第12話 時は少し進み
ちょっとグロいシーンあるかも。注意です
異世界に着き三ヶ月が経ち、俺は森の上を歩いていた。
やりたいことは終わった。この森にはもう用がない
必要な道具もほとんど出来たし獣との戦闘経験も十分に積めた。あとはこれを発展させるだけだ。
魔法で空気を踏み、階段の様にただ上る。
森の中では見渡しが出来なく進む場所の検討もつかないので空から確認しようと考えていた。誰かに見つかったら何かと厄介な事になるかもしれないがこの高さから見渡せる限り周りに人はいないようだ。
恐らくビル十階分の高さには来たのだろう、前を見ると結構離れたところに小さな村が見える。ここから見た限りそこまで発展してるわけでは無いようで畑も少ないから恐らく猟で暮らしているのだろう。
そこで一度休憩してから国に向かうとするか。もしかしたらここも国の一部なのかも知れないが判断材料がないため何とも言えない。
国の情勢なども聞けたら良いのだが。
夕暮れ時になり真っ赤に染まった空を歩きながら地面に向かって歩き出す。あの村で寝床を借りた方が良いかな。宿があれば嬉しいがなればどこかに泊まらせてもらえばいいか。
やっと地面に戻りそのまま村の方向に歩いていると森を抜け村が姿を表した……が
「燃えてる?」
遠目だが先程見たのとは違い、夕焼けに煙が黒く舞っており微かに火が暴れているのが見える。
嫌な予感がしてきた。嫌な予感というか鉄の臭いが鼻の奧で漂ってるようなそんな感覚。
死の存在が身近にありすぎて軽くなっているようなそんな雰囲気。
そして微かに聞こえる叫び声と金切り声の連続。
予感と悪寒とある種の確信を持ってその場を駆け出す。ある程度覚悟をして。
異世界で初めての人影、それは最悪のものだった。
火が廻ったのだろう家は燃えあがっており崩れている建物もある。
地面は赤く染まり鉄の臭いと生理的嫌悪感を引き出す生臭さが鼻腔を引っかき回し思わず顔をしかめる。
「なんて惨状だよ」
目の前には狂ってるとしか言いようが無い光景が繰り広げられてた。
火事が発生してるとこから見て料理の準備をしていたのかもしれない中世的な格好で装備も全くしてない村人達と完全に狂気に包まれているだろう口からヨダレを垂らし武器を振り回している盗賊達が殺し合っている。
いや、殺し合いなんて生易しいものでは無かった。盗賊の村人による一方的な虐殺と凌辱のワンサイドゲーム。
ゲームなんて表現したら不謹慎だと思うが如何せん語彙が足りないから仕方ない。
村人は見渡す限り一人残さず殺されマトモな造形を残してるのはいない。体をバラバラにされていたり潰されていた死体がまだマトモに見える。その死体も頭がそこから二歩歩いたところに転がっている。その表情は恐怖で染められており犯される前に殺されたのだろうか。それが幸か不幸かは考えたくも無いが殺された時点で不幸一色だろう。
その死体は本当にまだ良い方でそれ以外にも顔の皮を剥がされ身体が潰された青年、身体に穴を開けられ臓器内までも犯された幼い少女。
吊し上げられ身体の至るところに剣が突き刺さり剣の先に臓物が晒されている男性。
これでもまだまだ表現できる範囲でこれ以上は描写するのを拒否する。覚悟せずにこんなものを見たら自分も狂ってしまうかもしれない。今が狂って無かったらの話だが。
これだけの悲劇を見て顔をしかめただけで済んだ自分に拍手を送りたいくらいだ。
……それにしてもだ
「師匠が言ってた通りだったな」
師匠とは龍矢さんの事だがこの男は経験談として修業中にこんなことを言っていた。
『異世界で暮らすと必ず地獄を見る。だからいつも最悪な想像はしておけ。物語なんかの悲劇なんて所詮劇でしか無いんだよ』
たしかにあのチャラ男にしては良いことを言う。これは最悪だ。こんなものを劇にしたらトラウマじゃ済まない。
しかもこんなものをこれから見続けることになるのだろうか。
これはもう慣れるしか無いな。覚悟しておこう……
そんなことを考えていたらこちらに気付いたのか虐殺《遊び》の最中だった盗賊たちは新たな獲物を見付けたかように口を醜く開き狂気を纏ったまま近付いてくる。やはり狂ってるようにしか見えない。操られでもしてるのか?
