7話 旅行において大変なのは資金調達
今回は秀人君の資金調達の話です。
愛斗君のギャンブルシーンは割愛しました♪
ではどうぞ~☆
遠足の次の週。
一年四組のセレブ、アルマ・ベルンシュタインがある話題を持ち込んでいた。
「皆さんに嬉しいお知らせがあるわよ。この度、我がベルンシュタイン財閥の豪華客船、「クイーンズベレー号」の処女航海にご招待しますわ」
クラスの全員が呆然とした。ロランが叫んだ。
「よっしゃ!豪華な船旅だぜ!」
その声にクラスが歓声に沸いた。アルマが厳しい口調で付け足した。
「ただし!条件がありますわ」
歓声が静まる。
「その条件とは、旅費は自分持ちという事ですわ」
「どういうことだ?」
イヴォンが疑問を顔に浮かべた。
「招待するというのは切符を買う権利は保障するという事。一等船客を希望なら五十万!二等船客を希望なら十万!三等船客でいいというのなら五万を私に持ってきなさい」
「何だ・・・金取るのかよ・・・」
ロランが悪態をこぼした。
「当然ですわ」
きっぱりと言い放ったアルマを尻目にして、愛斗とリリーは二人での会話をしていた。
「なあ、リリー。船旅に行きたいか?」
「はい、面白そうです」
愛斗も微笑み、立ち上がった。
「その話、乗ったぞ!」
「じゃあ僕も・・・」
アルヴィも愛斗に賛同した。
秀人は悩んでいたが、行きたいという気持ちの方が強かった。
「僕も行こうかな?」
秀人は誰にも聞こえないように呟いた。
放課後、秀人は校門を出た後に旅行について真剣に考えた。
「どうしようかな~。行きたいけどお金が無いし・・・」
秀人は寮で暮らしているので、大したお金は持っていない。旅費なんて払える自信は無い。
「やっぱ、バイトかな?でもそんな短期間で稼げるバイトなんて・・・」
秀人はしばらく考え込んだ。
「そうだ!他のみんなはどうやってお金を用意するのか聞いてみればいいんだ!」
秀人は走り出していった。
秀人が最初に行ったのはロランの所だった。
ロランはカミーユと一緒に買い物に行くところだった様だ。
「ロラン!旅費は用意出来た?」
「まあな、親に頼んで何とか五万なら」
秀人はがっくりと肩を落とした。
「そうか・・・」
親は頼れないからな。秀人は少し悔しくなった。
次に秀人が赴いたのはセドリックとアルヴィの所だった。
二人はコンビニで買ったお菓子を公園で食べている真っ最中だった。
「ねえ、ちょっといいかな?」
「別にいいぜ」
「何か用ですか?」
二人がほぼ同時に返事をする。
「いや、旅行の件なんだけどさ。行くんだよね?」
セドリックが少しの間を空けて答えた。
「ああ、親に頼んだらいいってよ」
「僕も貯金箱ひっくり返して掻き集めました」
秀人の貯金はどう掻き集めても二千三百円程度だ。貯金には頼れないだろう。
「そうなんだ。ありがとう、参考になったよ」
秀人はそう言い、公園を後にした。
秀人は若干、行き詰まって商店街を歩いていた。
「困ったな・・・」
皆が行くのなら僕も行きたい、その気持ちが秀人の心の中を支配していた。
「やあ、秀人君」
突然の声に驚いて、秀人は顔を上げた。
目の前には双子の兄妹、シルヴェストルとカリーヌがいた。
「ああ、こんにちは」
秀人は無理やり作った笑顔で誤魔化す。
「秀人君は旅行、行くんだよね?」
「ふぇっ!?はい!行きます!」
秀人は遂、二つ返事でオーケーしてしまった。
「そうだよね。実は僕達も二等船客の切符を買うことにしたんだよ」
「えっ!二等!?という事は二人で二十万!?」
「まあそう言うことになるね。まあ何とかなるさ」
秀人は意気消沈して、ふらふらとその場を立ち去っていった。
「どうしたんだ?秀人君」
「さあ?」
秀人は夢遊病者の様な足取りで商店街を出た。
「駄目だ・・・次元が違いすぎる・・・二十万?ふざけてるよ・・・」
秀人は先ほどの公園に戻った。ここで一から考え直す事にしたのだ。
「そうだ。次は女性陣に聞いてみようかな?」
秀人はまず渚の所へ赴いた。
渚の家は商店街から五分程のところの商店街にある。秀人は玄関の前に立った。
「思えば女子の家に尋ねた事ってあまり無いな・・・」
そう思うと緊張する秀人である。
「少し練習が必要だな・・・」
秀人は玄関に近づくと、ベルを押す真似をした。
「ガチャ、どちら様ですか?」
秀人が渚の声を真似て言った。
「やあ、渚。僕だよ。君のクラスメイトの識神秀人じゃないか」
「こんにちは、秀人君。どうかしたの?」
又もや口真似だ。
「いや、君の笑顔が見たくてね」
