1日目 妹と幼馴染と。
現実ってのはつまらないものだ。
「べ、別にあんたのことなんか、好きなわけじゃないんだからねっ」
なーんて言ってくれる可愛い子もいなければ
「お兄ちゃんだぁいすき!」
なんて言ってくれる妹がいるわけでもない。
「ほんとは…ずっと、ずっと前から好きだったの」
とか言ってくれる幼馴染の女の子もいない。
ほんとにつまらない。
二次元に住むことはできないのだろうか…。
そんなことを考える今日この頃。
あ、自己紹介を忘れてました。
僕の名前は山瀬蓮。一応高校2年生。
今までのでわかるように、れっきとしたオタクです。
ついでに言うとツンデレが一番好きですね。
2番目はクーデレ、3番目は妹属性って感じかな。
あとひんぬーじゃないと受け付けませんよ。
ロリっ子もいいですなぁ。
うはははははははははは!
…ゴホン。
てなわけで僕はこの世界が気に入らない。
でもちょっと現実ってのは難しくて…。
えと、こんなことを言っているから僕はものすごくキモい奴だと思ってる人が多いだろう。
だが残念なことにこんな変な奴でもイケメンな人はいるんだな。
自分で言うのも何なんだが。
本当に自分で言うのも何なんだが、結構モテる方だ。
まぁこの性格を隠しているからな!
学校では頭が良くて、明るくて、人懐っこい、というような役作りをしているわけだ。
それに別にそこまで努力をしているわけではないのだが、頭が良い方らしい。
毎回定期テストとかでは3位以内に入っている。
んまぁ自慢じゃないといっても自慢に聞こえると思うので自慢ということにしておこう。
うん。ということで高校をやめる理由もなく、かといってこの自分の本性を出すこともできない。
だからこのつまらない現実を歩んでいるのだ。
あん?モテるんだったら付き合ってリア充でもすりゃあいいだと?
そんなことできたらこんなこと言ってねえよw
いやあ、やっぱり僕はひんぬーな子がいいんでね。
やっぱ高校にもなるとひんぬーな子はいないんですよ。
みんな結構胸あるんですよね…。
そう。やっぱり幼女だ!つるぺた幼女がいいんだ!
でも三次元の幼女ってのは生意気でうるさいやつが多いんだ。
だめだなぁ、現実は。終わりだ、うん、終わり。
「馬鹿兄貴、キモい」
あるギャルゲー(エロゲーではない)をしながらうはうはしていたらいつのまにか隣に妹がいて、怪訝そうな目で見られた。
え?さっき
「お兄ちゃんだぁいすき!」
なんて言ってくれる妹がいるわけでもない。
って言ってたじゃないかだって?
こう言ってくれる妹がいないだけで一応妹はいるのだよ。
中学2年生で難しいお年頃なんだがな。
「おい、勝手に部屋に入ってくるなって言ったろ」
「ちゃんとノックしたよー。馬鹿兄貴が気付かなかっただけ」
「ていうかお兄ちゃんって呼べっていつも言ってるだろ?」
「あのさ、夢華ちゃんが来てるんだけどー」
「んだと!?」
綺麗に僕の話をスルーしながら妹は言った。
てか驚きのあまり、好きなキャラのボイスを聞き逃してしまったじゃないか!
くそう、しょうがない。もう一度再生するか。
…もう一度聞いてからセーブをして下に降りた。
「あ、蓮?い」
「ひまじゃない。忙しい。じゃあな」
「ちょっと待ってよ!まだ何も言ってないじゃない!」
「言わんとしてることはわかる。今暇?だろ」
「な、なんでわかるのよ…」
「そりゃあ十何年も一緒にいりゃあわかるとも」
夢華は幼馴染である。
ぅえ?さっき、妹の場合を同じことを言わなかったか?だと?
だーかーらー、そんなことを言ってくれる幼馴染がいないってことだ。
夢華は結構可愛くて男子からも女子からも人気があり、才色兼備なスーパー美女だ。
ついでに黒髪のロングでいつもポニーテールにしている。馬のしっぽだ。
ポニーテールという髪型は好きだ。大好きだ。ツインテールの次に好きだ。
だが!!
