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ANOTHER SKY  作者: 沖田コウ
第二章
18/31

十八

『「瑞姫みずき、瑞姫、瑞姫!」


 彼は手を伸ばす。


道流みちる、道流、道流!」


 高い声で、彼の名を呼んだ。


「瑞姫・・・!」


「道流・・・!」


 お互いに手を伸ばす。


 もう少しで、手が届く。


 しかし、――――


 ――――二人の手は、触れ合うことはなかった。


 聞こえたのは、男の笑い声。


 最後に聞こえたのは、悲鳴と銃声。     』











「おい、あんたたち!」

 男性から声を掛けられる。辺りが暗いので、顔がよく見えない。

「俺たちか?」

「僕たち以外に、誰がいますか?」

 ミズキは呆れたように言った。確かに、周りには、男性とミズキたちの四人しかいなかった。

 男性がミズキたちに近づく。ミズキが警戒していないところを見ると、害のある人物ではないのだろう。

「あなたは、昨日の・・・」

 事件の目撃者と言われていた男性だった。

「どうかしましたか?」

「いや、自治団体の方に行ってみると、新しい事件が起きたという情報を手に入れた。帰り道だったんだが、ちょうど君を見つけたものだから」

「よく、僕だとわかりましたね? と言っても、まだ昨日の事でしたか」

「いや、印象的だったからな。その・・・」

「赤髪ですか?」

「ああ、いや。誤解はしないでほしい。ただ、珍しいと思っただけで、差別的な目を持って見ていたわけではない」

 男は大袈裟に顔の前で手を振る。

「大丈夫です。珍しい、ということは認識しています」

 ミズキは口角を少し上げる。男もほっとした様子で、話を続けた。

「その子は、昨日の写真の?」

 男はリーンベルを見ながら言った。リーンベルは男に微笑みかける。

「ええ。そうです。ところで事件があったと言っていませんでしたか?」

「ああ、そうだ。すまない。話が反れていた。・・・昨日の夜中から今日の明け方の間に、男が一人殺された。それはもう残酷な殺され方だった。何しろ体中が穴だらけだったらしいんだ」

 ミズキは無言のまま聞いている。アーネストは口を押え、リーンベルは彼の袖を握っていた。

「そう言えば、昨日でまた一週間経っていたんだが、女が血を抜かれて死ぬ事件は、起こらなかったな。あんたたち、解決したのか?」

「いえ、解決はしていません」

 ミズキがすぐに答える。「そうか」と男は頷いた。

「そして、もう一つ――――」


 それは、アーネストが朝ホテルマンに聞いた話と同じものだった。ミズキは今回聞くのが初めてのはずだ。それに事件の話を聞こうとしたのはミズキ自身である。しかし、アーネストには、ミズキがほとんど興味を持っていないように見えた。