瞳孔を見たら開いてるかもな。もし操られてるなら何が原因だ? 盗賊の長では無いだろう。盗賊の長ならそんなことをする必要ないはずだ。ただ部下に命令すれば良いだけだ。それすら出来ないような立場だったらそもそもそこまで昇れないはずだ。
だとすれば第三者? だったら背後に組織が存在している可能性がある。
それなら逃げちゃった方が安全だろう。しかしもしもその規模が小さかったらどうだ? それにしてもこの村を襲わせる理由が見つからない。何か秘密があるのだろうか。
あるならそれは黒幕にとって損益が発生するもののはずだ。
確かにこの村には出入りが出来るような道は見当たらなかった。しかしそんなもの無い閉鎖的な村だって無くは無いだろう。
「そんなことは後回しにするか」
盗賊が襲ってこようとしてるのだ。こんな思考に入る前にこれをどうにかしないといけない。
盗賊の人数が増えてる。撤退するところだったのだろうか。村人が何人生きてるかは考え無い方が良いかもしれない。
そのままじっと殺されるのを待つわけにもいかないので身体を動かし魔法を作り出す。三ヶ月の間に作った魔法の一つだ。
「『業炎の遊び場』」
発動するのは発動後維持される魔法。システムみたいなものだ。
もちろん『魔法創造』とは違い純粋に魔法によるシステムだが。
この魔法は魔力を込めるとその度に効果が発動するので殲滅には使いやすい。システムを作るだけだから発動までが早いのも利点だ。
前方に黒炎が三つ現れ空中を漂よう。使った方が効果は分かりやすいだろう。
そして両の手に金属の輪のようなモノを握る。2~4cm程の身幅で外側は持つところを除き切刃になっている武器、チャクラムだ。チャクラムは内側の輪に人差し指を入れ、回転させ勢いをつけて投擲し、回転しながら飛翔して、30~50m程離れた敵を攻撃する事が可能である。
俺は少し改造し、外側を握っても大丈夫のように一部だけ削った。
三つの黒炎に魔力を込めそれぞれの効果を発動する。
黒炎から炎の塊が相手を燃やし炎の壁が敵を阻み炎のレーザーが敵を貫く。近づいてきた敵はチャクラムで切り内側に指を入れ切った勢いのままその場で一回転。その勢いを利用して敵の集団に向かって投げ放つ。
チャクラムは風の魔法と相性が良く回転により風が発生し相手に当たる瞬間に魔法が発動する。
それによって攻撃範囲が格段に広くなる。
別に当たらなくとも任意で発動可能。その範囲は半径一メートルでもし縦に投げれば人間は真っ二つに出来る。縦に投げるのは難しいから例えの話だ。
だから避けたと思っても上半身と下半身がキレイに分けるなんてことも出来る。
そんなものが複数、そして集団に向けてばらまくように投げたらどうなるだろうか?
タイミングをみて合図用の魔力をチャクラムに込める。
チャクラムは三つ。当たり前だがそんな数のチャクラムを同時に投げたらどうしても飛ぶ勢いがずれるわけで。
「ブォン」
風の範囲が広がる音が鳴りそれと同時に盗賊七人の肉体の心臓辺りを境目に真っ二つに切る。
音はあっても一瞬で切れるため盗賊たちは走ってくる格好のまま二つに分けられ勢いで下半分だけ前のめりに倒れその上に上半分が落ちた。そのうち何体かは地面に落ち首があらぬ方向を眺めていた。
「あと何人だ?」
周囲を見渡し標的の数を数える。
あと何人殺されたいんだ。
そんなことを思っている間に生き残りの盗賊が向かってくる。やはり正気があるようには見えない。
これ以上盗賊が殺されても利益にはならないはずだ。操ってる訳じゃなく行動を強制させているだけで自分は監視できないのかそれとも盗賊の命はどうでも良くてむしろ全滅した方がありがたいのか。あとはあり得ないが急に現れた俺の力を量るために盗賊を使ってるのか。
どれだとしても黒幕さえ潰してしまえば関係ないだろう。装備からして規模は大きくないだろう。多分個人か小さなグループかのどちらかかな?盗賊は利用されただけか。ざまあみろ。
それなら利用されたこの盗賊達は何人生かしておくべきだ?本来なら尋問用に何人か生かしておくのがセオリーだろうがこの様子じゃ聞き出せそうに無いから全滅させてしまおうか。
そして村側。村人は何人生きているんだ?もう全滅してるかも知れないが多分探せば何人か生き残っているだろう。
もしかしたら狩りに出掛けた人もいたかもしれない。あとで探してみるか。
「ん?」
今更気付いたが盗賊が周りにいない。全滅させてしまったのかそれとも逃げられたのか。
逃げられたとしたら結構辛いな。相手に警戒させてしまうかもしれない。
敵に気付かれてなかったらの話だが。
それにしても思考に没頭してても盗賊達を殺したのは結構危ないな。殺しが作業化するようになったら危ないから戦闘中は戦闘に集中しなくちゃな。
逃げられたときに気付けなかったらいけないしなによりもいつ自分が気を抜くかわかったもんじゃない。気付いたらピンチなんて嫌だぞ。
盗賊だったものに乗っかっている防具でまだ使えそうなものだけを外しまとめる。
盗賊が防具を着けてたのは妙だが良く見るとボロボロだったりするから自分のものだったり他の人から奪ったのだろう。
盗賊ならそのくらいはするだろう。それにこの世界での基本的な服装も知ることができた。
これで自分の服をこの世界のに合わせれば怪しまれずに済むかもしれない。
……まぁ、そんなことより。
死体で埋まってしまったこの村でまずやることは埋葬しかないだろう。
魔法を使わず手作業でなるべく丁寧に死体を扱い一ヶ所に纏める作業を始める。
空は血に染まった地面よりも赤く塗られていた。
いつになればマトモな人に会えるのかね……