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ANOTHER SKY  作者: 沖田コウ
第一章
10/31

「なんだそれは・・・?」

 ミズキが差し出したある物に、アーネストは困惑した表情を浮かべる。

 銃だ。かなり小型の物で、両手の平に収まる程度の大きさだった。

 アーネストが仕事に同行することを許可したミズキは、彼の調査の結果を聞くことを後回しにして、この銃を買ってきた。

「見てわかりませんか?」

「わかるさ。銃だろ」

「そうです。あなたに差し上げます」

 そう言ってミズキは、アーネストに銃を差し出した。アーネストの表情は困惑したままだ。銃を受け取ろうとしない。

「どうしたのですか?」

 ミズキが問う。

「銃は人を殺す道具だ」

 アーネストは銃から目を背けながら言った。

「道具が人を殺す、と?」

「そうだ・・・」

「三日前は、僕にナイフを向けたり、首を絞めたりしたあなたが、何を怖がる必要があるのですか?」

「あれは・・・」

 アーネストの顔が伏せられる。ミズキは冷めた目で彼を見ていた。

「あれは、人を殺した感覚を自分に残すためだ。その感覚で、罪の意識を自分に持たせるために・・・」

「罪の意識を自分に持たせる? アーネスト。君はこれから先、そんなことを考えながら、僕に付いて来るつもりだったのですか?」

「ああ。そのつもりだ」

「それならば、僕に付いて来ないでください。邪魔なだけです」

 今回もミズキはきっぱりと言い放った。今からでも遅くはない。そんな考えで付いて来られると、こちらが迷惑なだけだった。

 アーネストの顔が驚いたように上げられる。

「背負い切れると思いますか? 無理です。君がいくら強靭な精神を持っていたとしても」

「それでも俺は・・・」

「僕が君に出した条件を忘れたわけではありませんよね? ついさっきの事です」

「絶対にミズキの見ている前では死なない・・・」

「そう、それです。ですが、今の君の考えだと必ず君は死にます」

 はっきりと言い切るミズキの言葉にアーネストの顔がまた伏せられた。

「僕たちは、いつ、どこで突然襲われるかわかりません。それは魔物かもしれないし、人かもしれない。自分の命を守るため、時には相手の命を奪うこともあるでしょう。罪の意識など、持たないに限ります」

 ミズキは吐き捨てるように言った。

「相手を殺さないで倒すことだって――――」

 ここぞというようにアーネストは反論するが、ミズキに遮られる。

「相手を殺さずに倒すことは、ただ単純に殺すことより難しい」

 聞き分けのない子供を諭す親のような目だった。

 因みに、とミズキは空を見上げて言った。

「僕はこの仕事を始めてから、たくさんの命を奪ってきました。ですが、罪の意識など、一度も持ったことがありません」

 ミズキは声の調子を変えずに、淡々と続ける。

「僕には果たさなければならない目的があるからです。わかりますか? 優先順位というやつです。因みに、君の優先順位の一番は、僕の前で死なないこと」

「お前の言う目的ってなんだ? お前はなぜ、そんな風に割り切れるんだ?」

「目的を話す必要がありますか?」

 アーネストの問いに厳しい表情で返す。

「その目的とやらを聞けば、俺も少しは何が正しいかわかるかもしれない」

 ミズキは溜息をついた。そして、沈黙。

 迷っているようだった。

 長い沈黙が二人を包む。

「わかりました。君には話しておきましょう」

 その前に、とミズキはアーネストの目を見た。

「いいですか、アーネスト。これが人を殺すのではありません」

 ミズキは銃口をアーネストに向けた。そして、「バン!」と銃を撃つ真似をした。

「人が人殺すのです。道具は手段でしかない。銃がそこにあったとして、トリガを引くのは、いつだって人です」

 銃をアーネストに押し付け、ミズキは自分の銃を取り出す。

「持っていなさい。それがあれば、襲われても相手を脅して逃げることもできる。要は使い方です」

 自分でも甘いことを言っていることがわかった。ミズキが空に向けて一発、弾丸を放つ。銃声が響き、肩に衝撃が伝わった。

 薬莢が銃から排出される。ミズキにはそれがスローモーションに見えた。長い長い時間をかけて、回転しながら地面に落ちる。地面で跳ね返った薬莢は、アーネストの足元に転がった。



―――――――――――――――――――



「僕の目的は、ある男に復讐を果たすことです。つまり、僕はそいつを殺す」

 ミズキはあえて声の調子を変えずに言った。アーネストが息を飲むのが伝わる。

「因みに、便利屋を営んでいる理由は金を貯めるため。その男を殺した後、僕の犯罪歴を金で揉み消すつもりです」

「何のために?」

「さあ? ドクタ・ウエムラの貴重な実験体にされるためですかね」

 ミズキはくすりと笑った。もちろん、本当はそんな理由ではない。冗談で言ったつもりだった。

「すまない。俺には何が正しいのか、わからない」

「別にかまいません。理解してもらおうなど、初めから思っていませんから」

 ミズキは空を仰ぎ見た。そして、アーネストに辛うじて聞こえる程度の声で呟いた。



「何が正しいか、正しくないかなど、人によって違います。元々、すべての人に共通して正しいことなんて、存在しないのですよ・・・」



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