―――――――――――――――――――






 はっと目を覚まし、飛び起きる。手に銃を握り辺りを見回す。しかし、そこには規則仇しい寝息を立てるリーンベルとアーネスト以外誰もいない。

「夢か・・・」

 額の汗を拭う。

 嫌な夢だ。

 思い出したくない。

 でも、忘れるわけにはいけない。

 そんな、過去。

 この呪縛から解かれる日は、やってくるのだろうか。


 いや、そもそも――――


「――――僕にそんな資格はない」


 ミズキはベッドから起き上がり、鞄の中を探る。そして、昨日、夜中に探し回っていたものを取り出した。

 それをじっと見つめた後、二人を起こさないようにそっと、リーンベルに近づいた。




 何の音だっただろう。

 それは最早、確認する術もなく、アーネスト自身、それを確認しようとは思わなかったが、小さな物音で目を覚ました。

 目を擦り、リーンベルの方を見る。

 真っ暗ではっきりとは見えなかったが、誰かがリーンベルの腕を持ち、何かしているではないか。

 アーネストはすぐに銃を手に取り、その誰かに向ける。

「誰だ。何をしている」

 静かな声で言った。できるだけ、相手に動揺を悟られないように、言ったつもりだ。実際には心臓が弾けそうになっていた。


 黒い影が立ち上がる。


「動くな!」

 厳しい口調で言った。相手から溜息が漏れる。

「僕を忘れましたか?」

 影の人物は口を開く。聞き覚えのある声だった。

「ミズキ?」

「そうです。警戒するのはいいですが、ちゃんと状況確認もしてほしいものです」

 ミズキはふっと息を吐きながら言った。

「何をしていたんだ?」

「・・・リーンベルの体調を確認していました」

「こんなに真っ暗な中で?」

「起こさない方がいいと思ったからです」

 そう言うとミズキは、手に持っていた何かを鞄にしまう。

「それは?」

「ウエムラに借りている医療器具です」

すぐにベッドの中に入り、アーネストに背を向けた。

 しばらくその姿を見ていたアーネストだが、寝息が聞こえてきたので、彼ももう一度寝ることにした。




―――――――――――――――――――




 目を覚ました。

 辺りの匂いが変わったからだ。

 ミズキはベッドから起き上がる。


 既に原因はわかっていた。


 彼女はすぐそこに立っていた。

 虚ろな目でミズキを見つめている。


 ゆっくりと左右に揺れていた。


「足りなかったのか」と舌打ち。

 鞄を取るために、素早く床を蹴った。だが、それも遅い。

 リーンベルに背を向けた瞬間。ミズキは背に衝撃を受け、壁に弾き飛ばされた。銃を構え、リーンベルに向ける。だがトリガは引けない。そんなことをしては、元も子もなくなってしまう。

 威嚇程度に、リーンベルの足元に弾丸を放つ。一瞬灯りともし、彼女の目が妖しく光った。


 銃声を聞きアーネストが飛びきる。その時には、ミズキは既に壁に押さえつけられた。首を片手で、銃は膝で押さえられており、身動きが取れていない。

「リーンベル!」

 状況を理解したアーネストが、銃口をリーンベルに向ける。だが、それと同時に、「撃つな!」とミズキが苦しそうな表情で叫んだ。その声で、アーネストは危うく引きかけたトリガから指を離す。 ミズキはアーネストを睨み、彼のそれ以上の行動を許さなかった。

 仕方なく、銃を構えたまま、固唾を飲んで見守ることにした。

 リーンベルの顔がゆっくりとミズキに近づく。ミズキには、首で彼女の荒い呼吸が感じられた。彼女の歯が首筋に当たり、一瞬背筋を何かが伝う。そして、徐々に圧力が加わり、首を噛まれているのがわかった。幸い、まだ血は出ていないらしい。

「僕の血を飲みますか、リーンベル?」

 ミズキは僅かに動く首を、リーンベルの耳に近づけて、囁いた。

「君が必要としているのは、女、処女の血ではなかったのですか?」

 ピクリと動いたリーンベル。動きが止まっていた。


「そう、ミズキさん。あなた、違うのね(・・・・)


 リーンベルが顔をミズキから放し、首を傾げながら、残念そうににっこりと微笑んだ。

 ミズキはその瞬間に、ポケットから素早く何かを取り出し、彼女の首筋に突き立てた。

「何を!?」

 アーネストが叫ぶ。

 リーンベルはそのまま横に倒れる。ミズキが、床に倒れ込む直前の彼女を抱き留め、ベッドに寝かせてやった。


 ミズキが手に持っていたものを、アーネストに見せた。

「注射器?」

「ええ、そうです」

「それで何を?」

「血です。女性の・・・」

 アーネストの表情が驚愕に染まる。

「なぜ、そんなことを・・・?」


「今のリーンベルとの会話で、わかりませんでしたか?」

 軽く息を整える。

「彼女が、一週間ごとに女性の血を抜いて殺していた犯人です」


 ミズキは静かに言った。




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