性格が最悪なため却下な奴だ。
しつこいしうざいし怖いし暴力的だし短気で怒りっぽいし。
「また買い物に付き合ってくれ、なんて言うんだろ?」
「今回は絶対長くしないようにするから!」
「前もそんなこと言わなかったっけか?」
「前回はなるべく長くならないようにするって言ったの」
「同じようなことだろっ!」
はあ、とため息をつく。
「とりあえず、俺は絶対行かないからな」
「何よー、またギャルゲーとかいうのでもやってんの?」
「おまえには関係ないだろ」
こいつには僕の本性がばれている。
さすがに十何年も一緒にいればなぁ…。
あ、お約束の家が隣同士ってことはないぞ?
─ま、向かい同士なのだが。
あんま違わないじゃんとか言うなよ!?(泣)
「他の奴連れてけばいーじゃねかよ。おまえ友達たくさんいるじゃん」
そう言いながらおおげさに手を広げてみる。
チラリと夢華の方を見るとなんだか怒ってるような目で僕を見ていた。
「……あんたがいいからいつも誘ってるんじゃない…」
「んあ?なんか言ったか?」
夢華が何か呟いたがよく聞こえなかった。どうせ何か悪口でも言っているのだろう。
学校でだって僕の趣味を言いまではしないが、僕をかっこいいと言っている人がいると必ずすっごい否定するんだよな。
そして決まって僕の悪口を言う。
あんな顔して頭だっていいけど部屋の中なんて(フィギュアとかギャルゲーやらラノベやらで)めちゃくちゃ汚いのよ。
とかなんとか。
あそこまで否定されて悪口言われるとさすがの僕でも傷つくぞ。
そんなことよりなんだかどんどん夢華の表情がこわばってきている。
これはまずいぞ。また妹に色々と言いつけられて僕の好感度が下がってしまう。
別にあんな糞生意気な妹の好感度を上げようとは思わないが、嫌われるというのは悲しいじゃないか。
「わかったよ、行く、行きますから。だから怒るな。お願いだから」
しぶしぶ僕は買い物に付き合うのを了解した。
すると急に夢華の表情がパッと明るくなり、笑顔になった。
…笑顔はまぁまぁ可愛いんだけどな。性格がダメだな性格が。
それにこいつの僕に対しての好感度は限りなく低いはずだし。
「じゃあ、早く準備してね。待ってるから」
僕は仕方なく自分の部屋に戻り、準備を始めるのだった。
***
「ねぇ、この服可愛くない?あ、こっちも可愛いー…」
「そうだな」
「この柄可愛い!この色も春っぽくていいわね」
「そうだな」
「こっちとこっちどっちがいいと思う?」
「そうだな」
「…人の話聞いてるの?」
「そうだな……っいだいいだい!すいません何でしょうか!?」
上の空で相槌をうっていたら夢華に思いっきり腕をつねられた。
今は春で少し暖かくなり薄着をしていたから服の上からでもかなり痛かった。
これだから暴力的な奴は嫌なんだ…。
「こっちの服とこっちの服、どっちがいいと思うかって聞いてんの!!」
「こっち、こっちの方がいいと思います!!」
すごい剣幕で服を差し出され、とっさに目に入った方の服を指差した。
夢華は満足そうな顔をし、
「じゃあ、これ買ってくるわね」
と言ってレジの方へ向って行った。
…かれこれ買い物を始めてから2時間経過。長すぎる、長すぎるぞこれは。
なんでこんなに女ってのは買い物が長いんだ!?
服は今のをあわせて三着買っていた。そろそろ終わるといいんだけど…。
「おまたせ!そろそろ帰ろっか」
「おう!帰ろう帰ろう!」
よっしゃああああああああああああああああああああああああああ!
やっと帰れる!!
いやー、早くギャルゲーの続きをしたいんだよ。
別に僕はこんなとこに買いたいものはないし。
服とかはヨニクロとかJAPとかそこらへんで買うし。
やっぱアニマイトとかゲームーズとかに行きたい。
「なんか嬉しそうじゃない?そんなに私といたくなかったわけ?」
帰れることが嬉しくて顔がほころんでいたらしい。
さすが幼馴染なだけあって僕の表情で僕の気持ちがわかるようだ。
まぁ僕も夢華の表情で結構考えていることはわかるが。
夢華はスネたような顔で僕の方を見る。
せっかく買い物をして機嫌がよかったのにまた機嫌が悪くなってしまう…。
「そんなことねーよ。おまえといるとつくらなくて済むから楽だし」
そう言うと夢華は「そっか」と言って笑顔になった。
まぁ今の言葉はあながち嘘ではない。
確かにこうやって長い買い物に付き合わされるのは嫌だが、普段の僕は自分をつくっているからこうやって素の自分で話せるというのはとても楽だ。
こうして一日は過ぎていくのであった。