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ANOTHER SKY  作者: 沖田コウ
プロローグ
1/31

 二百年ほど前だろうか?


 長い年月を経たと言うのに、日本はその当時から全く変わっていないようだ。変わったのと言えば、国名だけ、なぜか日本国に改名した。恐らく、めまぐるしく変化(良い変化ではない。ほとんどが悪い方に変化している)していく世界情勢に、日本も変化した、ということをアピールするためではないだろうか。

 他国は戦争を繰り返し、逆に小国に分裂せざるを得なかったところの方が多い。なにせ、日本国が、最も大きな国TOP10にランクインするほどなのだ。一つの国の小ささが伺える。


 学生の頃、世界史関連の資料(実は一般人は見てはならない極秘の物だったりする。どうして、私がそんなことが可能だったのかは聞かないでほしい)を読み漁っていた私に、衝撃を与えた。

 今日の東の大陸は、百を裕に超える小国からなっている。二百年前は、それが、一つの国家Aとして成り立っていたというのだ。それも、学問、技術など、どれをとっても、世界トップクラスだったと言うではないか。今の東の大陸には、当時の面影など一つもない。

 これは世界全体に言えることではあるが、戦争の末(まだ、戦争が続いている場所もあるため、この表現は不適切かもしれない)技術などは昔に比べ、明らかに衰えているように見える。

 そもそも、何故戦争をしなければならなかったのか。それまで、世界はある程度均衡を保っていた。それを壊してまで、何を得たかったのだろうか。できることなら、当時の首脳たちに聞いてみたい。

 私の推測では・・・・・・・いや、やめておこう。確証もないのに、それが真実であるかのように語ることを、私はあまり好まない。


 戦争で疲弊しきった土地は、もう既に人が住めるような土地ではなくなっている所もある。現在、魔物と部類される未知の生物まで、発生してしまった。

 原因が何であるのかは、私の専門分野ではないため、わからない。というより興味ない。

 魔物と言っても、よくあるゲームの様に、突然、人を襲うということはほとんどない。彼らは姿かたちこそ、既存の生物とは違い、恐れられてはいるが、普通の生物と何ら変わりのない生物だ。簡単に言うなら、新種。中に凶暴な種や、人を主食とする魔物もいるが、我々人間に見られる自然破壊や他の動物への破壊活動、偏食(ベジタリアン等)を考えると、極めてナチュラルなことではないかと、私は考える。






 さて、長い長い前置きはこれぐらいにして、ここからが本題である。


 なぜ、私がこのようなものを書こうと思ったのか、実は私自身、ちゃんと理解できていない。

 あまり細かい内容は書こうと思わない。それは、この文章が誰かの手に渡ることを前提とはしていないからだ。私はこれを誰にも読ませる気などない。

 だから、ここに書かれた内容を私が見て、私だけが思い出せる程度の内容であれば良いと思っている。

 思えば、私がまだ若く学生だった頃、――――二十年ほど前になる――――に書こうとした日記とよく似ているかもしれない。

 その時の日記は、三日でやめてしまった。三日坊主というやつだ。

 自分で決めたことであるし、できる限りこの手記を書いていきたいと思う。毎日書く、という訳ではない。しかし、何か興味深い出来事があれば、随時、この手記に書き込んでいきたいと思う。






