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ANOTHER SKY  作者: 沖田コウ
プロローグ
2/31

『ああ、なんてことをしてくれたんだ。

 なぜ、俺はここでいるんだ。

 一度死んだはずなのに。

 どうして、こんなところでいる。

 俺に、何をしろというんだ。

 俺に、何ができると言うんだ。


 俺は伸ばした手で、空を掻き毟った。』











 街のはずれにある湖。そのすぐ隣には、小汚い喫茶店が立っていた。

 最近、この周辺で、店に入る客を見ていたが、ハンターらしき人物はほとんど見られなかった。


 僕は空を見上げた。

 風が吹く。

 肩まで伸ばした髪が揺れた。


 とりあえず、入ってみようか。


 僕は喫茶店のドアを開け、中に入る。かぎなれた煙草の香りがする。間接照明が多く、店の中は少し暗い。

 カウンターには、五十歳ほどに見える、口髭を蓄えた男がいる。恰好から彼がこの店のマスターだろう。

 僕はマスターにゆっくりと歩み寄る。

「おい、あいつ・・・」

「ああ、赤髪だな」

「初めて見た」

「魔女だろ?」

「魔物との混血って話もあるぞ」

「それにしても、あの女。こんなところに何の用なんだ?」

 他の客の会話が聞こえてくる。どれも、聞くに堪えない。もっとまともな会話はできないのだろうか。

 途中、何人かに声を掛けられたが、僕はそのすべて無視して、カウンターの一番端の席に腰掛けた。

「すみません」

 僕はマスターに声をかけた。

「はい。ご注文は?」

「コーヒーを一つ、それと――――」

「おい、嬢ちゃんさっきから話しかけているのに――――!?」

 僕は体の向きを変え、真後ろから僕の肩に向かって伸された手を掴んだ。手を掴まれた男は、突然の僕の行動に驚いているようだった。

 僕は首を傾けながら、にっこりと微笑む。我ながら、上出来な笑みを作れていたと思う。

 男は僕の笑みに気を取られ、一瞬緊張が緩む。

 その隙に、男の脛をブーツの爪先で蹴った。爪先に鉄板を仕込んだブーツは、軽い蹴りでさえ、重さがある。男は痛みのあまり、その場に声もなくうずくまる。

「お嬢ちゃん、と言いましたか? 残念ですが、僕は男です。僕はマスターと話をしているんです。邪魔しないでもらえますか」

 店中から、息を飲む気配が伝わる。

 僕は椅子から立ち、男の耳元で「邪魔をするなら殺す」と囁いた。

 男は僕を睨んだが、何事もなかったかのように、自分のいた席に戻った。賢明な判断だと僕は思う。これ以上争っても、彼は死に、僕は店から出入り禁止を喰らいかねない。どちらの得にもならないのだ。

 男は椅子に座るときもう一度僕を睨んだが、僕は微笑んで手を振ってやった。店の張りつめた空気は、失笑に変わった。

「ところで、マスター。僕はこういったものです」

 僕は胸のポケットから、名刺を一枚取出し、マスターに渡した。

「便利屋?」

「ええ、ここを僕の依頼の待ち合わせ場所として、使わせていただきたいのです」


 僕はマスターに向かって微笑んだ。

 今日一番の笑顔だったと思う。




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