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神と髪

お弁当を手に、

太陽が真上からさんさんと体を照らし、微かな風が頬を伝う。

暑くは感じない。何なら程良い程に感じられる。

運動場を覗き見ると、野球のホームベース付近に数人の生徒達が集っていた。


(クラブ結成、だっけ。)


そんなことを考えていた和気の頭上に手の平が乗った。


「だから、どーなんだよ?」


「__________えっ、えっ何が?!」


隣のベンチに座る宵にその手で顔を向かされた。


「お前…聞いてなかったな……。」


「う…ごめん…。」


宵は息を吐いてから再度口を開く。


「七不思議の噂話、聞こえねぇのかって。」


「…っあー!_______うん!」


次は宵の手が縦に和気の頭上を叩く。

暑くなった部位を抑える和気を他所に、宵は怒り口調となる。


「“うん!”___じゃねぇだろ!

誰かが話してるのを盗んで聞いたとかねぇのかよ。関心無さすぎんだろ。」


頭を押さえていた和気が、急に乗り出す。


「そうだ!土御門くんなら何か知ってるんじゃない?!」


「っはぁーーーーーーー。

朝言ってたこと忘れたのかよ。頭ん中チキンか?

もうあいつとは」



「和気くん呼んだ?」


…………


「「うわぁぁあーー!!!」」


一瞬の沈黙の後、

和気と宵は抱きしめ合い、ベンチの端に寄った。


「つつつつ土御門くん?!」


当の本人は腕を組み、恐ろしいほど爽やかな佇まいで和気の側にいた。


(なっ何でここに?!)


「和気くんが僕のことを呼んでくれたからさ。」


和気は咄嗟に口を抑え、自分の方が開いていなかったことを確認する。


(心の声がっ………)


「ちゃんと言ってなかったね。

僕は土御門大和。下の…やまと、って言って欲しいな。」


「えっと…やま」


「大和くんは七不思議のこと、知ってるよねー?」


土御門の顔の温度が一気に冷え、瞼が心なしか下がり陰る。


「死に損ないに呼ばれる名なんてないんだけどな。」


和気はあたふたと手を不必要に動かしまくる。


「まぁまぁそう言わずにぃ〜。」


「ちょっと宵!」


土御門は、逃げ回る霊の口を必死に手で閉ざそうと追いかける和気を遠い目で見据えた。

そして、和気の跡が消えたベンチに1人座る。


「この学校の七不思議のことなら知ってるよ。と言っても、文献で読んだだけだから…

おそらく壱番はもう変わってるだろうけど。」


和気は動きを止め、地面に座り、恐る恐る土御門に尋ねる。


「名前を取るような七不思議のことは…知ってる?」


土御門は顎に手を添え、考えるそぶりをしてから足を組んだ。


「うん。もちろん。

_______七不思議が陸番、『名取さん』のことだね。」


「名取さん…」


土御門は彼のすぐ隣をとんとんと叩き、和気のみを招く。

和気もそろりとそこに腰を下ろした。


「陸番は七不思議の中で一番厄介だよ。

会うのが難しいし、何より一番恐ろしい。」


「でも陸番なんでしょ?漆番よりも弱いんじゃ…」


土御門くんはにぱっと笑顔を僕に向けてきて、


「良いとこ突くね、流石和気くん!」


そのキラキラした笑顔に押される和気を宵は見て見ぬ振りをする。


「漆番はまた別。

七不思議としての強さは一番に強い。ただ、故意に人に迷惑をかけるような怪異じゃないんだ。」


「そう、、なんだ……。」


(そんな怪異が、七不思議になれるんだ。一体どんな)