秀人は何気にとんでもない事を口走った。秀人の心境的には誰もいないから良し、としたのである。
「いきなりそんな事言われても・・・私・・・照れます・・・」
「いや、照れる事なんてないさ。君の頬を赤らめたその笑顔も素敵だけどね」
「いやですわ。そんな・・・」
秀人は自分の世界に溺れていた。
「あの秀人君?どうしたの?」
気が付くと、後ろには本物の渚が立っていた。
「うわあああああああ!渚!?何時から?」
渚は少し微笑みながら返した。
「さっきからよ」
「え?じゃあ今のやり取りも?」
「ええ、秀人君って以外となのね」
秀人は頭を抱え込んだ。
「誤解しないで!ちょっと調子に乗ってたんだ!決してヘンな意味ではないよ!」
秀人は必死に弁解したが、渚の笑みは恐ろしい程に崩れる事は無かった。
気まずくなった秀人はそそくさとその場を後にした。
秀人はもう一度初心に帰り、考える事にした。
「次はイヴォンに聞いてみようかな?」
秀人はイヴォンのカジノに行く事にした。
イヴォンのカジノはとてつもない大きさだ。秀人は入り口を潜り、カウンターに向かった。感じのいい店員が笑みを返す。
「いらっしゃいませ!」
秀人は店員に名札を見せた。
「識神秀人っていう者ですけど、イヴォン君はいますか?」
店員は笑顔で頷き、奥に向かって叫んだ。
「イヴォンさん!お客さんですよ!」
呼ばれて直ぐにイヴォンは出て来た。顔は結構上機嫌だ。
「よお、どうした?秀人」
「いや、旅行の費用の事なんだけど・・・」
「旅行?ああ、切符代か。俺はちゃんと用意してあるぜ」
秀人はまた肩を落とした。
「そうか。実はね・・・」
秀人は正直に切符代が無い事を話した。その上で何か方法を考えてもらうつもりだった。
話を聞いたイヴォンは携帯電話を手にとった。
「何だよ、そんな事か。まあ俺に任せろ」
イヴォンは携帯電話で電話を掛けた。
「ああ、今すぐ来てくれ」
イヴォンが電話の中で短いやり取りを終え、秀人を見た。
「少し待ってろよ。救世主が来るぜ」
二十分後、現れたのは愛斗だった。
「愛斗?どうしてここに?」
愛斗は辺りを見回した。
「イヴォンから呼ばれた。急用らしいが・・・」
丁度イヴォンが奥から出て来た。
「おお、愛斗!秀人の旅行のために一肌脱いでくれ!」
「もしかして・・・イヴォン?」
秀人が疑問の目でイヴォンを見る。
「その通り、ギャンブルだぜ!」
やっぱりか・・・。秀人は予想通りの答えだったので驚きもしなかったが、これから起こることは誰にでも予想がついた。
「いいか、愛斗?儲けていいのは五万までだ。お前にやらせると際限無く、金を客から毟り取るからな」
「分かった」
愛斗は短く返事をし、テーブルへと向かった。
「いいのかな?こんな事で儲けて」
しかし、そんな秀人の呟きは誰にも聞こえていなかった。
数時間後、泣きながら店を出て行く客を秀人は何人も目撃したそうな。
秀「え~と、今回は僕が主役の話なのかな?」
渚「まあそうね」
秀「あまり見所も特に無い話だけどね・・・」
渚「あると言えば、一人で三文芝居の件だけね」
秀「渚、あれは別にヘンな意味じゃなくて・・・」
渚「分かってるわよ」(怖い笑顔)
秀「怖いよ・・・何か今日の渚は怖いよ・・・」
渚「気のせいよ。まあ、以外な発見だったけどね」
秀「渚!絶対誤解してるよね!」
渚「気のせいよ。気・の・せ・い」
秀「(そうなのかな~)」
渚「実の話、今回の話は別にやるつもりは無かったんですよね」
秀「そうなの?」
渚「うん。秀人君は普通過ぎて、話の主役にしても面白くなるかどうかってことで本当はやらない筈だったのよね」
秀「じゃあ何で?」
渚「秀人君が旅行費に困って模索する話は大分前からやりたいと思っていたらしいので」
秀「じゃあもしこの話をやらなかったら何をやるつもりだったの?」
渚「それは愛くんとリリーちゃんの遠足後の夜の話をするつもりだったらしいみたいね」
秀「確かにそっちの方が受けそうな気がする・・・」
渚「後、正直言うと秀人君の話にはお色気要素が入りにくいみたいなの」
秀「そうだよね・・・」
渚「後、面白みが無いとうのもあるわ」
秀「仰るとおりです・・・」
渚「後はルックスが普通だと言うのも・・・」
秀「うわあああああああ!」
渚「あ!秀人君!」
愛「逃げたな・・・」
渚「あら、愛くん」
愛「秀人は心に深い傷を負ったようだな・・・」
渚「私って以外と毒舌?」
愛「そのようだな・・・」
渚「・・・ではまた次回・・・」
愛「次回は船旅編に突入だ。乞うご期待を」
おしまい