリルとは違うのを見てしまいそうになったのか?
まだ狼の形をなしていなかったからなのだろうか。存在だけが召喚され姿を表す前に魔法を発動したから封印出来たのだろう。
まぁいいか。直接聞けば良いんだし。
ショックを受けあわてふためいている村長に近付いて一つの魔法をかける。
『思考衰弱』
操られた盗賊を見て思い付いた新しい魔法。
意識を混濁させ思考を鈍らせ、話を聞き出す魔法。自白剤のようなものだ。
魔法を掛けられた村長は口を開けたまま空を見上げている。瞳孔は開いており気持ち悪い。意識もあやふやになっているようだ。見た感じ聞いてはいるようだ。
まぁ問題はないな、それじゃあ軽い尋問でも始めますか。
気まぐれに解説でも入れようかと。
フェンリル:みんな大好きフェンリルさん。北欧神話に登場。
手がつけられない程凶暴で、どんな枷も破壊してしまう。それを危険視した神々はグレイプニルを作り、フェンリルを世界の終わりの時まで縛り上げることに成功。
しかしラグナロクの日には、紐を引きちぎって魔軍と共に神々の世界を襲う。そして主神オーディンを一呑みにするが、その息子ビダルに引き裂かれて死んでしまう。
最近では銀の毛並みをした狼で聖獣である、という扱いを受けることがあるが。本来は口を開くと上顎が天に届き、下顎は地に届くという程巨大な狼で聖獣とは対極を成すカオスの申し子とされる妖獣(化物)である。
今話では存在として姿を顕在する前に退場した。
銀髪で良いから出番作ってあげたい。
グレイプニル:同じく北欧神話に登場する魔法の紐(足枷)。フェンリルを捕縛するためにドウェルグ(ドワーフ)たちによって作られ、テュールによってフェンリルに繋がれた。語意は「貪り食うもの」。フェンリルをラグナロク到来時までつないでいた鎖。
猫の足音、女の髭、岩の根、熊の腱、魚の息、鳥の唾液から作られた。これらは、グレイプニルを作るのに使用されたため、この世から無くなったと言われている。
ついでにグレイプニルの前に神々はレージングと呼ばれる鉄鎖とこれの2倍の強さを持つ鉄鎖、ドローミを用意していたがフェンリルは簡単に食いちぎったそうな。
今回はフェンリルさんが姿を表す前だったので鎖一本一本に封印された。