4日目 風呂と妹と。
ある日の放課後。部活中である。
今日は前回の話の続きでは無いはずだ。
別に前回の話の続きだと思っていても内容に不都合は無いからどう思っていても問題はないけど。
今はリレーの練習をしている。
僕の種目は400mなのだが、部員が足りなく、僕は一応短距離も速いのでリレーのメンバーに選ばれている。
まったく、面倒ったらありゃしない。
ついでに言っておくと僕は3走目である。たぶん一番足が遅い位置なのだが何分僕は本当は短距離では無いので。
400は中距離だよな?
「はぁはぁ…。ちょっと休憩しよ」
4走の人とバトンを合わせていたら4走の人がそう言ってきた。
僕も疲れていたのでわかった、と言い他の人の邪魔にならないよう横の方へ移動する。
「俺らもちょっと休憩~」
1走と2走の奴らもこちらの方へやってきた。
よいこらせと僕らの隣に腰を下ろす。
たく、お爺さんかっての。
面倒くさがりな僕には言えないことなのかもしれないけど。
「なぁなぁ、俺さ、昨日妹に一緒に風呂入ろーって言ったんさ」
ふいに2走の奴…そろそろ名前で呼ぼう。朝倉が言った。
…は?今こいつなんて言った?
「おまえ、ばっかじゃねえの?」
朝倉以外の皆がおそらく思っているであろうことを、4走の鳴川が言ってくれた。
「いやー、だってさ前まで一緒に入ってくれてたのに、急にお兄ちゃんなんかと一緒はやだとか言い出して」
「え?おまえの妹何歳?」
前まで一緒に入ってたとかどんだけ仲良かったんだよ。
「7歳だよ7歳」
「あー、納得。つーか俺の妹なんかお兄ちゃんとも呼んでくれねーよ」
いっつもお兄ちゃんって呼べって言ってんのに。
馬鹿兄貴とか僕かなり嫌われてるんじゃなかろうか。
「かわいそすぎるな、それは。あ、試しに今日風呂一緒に入ろって言ってみろよ!」
「は!?ぶん殴られるに決まってんだろ!」
「いやいや、意外とスキンシップとれるぞ?俺、昨日言った後、結局一緒に入れなかったけど一緒に入りたくないって言ってた時よりかは、普通に喋るようになったぞ」
「それ、おかしいだろ絶対!」
てかそれただ喧嘩してただけじゃないのか…?
喧嘩したから一緒に風呂入りたくないって言って、怒りが冷めた後もやっぱ一緒に入るのは変だとわかり、兄から変なことを言われたから話すきっかけができたって感じじゃね?
なんでここまで予想できるのかって?
ずーっと前に僕ら兄妹もこんなような喧嘩したことあるんだよ……。
あの頃は妹もお兄ちゃんって言ってくれてて結構仲が良かったはずなのに。
「じゃあ、今日絶対言えよな!明日報告待ってるから!」
「はあ?まぁ暇だったら言ってやるよ」
いいネタになるし暇だったら言ってみるか。
これで前みたいにちょっとでも戻れればいいけど。
***
今は家である。
僕はマンガを読み、妹はゲームをしている。
母はまだ仕事である。いっつも帰ってくるのは遅いのだ。
ついでに言うと父は単身赴任でどっかに行ってる。
「なぁ、妹よ」
ちょうど今読んでいたマンガが読み終わったので話しかけてみた。
「ん」
なんだその返事は!
電○女のエリたんかっつーの!おまえは髪からなんの粒子も出てねえよ!
普通の真っ黒な髪の毛です!
「お兄ちゃんと一緒にお風呂…は い ら な い か ?」
言った、言ったぞ朝倉!
一瞬空気が凍った。
ゆっくりと妹が僕の方に首を向ける。
な、殴られるのか!?
「…………」
「…………」
……あれ?殴られない?
なんだ?何が起こっているんだ?
あ、急に妹が立ち上がった。
電話がある方に歩いて行く。
そしてふいにタウソページを取りだした。
何かを一生懸命に探しているようだ。
しばらくすると、探していたものが見つかったのか、タウソページのあるページを開きながらこっちに近づいてきた。
「ねぇ、キモ兄貴。ここ、行った方がいいんじゃない?電話してあげるよ?」
精神科のある近所の病院の連絡先が載っているところを指差しながら妹は言った。
本気で心配されているようだ。
いつもよりもかなり目が優しい感じに光っている。
「いや、その、冗談だって!」
「キモ兄貴、ついに現実と二次元の区別もつかなくなっちゃったんだね…」
「やめてくれ!お願いだから、キモ兄貴って呼ぶのやめてくれ!」
「ちょっとお母さんにも電話した方がいいかな?」
「僕の話を聞けえええええええええええええええええええ!!」
妹に一緒に風呂に入らないかと言った結果。
・本気で心配されてしまった。
・更に溝が深まってしまった気がする。
・馬鹿兄貴からキモ兄貴へ昇格。
翌日の部活、オタクだってことをもちろん隠しながらこのことを朝倉に報告したら、
「本当にやったのかよ!?やべぇ、蓮めっちゃうけるんですけど!今度妹ちゃんに会わせてよ~」
と、ゲラゲラ笑われてしまった。
妹に会わせる気はない。
朝倉のせいで酷い目にあってしまった。
今度からは気をつけなくては…。