「他のヤツらは知らねぇの?参肆伍。」


宵が割って入ってきた。

陸番について知れたのだから、それで良いじゃないかという考えが和気の脳内に一瞬浮かぶが、まぁいいかとすぐに捨てた。


「________」


土御門は明らかに不機嫌そうな顔つきに一気に変わった。


「参番と肆番は夜になってからじゃないと会えない。」


「へー。どんなヤツ?」


土御門は眉を顰めていく。

宵のニヤニヤした態度も問題なのだろうが。


和気が二人の様子を見て慌てて入る。


「どうやったら会えるか、教えてほしいなぁ…って…」


土御門の表情はすぐに切り替わる。

こんなにも切り替えが凄いのも恐ろしい。


「参番は音楽室に行けば会えるよ。

そんなに害もないし。ただ、人によったら辛いかも。」


宵の片眉がぴくっと動いた。


「肆番はB校舎の裏の、

あんまり使われてない階段に潜む怪異……

中々に厄介だよ。肆番の噂は少ないけど歴史が長いからね。」


「________そっ、かぁ…」


和気表情が曇る。

それを視認した土御門がノリノリで、


「和気くん心配?なら僕が!」


キーンコーンカーンコーン…


「あっ、次移動教室だっ!宵行こ!」


和気は弁当箱を袋に入れ、走り出す。


「大和くん!ありがとー!」


宵は和気について行き、扉の前で振り返り、土御門の後ろ姿を見て、


「ぷぷー!」


わざとらしい笑い声を出して去った。

だが二人は気づかない。

土御門が拳をぐっと握りしめ、


「和気くんに…和気くんに…


─────大和くんって…

───────ありがとうって言ってもらえた…」


喜びを噛み締めていたことに。


***


次の授業。

和気と宵は慣れたようにノートを通してコミュニケーションをとる。


「他の七不思議は置いといて、早速今晩行こうぜ。」


和気はノートの端に小さな文字で書き始める。


『何で他の七不思議の所もなの?

陸番だけで良いんじゃ?』


どんな様子なのか、和気からは見えない。

だけど、宵は和気の頭を手の平でガッと掴み、軽く揺らす。


「俺が協力しろっつったのは“七不思議”であって“陸番”だけじゃねぇーよ。それに…」


宵は手を止めてゆっくりと後ろに下がり、和気と距離をとった。



「_______他のヤツらの力を、弱らせねぇと…」


あまりにも小さな声で、和気には聞き取れなかった。


***


和気は扉を開け、靴を脱ぎつつ声を出す。


「じぃちゃんただいまー。」


「おー。」


声のするリビングへと和気は歩いていく。

祖父はまだキッチンで夕飯の支度をしており、テーブルには豪勢な食物が置かれていた。

だが和気も知っている。

これは自分たちの食事ではないと。


「ねぇじぃちゃん。

今日の夜さ、ちょっと家出ます…」


夜の外出なんてそうそうしたことがなかったから言いづらく、変に敬語になってしまった。


「________学校か。」


祖父の持つ包丁がまな板に打ち付けられる音が響く。


「えっ、うん。何で分かったの。」


「最近のお前の気、変わり始めてたしなぁ。」


祖父は包丁を置いて、テーブルに置かれた果物や野菜などのいろんな食物が入ったバケットを手に取り、和気に差し出す。


「飯食った後手、合わせてきぃ。」


和気はその思いを感じとり、目を細めた。


「うん。」


その重たいバケットを和気は両手で抱える。

そして祖父は棚から鋏を取り出した。


「____。夜は霊が活発になる。念の為や、髪切るぞ。」


和気は肩を少し上げ、重たい髪の毛をくしゃっと掴んだ。


***


家のすぐ隣にある小さな小屋。

その扉をフードで頭を隠した和気は開ける。

目の先にあるのは黄金に輝く仏像、天照。

和気はバケットに入れられていた食物を、仏像の両隣に並べて行く。


最後に先程切り、紐で束ねた髪を置いた時、失礼ながら和気は呟いてしまった。


「こんなのやったって、

助けてくれたことなんてないのに。」


その後、

和気は正座して手を合わせ、その庵を去った。

和気は気づかなかった。

─────置かれた食物が消えていたことに。


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