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ANOTHER SKY  作者: 沖田コウ
第一章
11/31

十一

「ミズキ。調査結果だ」

 そう言って、アーネストは紙を数枚、ミズキに渡した。受け取った調査結果にざっと目を通す。

 最初の紙には、リーンベル・ローズヴェルトの目撃証言。だいたいは、あの少年達の言っていたことと同じ内容だった。

 違っていたのは、目撃され始めた時期とされなくなった時期だった。

どうやら、三週間前にはこの街に来ていたらしい。そして、五日前まで彼女はこの街に滞在していた。見事に行き違いのような形になってしまったらしい。


 それから後の数枚は、事件や噂話のことが書かれていた。ただ、どれもただの強盗や殺人。しかも、解決されたものばかり。噂となっていたのも、低俗なもので、その昔、日本国で流行っていたらしい『学校の七不思議』とかいうものと並ぶほどであった。

 ミズキは溜息をつきながら、ページをめくった。次が最後のページだ。

 どうやら、他にめぼしい情報は一つもなさそうだと、諦めかけていたその時、ある未解決事件のことが書かれていた。


 その事件のことを全く知らなかったミズキの目はすぐに書かれた文字を追いかけ、一分とかからないうちに、その内容を読み取った。

 思いもよらない情報に、口角が少しだけ上がる。


 事件の内容はこうだ。

 三週間ほど前から、殺人事件が起きている。一週間に一度若い女が殺されているらしい。犯行は夜に行われ、殺された女は皆、処女だったという(どうしてわかったのかは、ご想像にお任せする。被害者の知り合いがそう言ったのか。それとも駆けつけた警備部隊が下衆だったのか・・・)。死因は失血死で、死体を発見した人によると殺された女は、首に切り傷があったというが、血が現場に一滴も落ちていなかったという。あとで死体を調べると、体の中に一滴の血も残っていなかったらしい。

 二人の犠牲者を出したのち、その事件はぱたりと止んだ。

 そして、これは北の街から来たという旅人の話だが。最近、明らかに同一犯と見える事件が、北の街でも起きたらしい。街の若い娘は皆、夜の街を出歩こうとはしなくなったようだ。

 吸血鬼の仕業だとか、魔女が儀式のために処女の血を集めている、とかいう噂も流れていた。



「アーネスト、よくやりました」

「? どういうことだ?」

「調査結果です。もしかして君、自分で調査していて気が付かなかったんですか?」

 ミズキは目を丸くして言った。まさか、これに気が付かないとは・・・。

「よく読んでください」

 そう言って、アーネストに調査用紙を突き出す。

「リーンベル・ローズヴェルトがこの街に来たのは三週間前。そして、この事件が起き始めたのも、三週間前。それに事件が止んだのは、リーンベル・ローズヴェルトがこの街を去ってからです。そして、――――」

 アーネストは、はっとした。ミズキの言っていることが理解できたのだ。

「時期が重なっている!」

「そう、その通りです。リーンベル・ローズヴェルトが北の街に移動してから、北の街でも事件が起きた」

「つまり、何らかの形で、そのリーンベルとい少女が関わっている、と?」

 ミズキは小さく頷いた。

「ええ、彼女がやったのではないとしても、少し厄介なことになりそうです」

 言った言葉とは裏腹に、アーネストにはミズキが楽しんでいるように見えた。



「さて、そうとわかれば早く準備をしないと」

 ミズキが手を叩きながら言った。

「準備? 他に何か必要な物でもあるのか?」

 アーネストは不思議そうな顔をする。

「君はそんな軽装で北に行くつもりですか? 間違いなく死にますよ?」

 彼の服装は、タンクトップにシャツを羽織ったラフなものだ。だが、そんな服装で北へ向かうのは自殺行為に等しい。

「なんだ? そんなに危険なのか?」

「危険というより、寒いんです。コート一着ぐらい持っておかないと・・・。 僕のもう一着のコートを貸してもいいんですが、サイズが合わないだろうし・・・」

 ミズキはアーネストを見上げた。二人の身長の差は十センチ以上違う。それにミズキは少しタイトなものを好んで着るので、ミズキの服をアーネストが着ることができないのは確実だろう。

「コートなら一着持っている」

 アーネストはそう言って自分の部屋からベージュのコートを取ってきた。

「じゃあ、行きましょうか。北の街へ」



―――――――――――――――――――



「寒い」

 ミズキは呟いた。背を丸めて歩いていた。

「寒いと言っても、意味ないんだからやめてくれ」

 アーネストはうんざりしたような表情で言った。この街に入ってから、ミズキが「寒い」と言った回数は既に二桁を超えていた。

「意味がないからこそ、言いたくなるんです」

 沈黙。

「そういえば、ミズキ。初めて会ったとき『匂い』がどうとか、言っていなかったか?」

「なぜ急にそんなことを?」

「何か話していないと、寒い」

「・・・・」

 ミズキは溜息をついた。

「『匂い』と言っても、実際に何かの香りがするわけではありません。そういう感覚がする、というだけの事です」

 淡々と答えた。

「それで、何か『匂い』に意味はあるのか?」

「『匂い』のイメージによって、主に相手の心理状態を知ることができます。これも、何となくですけどね」

 ミズキは両手に息を吐いた後、コートのポケットに入れた。

「『匂い』自体は感じる時と、感じない時があります。今は、何も感じません」

「意外と不便だな」

「ええ、でも僕はこれに頼るつもりはありませんし、感じ取れたときはラッキィ程度にしか思っていません」

「そういうものか」

「そういうものです」


 長い時間歩き続けて、ようやく街の光が見えてきた。やはり、バイクが壊れたことは痛かった。何より、移動時間の短縮にもなるし、こんな不毛な会話を続けることもなかっただろう。

 ミズキはちらりとアーネストを見た。

 アーネストはようやく見えた街の光に、安堵の表情を浮かべていた。

「街に付いたら、どこかに飯を食いに行こう。もう腹が減って仕方がない」

「一時間前、携帯食料を食べたでしょう」

 ミズキは溜息をつきながら言った。

「あんな不味い物で腹が満たされるか。固いし、粘土のような味がするし、お前はよくあんな物が平気で食えるな?」

「粘土を食べたことがあるんですか?」

 ミズキが真面目な顔で聞いた。アーネストは顔をしかめる。

「単なる比喩だよ」

「僕も平気で食べている訳ではありません。我慢しているだけですよ。不味くても、ある程度は栄養も摂取できるし、腹も膨ら――――」

「ああ、腹減った・・・」

 そう言ったアーネストに、ミズキは携帯食料を投げつけた。


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