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ANOTHER SKY  作者: 沖田コウ
第二章
20/31

二十

『「瑞姫ミズキ…」


「なに、道流ミチル?」


 二人は微笑みあった。


 続きを喋ろうとした道流を、瑞姫の手が止めた。


「しーっ…」


 瑞姫が口の前に人差し指を立てる。


「口に出さなくても、わかってる」


 道流が何を言おうとしたのか、


 瑞姫にはわかっていた。            』











「その後、他にも数人、血をいただきました」

 あれから大人しく寝ているリーンベルの頭を、ミズキはそっと撫でた。

「彼女は僕たちが思っているような子ではなかった」と息を吐きながら言う。

「どうです。納得しましたか?」

 肩を震わせながら聞いているアーネストに、ミズキは声をかけた。部屋の電気は点いておらず、彼は俯いているので、表情は読み取れない。アーネストは、リーンベルをちらりと見て、立ち上がった。

「何が、納得しましたか、だ。澄ました顔して。自分が何をやったか、わかっているのか」

 厳しい表情でミズキを見下ろす。だが、ミズキは無表情のまま、アーネストを見つめ返していた。

「君は何に怒ってるんですか?」

「罪のない人を、傷つけたことだ」

 溜息を吐き、アーネストを見る。

「僕は目的を果たすために手段を選ぶつもりはありません」

「お前・・・!」

「言ったはずです。優先順位を考えろ、と」

 アーネストは、ミズキの襟を掴み、壁に押し付けた。初めてであった日のように、ミズキは一切抵抗しなかった。

「突然どうしました?」

 いきなりつかみかかったにも関わらず、ミズキは至って冷静だった。まるで、この状況を予想しているかのようだった。

「お前を自治団体に引き渡す」

 襟をつかんだ手に力を入れるアーネストだったが、首に当てられた冷たい感触に、動きが止まった。ミズキが、僅かに動く手で、銃を突きつけているのだった。

「いいえ。それはできない相談です」

 その声は氷の棘となり、アーネストに刺さった。

「僕の邪魔をするなら、ここで死んでもらいます」

ミズキが本気だということを伝えるには、アーネストの目を見るだけで十分だった。

「言っておきますよ。僕は、君を仲間だとか、友人だとか思ったことは、一度もありません」

「じゃあ、なぜ俺を連れてきた」

 苦し紛れに、呟く。

「役に立つと思ったからです。でも、それもこれで終わりです。僕はここで歩みを止めるわけにはいかない。僕の目的、話したことあるでしょう?」

 帰ってきた答えは、冷たい答えだった。答え自体も冷たかったが、ミズキの言葉、いや、ミズキ自身が冷たかったのかもしれない。アーネストは、ミズキに対して、これまでに感じたことのない恐怖を感じた。

「どうしてそんなに、復讐にこだわる?」

「答えは簡単だ。僕は君じゃない。ただ、それだけだ」

「そんなの、答えになっていない! ミズキ、そんなに復讐が大切か?」

 声を荒げ、アーネストは銃を突きつけられていることも構わず、さらに力を込めミズキを押さえつける。

「君に、僕の何がわかる!」

ミズキは、アーネストの首に突きつけた銃をさらに、押しつけた。

「すべてを奪われた、僕の、なにがわかると言うんだ、アーネスト!」

 静かに、しかしこれまでにない怒りのこもった強い口調に、アーネストは一瞬身を引いてしまった。その隙を見逃さず、ミズキは、アーネストの腹を銃で殴りつける。不意を突かれたアーネストは、膝を折り咳き込んだ。

 銃をしまったミズキは、アーネストを見下ろした。

「それに、僕が女性を襲って、血を集めておかなければ、リーンベルは一週間に一人、人を殺すんですよ? 僕がした行為は、彼女に人を殺させずに済んだ。十分でしょう」

「どうして、こんな子どもが!」

 床を叩き、アーネストは小さくつぶやく。

「さっきの話をちゃんと聞いていましたか? 彼女、子どもなんかじゃありませんよ」

「なに?」

「気になるなら、聞いてみればいい」

ミズキは服の乱れを整えながら続ける。

「ミズキさん?」

 二人が声のした方を見ると、リーンベルが眠たそうに目を擦っていた。

「大丈夫です。ゆっくり寝ていなさい」

 ミズキがリーンベルに優しく声をかける。すると、彼女はすぐに安らかな寝息を立てて、また眠りについた。アーネストにはどこからどう見ても、彼女が少女にしか見えない。

「アーネスト。君も、早く寝るといい。――――明日になったら、君は家に帰りなさい。やはり、君には向いていない」

 そう言うと、ミズキは自分のベッドに潜り込んでしまった。ミズキから言われた、言葉に混乱したまま、アーネストは眠りについた。




―――――――――――――――――――




「おはよう、アーネスト。家に帰る準備はできましたか?」

 先に起きて、ベッドに腰掛けていたアーネストに、ミズキは声をかけた。ぴくりと動いたアーネストを鼻で笑う。

「俺は帰らない」

「へぇ…」とミズキは驚いたふりをした。馬鹿にしているようにも見える。だが、アーネストを拒絶しようとはしなかった。まるで、アーネストが、着いて来ようとすることを知っていたかのようだ。

「止めないのか?」とアーネスト。

「止めても、どうせ付いて来るんでしょう?」

 ミズキは窓の外を眺めながら言った。煙草でも吸いたそうな表情だ。

「おはよう、リーンベル」

「おはよう、ミズキさん」

 二人はお互いに笑顔で挨拶を交わした。二人の笑顔はどこか似たところがある。それが一体なんなのか、アーネストにはわからなかった。

「リーンベル、少し事情が変わりました。僕たちには猶予があまり残されていません。わかりますね?」

「ええ、昨日の事でしょう」

 黙ったままミズキは頷いた。

「あと、十日分しか残っていません」

「十分だわ。帰りは一瞬ですもの」

 その言葉に、ミズキとアーネストはお互いに顔を見合わせる。リーンベルの言葉の意味が全くわからなかったのだ。それに気が付いたリーンベルは、くすりと悪戯っぽく笑う。

「また、後でお話しします」

「あ、ええ、わかりました」

 ミズキは戸惑いながらも返事をした。

「リーンベル…」

「どうしましたか、アーネストさん。後でお話しする、と言いましたよ?」

「そのことではないんだ」と一度、口をつぐんだ。

「歳は、いくつなんだ?」

「まぁ…!」

 口に手を当て、リーンベルは大袈裟に驚いて見せる。それを見たアーネストは、一瞬どきりとした。

「女性に年齢を聞くなんて、マナー違反じゃなくって?」

「いや、俺じゃない。ミズキが聞けと」

「そうなんですか?」

 口を膨らませながら、ミズキを睨んだ。

「僕は、気になるなら、と言っただけです。僕が、聞け、と言ったわけではありません。アーネストの意思ですよ」

「ああ、やっぱり」

 くるりとアーネストの方を向いた。

「別にかまいませんけどね」

 ほっと息をついたアーネスト。

「私、52歳です」

「え、今なんて…?」

 アーネストは、驚いてリーンベルに詰め寄る。その様子を笑いながらミズキは眺めていた。

「私、52歳です」

 まるで録音したテープの様に、リーンベルは同じ調子で繰り返した。

「俺より年上。三十以上も…?」

「ええ」

 彼女は頬に手を当て、首を傾げた。


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