四月一日

 まさかこんな日に、こんなことが起こるとは。

 日本国の奴らが工作員を送り込んできた。人数は一人、新しい研究所員として送り込まれてきた。 全く、政府の考えていることは私には理解できない。

 そうだ。ここでは彼女をKとしておこう。

 これは、誰にも言えない話だ。誰が言えるものかKに一目ぼれしてしまったなどと。

 そして、この手記を書き始めた理由がKであることなど。

 私と彼女は、いわば敵同士。相容れぬ存在なのだ。




四月六日

 初めてKに話しかけた。緊張しすぎだ。

 声が震えていた。三十を超えた男が、女一人にドギマギするなど、格好悪いことこの上ない。

 彼女の笑顔はよかった。だが、私に光を感じさせてはくれなかった。




四月十五日

 最近、Kがやたらと私に話しかけてくる。一体どういうことだ。体が触れ合うことも、増えてきた。そのたび彼女は「すみません」と言って顔を赤らめる。

 それが、私への好意の表れなのか、いわゆるハニー・トラップというものなのか、私にはわからない。

 できれば、前者であってほしいものだ。

 そんな可能性など、微塵もないのだろうけど。




五月五日

 彼女に花を渡した。


 久しぶりに地上に出て、見つけた、小さな花だった。

 私は久しぶりに見た花を、大事に持ちかえり、この小さな感動を彼女と共有しようと思った。

 彼女は手で口を覆い、花を見つめていた。

「これを私に?」

「え、ええ。そうです」

 いまだに彼女との会話は慣れない。

 胸が痛くなるのだ。

 誰もこんな中年の色恋沙汰に興味ないだろう。というか、気持ち悪いだろう。

 だから、私は誰にも見せない。




五月三十日

 もう駄目だ。

 私は駄目だ。

 おかしくなりそうだ。

 もう、こんな状況には耐えられない。


 私は決心した。明日、Kを呼び出そう。




五月三十一日

 私はすべてをKに打ち明けた。

 Kが政府の工作員だということを、知っている。そして、その上でKを好きになってしまったこと。

 私は殺されると思った。私はKが工作員だと言うことを知っている、ただ一人の人間なのだ。つまり、私が消えれば、いいだけの話。

 私は目を閉じてその時を待った。


 だが、私の予想は裏切られた。

 Kは泣いた。泣いてどこかへ行ってしまった。




六月一日

 Kの姿が見えない。

 政府に帰ったのだろうか?




六月二日

 Kに呼び出された。

 Kもすべてを打ち明けてくれた。

 彼女の目的は私の抹殺だったらしい。ただし、その前に私と親密になり、情報を引き出せるだけ引き出せ、と言われていたようだ。つまり、ハニー・トラップそのものだった。

 私は彼女に拳銃を渡した。

 私を殺せ、と言った。

 それで、彼女のためになるのであれば、それでいいと思った。

 だが、彼女はできなかった。

「私も、貴方の事が好きになってしまったんです」

 涙を流す彼女を、私は何も言わずに抱きしめた。これこそがトラップであったのならば、私は既にこの世にいないだろう。

 だが、私には、なぜか彼女の涙が本物であると確信していた。

 そして私は「ともに行こう」と彼女に告げた。











 ――――大幅にページが破られており、続きがわからない。――――











四月二十七日

 Kに、この手記に名前を出さないようにと言われた。

 あいつめ、これを見たのか・・・。

 それに、差支えのありそうな部分を破って持って行かれた。出会って一年ほどたつので、かなりの枚数があったと思うのだが・・・。

 

 思い出とは儚い物である。




五月十二日

 ある理論を思いついた。

 それは、とても恐ろしいものだった。

 私は一体、何を考えているのだろう。自分で考えたことではあるが、おぞましいとも思う。

 いや、それでも、いつかは試してみたい。




六月二日

 私は、ある国の王から依頼を受けた。

 ある人物を治療してほしい、とのことだった。

 王から私は説明を受けた。その話はとても信じられるものではなかった。そして、その人物(話を聞いた後では『人物』と言ってよいかどうかわからないが)は現在、死の淵に立っている。治療法自体は一応知っているようだったが、それができる医師がいなかったらしい。

 あまり難しい内容ではない。

 だが、成功させるには、魔女の血が大量に必要だった。




六月二十日

 ある国の王からの連絡があった。

 魔女の村を発見――――。

 五日後に兵を送り込み、村を壊滅させると言った。

 私は血を集めるために、その部隊に付いて行こうと思う。




六月二十五日

 部隊の隊長は、国王の息子である、第二王子だった。

 正直言って、あまり良い人物には思えなかった。それは、私も同じか・・・。


 血は十分に集まった。これで、恐らく、依頼を成功させることができるだろう。

 魔女の村は壊滅。それはもう、酷い物であった。地面は真っ赤に染まりあがり、家は燃やされ、目の前にはたくさんの赤が広がった。

 私はKと生存者がいないか探して回った。

 罪悪感があったのかもしれない。自分の仕事のために、村を一つ壊滅させたのだ。


 しかし、私はそこで、見つけてしまった。

 これで、私の理論を確かめることができる。

 『それら』を見つけた時、私の頭から罪悪感などは消えていた。




六月二十六日

 ギリギリだった。だが、間に合った。

 私は正しかったのだ。

 いや、まだ完全に、決まったわけではない。経過が必要だ。


 それまでの間は、依頼の作業に集中しよう。




六月二十八日

 依頼は成功。

 私は治療を成功させた。しかし、どこを間違えたのか、とんでもない副作用が生じている。

 それは、私ではどうしようもない。

 彼の国に任せよう。

 私の依頼は、『治療する』ことだったのだ。



 依然として、もう片方は目を覚まさない。一応、機械をつないでいるので、生命活動は維持できている。

 まだ経過が必要か・・・。




七月一日

 私に依頼を持ちかけてきた王が、依頼の品(私の治療した人物)を取りに来た。予想以上の出来だったらしく、満足しているようだった。

 私はその人物の状態を説明。彼は、自分たちで何とかすると言った。



 まだ目覚めない。私の理論は間違っていたのか・・・・・・。







九月一日

 目覚めた。


 私は正しかった。






 ――――続きは書かれていない。――――




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